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機関は一日では売り終わらない
機関は一日では売り終わらない
2018/7/30
私が日頃から言っていることに「機関は一日では売り終わらない」ということがあります。
この場合の「機関」とは、いうまでもなく機関投資家を指します。
今日はこのことについて書きます。
決算発表シーズンに何度も繰り返されるドラマ
いまアメリカは2018年第2四半期決算発表シーズンたけなわです。そこでは良い決算を出す会社もありますし、ズッコケる会社もあります。
良い決算を出した会社の株は急騰することが多いです。逆に悪い決算を出した会社の株は急落することが常です。
悪い決算を出した会社の株価が急落したのを見て(むむっ、ここはむしろ買いじゃないか?)と思ってしまうのは人情というものでしょう。
しかし、そんなとき、みなさんに是非、思い出して欲しいのが「機関は一日では売り終わらない」という戒めです。
ある企業が悪い決算を出し、株価が売られそうな展開になった場合、個人投資家は(この株を売るべきか、持ち続けるべきか)の決断を迫られます。これは重大決心には違いありません。でもその決断自体はシンプルです。
これと対照的に機関投資家の場合、たいへん複雑な決断になります。
(この株を売るべきか、持ち続けるべきか)というポートフォリオ上の問題に加えて、それをもし「ぶん投げる!」と決めた場合、具体的にどう売る? というトレーディング面での方法論の問題に直面します。
なぜなら多くの機関投資家は、大型株の場合、ひと銘柄につき数千万株も保有しているからです。
すると、それを一気に売りに出すと、自分の売り物で相場を崩してしまい、自分の首を絞めることになります。
だから数日かけて小出しに売り注文を出す機関投資家も多いです。あるいは現在取引所でついている株価よりずっと安いディスカウント価格で、証券会社にまとまった株数を引き取ってもらう、いわゆるブロック・トレードという手法もあります。
さらに自分で自分の首を絞めないようにするひとつの方便として、証券会社に売り注文を出すとき「今日の出来高加重平均取引価格(VWAP)を下回らないように売ってください」と指示する場合もあります。
証券会社のデスクで起こること
証券会社の方でも、機関投資家のそのような難易度の高い注文に応えることができるように独自のシステムを持っています。そこではアルゴリズムにより、その日のその銘柄の出来高に応じ、それにピッタリ追従するようなカタチで、薄氷を踏む慎重さでもってチョロチョロ売るわけです。
しかし結局のところどのような売り方をしても損からは逃げられません。理想とは程遠い選択肢の中から「いちばんマシな方法」を選び「敗戦処理」を行うわけです。
私自身、昔、アメリカの投資銀行に勤めている時、機関投資家を担当していましたので、このような注文は日常茶飯事だったのですが、三日間くらいかけてようやく売り切るというようなことはザラにありました。
だから悪い決算を出し、株価が急落したのを見て(こんなにザックリ下げたのだから、もう大丈夫だろう)と考えるのは、突進してくる貨物列車の前に身を投げ出すような無謀な事なのです!
こういう場合、株価が底入れしたか? と見えたら、「ワッ!」と小口の買い注文が個人投資家を中心に入るのが常です。
機関投資家は、それを待ち構えていて、気配がふらふらと上昇した頃合いを見計らって、またまた売り物を浴びせます。みなさんは、そんな売り物の餌食になりたいと思いますか?
個人投資家が心がけるべき事
ですから一回目のリバウンドで直ぐに買い出動するような軽薄なことはくれぐれも慎んでください。
傷口からまだ流血しているような状態ではバーゲン・ハンティングは禁物。
数日経ち、傷口がカサブタでおおわれた頃にゆっくり出動しても十分間に合います。
実際、それだけ余裕を持って出動しても、そこからヘナヘナと株価が値を消す場合もたいへん多いです。
ここまで書いてきたことをまとめると、いいかげんな「値ごろ感」から機関投資家の巨大でしつこい売り圧力に立ち向かうような愚行は戒めてください。
バーゲン・ハンティングというものは、「売りだ!」、「いやそうじゃない、これは買いだ!」という意見、言い換えれば強弱観が激突しているときにやるものじゃないです。
そうではなくて、みんなから忘れられ、誰からも顧みられず、「枯れた」状態こそがバーゲン・ハンティングに適した状況です。
これがFXのトレード(=普通、ボラティリティーがあるほうが有利に進めやすいです)と株のバーゲン・ハンティングの大きな違いです。
著者
広瀬 隆雄(ひろせたかお)
コンテクスチュアル・インベストメンツLLC マネージング・ディレクター
グローバル投資に精通している米国の投資顧問会社コンテクスチュアル・インベストメンツLLCでマネージング・ディレクターとして活躍中。
1982年 慶応大学法学部政治学科卒業。 三洋証券、SGウォーバーグ証券(現UBS証券)を経て、2003年からハンブレクト&クィスト証券(現JPモルガン証券)に在籍。