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“株式市場に点灯する幾つかのシグナル”
2019/11/26
提供:フィリップ証券株式会社
リサーチ部:笹木 和弘、増渕 透吾
米国株式市場に幾つかの警戒シグナルが点灯しつつあるように見える。米中貿易協議への合意期待を背景に米国株式市場はダウ工業株30種平均株価(NYダウ)で11/19に史上最高値28,090ドルを付けたが、11/19の米議会上院で「香港人権・民主主義法案」が全会一致で可決したことから内政干渉に対する中国の反発および米中貿易協議に係る合意への不安感が台頭し、11/20に27,675ドルまで下落。しかし、中国の劉鶴副首相および習近平主席が協議への前向きな姿勢を示したことから、11/22終値で27,875ドルまで反発するなど堅調に推移している。米中合意への期待が今後も株式市場を支えるのだろうか? 米国株式市場の主要な株価指数としては、NYダウのほかにS&P500やナスダックがあり、いずれも2019/11に史上最高値を更新した。これに対して、現在注目されているのがニューヨーク証券取引所(NYSE)総合株価指数である。NYSE総合は、2018/1に付けた過去最高値13,637ポイントをまだ超えておらず、11/19に13,466ポイントまで上昇後、11/22終値が13,440ポイントとなった。最近の株価上昇に対し、NYSEにおける新高値銘柄数を新安値銘柄数で割った倍率(新高値・新安値銘柄数倍率)が2019/11の月初以降一貫して低下しており、株価指数上昇とオシレーター系のテクニカル指標の値が逆行することを意味する「ダイバージェンス」現象が見られる。このダイバージェンスは2018/9にも発生し、2018/10以降の株価急落を招いたことから要注意である。更に、米国の3ヵ月LIBORと3ヵ月国債の利回り差(スプレッド)が今夏より拡大傾向にあり、2018/12の水準に迫りつつある。年末要因で流動性がタイトになる季節性はあるものの、経済の安定性や金融システムにおけるクレジットリスクの点では懸念される。 また、最近の米国株の特徴として、7-9月決算で増益率の実績が市場予想を上回る傾向が見られた公益やヘルスケアなどのセクターが物色されている。しかし、特に公益セクターについては、債務増を反映して1株当りフリーキャッシュフローは減少傾向であり、株価上昇を正当化しにくい面も見られる。 11/24の香港区議会議員選挙は政府に批判的な立場の民主派が4分の3超の議席で圧勝した。今後は1/11予定の台湾総統選挙の注目度が高まることが予想される。中国政府が香港の民衆に対し、今後武力行使に訴えることが難しくなる面も考えられるものの、習近平主席が断固とした姿勢を示す懸念も残る。年末の薄商いが予想される中、難しい局面を迎えつつあるのだろうか。(笹木) 11/26号では、ファクトセット・リサーチ・システムズ(FDS) 、メドトロニック(MDT) 、ニュアンス・コミュニケーションズ(NUAN) 、TJX(TJX) 、ペイパル・ホールディングス(PYPL) 、プロトラブズ(PRLB) を取り上げた。
S&P500業種別およびNYダウ構成銘柄の騰落率(11/22現在)
11月25日(月) ジェイコブズ・エンジニアリング・グループ、PVH、アジレント・テクノロジー、ヒューレット・パッカード・エンタープライズ 11月26日(火) ベストバイ 、ホーメルフーズ、ダラー・ツリー、アナログ・デバイセズ 、HP 、キーサイト・テクノロジーズ、オートデスク、デル、ヴイエムウェア11月27日(水) ディア
11月26日(火) 中国アリババ、香港上場 卸売在庫(10月)、主要20都市住宅価格指数(9月)、FHFA住宅価格指数(9月)、新築住宅販売件数(10月)、消費者信頼感指数(11月) 11月27日(水) 地区連銀経済報告(ベージュブック) 耐久財受注(10月)、GDP(3Q、改定値) 、新規失業保険申請件数(23日終了週)、個人所得・支出(10月) 、中古住宅販売成約指数(10月)中国工業利益(10月) 11月28日(木) 株式・債券市場、休場(感謝祭の祝日) ユーロ圏マネーサプライ(10月)、ユーロ圏消費者信頼感指数(11月)、独CPI(11月) 11月29日(金) 株式・債券市場、短縮取引 韓国中銀、政策金利発表 ユーロ圏失業率(10月)、ユーロ圏CPI(11月)、独失業率(11月)、インドGDP(3Q)、台湾GDP(3Q) 11月30日(土) トゥスクEU大統領、任期終了 中国製造業・非製造業・コンポジットPMI(11月) 12月1日(日)
1978年設立。複数の情報ベンダーからのデータをまとめて最新の技術を通じて加工されたコンテンツ・分析、および金融情報をオンライン配信などで金融の専門家・投資家に対して提供する。 9/26発表の2019/8期4Q(6-8月)は、売上高が前年同期比5.3%増の3.64億USD、営業利益が同26.3%増の1.11億USD、純利益が同33.0%増の9,152万USD。分析・コンテンツ・技術、およびウエルスマネジメントの両ソリューションが増収。営業利益率も同5.1%ポイント上昇の30.6%となった。 2020/8通期会社計画は、売上高が前期比3.8-4.5%増の14.90-15.00億USDだが、営業利益率が28.5-29.5%と前期の30.5%から低下を見込む。スノーCEOが今後3年は投資を加速する方針を示した。AIを使った機械学習・ディープラーニングの潮流が加速する中、同社を通じて分析・加工されるデータ価値が高まると期待され、設備投資による費用増を前向きに評価する余地があろう。(笹木)
1949年に設立した世界最大の医療機器メーカー。心臓血管疾患、最小侵襲療法・手術支援、修復治療、糖尿病などの分野で製品を提供する。本社はアイルランドのダブリンで、150ヵ国に展開。 11/19発表の2020/4期2Q(8-10月)は、売上高が前年同期比3.0%増の77.06億USD、純利益が同22.3%増の13.64億USD。新興国市場が好調に推移。為替変動の影響や買収したTitan Spineを除くオーガニックベースでは同4.1%の増収。調整後EPSは1.31USDと市場予想1.28USDを上回った。 2Q発表時に通期会社計画を上方修正。調整後EPSを従来計画の5.54‐5.60USDから5.57-5.63USDへ引き上げた。為替変動の負の影響を0.09USD含んでいる。調整後EPS見通しは市場予想の5.56USDを上回った。営業利益率は29.4%で据え置き。パークヒルCFOによると、2020/4期3Q(2019/11-2020/1)のオーガニック増収率は4%と見込まれる。(増渕)
1992年設立。音声認識のリーディングプロバイダーで、自動音声認識、自然言語理解(NLU)、テキスト読み上げ、声紋生体認証、光学文字認識(OCR)などに係るソリューションを提供している。 11/20発表の2019/9期4Q(7-9月)(ASC605基準)は、売上高が前年同期比1.7%増の4.87億USD、純利益が1.21億USDと前年同期の▲3,506万USDから黒字転換。調整後EPSは0.34USDと市場予想の0.28USDを上回った。Dragon Medical cloudの売上高が同42%増となり、ヘルスケアが伸びた。 4Qと併せて発表した2020/9期1Q(10-12月)会社計画(ASC606基準)は、売上高が4.00-4.16億USD、調整後EPSが0.22-0.26USD。2020/9通期会社計画は、売上高が14.95-15.35億USD(スピンオフの影響を除く前期:15.23億USD)、オーガニック増収率が▲1-1%、調整後EPSが0.80-0.88USD。通期のDragon cloudのARR増加率は25%と見込まれ、引き続き成長ドライバーとなろう。(増渕)
1945年設立。オフプライスのアパレル・ホームファッションの大手小売企業。米国・海外4,300超の店舗を通じ、定価より20-60%低い価格で商品を提供する。「T.J.Maxx」、「Marshalls」などを展開。 11/19発表の2020/1期3Q(8-10月)は、売上高が前年同期比6.4%増の104.51億USD、純利益が同8.7%増の8.28億USD。EPSは0.68USDと市場予想の0.65USDを上回った。既存店売上高は同4%増。T.J. MaxxやMarshalls、HomeGoods、TJX Canadaでの客数増加が既存店の増収につながった。 3Qと併せて公表した2020/1期4Q(2019/11-2020/1)会社計画は、EPSが0.74-0.76USD(前年同期:0.68USD)、Marmaxx(米国内のT.J.MaxxおよびMarshallsで構成)の既存店増収率が2-3%。また、通期会社計画を上方修正。EPSを従来計画の2.56-2.61から2.61-2.63USDへ(前期:2.43USD)、既存店増収率を2-3%から3%へ、Marmaxxの既存店増収率を2-3%から3-4%へ引き上げた。(増渕)
2015年設立のフィンテックカンパニー。消費者向けにショッピング決済や個人間送金ができるデジタルウォレットサービスを提供するほか、法人向けに幅広い決済ソリューションを展開している。 10/23発表の2019/12期3Q(7-9月)は、売上高が前年同期比18.9%増の43.78億USD、純利益が同6.0%増の4.62億USD。調整後EPSは0.61USDと市場予想の0.52USDを上回った。メルカドリブレ(MELI)とウーバー・テクノロジーズ(UBER)の投資持分に係る未実現損失が生じたが増益を確保。 3Qと併せて公表した2019/12期4Q(10-12月)会社計画は、増収率が16-17%、調整後EPSが0.81-0.83USD。通期会社計画を下方修正。増収率を18-19%から15%へ、調整後EPSを3.12-3.17USDから3.06-3.08USDへ引き下げた。債権の売却や投資損失を反映した。11/20には価格比較やクーポン情報を手掛けるHoney Scienceを買収すると発表。販売業者のサービス支援に寄与する。(増渕)
1999年設立。コンピュータ数値制御(CNC)マシニング、射出成型技術、および3Dプリンティングをベースに試作品(プロトタイプ)および小ロット部品を顧客企業向けにカスタマイズして製造する。 10/24発表の2019/12期3Q(7-9月)は、売上高が前年同期比1.8%増の1.17億USD、Non-GAAPの調整後純利益が同12.6%減の2,043万USD。3Dプリンティングが増収に寄与。粗利率の同3.3%ポイント低下が響き減益だったが、Non-GAAPの調整後EPSは0.76USDと市場予想を上回った。 同社は通期の会社計画を公表していない。市場予想は、売上高が前期比3.0%増の4.58億USD、当期利益が同18.5%減の6,240万USD。3Dプリンターを使った受託サービスに関し、短納期・多品種少量に対応できる機動性が評価されて利用の裾野が拡大中。同社は既にペプシコ(PEP)からボトル製造を受注しており、今後の市場拡大における先行者利益を得られる可能性があろう。(笹木)
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