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米中貿易問題、香港のデモと株式市場

米中貿易問題、香港のデモと株式市場

2019/8/14

今回は、米中貿易問題・香港のデモ、これらが影響する株式市場に関してご説明いたします。

1香港国際空港が一時機能不全に陥った

香港政府が逃亡犯条例を導入しようとした事に対し香港の住民がデモを繰り広げています。8月12日(月)には香港国際空港の到着ロビーで四千人前後のデモ隊が座り込みを行い、一時、同空港の発着便がキャンセルされる事態に発展しました。

香港は「ヒト、モノ、カネ」が集まるアジアのマネー・センターであり、極めて開かれた経済となっています。香港国際空港は、ある意味でその開かれた交易の象徴とも言えるでしょう。そんな香港国際空港が機能不全に陥ったことで世界の投資家は事態の深刻さを再認識しました。

■世界で最も開かれた、自由な土地
もともと香港は1892年にイギリスと中国の間で始まったアヘン戦争の結果、1842年の南京条約でイギリスの租借地となりました。そのためイギリス式の法制度が持ち込まれたのです。私有財産権や人権が高度に護られた社会制度が香港の発展に大きく寄与しました。

その後、香港は1997年に中国に返還されたのですが、いきなり社会制度を中国式にしてしまうとショックが大きすぎるので、暫定的に「一国二制度」の措置を取り、2047年まで50年の歳月をじっくりかけて香港を取り込んでゆく手法がとられました。いまは経過時間的には、ほぼ折り返し地点に来たと言えると思います。

しかし「逃亡犯条例」が起草され、あたかもこのゆっくりとしたスケジュールが繰上られるような兆候が出た為、香港の市民たちが反発したというわけです。

「逃亡犯条例」は一応引っ込められたのですが、完全に廃案となったのではありません。それを完全に廃案にして欲しいというのが香港市民の要求です。

世界の投資家の目線から言えば、おカネというものは臆病な性質を持っており、とりわけリスクに対して神経質です。もし香港でこのようにデモが今後も荒れ狂うのであれば、安心して投資資金を香港に置いておくわけにはゆきません。またマネー・センターとしての香港の地位が揺るぐと、極めて高い水準にある香港の不動産市況にも悪影響を及ぼしかねません。

2米国市場は波乱含み

ちょうど機関投資家の多くは今、夏休みで市場参加者が少なくなっていることもあり、薄商いの中を8月5日の週、米国の株式市場は連日±1%以上の幅で乱高下し、ボラティリティー(相場のブレ)が高くなっていることを市場参加者に印象付けました。

■米中貿易問題の早期解決は望み薄
さて、米中貿易問題はトランプ大統領がこれまでに関税の対象外だった3000億ドル相当の中国からの輸入品に対しても9月1日から10%の関税を課すと発表しました。また交渉自体は9月に再開するけれど、その場合でも直ぐに現状を打開できる可能性は低いだろうと述べました。

■米国経済は未だ大丈夫
経済の規模で世界第一位と第二位の国がこのように貿易を巡って争っている状態なので世界の経営者は固唾をのんでその様子を見守っています。この問題が解決するまでは新規の先行投資などの重要な経営上の決断も下せません。

それは設備投資需要の落ち込みを意味します。また今回の関税は消費財にも及びますので消費にも悪影響が出るリスクがあります。なお米国経済の現状としては堅調な消費に支えられる格好で、景気の足腰はまだまだしっかりしています。

■債券は景気の暗転を示唆
このところ世界的に長期金利が急激に下落しているのですが米国の10年債の利回りも下のチャートに見られるように急激に下落しています。

このことは市場参加者が景気後退を予想し債券に逃避していることを示唆しています。

3FRBの処方は正しい

連邦準備制度理事会(FRB)は先の連邦公開市場委員会(FOMC)で0.25%の利下げを発表しました。これは「予防の意味での利下げだ」と説明されており、いまの時点ではそれを額面通り受け止めて良いと思います。このような整然とした利下げは株式にとって支援的でしょう。

■ハチャメチャ感を出さないように気をつける必要あり
しかし今後、利下げ幅が0.50%とか0.75%というザックリとしたものであったなら(FRBは焦っているな)という印象を投資家に与えてしまいます。

投資家のコンフィデンス(信頼感)というものはたいへん脆いものであり、そのようなちょっとしたニュアンスの変化で、これまでじっくりFRBに付き合ってゆこうと決心を決めていた投資家が慌てて株式市場から退散するような展開も、全く無いとは言い切れません。

■まとめ
以上をまとめると、現状としては米国の景気は未だ堅調で、先のFRBによる0.25%の利下げも正しい処方だったと思います。

しかし今後米中貿易問題が一層こじれるような様相を呈してくると世界第一位と第二位の経済同士の反目なので世界中の投資家を不安に陥れかねません。

中国政府が香港のデモをどう取り扱うか? は、すっかり神経過敏になってしまった世界の投資家に対して中国政府がどれだけデリケートに対応する気があるのかを測るひとつの指標になるでしょう。

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著者

広瀬 隆雄(ひろせたかお)

コンテクスチュアル・インベストメンツLLC マネージング・ディレクター

グローバル投資に精通している米国の投資顧問会社コンテクスチュアル・インベストメンツLLCでマネージング・ディレクターとして活躍中。
1982年 慶応大学法学部政治学科卒業。 三洋証券、SGウォーバーグ証券(現UBS証券)を経て、2003年からハンブレクト&クィスト証券(現JPモルガン証券)に在籍。

広瀬 隆雄

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