先週はバイデン大統領のインフラ投資計画が増税で賄われることが説明されて、長期金利の中期的上昇を抑える要因と捉えられたとみられ、グロース株主導で上昇してS&P500指数は最高値更新に進みました。今週はS&P500指数の高値更新の程度、1-3月期決算発表前のプロフィットウォーニング、FOMCの議事要旨とパウエルFRB議長の発言、などが注目されます。
今回は大規模な設備投資計画の発表が相次ぎ、中期的な需要見通しが引き上げられたとみられる半導体業界から、ASML ホールディングス NYRS(ASML)、アプライド マテリアルズ(AMAT)、台湾セミコンダクター ADR(TSM)、マイクロン テクノロジー(MU)、クアルコム(QCOM)を選んで今週の5銘柄といたします。
図表1 S&P500指数の一目均衡表(日足、3ヵ月)
※当社WEBサイトを通じてSBI証券が作成
図表2 業種別指数騰落率・個別銘柄騰落率
S&P500業種指数騰落 | 5日 | 1ヵ月 | 3ヵ月 |
情報技術 | 4.7% | 2.3% | 3.9% |
コミュニケーションサービス | 3.0% | 3.5% | 10.0% |
一般消費財・サービス | 3.0% | 3.7% | 4.0% |
不動産 | 2.9% | 8.6% | 10.1% |
S&P500 | 2.8% | 3.9% | 7.0% |
素材 | 2.2% | 5.0% | 9.6% |
資本財・サービス | 2.2% | 6.9% | 11.4% |
エネルギー | 2.2% | 3.4% | 32.7% |
金融 | 1.9% | 4.0% | 16.8% |
ヘルスケア | 1.4% | 2.5% | 2.5% |
公益事業 | 1.2% | 8.1% | 1.9% |
生活必需品 | 0.9% | 6.6% | 0.2% |
騰落率上位(5日) | 騰落率 |
エヌビディア | 10.2% |
クアルコム | 8.3% |
テキサス・インスツルメンツ | 7.6% |
ネットフリックス | 7.3% |
アドビ | 7.2% |
騰落率下位(5日) | 騰落率 |
チャーター・コミュニケーションズ | -4.6% |
コムキャスト | -2.8% |
モルガン・スタンレー | -2.4% |
フォード・モーター | -1.2% |
ユナイテッドヘルス・グループ | -1.1% |
注:個別銘柄の騰落率上位、下位はS&P100指数が母集団です。銘柄名はBloombergの表記により、当社WEBサイト・本文中の表記と異なる場合があります。
※BloombergデータをもとにSBI証券が作成
先週の米国株式市場
週初は米投資会社アルケゴス・キャピタル・マネジメントのポジション解消で3/26(金)に大幅安となる銘柄が出た問題について、他の銘柄に「感染」するのではないか、また、同様の窮地に追い込まれる投資会社があるのでは、との警戒がありました。しかし、時間の経過とともに単発の事案であるとの見方が強まり、警戒は解かれたとみられます。
3/31(水)にバイデン大統領が発表した2.25兆ドルのインフラ投資計画は、財政支出面については一旦材料出尽くしと捉えられた一方、資金調達面(増税)についてはっきりと説明したことから、長期金利の中期的上昇を抑える要因と捉えられました。グロース株の見直し買いにつながり、NYダウが0.3%安となったのに対して、グロース株を多く含むナスダック指数は1.5%上昇しました。
4/1(木)はISM製造業景気指数の大幅な改善に加え、「OPECプラス」が5月から段階的に原油生産の減産幅を縮小するとしたことで物価上昇・長期金利上昇への警戒が和らいでS&P500指数は史上最高値を更新、初めて4,000ポイントに到達しました。
S&P500指数は週間で1.1%、NYダウは0.2%、ナスダック指数は2.6%の上昇でした。
業種指数では、グロース株を多く含む「情報技術」「コミュニケーションサービス」「一般消費財・サービス」などが上位となりました。個別銘柄では、エヌビディア(NVDA)、クアルコム(QCOM)など半導体銘柄の上昇が目立ちました。
経済指標では、米国の3月ISM製造業景気指数が前月の60.8から64.7(市場予想は61.5)と1983年12月以来の水準に改善しました。中国の3月製造業PMIは前月の50.6から51.9へ、非製造業PMIは前月の51.4から56.3へ改善、3月日銀短観の大企業製造業DIも12月の-12から5へ改善しています。日米中で企業景況感が改善して、企業業績の回復加速が推察されます。また、米国の3月雇用統計では、非農業部門雇用者数が前月比91.6万人増と同65万人増を大きく上回りました。
今週の米国株式市場
S&P500指数の高値更新の程度、1-3月期決算発表前のプロフィットウォーニング、FOMCの議事要旨とパウエルFRB議長の発言、などが注目されます。
米株式市場は4/2(金)に休場であったため、3月雇用統計から織り込みを始めます。市場が開いていた米10年国債利回りは1.72%に上昇したものの、3/31(水)に付けた1.74%の高値を下回っていることから、ポジティブな反応となりそうです。さらに、(1)先週に増税の話が出て長期金利上昇の抑制要因になると考えられること、(2)国民1人当たり1,400ドルの現金支給の一部が待機資金になっているとみられること、から目先は高値更新が続きそうです。
S&P500指数の予想PERは、現在の予想EPSである174ポイントに対して23.1倍、予想EPSが今後の上方修正を織り込んで190ポイントになったとしても21.2倍に到達しています。予想PERは長期的な平均水準である17〜18倍を大きく上回っていることから、あまり強気になり過ぎないように注意して臨む必要があるでしょう。
1-3月期の決算発表は来週からになりますが、その前に「プロフィットウォーニング」(市場コンセンサスよりも良い場合、悪い場合ともウォーニングと言います)が出るか注目されます。特に4/6(火)にアナリストミーティングを開くアプライドマテリアルズが見通しを上方修正するのではとの観測があるようです。
市場はFRBが量的緩和を縮小するタイミングを見極めようとしており、FOMCの議事要旨とパウエルFRB議長の発言からそのヒントを得ようとしています。パウエルFRB議長は3/23(火)の議会証言で、「緩和縮小に動くかなり前にコミュニケーションをとる」としましたが、経済指標の改善が続くと「縮小」が早まる可能性を市場は気にしているとみられます。
経済指標では、4/5(月)に米国の3月ISM非製造業景気指数(前月の55.3から59.0に改善の予想)、米国の2月製造業受注(前月比0.5%減の予想)、などの発表が予定されています。
企業決算では、カーニバル、コナグラブランズ、コンステレーションブランズなどの発表が予定されています。
今週の5銘柄
今回はポジティブニュースが続いている半導体業界の銘柄をご紹介いたします。
半導体については、昨年からテレワークの拡大でパソコンやデータセンター向けの需要が拡大していたところに、サービス消費が抑えられる中で自動車など半導体を使用する一般的な「モノ」への需要が拡大したことから、年初より需給のひっ迫が続いています。さらに、以下にあげるニュースから、需給のひっ迫は一時的でなく中長期に需要見通しが上方修正されているとみられます。
・3/23(火)にはインテルが200億ドルを投じてアリゾナ州に最先端の半導体工場を2棟建設する計画を発表。
・3/31(水)のマイクロンテクノロジーの12-2月期決算では、DRAMの需給ひっ迫は年内いっぱい続くとした。
・4/1(木)にはTSMCが今後3年で1,000億ドルの設備拡張投資を行うと報じられた。
そこで半導体業界の設備投資から恩恵を受ける銘柄や半導体の生産拡大を担うことが期待されている銘柄を中心に、ASML ホールディングス NYRS(ASML)、アプライド マテリアルズ(AMAT)、台湾セミコンダクター ADR(TSM)、マイクロン テクノロジー(MU)、クアルコム(QCOM)の5銘柄を選んでご紹介いたします。
今週の注目銘柄
買付 | チャート | 銘柄 | 株価 (4/1) |
予想PER (倍) |
ポイント |
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ASML ホールディングス NYRS(ASML) | 637.10ドル | 60.9 | 【半導体微細化の鍵を握る会社】 ・半導体の回路焼付けに使われる露光装置に特化する、オランダの半導体製造装置メーカーです。半導体の露光装置では世界シェアが9割を超えると言われ、最先端のEUV(Extreme Ultra-Violet:極端紫外線)露光技術に対応できる唯一のメーカーです。EUV露光装置は最先端のロジック半導体(スマホのチップセットやパソコンのCPUなど)の微細化に使用されていますが、いずれはメモリでも使用されると想定され、同社の成長をけん引すると見込まれます。 ・20年10-12月期の決算発表時には、21年の売上は前年比10%台前半の伸びを想定、けん引するEUV露光装置は同30%増の見込みとしていました。しかし、TSMCとインテルによる設備投資計画引き上げは本年中にも恩恵をもたらす可能性があり、22年以降の売上には大きな押し上げ要因になると期待されます。 | ||
アプライド マテリアルズ(AMAT) | 141.52ドル | 23.6 | 【世界最大級の半導体製造装置メーカー】 ・世界最大級の半導体製造装置メーカーで、液晶、有機ELなどのフラットパネルディスプレイ製造装置も手掛けます。半導体の製造プロセスのうち、膜形成、エッチング、化学機械平坦化、パッケージング、検査などほとんどの工程に関わる機械を手掛けます。19年の半導体製造装置の世界シェアは18.9%でトップを維持、半導体業界の拡大に連れて成長が期待されます。 ・20年11月-21年1月期決算は、売上が前年同期比24%増、調整後EPSが同42%増と好調でした。2-4月期の売上ガイダンスは前年同期比31〜41%増相当の51.9〜55.9億ドルと加速が見込まれています。4/6(火)の東部時間11時に開催されるアナリストミーティングで業績見通しの引き上げがあるのではとの観測があり注目されます。 | ||
台湾セミコンダクター ADR(TSM) | 124.80ドル | 31.8 | 【業界最先端の製造技術を獲得】 ・1987年に設立された世界最大の半導体ファウンドリで、50%超の世界シェアを誇ります。ファウンドリは受託製造に特化する業態で、顧客企業はクアルコム、AMD、エヌビディア、アップル、ファーウェイなど製造ラインを持たない企業(ファブレス)で、数百社に上ります。回路線幅7ナノメートルの量産化とEUVリソグラフィー技術を用いた商用生産に最初に成功したファウンドリで、既に回路線幅5ナノメートルの量産も進んで、業界最先端の製造技術を獲得しています。 ・AMDがCPU市場でインテルに対して優位に立てているのは、微細化技術で先行している同社に製造を委託していることが大きく、製造技術の優劣が競争力を左右するようになるとサプライチェーンの中でより高い付加価値を得ることが期待されます。21年1-3月期の売上ガイダンスは前年同期比23〜26%増と20年10-12月期の同14%増から加速の見通しですが、台湾での水不足の影響が出る可能性があります。しかし、中長期の需要は非常に強く、4/1(木)には今後3年間で1,000億ドルの設備投資が行われる計画と報道されました。 | ||
マイクロン テクノロジー(MU) | 92.41ドル | 17.0 | 【DRAMの需給ひっ迫が続く】 ・半導体メモリに特化した世界有数の半導体メーカーです。2020年8月期の売上高は、製品別でDRAMが68%、NANDが 29%を占めています。部門別ではコンピューティング&ネットワーキング部門が43%、モバイル部門が27%、ストレージ部門が 16%、組み込みビジネス部門が13%となっています(四捨五入の関係で合計は100%となりません)。 ・主力のDRAMはCPUが計算するための「作業スペース」を提供します。スマホでは同時に開ける画面やアプリの数に関係し、搭載されるDRAMの記憶容量は拡大の一途です。データセンターでは、「ビッグデータ」が増えて1度に処理するデータが大きくなっ ており、センターの設置数以上に需要が増加しています。DRAMの需給ひっ迫による価格上昇で、12-2月期の売上は前年同期比30%増、3-5月期のガイダンス中央値も同31%増です。DRAMは供給不足と旺盛な需要が重なって、供給が需要を下回る状態は年内いっぱい続く見通しです。 | ||
クアルコム(QCOM) | 137.79ドル | 19.0 | 【5G関連のトップピック】 ・スマホ向けに通信モデムとCPUを組み込んだチップセットの製造を主力とする企業です。90年代に無線で大量のデータを扱うための通信規格CDMAを独力で開発したことで無線通信技術の中心企業に飛躍しました。その後、4G、LTE、5Gと世代が変わるごとに、同社が新しい通信規格で通信ネットワークのプロトタイプを作成して実際に通信できることを実証することが続いており、無線通信技術の中心企業であり続けています。 ・TSMCに半導体製造を委託しているため、足もとの業績はTSMCの生産能力ひっ迫から影響を受ける可能性がありますが、中期的な業績拡大への影響は限定的とみられます。5Gの普及が進むにつれ、(1)スマホ向けチップセット売価の上昇、(2)スマホ卸値に連動する特許料の増加、(3)高周波品の拡充、(4)自動車の通信機能強化、などが増収要因となって業績拡大が続く見通しです。 |
注:予想PERはBloomberg集計のコンセンサス予想EPSによります。使用した予想EPSの決算期は、アプライドマテリアルズが21年10月期、マイクロンテクノロジーが21年8月、クアルコムが21年9月期、その他は21年12月期です。
※会社資料、BloombergデータをもとにSBI証券が作成
主要イベントの予定
経済指標・イベント | 企業決算・イベント | |
5(月) | ・米ISM非製造業景気指数(3月) ・米製造業受注(2月) |
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6(火) | ・IMFが世界経済見通しを発表 ・財新中国製造業PMI(3月) ・米求人労働異動調査(2月) |
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7(水) | ・米貿易収支(2月) ・FOMC議事録(3月16、17日分) ・米消費者信用残高(2月) |
カーニバル |
8(木) | ・パウエルFRB議長講演(IMF春季大会の討論会) ・ユーロ圏生産者物価指数(2月) ・米新規失業保険申請件数(4月3日に終わる週) |
コナグラブランズ、コンステレーションブランズ |
9(金) | ・中国生産者・消費者物価指数(3月) ・中国資金調達総額(3月、15日までに発表) ・米生産者物価指数(3月) |
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12(月) | ・日本工作機械受注(3月) | |
13(火) | ・中国貿易統計(3月) ・ZEW景気期待指数(4月) ・NFIB中小企業楽観指数(3月) ・米消費者物価指数(3月) |
ファスナル |
14(水) | ・日本機械受注(2月) ・ユーロ圏鉱工業生産(2月) ・米輸入物価指数(3月) ・米地区連銀経済報告(ベージュブック) |
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15(木) | ・米新規失業保険申請件数(4月10日に終わる週) ・米小売売上高(3月) ・フィラデルフィア連銀景気指数(4月) ・米鉱工業生産(3月) ・NAHB住宅市場指数(4月) |
バンクオブアメリカ、シティグループ、ペプシコ ユナイテッドヘルスグループ |
16(金) | ・中国実質GDP(1-3月期) ・中国鉱工業生産・小売売上高・固定資産投資(3月) ・中国調査失業率(3月) ・ユーロ圏27ヵ国新車登録台数(3月) ・米住宅着工・建設許可件数(3月) ・米ミシガン大学消費者マインド)4月) |
ブラックロック、モルガンスタンレー |
注:日付は現地時間によります。(E)はBloombergによる予想を示します。企業決算の赤字でのハイライトは、当社顧客保有人数の1〜30位、青字のハイライトは31〜50位を示します。
※Bloombergデータ、各種報道をもとにSBI証券が作成