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米国の経済再開 うつむき加減な側面も 新学期セールの結果次第ではテーパーリングの開始遅延も
米国の経済再開 うつむき加減な側面も 新学期セールの結果次第ではテーパーリングの開始遅延も
2021/7/12
経済再開は好調だが
米国はいま経済再開の真っ最中です。全体としては順調です。一例として先月の連邦準備制度理事会(FOMC)で18名のFRBメンバーが示した今年のGDP成長のコンセンサスは+7%となっています。これは足下の景気にFRBメンバーが自信を持っていることをあらわしています。
7月2日に発表された非農業部門雇用者数も85万人と事前予想の70万人を上回りました。レストランをはじめとするサービス業の雇用が強かったです。
債券市場は別のストーリーを語りかけてきている
これらの好材料とウラハラに、市場が我々に語りかけてくるのは、うつむき加減なストーリーです。
一例として10年債利回りはFOMCのあった6月16日に1.58%だったのが、現在は1.28%まで下がっています。このように債券利回りが低下しているということは、債券価格は逆に上昇している、つまり債券が買われていることを意味します。
普通、債券は景気が悪くなると市場参加者が予想しているとき人気化します。上に述べた力強い経済再開の様子に照らすと違和感を禁じ得ません。
いま10年債利回りから2年債利回りを引き算した「差」を示すと、下のチャートのようになります。
現在の数値は1.11です。5月12日に1.53をつけたのがピークで、それ以降下落に転じています。
普通、10年債利回り−2年債利回りが「0」以下になるとリセッション(景気後退)が到来するシグナルとなります。今はまだそれには遠いですが、これまでの上昇トレンドが過去の景気拡大局面のピークよりずっと低い位置で止まってしまい、反落し始めていることが読み取れます。
それは何を意味するか? と言えば、景気は皆が騒ぐほど強くなく、FRBはテーパーリングを開始するにあたって慎重に事を運び、もし景気が弱々しいようならテーパーリングを見合わせるべきなのです。
なぜ景気は思ったより強くない?
なぜ景気は思ったより強くないのでしょうか? その一因は新型コロナワクチンの接種が、国民の55%が注射を終えた段階で足踏みしており、捗らなくなってしまったことにあります。南部の州を中心にワクチン接種を嫌がる市民も多く、集団免疫の達成がおぼつかなくなっています。
そのことは米国経済が100%の力を発揮できないことを意味し、80%くらいの、不完全燃焼的な経済再開にならざるを得ないことを示唆しています。健康に対する不安が完全に払しょくされない以上、消費者のキモチは完全に晴れることはありません。
もうひとつ懸念すべき現象として社員が会社に戻りたがらないということも報告されています。去年、外出禁止令が出て在宅勤務を余儀なくされたわけですが、そのとき「家から仕事しても何とか回る」ということがわかったので、わざわざ出社したくないと考える社員が増えたのです。
社員証カードの入館データを管理しているセキュリティー会社の集計によるとマンハッタンの企業に勤める社員の4割弱しか会社に戻って来てないそうです。
社員が会社に出てこないもうひとつの理由は今夏休みで子供が家に居るということが関係しています。子供を預かる施設が足らないなどの理由で、家を空けて働きに出られない親も居るわけです。
ちなみに米国の小中学校は去年の新型コロナ以降、ずっとホーム・スクーリングに切り替えているところが多く、学校での授業再開は米国の新学期である8月下旬から9月になります。
アメリカの家庭は、この新学期の前に子供の洋服や文房具を買うことが多いです。いわゆる新学期セールが7月半ばから始まります。その様子を観察すれば、学校再開とともに米国経済が力強く成長するのか、それとも予想外に元気のない展開になるのかをある程度占うことが出来るはずです。
いずれにせよ8月下旬にワイオミング州ジャクソンホールで開催されるFRBの経済シンポジウムでテーパーリング、すなわち債券買い入れプログラムの縮小が発表されるというシナリオが、ここへきてやや不透明になっていることに留意する必要があると思います。
著者
広瀬 隆雄(ひろせたかお)
コンテクスチュアル・インベストメンツLLC マネージング・ディレクター
グローバル投資に精通している米国の投資顧問会社コンテクスチュアル・インベストメンツLLCでマネージング・ディレクターとして活躍中。
1982年 慶応大学法学部政治学科卒業。 三洋証券、SGウォーバーグ証券(現UBS証券)を経て、2003年からハンブレクト&クィスト証券(現JPモルガン証券)に在籍。