大きな失敗のリスクを軽減する方法
株式投資では「これだけ守っていれば、すべて万全!」というような、万能薬はありません。
だから今日紹介する手法も「この基準で銘柄を選べば、必ず勝つ!」という手法では無いことを、まず断っておきます。
それを断った上で、大きな失敗を回避するのに比較的有効な方法は存在します。ここで言う大きな失敗とは「倒産リスクのある企業に投資してしまった」とか「虚偽の会計報告をしている企業に投資してしまった」というケースを指します。
営業キャッシュフローを中心に銘柄を分析することの大事さ
私の経験では、企業を分析する上で、もっとも利用価値の高い尺度は、営業キャッシュフローです。
営業キャッシュフローとは、ある企業が商品やサービスを売ることで得た売上高から、原材料費などの支出を引くことで得られる現金収支を指します。
私が純利益よりも、まず営業キャッシュフローを重視する理由は、会計的に、営業キャッシュフローが、一番、ごまかしにくいからです。
営業キャッシュフローは、アニュアルレポートを見れば過去3年の数字が出ていますし、『米国会社四季報』の個別企業の欄の【キャッシュフロー】のところに「営業CF」として出ています。
三つのルール
営業キャッシュフローをめぐる第一番目のルールは、「営業キャッシュフローは、その年の純利益の数字よりも必ず大きくなければいけない」ということです。営業キャッシュフローよりも純利益の方が大きい会社は、粉飾リスクがあります。
第二番目のルールは、「営業キャッシュフローは、毎年着実に増えていることが望ましい」ということです。
三番目のルールは、「営業キャッシュフロー・マージンが15〜35%ある企業を狙え!」ということです。この数字が貧弱な企業は、儲かりにくい体質だと言えます。
ここで営業キャッシュフロー・マージンという新しい言葉が出てきたので、それを説明します。営業キャッシュフロー・マージンとは、営業キャッシュフローを売上高のパーセントで表した数字です。式で書けば:
(営業キャッシュフロー)÷(売上高)×100
となります。
実例による解説
さて、抽象的な話ではイメージを掴みにくいと思うので、実際の例で説明しましょう。
まずバイオテクノロジー企業、アムジェン(ティッカーシンボル:AMGN)です。なお以下のグラフは「純利益」、「営業キャッシュフロー」、「売上高」の数字を、その年度の「発行済み株式数」で割算し、一株当たりの数字に直してあります。
アムジェンの業績(アニュアルレポートからコンテクスチュアル・インベストメンツが作成)
【略号の読み方】
DPS 一株当たり配当
EPS 一株当たり利益
CFPS 一株当たり営業キャッシュフロー
SPS 一株当たり売上高
アムジェンの場合、第一番目のルール、「営業キャッシュフロー(CFPS)は、その年の純利益(EPS)の数字よりも必ず大きくなければいけない」は、きちんと合格していることがわかります。
つぎに第二番目のルール、「営業キャッシュフローは、毎年着実に増えていることが望ましい」と言う点も合格です。
三番目のルール、「営業キャッシュフロー・マージンが15〜35%ある企業を狙え!」に関しては、2015年のCFPSをSPSで割ると:
11.85 ÷ 28.28 × 100 = 41.9%
となり、楽々と基準を満たしていることがわかります。
なお最低基準15%をクリアしていることは当然必要となりますが、35%という上限については、あまりこだわる必要はありません。35%を超えている場合、それは「ありえないほど儲かっている」ということに他ならないです。こういう例は、ソフトウェア企業やバイオテクノロジー企業によく見られます。
もうひとつ、良い例を出します。下はシスコ・システムズ(ティッカーシンボル:CSCO)です。同社は会計年度が7月〆ですので、下のグラフの「2016年」とは、2016年7月で〆た過去12ヵ月ということになります。
シスコの場合も、営業キャッシュフローは純利益より大きいですし、営業キャッシュフローは毎年着実に増えています。
シスコ・システムズの業績(7月末〆、アニュアルレポートからコンテクスチュアル・インベストメンツが作成)
また2016年のCFPS÷SPSを計算すると27.6%となり、合格です。
次にインテル(ティッカーシンボル:INTC)の例を見ます。インテルの場合、営業キャッシュフローが年々着実に増えていません。これは条件を満たしていない例です。
インテルの業績(アニュアルレポートからコンテクスチュアル・インベストメンツが作成)
つぎに悪い例ですが、コーチは営業キャッシュフローが減っています。
コーチの業績(6月末〆、アニュアルレポートからコンテクスチュアル・インベストメンツが作成)
防衛産業のような請負業の場合、利幅が少なく、営業キャッシュフローも少ないケースが多いです。
下はノースロップ・グラマン(ティッカーシンボル:NOC)ですが、営業キャッシュフロー・マージンは9.2%に過ぎません。これは15%の足切り基準を満たしていない例です。
ノースロップ・グラマンの業績(アニュアルレポートからコンテクスチュアル・インベストメンツが作成)
このように営業キャッシュフロー・マージンは業種や業態によって左右される部分が大きいです。
最後に
最後に、今日紹介した営業キャッシュフローを巡る様々な考察は、かならず株価収益率(PER)などの尺度と併用してください。
どんなに営業キャッシュフローが健全でも、株価自体がべらぼうに割高に取引されていれば、それは値下がりリスクからあなたを守ってくれません。