昨年10月から12月にリスク資産の多くが急落した局面で「金」は逆行高となり、リスクヘッジの機能が再認識されました。その後リスク資産は反発しましたが、成長見通しの下方修正が続く投資環境では、ポートフォリオに金関連商品を入れておくことは良いアイデアかもしれません。金価格は直近2週は反落していますが、良い押し目かもしれません。検討してみましょう。
図表1:金関連商品
銘柄(コード) | 概要 | 取引所 | 1日売買代金 (3ヵ月平均) (億ドル) |
---|---|---|---|
金買付サービス | |||
金・プラチナ・銀の現物を買付・売却できるサービスです。 |
− |
− |
|
金ETF・ETN | |||
金地金価格(ロンドン金値決め)との連動を目指す。 |
NYSE Arca |
10.8 |
|
金地金価格(ロンドン金値決め)との連動を目指す。 |
NYSE Arca |
1.9 |
|
金鉱株ETF | |||
NYSEArca金鉱株インデックスに連動を目指す。 |
NYSE Arca |
10.8 |
|
マーケット・ベクトル中小型金鉱株インデックスの価格および利回り実績と同等水準の投資成果を目指す。 |
NYSE Arca |
4.1 |
|
NYSEArca金鉱株インデックスの3倍の運用実績に連動する投資成果を目指す。 |
NYSE Arca |
1.8 |
|
NYSEArca金鉱株インデックスの-3倍の運用実績に連動する投資成果を目指す。 |
NYSE Arca |
0.9 |
|
金鉱株 | |||
米国の産金会社。カナダ、メキシコ、インドネシア、オーストラリアなどで金を生産。 |
NYSE |
2.8 |
|
カナダの産金会社。カナダ、米国、南米、オーストラリア、アフリカなどで金を生産。 |
NYSE |
2.4 |
|
カナダの産金会社。カナダ、米国、メキシコ、中南米などで金を生産。 |
NYSE |
1.4 |
|
中国の産金会社。中国最大規模の紫金山金鉱(福建省)を保有するほか、豪州、ロシアなどの鉱山にも出資。 |
香港 |
0.9 |
- ※当社WEBサイト、BloombergデータをもとにSBI証券が作成
金価格の動向が市場参加者の注目を集めているようです。
「金」については、昨年10月から12月にかけて株式などほとんどのリスク資産の価格が大幅な下落となる中、数少ない上昇した資産となり、資産ポートフォリオの中でのヘッジの機能が再認識されたと見られます。
S&P500指数を例にとると、18年10/3(水)の高値から18年12/24(月)の安値にかけて19.6%の下落となりましたが、同期間に金の現物価格は5.7%の上昇となりました。
「金」はリスク資産の価格変動に対するヘッジの意味合いから、ポートフォリオに組入れることを推奨するファイナンシャル・アドバイザーも多い資産です。しかし、18年の前半まではFRB(米連邦準備制度理事会)による利上げと長期金利の上昇傾向が続いたため、なかなか買いづらい資産でもありました。
その後昨年10月に米10年国債利回りが3.2%で頭打ちとなり、19年初からFRBの利上げ見通しが著しく低下して、「金」を買いにくくしていた要因が剥落してきました。
さらに、FRBの利上げモードから様子見への転換で株式市場は反発してきましたが、世界経済の成長率見通しは依然として下方修正バイアスと見られます。
中国経済は政府によるテコ入れ策の効果で今後底入れすると期待される一方、米国経済は18年の減税効果による需要の前倒しの反動が避けられず、成長率は減速すると見込まれます。
米中通商協議は3月中に具体的な合意に達すると期待され、金融市場は一旦これを好感するでしょう。しかし、米中の根本的な覇権争いは継続すると見込まれ、世界経済の成長率がどんどん上方修正されていくことも考えにくくなっています。
このような不安定な投資環境下では、「金」のポートフォリオへの組み入れを考えるべき局面にきている可能性もありそうです。次節で金価格を動かす要因について検討してみましょう。
図表2:金のリスクヘッジ機能が再認識された
- ※BloombergデータをもとにSBI証券が作成
図表3:金価格の長期チャート(現物、1トロオンス当たり、月足10年)
- ※当社WEBサイトを通じてSBI証券が作成
金価格には、以下に挙げる様々な要因が影響を与えると言われています。現状はどうなっているか、それぞれ検討してみましょう。
[1] 通貨代替需要・・・金は世界共通通貨としての側面があり、基軸通貨である米ドルの下落(上昇)は、金の価格上昇(下落)要因と考えられています。
米ドルの動向を図表4のドル指数で確認すると、15年以降は95ポイントを中心とするレンジで推移して、はっきりしたトレンドは出ていません。
18年前半には世界の主要経済が減速する中で米国経済の堅調が目立ち、ドル独歩高の懸念がありましたが、足もとでは米国経済にも鈍化の兆しが出て、その懸念も薄らいでいるようです。米ドルの動向は金価格に中立と考えてよさそうです。
[2] 米国金利動向・・・金は保有によって利息を生まないため、米ドル金利上昇は金の価格下落要因、米ドル金利低下は金価格の上昇要因と考えられています。
米国の金利は、世界経済が底入れした16年半ばから上昇を始め、トランプ大統領の減税による押し上げ効果もあって上昇基調となっていました。しかし、米中貿易摩擦の影響が表面化した18年10月にピークを付けて反落しています(図表5)。
また、注目されるのは長短金利の差が縮小していることです。これは、景況見通しが不透明で、市場が明るい見通しを持てないでいる(将来実現する短期金利は現状と大きく変わらないと見ている)ことを示唆しています。このため、現在の金利動向は金価格のサポート要因と考えてよさそうです。
[3]インフレや地政学的リスク・・・インフレは金価格にプラスとなる傾向が強いと言われます。また、地政学的リスクが高まると、資産保全ニーズで金が買われる傾向があります。
世界的な景気減速を受けてインフレが高進する環境にはないと見られます。一方、地政学リスクについては、当面の米中通商摩擦は回避できたとしても、米中の覇権争いは今後長く付き合っていく必要がありそうです。このため、金価格のサポート要因と考えられます。
[4]金の需要と供給・・・金の需要先としては、宝飾が最も大きいほか、延棒・コイン、中央銀行の購入、ETFなどがあります。主要な産出国である南アフリカの金鉱山でしばしば事故などにより、操業が停止されることがあり、金価格に影響を与えます。
18年の需要は、宝飾や産業向けの需要がほぼ変わらない中、ETFからの流出を中央銀行の購入が大きく上回りました(図表6)。17年の需要4,160トンから4,345トンへ増加となっています。
宝飾需要は、金選好度が高い中国・インドの需要拡大が見込まれることから中期的に拡大していくことが見込まれます。また、金を購入する中央銀行の数も増えていることから、金の需要は堅調と見られます。
以上、米国の金利動向、地政学リスク、中央銀行の購入需要など金価格をサポートする要因が増えてきていると見られます。金融資産のポートフォリオに組み入れを検討してよい局面に来ているのではないでしょうか。
尚、「金」は必ずしも成長する資産でないと考えられるので、主力の資産とするべきではなく、ポートフォリオの1割程度までというのが一般的に言われるアドバイスです。
図表4:ドル指数は15年からレンジ相場!?明確なトレンドは出ていない
- 注:ユーロ、日本円、英ポンドなどを主要対象とするICEのドル指数です。
- ※BloombergデータをもとにSBI証券が作成
図表5:米債券利回りは反落、年限間の差も縮小
- ※BloombergデータをもとにSBI証券が作成
図表6:金の需要変化(17年から18年にかけての需要量変化)
- ※「World Gold Council」の公表資料をもとにSBI証券が作成
金関連の主な金融商品として、以下があります。
(1)金のETF・ETNに投資する・・・金を裏付け資産とする証券に投資することで、実質的に金そのものに投資することができます。ニューヨーク市場に上場する「SPDR ゴールド シェア(GLD)」「iシェアーズ ゴールド・トラスト(IAU)」などがあります。
(2)金鉱株のETFに投資する・・・金鉱株の平均的な値動きに投資するニューヨーク市場に上場する「マーケット ベクトル 金鉱株ETF(GDX)」などがあります。
(3)金鉱株に投資する・・・金の生産を主力事業とする企業には、ニューヨーク市場に上場する「バリック ゴールド(GOLD)」「ニューモント マイニング(NEM)」などがあります。
また、当社では金の現物を買って保有することができる「金・プラチナ・銀取引」のサービスを提供しています。
[1]安い買付手数料、[2]取引可能時間が長い、[3]少額から積立買付が可能、[4]一定数量で現物転換請求ができる、などの特徴があるサービスです。一度ご検討されてはいかがでしょうか。
金鉱株については、投資する際のご参考として、図表7に米国上場の産金大手3社の投資指標を掲載しています。
各社が埋蔵する金の価値に比べるとかなり深いディスカウントになっているものの(図表7のHの項目)、予想PERは30倍前後と市場平均に比べて高くなっているため、この水準より上は買い進みづらい状況と見られます。
各社は金価格が大勢横ばい圏で推移する中、採掘コストの削減効果も一巡して、業績を伸ばすための次の一手を模索しているところと見られます。
このような業界環境で、2/25(月)にバリックゴールドがニューモントマイニングに178億ドルで敵対的な買収案を提示しました。ニューモントマイニング経営陣はこれを拒否していますが、ネバダでの合弁事業の可能性を探るとしてトップ同士の会合が報道されています。ゴールドコープを含めた買収合戦に発展する可能性も指摘されて要注目でしょう。
図表7:金鉱株大手3社の投資指標比較
- 注:Gの「1株当たり埋蔵価値」は、E 「1株当たり金埋蔵量」×(金価格1285ドル − F「生産コスト」)を計算したものです。Fの「金生産コスト」は、現在稼働中の金鉱での一連の営業活動を維持するために必要なすべての費用(将来の成長のために使用される費用は除く)で、All in sustaining costs(AISC)を使用しています。「oz」はトロイオンスです。トロイオンスは金の重量を計るときに使われる単位で、31.1035グラムに相当します。
- ※BloombergデータをもとにSBI証券が作成
- ※本ページでご紹介する個別銘柄及び各情報は、投資の勧誘や個別銘柄の売買を推奨するものではありません。