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いよいよ外出禁止令の解除が始まった 景気がどのくらい力強く回復するかに注目
いよいよ外出禁止令の解除が始まった 景気がどのくらい力強く回復するかに注目
2020/5/12
一部の州で外出禁止令が解除されはじめた
アメリカでは外出禁止令は州ごとに発令されます。ジョージアやフロリダなど一部の州では先週から部分的に外出禁止令が解除されはじめています。
ひとくちに外出禁止令解除と言ってもそれはいきなり昔通りのライフスタイルに戻るのではなく、ゆっくりと、部分的に活動を許して行くカタチになります。一例としてレストランの場合は通常のキャパシティの30%だけを許す……といった感じです。学校は未だ閉まったままです。そんな感じでプールに片足だけをソロリと浸けるような慎重さで段階的に再開を許可してゆくわけです。
雇用統計は酷かった
先週、非農業部門雇用者数が発表され、2054万人が職を失ったことが判明しました。
カリフォルニア大学政策研究所はUCバークレーとUCLAが共同で運営している政策提言を行う研究所ですが、そこがカリフォルニア州内で失業保険を申請した人に関し調査を行った結果、9割の人が「外出禁止令が解除されたら速やかに職場に戻れると雇用主から言われた」そうです。普通、昔の職場に復職を予定している新規失業保険申請者は4割です。従って今回の失業が新型コロナウイルスという特殊な事情で、なおかつ雇用主や従業員から「一過性のもの」として受け止められていることが伺われます。
また新規失業保険申請者の中味を見ると:
1. 若者が多い
2. 低学歴の者が多い
3. ウエイトレス、売り子など接客係が多い
4. 低賃金の人が多い
などの特徴が浮かび上がってきます。実際、先週金曜日に発表された雇用統計で平均賃金が唐突にジャンプした理由は、上に書いたようなとりわけ低賃金の労働者が労働市場から除去されたことで見かけ上、あたかも賃金が上昇したように見えたと説明されています。
株式市場は好調
さて、株式市場に目を転じると、年初来のパフォーマンスは:
ナスダック総合指数 +1.7%
S&P500指数 −9.3%
ダウ工業株価平均指数 −14.7%
という感じでナスダック総合指数の戻りが一番しなやかです。
その理由は、一握りの大型ハイテク株の戻りが良いからです。実際、年初来パフォーマンスは:
アマゾン(AMZN) +28.8%
マイクロソフト(MSFT) +17.1%
アップル(AAPL) +5.6%
アルファベット(GOOG)+3.4%
フェイスブック(FB) +2.9%
となっています。つまりこのところの米国株式市場の戻りはごく一部の銘柄によって演出されているわけです。
FRBは力いっぱい緩和している
連邦準備制度理事会(FRB)はアメリカの政策金利であるフェデラルファンズ・レートを0%〜0.25%にし、無制限の量的緩和政策により国債、住宅抵当証券、資産担保証券にとどまらず社債、ローン、地方政府の手形まで買い取ると発表しています。これが相場を下支えしていることは間違いありません。
10年債利回りは0.63%と歴史的に低い水準にあります。
株式バリュエーションは市中金利とシーソーの関係にあります。つまり上のチャートに見られるように市中金利が下がれば、逆に株式は上昇しやすくなるのです。
目を覆わんばかりの酷いニュースが続いているにもかかわらず株式が底堅いのはそのような理由によります。
実際、市場参加者は(悪いニュースが出れば出るほど…緩和政策を維持しなくてはいけないので株価にとってはプラスだ!)とすら考えているフシがあります。このようなメンテリティーはリーマンショック後の2009年から2010年頃にも見られたことです。
まとめ
まとめると①社会の底辺の人ほど失業しやすい、②裕福層ほど「不況の株高」で儲かる、という組み合わせが原因で貧富の格差がますます拡大するリスクがあるわけです。
なお外出禁止令が解除されたところでソーシャル・ディスタンシング(=距離を置くこと)は終わりません。レストランはキャパシティの30%くらいでの営業を強いられますし航空会社も旅客機のミドルシートは使用できません。つまり低設備稼働率が当分の間常態化するのです。これでは企業は儲かりませんしだんだん経営が悪化した企業の中には倒産するところも出るでしょう。
つまり今の株高は今後も続く可能性がある一方で、どこかで投資家のセンチメントが暗転し、また下げ局面を迎えるリスクも残っているのです。
著者
広瀬 隆雄(ひろせたかお)
コンテクスチュアル・インベストメンツLLC マネージング・ディレクター
グローバル投資に精通している米国の投資顧問会社コンテクスチュアル・インベストメンツLLCでマネージング・ディレクターとして活躍中。
1982年 慶応大学法学部政治学科卒業。 三洋証券、SGウォーバーグ証券(現UBS証券)を経て、2003年からハンブレクト&クィスト証券(現JPモルガン証券)に在籍。