先週はFRBによる金融引き締め前倒しが株式バリュエーションの高さを意識させた上、株式需給の悪化も重なったとみられ、大幅続落となりました。今週の材料として、1月FOMC(米連邦公開市場委員会)、10-12月期の決算発表、米国の新型コロナの新規感染者数、などが注目されます。
今回は米国株式市場の反発を想定して株価指数に連動するETFから、SPDR S&P 500 ETF トラスト(SPY)、インベスコ QQQ トラスト シリーズ1 ET(QQQ)、Direxion デイリーS&P500ブル3倍 ETF(SPXL)を、先週の決算発表銘柄から、プロクター & ギャンブル(PG)とネットフリックス(NFLX)を選んで今週の5銘柄といたします。
図表1 S&P500指数のローソク足(日足、3ヵ月)
※当社WEBサイトを通じてSBI証券が作成
図表2 業種別指数騰落率・個別銘柄騰落率
S&P500業種指数騰落 | 5日 | 1ヵ月 | 3ヵ月 |
エネルギー | -0.7% | 14.0% | 8.5% |
生活必需品 | -1.3% | 0.9% | 6.9% |
公益事業 | -1.4% | -1.2% | 2.5% |
ヘルスケア | -3.6% | -7.1% | -1.6% |
不動産 | -4.0% | -6.1% | -1.3% |
資本財・サービス | -5.0% | -2.7% | -3.4% |
S&P500 | -5.6% | -6.9% | -3.2% |
情報技術 | -6.1% | -10.9% | -2.7% |
素材 | -6.1% | -4.9% | -0.9% |
コミュニケーションサービス | -6.6% | -9.8% | -9.8% |
金融 | -7.4% | -1.7% | -5.9% |
一般消費財・サービス | -8.9% | -11.8% | -7.2% |
騰落率上位(5日) | 騰落率 |
プロクター・アンド・ギャンブル(P&G) | 2.7% |
エクソンモービル | 2.2% |
ロッキード・マーチン | 1.6% |
コルゲート・パルモリーブ | 1.4% |
モンデリーズ・インターナショナル | 1.1% |
騰落率下位(5日) | 騰落率 |
ネットフリックス | -23.4% |
フォード・モーター | -17.5% |
JPモルガン・チェース・アンド・カンパニー | -13.8% |
ゼネラル・モーターズ(GM) | -13.7% |
USバンコープ | -12.8% |
注:個別銘柄の騰落率上位、下位はS&P100指数が母集団です。銘柄名はBloombergの表記により、当社WEBサイト・本文中の表記と異なる場合があります。
※BloombergデータをもとにSBI証券が作成
先週の米国株式市場
1/18(火)は地政学リスクから原油価格(WTI先物)が1バレル85ドル台に上昇、これが米10年国債利回りを刺激して2年ぶりの水準となる1.8%台に上昇しました。グロース株の下げがきつく、株式は大幅安となりました。
1/19(水)は債券投資家の押し目買いや20年債の入札に強い需要があったことを反映して10年国債利回りは反落しました。一方、株式は続落。S&P500指数は100日移動平均を下回り、ナスダック指数は高値からの下落率が「調整局面入り」のシグナルとされる10%を超えました。
1/20(木)には株式に押し目買いが入ってS&P500指数が前日比1.5%上昇となる場面もありましたが、引けにかけて再び売り込まれました。米10年国債利回りは低下していることから、投資家心理と需給の悪化が主な下落要因とみられます。1/21(金)は前日引け後に決算を発表したネットフリックスが2割下落、市場センチメントを悪化させて大幅続落となりました。
S&P500指数は週間で5.7%、NYダウは4.6%、ナスダック指数は7.6%の大幅な下落となりました。
業種指数では、原油価格が高値圏を維持したことを受けた「エネルギー」やディフェンシブな「生活必需品」「公益事業」以外は3%を超える下落となりました。個別銘柄では、決算発表銘柄を除くとフォード モーター(F)の下落が目立ちました。1/19(水)に保有するリビアン株の評価益を発表していますが、これが利益ガイダンスの実質下方修正と捉えられたようです。同社は年初にEVピックアップトラックの生産能力を年15万台へ倍増すると発表したことが好感されて株価が上昇していました。
経済指標では、中国の10-12月期実質GDPが前年比4.0%増(7-9月期は同4.9%増)、12月鉱工業生産は前年比4.3%増(前月は同3.8%増)と改善の一方、同小売売上高は「ゼロコロナ政策」の影響で同1.7%増(前月は同3.9%増)へ悪化しました。中国人民銀行は1/20(木)に1年物と5年物の最優遇貸出金利の引き下げを決めています。
今週の米国株式市場
今週の株価材料として、1月FOMC(米連邦公開市場委員会)、10-12月期の決算発表、米国の新型コロナの新規感染者数、などが注目されます。FOMC、10-12月期の決算発表とも相場を落ち着かせる要因になると期待されます。
株式市場はFRBによる金融引き締めの前倒しについて、テーパリングの3月終了、利上げが3月にも始まり年4回に達する可能性、資産縮小が利上げ後間もなく始まる可能性など、12月のFOMCからアグレッシブに織り込んできました。このため今回のFOMCでそのような方向でサプライズが起こる可能性は低いとみられ、相場が落ち着きを取り戻す要因になると期待されます。
10-12月期決算については、S&P500指数採用企業のうち1/21(金)までに決算発表が終わった64社の集計で、売上は前年同期比13.5%増、EPSは21.3%増、市場予想比では売上が2.3%、EPSが8.4%上回っています(Bloombergによる集計)。一部の銀行やネットフリックスなどの決算がネガティブサプライズとなりましたが、全体としては堅調と言っていいでしょう。今週はNYダウ採用銘柄の約半数を含む主要企業の発表が進みます。これも相場が落ち着きを取り戻す要因になると期待できるでしょう。
米国の新型コロナ新規感染者数(7日平均、ニューヨークタイムズ紙の集計データ)は1/16(日)に80.7万人でピークをつけて徐々に減少、1/22(土)には71.3万人となっています。減少傾向が続くか注目されます。
経済指標では、1/25(火)に米国の1月コンファレンスボード消費者信頼感(前年の115.8から111.8に悪化の予想)、1/27(木)に米国の12月耐久財受注(前月比0.5%減の予想)、米国の10-12月期実質GDP(前期比年率5.3%増の予想)、1/28(金)に米国の12月個人消費支出物価指数(コア)(前月比0.5%増の予想、前年比4.8%増の予想、前月は同4.7%増)、米国の1月ミシガン大学消費者マインド(前月の68.8から横ばいの予想)、などの発表が予定されています。
企業イベントでは、IBM、ジョンソン&ジョンソン、3M、マイクロソフト、テスラ、AMD、AT&T、アップル、ビザ、キャタピラーなどの決算発表が予定されています。
米国株は買い場到来!?
年初来S&P500指数は7.7%下落、ナスダック指数は12.0%下落と、米国株式市場は久しぶりに大きな調整となっています。
今回の株価調整は、FRBの金融緩和解除の前倒しを受けたバリュエーションの調整(PERの縮小)と考えられます。S&P500指数の予想EPS(2022年予想と2023年予想の平均値)である235ポイントを基準にすると、2021年末のPER20.3倍から1/21(金)に18.7倍まで低下したことになります。
S&P500指数の予想PERの長期レンジは15〜19倍です。18.7倍まで低下としたとは言え、レンジの高いほうになります。しかし、パンデミックの影響による企業業績の押し下げはまだ残っているとみられること、長期金利の水準がまだ低いことを考慮すれば、再び20倍前後まで戻る可能性は高いとみています。
一方、EPSについては、特に大きな変化はないとみられます。前節で既述の通り10-12月期決算は事前の市場予想を上回って堅調な推移となっています。予想EPSの基準として上記の235ポイントを使うことに問題はなさそうです。
筆者は昨年8月以来、S&P500指数の2021年高値目標を4,700ポイントとしてきましたが、上記のEPS235ポイント×PER20倍=4,700ポイントを引き続き当面の目標値とすることは妥当と思われます。ちなみに、2022年の高値目標は5,100ポイントとしています。
相場調整のきっかけとなった米10年国債利回りが反落しても株価が下げ続けているのは、市場参加者のセンチメントが弱気に傾いたことに加え、決算発表を控えたブラックアウト期間に入って企業による自社株買いがストップしていることによる、株式需給の悪化が主因とみられます。
S&P500指数の当面の目標値を4,700ポイントとすると、1/21(金)終値の4,397.94ポイントは6.9%のリターンが期待できる水準となります。買い場の到来と考えてよいのではないでしょうか。
今週の5銘柄
今回は株価指数の調整が進んで米国市場全体として買い場が到来している可能性があるため、S&P500指数に連動するETFのSPDR S&P 500 ETF(SPY)、ナスダック100指数に連動するインベスコ QQQ トラスト シリーズ1 ET(QQQ)、さらにリスク許容度が高い方には、S&P500指数の3倍の値動きを目指すETFのDirexion デイリーS&P500ブル3倍 ETF(SPXL)をご紹介します。
また、先週の決算発表銘柄から、好決算を発表したプロクター & ギャンブル(PG)、決算発表を受けて株価が大幅に下落したネットフリックス(NFLX)を加えてご紹介いたします。
図表3 ナスダック指数も調整一巡!? ナスダック指数の一目均衡表(週足、3年)
※当社WEBサイトを通じてSBI証券が作成
今週の注目銘柄
買付 | チャート | 銘柄 | 株価 (1/21) |
予想PER (倍) |
ポイント |
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SPDR S&P 500 ETF トラスト(SPY) | 437.98ドル | - | ETF運用会社のステート・ストリート・グローバルが提供する、S&P500指数の価格・利回りのパフォーマンスに連動を目指すETFです。2021年末の純資産総額は4,552億ドル、年間の経費率は0.09%、年4回分配で年間の分配利回り(実績)は1.27%です。 | ||
インベスコ QQQ トラスト シリーズ1 ET(QQQ) | 351.69ドル | - | ETF運用会社のインベスコが提供する、ナスダック100指数の価格・利回りに連動を目指すETFです。2021年末の純資産総額は2,160億ドル、年間の経費率は0.20%、年4回分配で年間の分配利回り(実績)は0.46%です。 | ||
Direxion デイリーS&P500ブル3倍 ETF(SPXL) | 111.78ドル | - | ETF運用会社のディレクションが提供する、S&P500インデックスの300%のパフォーマンス(手数料および経費控除前)に連動する投資成果を目指すETFです。2021年末の純資産総額は38億ドル、年間の経費率は0.95%、年1回分配で年間の分配利回り(実績)は0.13%です。 | ||
プロクター & ギャンブル(PG) | 162.62ドル | 27.5 | 【製品の値上げでコスト増を吸収へ】 ・1/19(水)に発表された10-12月期決算は、製品の値上げで売上を前年同期比6%増(数量が同3%増、価格が同3%増)とし、原材料や物流のコスト増で営業利益は同4%減となるも、営業外損益の改善で調整後EPSは同1%増を確保しました。部門別には、ヘルスケアの売上が同8%増、ファブリック&ホームケアの売上が同7%増となってけん引しています。 ・引き続き製品の値上げを続けることから、2022年6月期のオーガニック売上成長率を従来予想の前年比2〜4%増から同4〜5%増へ引き上げ、調整後EPSは同3〜6%増を見込みます。また、年度の株主還元額を170億ドルから180億ドルに引き上げました。株価は決算が好感されて3日続伸となっています。 | ||
ネットフリックス(NFLX) | 397.50ドル | 32.6 | 【1-3月期の新規加入者数ガイダンスが低い】 ・1-3月期の新規加入者数ガイダンスを2.5百万人として、市場予想の6百万人、前年同期の4百万人を大きく下回って失望されました。パンデミックによる追い風の反動が出ているとみられます。また、数年前に比べて「ディズニー+」「HBO Max」など競合が増えているため、再び強気になるために確認しなければならない事項が増えており、株価の反応が非常に大きくなったと考えられます。 ・10-12月期の業績は売上が前年同期比16%増、EPSが同12%増、新規加入者数が828万人と堅調でした。同社はTVドラマでは、韓国、インドなど米国以外の国での番組制作を増やしたり、また、ドキュメンタリー番組を充実させるなど、競合他社をリードする取り組みが評価できます。世界を統合するTV市場の覇者に向けて順調に進んでいるとみられます。株価の大幅な下落によって、予想PERは30倍台前半まで低下しています。 |
注:予想PERはBloomberg集計のコンセンサス予想EPSによります。使用した予想EPSの決算期は、プロクター&ギャンブルが2022年6月期、ネットフリックスが2022年12月期です。
※会社資料、BloombergデータをもとにSBI証券が作成。
1/18(火)は地政学リスクから原油価格(WTI先物)が1バレル85ドル台に上昇、これが米10年国債利回りを刺激して2年ぶりの水準となる1.8%台に上昇しました。グロース株の下げがきつく、株式は大幅安となりました。
注:レバレッジ型・インバース型 ETF等(ETN含む)は、主に短期売買により利益を得ることを目的とした商品です。レバレッジ指標の上昇率・下落率は、2営業日以上の期間の場合、同期間の原指数の上昇率・下落率のレバレッジ倍(又はマイナスのレバレッジ倍)とは通常一致せず、それが長期にわたり継続することにより、期待した投資成果が得られないおそれがあります。
上記の理由から、一般的に長期間の投資には向かず、比較的短期間の市況の値動きを捉えるための投資に向いている金融商品といえます。
投資経験があまりない個人投資家の方が資産形成のためにこうしたETF等を投資対象とする際には、取引の仕組みや内容を十分理解し、取引に伴うリスク・コストを十分に認識することが重要です。レバレッジ型・インバース型 ETF等に係る商品の特性とリスクについてはこちらのリーフレットをあわせてご確認ください。
主要イベントの予定
経済指標・イベント | 企業決算・イベント | |
24(月) | ・じぶん銀行日本製造業PMI(1月) ・マークイットユーロ圏製造業PMI(1月) ・米2年債入札 ・マークイット米国製造業PMI(1月) ・米シカゴ連銀全米活動指数(12月) |
IBM |
25(火) | ・ドイツIFO企業景況感(1月) ・米5年債入札 ・米S&Pコアロジック住宅価格指数(11月) ・米コンファレンスボード消費者信頼感(1月) |
ジョンソン&ジョンソン、3M、マイクロソフト ベライゾンコミュニケーションズ、アメリカンエキスプレス ゼネラルエレクトリック、テキサスインスツルメンツ |
26(水) | ・米新築住宅販売件数(12月) ・FOMC政策金利 |
テスラ、AT&T、ボーイング、インテル アボットラボラトリーズ、ラスベガスサンズ ユナイテッドレンタルズ、フリーポートマクモラン ラムリサーチ、サービスナウ |
27(木) | ・中国工業部門利益(12月) ・米7年債入札 ・米耐久財受注(12月) ・米実質GDP(10-12が月、速報値) ・米新規失業保険申請件数(1月22日に終わる週) ・米中古住宅販売成約(12月) |
アップル、ビザ、アルトリアグループ、マクドナルド、ダウ マスターカード、サウスウエスト航空、ニューコア |
28(金) | ・ユーロ圏景況感(1月) ・米個人所得・個人支出(12月) ・米個人消費支出物価指数(12月) ・米ミシガン大学消費者マインド(1月) |
シェブロン、キャタピラー ハネウェルインターナショナル |
30(日) | ・中国製造業・非製造業PMI(1月) | |
31(月) | ・中国旧正月休暇(〜2月6日) | |
2月 1(火) |
・日本鉱工業生産(12月) ・ユーロ圏実質GDP(10-12月期、速報値) ・米自動車販売台数(1月、2日までに発表) ・米ISM製造業景気指数(1月) ・米求人労働異動調査(12月) |
アドバンストマイクロデバイセズ、アルファベット エクソンモービル、ペイパルホールディングス スターバックス、ゼネラルモーターズ、UPS エレクトロニックアーツ |
2(水) | ・米ADP雇用統計(1月) | アッヴィ、メタプラットフォームズ アリババグループ、クアルコム、アラインテクノロジー |
3(木) | ・ユーロ圏小売売上高(12月) ・ECB主要政策金利 ・米新規失業保険申請件数(1月29日に終わる週) ・米ISM非製造業景気指数(1月) ・米製造業受注(12月) |
アマゾンドットコム、ユニティソフトウェア、メルク フォードモーター、イーライリリー、エスティローダー |
4(金) | ・中国・北京で冬季五輪開催(〜20日) ・米雇用統計(1月) |
注:日付は現地時間によります。(E)はBloombergによる予想を示します。企業決算の赤字でのハイライトは、当社顧客保有人数の1〜30位、青字のハイライトは31〜50位を示します。
※Bloombergデータ、各種報道をもとにSBI証券が作成