先週は大統領選挙が予想以上の接戦となりましたが、先々週に相場が大きく下がっていたことから、イベント通過による買戻しが優勢になったとみられ、大幅な反発となりました。今週は大統領選挙でバイデン氏の勝利が確実となったことに対する反応、トランプ陣営による郵便投票無効の提訴は実効性をもつものとなるのか、COVID-19の感染再拡大の動向、などが注目されます。
今回は前週に好決算を発表した銘柄から、クアルコム(QCOM)、クロロックス(CLX)、Tモバイル US(TMUS)、スカイワークス ソリューションズ(SWKS)、メトラー トレド インターナショナル(MTD) を選んで今週の5銘柄といたします。
図表1 S&P500指数の一目均衡表(日足、3ヵ月)
※当社WEBサイトを通じてSBI証券が作成
図表2 業種別指数騰落率・個別銘柄騰落率
S&P500業種指数騰落 | 1週 | 1ヵ月 | 3ヵ月 |
情報技術 | 9.7% | 1.1% | 6.9% |
ヘルスケア | 8.3% | 1.5% | 3.5% |
素材 | 7.6% | 2.2% | 10.1% |
通信サービス | 7.6% | 6.5% | 7.1% |
一般消費財・サービス | 7.4% | -0.1% | 7.8% |
S&P500 | 7.3% | 0.9% | 4.7% |
資本財・サービス | 7.2% | 0.7% | 8.3% |
生活必需品 | 4.6% | -1.1% | 2.7% |
金融 | 4.5% | -1.2% | 0.5% |
不動産 | 4.4% | -3.6% | -2.5% |
公益事業 | 2.8% | 1.0% | 4.4% |
エネルギー | 0.8% | -6.5% | -22.1% |
騰落率上位(1週) | 騰落率 |
バイオジェン | 30.5% |
クアルコム | 17.6% |
エヌビディア | 16.2% |
CVSヘルス | 15.8% |
ユナイテッドヘルス・グループ | 13.9% |
騰落率下位(1週) | 騰落率 |
キンダー・モルガン | -3.5% |
サイモン・プロパティー・グループ | -1.5% |
フィリップ・モリス・インターナショナル | -0.8% |
エクソンモービル | 0.5% |
USバンコープ | 0.6% |
注:個別銘柄の騰落率上位、下位はS&P100指数が母集団です。銘柄名はBloombergの表記により、当社WEBサイト・本文中の表記と異なる場合があります。
※BloombergデータをもとにSBI証券が作成
先週の米国株式市場
大統領選挙は、(1)予想よりも接戦で投票日夜に勝者が決まらなかった、(2)民主党が議会上院も過半を占める「ブルースウィープ」の可能性が低下した、(3)トランプ大統領が開票結果に関して法廷闘争をしかけている、など株式相場に対して必ずしも理想的な形ではなかったと考えられます。
しかし、大統領選挙への警戒から既に先々週に相場が下落していたため、ネガティブな反応にはならなかったとみられます。例えば、10/29(木)に発表されたGAFAの決算はいずれも市場予想を大きく上回っていたのに、株価が5〜6%下げるものがあったのは、やはり異常だったと言えるでしょう。S&P500指数は週間で7.3%の大幅反発でした。
業種指数では、「情報技術」「ヘルスケア」の成長性が高い業種が上位となりました。選挙で「ブルースウィープ」の可能性が低下して大規模な財政支出への期待が小さくなり、これを受けて10年国債利回りが低下、成長株への物色が強まったと解釈できるでしょう。
個別銘柄では、バイオジェン(BIIB)の値動きに注意が必要です。アルツハイマー治療薬「アデュカヌマブ」について、11/4(水)に発表された米食品医薬品局(FDA)スタッフによるレポートで高く評価されたため、FDAによる承認が近いとの見方から買われました。しかし、FDAの諮問委員会は11/6(金)に「効果が証明されていない」との勧告を出したため、今週は大幅な反落が見込まれます。
経済指標では、米国の10月ISM製造業景気指数が前月の53.2から53.4に改善、特に新規受注が60.2から67.9に改善していることは勇気づけられます。一方、ISM非製造業景気指数は前月の57.8から56.6に悪化しました。COVID-19の感染再拡大の影響が出ている可能性がありそうです。
米国の10月雇用統計では非農業部門雇用者数が前月比63.8万人増と、市場予想の同59万人増を上回りました。また、失業率は6.9%と前月の7.9%から大幅な改善となっています。
今週の米国株式市場
今週は大統領選挙でバイデン氏の勝利が確実となったことに対する反応、トランプ陣営による郵便投票無効の提訴は実効性をもつものとなるのか、COVID-19の感染再拡大の動向、などが注目されます。
大統領選挙は、バイデン氏の勝利が確実な情勢です。11/6(金)時点で決着していなかったペンシルバニア、アリゾナ、ネバダなどでバイデン氏が勝利したとされ、日本時間11/9(月)午前10時時点のAP通信社集計による獲得選挙人は、バイデン氏が290人、トランプ氏が214人、未決34人となっています。
大差での勝利と言え、接戦州の再集計でも結果が覆る可能性は小さそうです。予想以上の接戦で決着までに時間がかかる可能性もあったため、比較的早期の決着は株式市場にはプラスに作用すると考えられます。
一方、トランプ陣営は郵便投票に関する不正などに関して法廷闘争をしかけています。法律の専門家によると提訴の内容は空虚とされ、実効性があるか疑問も出ています。ただ、選挙結果の確定を引き延ばす効果はあるとみられ、今後の重要日程(図表3)に対して影響を及ぼすものになるかが焦点のようです。
米国のCOVID-19新規感染者数は、11/4(水)以降連続して1日当たり10万人を超えて急増となっています。これを受けて行動制限を再導入する州・地域も増えており、再び経済活動への影響が懸念される状況です。
7-9月期の決算発表は好調です。11/6(金)までにS&P500指数採用企業のうち86%が発表済みで、7-9月期のEPSは前年同期比7.5%減(発表済み企業の実績と未発表企業の予想の混合)の見込みです。9月末時点の予想は同21.2%減でしたので大幅な上方修正です。売上についても、現在の予想は前年同期比1.7%減で、9月末時点の同3.6%減を大きく上回っています。
経済指標では、11/13(金)にユーロ圏の7-9月期実質GDP(前年比4.3%減の予想)、米国の11月ミシガン大学消費者マインド(前月の81.8から82.0に改善の予想)、などの発表が予定されています。
企業決算では、マクドナルド、ズームインフォテクノロジーズ、ビヨンドミート、ロイヤルティファーマ、ウォルトディズニー、シスコシステムズ、アプライドマテリアルズなどの発表が予定されています。
今週の5銘柄
今回は前週に7-9月期決算を発表したS&P500指数採用銘柄から好決算を発表したものをご紹介いたします。
スクリーニングの条件は、(1)売上の予想乖離5%以上、EPSの予想乖離10%以上、(2)売上の前年同期比-10%以上、(3)時価総額200億ドル以上です。これらの条件を満たす銘柄を図表4にリストアップしています。
ここからクアルコム(QCOM)、クロロックス(CLX)、Tモバイル US(TMUS)、スカイワークス ソリューションズ(SWKS)、メトラー トレド インターナショナル(MTD) を選んでご紹介いたします。
図表3 大統領選挙に関する今後の重要日程
12月8日 | 各州選挙人の確定期限(セーフ・ハーバーの日) |
12月14日 | 各州選挙人による投票 |
2021年1月6日 | 連邦議会両院合同会議で選挙人による投票結果を開票 |
2021年1月20日 | 大統領就任式 |
※各種報道をもとにSBI証券が作成
図表4 先週発表の好決算銘柄スクリーニング(S&P500指数採用企業対象)
銘柄名(コード) | 予想乖離(%) | 前年同期比(%) | 時価総額 (億ドル) |
||
売上 | EPS | 売上 | EPS | ||
Tモバイル US(TMUS) | 11.3 | 91.0 | 74.2 | 2.6 | 1,534 |
オールステート(ALL) | 11.0 | 65.9 | 3.9 | 3.5 | 277 |
クロロックス(CLX) | 9.0 | 38.2 | 27.2 | 102.2 | 275 |
パーカーハネフィン(PH) | 9.7 | 35.8 | -3.1 | 11.2 | 306 |
クアルコム(QCOM) | 9.8 | 24.0 | 35.4 | 85.9 | 1,640 |
スカイワークス ソリューションズ(SWKS) | 13.6 | 21.6 | 15.6 | 21.7 | 245 |
ゾエティス(ZTS) | 10.1 | 21.5 | 12.8 | 17.0 | 804 |
メトラー トレド インターナショナル(MTD) | 8.0 | 17.4 | 7.1 | 21.7 | 281 |
リジェネロン ファーマシューティカルズ(REGN) | 9.4 | 16.7 | 12.0 | 25.3 | 617 |
ベクトン ディッキンソン(BDX) | 6.8 | 10.6 | 4.4 | -15.7 | 686 |
※BloombergデータをもとにSBI証券が作成
今週の注目銘柄
買付 | チャート | 銘柄 | 株価 (11/6) |
予想PER (倍) |
ポイント |
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クアルコム(QCOM) | 145.01ドル | 20.7 | 【5Gスマホの販売増で売上モメンタム加速】 ・5Gスマホの販売が本格化する中、同社の製品価格は4Gスマホ向けよりも高いことから、売上モメンタムが加速しています。また、同社の半導体事業は、MSM(Mobile Station Modem)と呼ばれるアプリケーションチップとベースバンドチップを組み込んだ製品が主力でしたが、スマホの高周波部品、自動車、IoTへの展開でも成長することが注目されています。今回の決算で分野別の売上構成比を開示しており、これらの分野の合計は7−9月期に半導体部門の4割を占めていると判明しています。 ・7-9月期決算は売上が前年同期比35%増、調整後EPSが同86%増と好調でした。10-12月期の売上ガイダンスは78〜86億ドルで、前年同期比54〜69%増相当で売上の加速が続く見通しです。21年9月期の市場コンセンサスでは、売上が前年比25%増の294億ドル、調整後EPSは前年比95%増の6.91ドルが予想されています。 | ||
クロロックス(CLX) | 218.08 | 27.3 | 【COVID-19で除菌関連製品の売上が増加】 ・家庭用品の老舗で、洗濯用洗剤・漂白剤などを製造します。除菌シートやトイレ用漂白剤など8割以上の製品が米国内で1〜2位のシェアを誇り、日用品メーカーの中でもCOVID-19の影響で需要が拡大している製品の比率が高くなっています。 ・7-9月期はCOVID-19の影響で除菌ジェル、除菌シート、除菌スプレーなどへの需要が拡大して売上が前年同期比27%増となり、4-6月期の同22%増を上回り、市場予想も9%ポイント上回っています。部門別売上は「ヘルス&ウェルネス」(クリーニング関連製品)が前年同期比28%増、「ハウスホールド」(バッグやラップなど)が同37%増、「ライフスタイル」(食品や浄水フィルターなど)が同16%増、「インターナショナル」が同18%増と全部門が10%以上伸びています。21年6月期のガイダンスは、売上が前年比5〜9%増、EPSが7.70〜7.95ドルとしています。 | ||
Tモバイル US(TMUS) | 123.56ドル | 23.2 | 【スプリントとの合併でシェア拡大にはずみ】 ・20年4月にスプリント社と合併、携帯電話の総契約者数でAT&Tを抜いて全米2位に浮上した通信会社で、格安料金プランや最新スマホの導入でシェアを拡大しています。5Gのネットワークは7500都市、2.5億人をカバーする全米最大のもので、スプリントが保有していた2.5ギガヘルツ帯が加わったことで、特に高速データ通信の分野でAT&Tやベライゾンに対して優位となることが見込まれています。 ・7-9月期決算は、スプリントとの合併効果により、売上が前年同期比74%増、純利益が同44%増でした。加入者数純増の2百万件、後払い携帯電話契約純増の69万件は業界トップの実績で、9月期の加入者数総数は1億件を超えています。業績の好調を受けて20年下半期(20年7-12月期)の加入者純増、調整後EBITDA、営業キャッシュフローなどのガイダンスが引き上げられています。 | ||
スカイワークス ソリューションズ(SWKS) | 146.74ドル | 19.5 | 【5Gスマホの販売増から恩恵】 ・アナログ半導体で世界5位の半導体メーカーです。アップル向けの売上が5割を占めるなど、スマホなど通信機器向けを主力とするほか、車載、IoTにも展開しています。スマホ向け高周波チップのリーダー企業であり、スマホが4Gから5Gに移行するにともなってスマホ1台に使用される同社の高周波部品の売上は37%拡大すると推測されています。21年の売上は10%台の伸びになると期待されています。 ・7-9月期の売上は、5Gスマホの販売が本格化することを受けて前年同期比16%増となり、4-6月期の前年同期比4%減から大きく改善し、市場予想も上回りました。10-12月期のガイダンスも、売上が10.4〜10.7億ドル、EPSのレンジ中央値が2.06ドルと、市場予想のそれぞれ9.3億ドル、1.80ドルを上回っています。 | ||
メトラー トレド インターナショナル(MTD) | 1,181.11 | 42.9 | 【世界的な精密計量・分析器メーカー】 ・スイスのメトラー社と米国のトレド社にルーツをもつ、世界的な精密計量・分析器メーカーです。世界首位級の計量器では研究室用天びんや産業用・食品小売業用の機器を製造・販売するほか、生命科学分野向けのpHメーター、熱分析器なども扱います。 ・7-9月期の売上は前年同期比7%増と、COVID-19による影響が大きく出た4-6月期の同6%減から改善し、調整後EPSは同22%増となりました。地域別の売上は、欧州が前年同期比9%増、米州が同2%増、アジアおよびその他世界が同11%増とそろって増収を達成しています。10-12月期の現地通貨ベースの売上成長を前年同期比4〜5%増としたほか、20年通期の調整後EPSを22.7〜23.2ドルに引き上げ、21年の現地通貨ベース売上成長を前年比4〜5%増、調整後EPSを27.5〜28.3ドルとして堅調な業績見通しを表明しています。 |
注:予想PERはBloomberg集計のコンセンサス予想EPSによります。クアルコム、スカイワークスソリューションズは21年9月期、クロロックスは21年6月期、その他は21年12月期です。
※会社資料、BloombergデータをもとにSBI証券が作成
主要イベントの予定
経済指標・イベント | 企業決算・イベント | |
9(月) | マクドナルド、ズームインフォテクノロジーズ ビヨンドミート |
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10(火) | ・中国生産者・消費者物価指数(10月) ・中国資金調達総額(10月、15日までに発表) ・ドイツZEW調査(10月) ・米NFIB中小企業楽観指数(10月) |
・マイクロソフトが新型ゲーム機「XboxシリーズX」発売 ・アップルが自社設計プロセッサー搭載「Mac」を発表見込み ロックウェルオートメーション |
11(水) | ・日本工作機械受注(10月) ・米求人労働異動調査(9月) |
・中国のネット通販セール「独身の日」 ロイヤルティファーマ |
12(木) | ・日本機械受注(9月) ・ユーロ圏鉱工業生産(9月) ・米消費者物価指数(10月) ・米新規失業保険申請件数(11月7日に終わる週) |
ソニーが新型ゲーム機「プレイステーション5」発売 ウォルトディズニー、シスコシステムズ アプライドマテリアルズ、ヒューレットパッカードエンタープライズ |
13(金) | ・ユーロ圏貿易統計(9月) ・ユーロ圏実質GDP(7-9月期、速報値) ・米生産者物価指数(10月) ・ミシガン大学消費者マインド(11月) |
・アクティビジョンブリザードが「Call of Duty」の最新作を発売 |
16(月) | ・日本実質GDP(7-9月期、速報値) ・中国鉱工業生産・小売売上高・固定資産投資(10月) ・中国調査失業率(10月) ・米ニューヨーク連銀製造業景気指数(11月) |
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17(火) | ・米小売売上高(10月) ・米鉱工業生産(10月) ・米NAHB住宅市場指数(11月) |
ウォルマート、ホームデポ |
18(水) | ・日本貿易統計(10月) ・EU27ヵ国新車登録台数(10月) ・米住宅着工・建設許可件数(10月) |
エヌビディア、ターゲット、キーサイトテクノロジーズ、ロウズ |
19(木) | ・新規失業保険申請件数(11月14日に終わる週) ・フィラデルフィア連銀製造業景気指数(11月) ・米中古住宅販売件数(10月) |
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20(金) | ・じぶん銀行日本製造業PMI(11月) ・ユーロ圏消費者信頼感(11月) |
注:日付は現地時間によります。(E)はBloombergによる予想を示します。企業決算の赤字でのハイライトは、当社顧客保有人数の1〜30位、青字のハイライトは31〜50位を示します。
※Bloombergデータ、各種報道をもとにSBI証券が作成