日銀マイナス金利、米雇用統計に続く、イエレン議長議会証言は?
日銀による追加緩和策の効果
1/29の日銀政策会合で従来の『量的』『質的』緩和策に続き、『金利』による追加緩和策を決定しました。こうした決定を受けドル円が一時121円70銭まで上昇したほか、日経平均株価も17,638円まで買われるなど市場は新たな領域に踏み込んだ日銀の決定を好感する反応を見せました。
しかし、『マイナス金利導入』にはインパクトがあるものの、銀行が日銀に預けている当座預金の内の政策金利残高のみが対象となるだけに、マイナス金利の部分は当面10兆円程度に限定されることが明らかになったことで、高値から実に5円以上の円高が進行してしまいました。
さらにマイナス金利導入を受け、1/29の終値が17,518円(東証1部の時価総額は543兆円)だった日経平均株価は、1週間後の2/5には16,819円(時価総額508兆円)まで下落、35兆円もの資産が消失する結果となりました。勿論、10兆円という規模そのものに対する失望のほか、マイナス金利に対し反対を表明した日銀審議委員の意見を見ると、以下のような反対意見が確認されています。
「12月の『量的・質的緩和』の補完的措置導入後の政策は、資産買入れの限界と誤解される恐れがある。これ以上のイールドカーブの低下が実体経済に大きな効果をもたらすとは考えにくい。マネタリーベースの増加ペースの縮小と併せて実施すべき策」
インフレ率の上昇か、米国金利の上昇によって日米金利差が明確に拡大しない限り、円安にはなり得ないかもしれない、ともいわれています。
『マイナス金利導入』の対象範囲
- 出所:SBIリクイディティ・マーケット
直近の値動き(米ドル/円)
- 出所:FX総合分析チャート(1時間足)
FRB議長の議会証言の注目ポイント
こうした状況下、ドル円が116円台後半での一進一退を続けた中で発表された米1月雇用統計は、就業者数の増加が予想(19.0万人)を下回る15.1万人に留まり、4ヵ月ぶりの低い伸びとなりました。その一方で、失業率(4.9%)は2008年のリーマンショック後初となる4%台へ改善したほか、時間給賃金(前月比+0.5%、前年比+2.5%)の改善も確認され、前月比+0.5%と高い上昇率となりました。さらに前月の時間給賃金も対前年比+2.5%から+2.7%へ上方修正され、完全雇用下における賃金インフレ期待を抱かせる内容となりました。しかしながら、米債券市場では就業者数を受けて2年債・10年債利回りがそれぞれ一時0.68%、1.83%へ低下、時間給賃金の上昇にもかかわらず、結果的に0.72%、1.84%へ低下して取引を終了し、2年・10年の債券利回り差の縮小傾向が続くなど、実際の期待インフレ率は伸び悩んでいます。仮に今後賃金の上昇傾向が続くのであれば、それに見合うだけの企業収益の上昇が必要ですが、NY株式市場を見る限り期待は持ちにくく、ドル高・原油安のほか、中国経済の減速懸念に企業がどのように対処していくのか注目されます。
米時間給賃金 前月比(%)
ECBドラギ総裁による追加緩和を示唆する発言や日銀のマイナス金利導入など、FRBとは対照的な金融政策の方向性を強調している中、FRBの追加利上げは対ユーロ、対円でのドル高につながる可能性を高めており、中国や新興国からのドル流出を加速される懸念につながりかねません。更なるドル高の進行による米国からの輸出減少や設備投資の鈍化という悪影響を招く恐れもあるだけにFRBの舵取りは難しい局面にあるかもしれません。こうした中で2/10-11に予定されているイエレン議長の上下両院での議会証言が注目されますが、仮にイエレン議長が3月利上げの可能性について『経済データ次第』といった昨年秋と同様の発言を繰り返した場合、果たして市場の納得が得られるのか注目されます。
今秋の選挙で下院議員全員の改選が実施されるだけに、共和党議員からFRBに対し「金融政策の不透明感」との不満をあらわにする候補者が目立つ中、政治的に配慮ある発言内容となるのか注目です。
既に1月の金融市場の混乱で複数のヘッジファンドが閉鎖されたとの報道も流れ、米国経済の下振れが拡大し、さらには製造業のリセッション入りの想定も一部から聞かれるなど、米国経済のファンダメンタルズが本格的に悪化しているのか、単に原油安や中国経済減速といった外部環境の悪化が問題なのか、判断するタイミングが近いのかもしれません。そうした意味からもイエレン議長の議会証言次第で3月利上げの可能性が消滅、年後半以降の利上げも危ぶまれることになる可能性もあるだけに、株式・債券市場の反応に為替がどう影響されるのか注目されます。不安定なNY株式市場の底入れにつながるのか?一段の下落となるのか?イエレン議長の手腕が問われることになりそうです。
過去の値動き(米ドル/円)
- 出所:FX総合分析チャート(週足)