新型コロナウイルスは韓国、イタリア、イランなど中国以外の国々で感染拡大が本格化している上、米国でも感染拡大が加速し、複数の州が非常事態宣言を発令する事態に追い込まれています。さらに、3/9(月)のNY市場では、原油生産国の協調減産体制が壊れ、原油先物相場が急落するという衝撃も加わりました。市場では、これを「逆オイルショック」と表現する向きも出ています。
「新型コロナウイルス」と「逆オイルショック」のダブルパンチを受け、3/9(月)の株式市場は世界的な波乱となり、日経平均株価は前週末比1,050円安、NYダウは同2,013ドル安(過去最大の下げ)となりました。さらに3/10(火)の東京株式市場でも、売りが先行し、日経平均株価は一時、2018/12/26(水)の取引時間中以来の1万9千円割れとなりました。
日経平均株価は今後どうなるのでしょうか。底入れするのでしょうか、または波乱が続くのでしょうか。
日経平均株価は、2月第2週(2/10〜2/14)0.6%下落、第3週(2/17〜2/21)1.3%下落、第4週(2/25〜2/28)8.9%下落、3月第1週(3/2〜3/6)1.9%下落となり、週足ベースで4週続落となりました。第2週も3/9(月)に1,050円99銭(7.8%)安と、売りが大きく先行する展開になっています。
新型コロナウイルスの感染は中国湖北省武漢市を中心に、1月中旬ごろから拡大が本格化しました。世界の感染者数は1/24(金)には1千人に満たない状態でしたが、1月末に1万人弱、2月末には約8万5千人まで増加しました。その頃から中国での新規発生数は鈍化に向かいましたが、2月第4週以降はその他の国での感染拡大が顕著になっています。特に韓国、イタリア、イラン等での増加が目立ち、世界の感染者数は3/7(土)に10万人の大台に乗せてきました。
中国や欧州から地理的に離れていたこともあり危機感に乏しかった米国でも、少しずつ感染者数が増加し、カリフォルニア州やNY州で非常事態宣言を発令するに至りました。NY株式市場は2/20(木)以降下落基調に転じていましたが、2/24(月)と2/27(木)にはNYダウが1日で1,000ドルを超える下落になりました。
その後、3/9(月)のNY市場では、原油生産国の協調減産体制が壊れ、原油先物相場が急落するという衝撃も加わりました。原油先物相場(WTI)は結局、3/6(金)の1バレル41ドル台が3/9(月)には一時30ドルを割り込む急落となりました。市場では、これを「逆オイルショック」と表現する向きも出ています。「新型コロナウイルス」と「逆オイルショック」のダブルパンチを受け、3/9(月)の株式市場は世界的な波乱となり、日経平均株価は前週末比1,050円安、NYダウは同2,013ドル安(過去最大の下げ)となりました。
なお、これと並行し、この日の米国市場では10年国債利回りが0.3%台まで急低下、外為市場ではドル・円相場が1ドル101円台まで急速な円高・ドル安となりました。金先物相場(NY)は1時、1トロイオンス1,700ドル台まで急騰しました。さらに3/10(火)の東京株式市場では、売りが先行し、日経平均株価は一時、2018/12/26(水)の取引時間中以来の1万9千円割れとなりました。その後は押し目買いから少し下げ渋る展開になっていますが、このまま底入れに向かうのでしょうか、または、さらなる波乱が待ち受けているのでしょうか。
表1 日経平均株価の値動きとその背景(2020/3/2〜2020/3/10)
日経平均株価 | 日米株式市場等の動き | ||
終値 | 前日比 | ||
3/2(月) | 21,344.08 | +201.12 | 日銀が金融緩和継続を示唆。ETF買いは4割増額。値幅は758円で2年ぶりの大きさ。 |
3/3(火) | 21,082.73 | -261.35 | NYダウ(3/2)が過去最大の上げ幅(+1,293ドル)で買い先行も大きく伸び悩む |
3/4(水) | 21,100.06 | +17.33 | 米スーパーチューズデーでバイデン氏が優勢 |
3/5(木) | 21,329.12 | +229.06 | 米スーパーチューズデーでのバイデン氏躍進を受けてNYダウ(3/4)が1,173ドル高 |
3/6(金) | 20,749.75 | -579.37 | 米株安、同国長金利低下、円高進展等が響く |
3/9(月) | 19,698.76 | -1050.99 | 新型肺炎が欧米で感染拡大加速。原油協調減産崩れ、同先物相場急落も警戒 |
3/10(火) | 19,867.12 | +168.36 | NYダウ(3/9)が過去最大の下げとなり、それを嫌気。売り一巡後切り返す。 |
- ※日経平均株価データ、各種資料をもとにSBI証券が作成。
図1 日経平均株価(日足)と主要移動平均線・おもな出来事
- ※当社チャートツールをもとにSBI証券が作成。データは2020/3/10取引時間中。
図2 NYダウ(日足)と主要移動平均線・おもな出来事
- ※当社チャートツールを用いてSBI証券が作成。データは米国時間2020/3/9現在。
図3 ドル・円相場(日足)と主要移動平均線・おもな出来事
- ※当社チャートツールを用いてSBI証券が作成。データは2020/3/10取引時間中。
東京株式市場は3/13(金)に先物とオプションの特別清算値の計算が行われる「メジャーSQ算出日」になります。市場参加者の思惑が交錯し、波乱になるケースもあります。今回のメジャーSQは、株式市場が世界的に波乱となっているタイミングと重なりましたので、十分な注意が必要です。もっとも、裁定取引に伴う現物株の買い残高は昨年12月第3週末の8,613億円をピークに2月第4週末には3,643億円まで、6割近くも減少しています。その分だけ、リスクは低下したと考えられます。
その他では、3/12(木)にECB(欧州中銀)理事会、3/18(水)にはFOMC(米連邦公開市場委員会)、3/19(木)には日銀金融政策決定会合の結果が発表されます。コロナウイルスの感染拡大が世界経済に悪影響を与えると懸念される中、金融緩和姿勢を強調して示せるか否か、注目が集まるところです。もっとも、コロナウイルスの問題は感染拡大がピークアウトすることが重要とみられ、会合後が波乱になるケースもあり、注意が必要です。
表2 当面の重要スケジュール
月日(曜日) | 国・地域 | 予定内容 | ポイント |
3/10(火) | 中国 | 2月資金調達額/新規人民元建て融資/マネーサプライ | 15日頃までに発表。大きく日程がずれることも |
日本 | 2月工作機械受注 | 1月は前年同月比35.6%減 | |
3/11(水) | 日本 | 東日本大震災から9年 | |
米国 | 2月消費者物価指数 | ||
3/12(木) | 欧州 | ECB理事会/ラガルドECB総裁会見 | 中銀預金金利(-0.5%)の引き下げ(0.1%)観測も |
3/13(金) | 日本 | メジャーSQ | |
3/16(月) | 日本 | 1月機械受注 | |
中国 | 2月工業生産(年初来) | 市場コンセンサスは前年同期比3.0%減 | |
中国 | 2月小売売上高(年初来) | 市場コンセンサスは前年同期比1.7%減 | |
中国 | 2月都市部固定資産投資(年初来) | 市場コンセンサスは前年同期比2.0%減 | |
3/17(火) | ドイツ | 3月ZEW景況感指数 | 350人の市場参加者に景況感をアンケート調査 |
米国 | 2月小売売上高 | ||
米国 | 2月鉱工業生産 | ||
3/18(水) | 日本 | 2月訪日外客数 | 1月は前年同月比1.1%減 |
米国 | 2月住宅着工件数 | ||
米国 | FOMC結果発表(日本時間では3/19未明) | 0.25%利下げが市場コンセンサス | |
3/19(木) | 日本 | 日銀金融政策決定会合結果発表/黒田総裁会見 | |
日本 | 2月消費者物価指数 | ||
米国 | 3月フィラデルフィア連銀製造業景況指数 | ||
3/20(金) | 日本 | ◎東京市場は休場(春分の日) | |
米国 | 2月中古住宅販売件数 |
表3 日米欧中央銀行会議の結果発表予定日(月日は現地時間)
2020年 | |
日銀金融政策決定会合 | 3/19(木)、4/28(火)、6/16(火)、7/22(水)、9/17(木)、10/29(木)、12/18(金) |
FOMC(米連邦公開市場委員会) | 3/18(水)、4/29(水)、6/10(水)、7/29(水)、9/16(水)、11/5(木)、12/16(水) |
ECB(欧州中銀)理事会・金融政策会合 | 3/12(木)、4/30(木)、6/4(木)、7/16(木)、9/10(木)、10/29(木)、12/10(木) |
- ※各種報道、日米欧中銀WEBサイト等をもとにSBI証券が作成。「予想」は市場コンセンサス。データは当レポート作成日現在。予定は予告なく変更される場合があります。なお、ECB理事会は金融政策の議論・決定を行う会合の日程のみ掲載しました。日付は日本時間(ただし、表3の中央銀行会議の結果発表日程は現地時間)を基準に記載しています。
3/9(月)は市場が全面的な波乱となる歴史的な1日となりました。主要株価の下落率は日本(日経平均株価)5.1%、米国(NYダウ)7.8%、ドイツ(DAX指数)7.9%、イタリア(FTSE・MIB指数)11.2%となりました。原油先物相場(WTI)は25%安と、湾岸戦争以来29年ぶりの下落、金先物相場(NY市場)は上昇し、一時2012年12月以来の1トロイオンス1,700ドル台に乗せました。世界的な波乱は投資家に「質への逃避」を促しました。米国の債券はそうした資金の逃避先となり、10年国債の利回りは一時0.3%まで低下、それを受けてドル・円相場は一時1ドル101円台まで円高・ドル安が進みました。
こうした中、日経平均株価に関連するおもな数値(3/9現在)をチェックすると以下のようになります。
(1)日経平均株価・・・・19,698円(2019/1/7以来の20,000円割れ)
(2)25日移動平均からのかい離率(一般的に±7〜8%超で「行き過ぎ」を示唆)・・・-12.95%
(3)RSI(一般的に30%未満で「下げ過ぎ」を示唆)・・・13.85%
(4)騰落レシオ(一般的に70%未満で「下げ過ぎ」を示唆)・・・54.93%
(5)PBR(1倍割れで「解散価値」割れ)・・・0.93倍
(6)予想PER(2019年は11.09〜14.48倍で推移)・・・12.0倍
このうち、(2)については、通常は±5%程度で転換点を迎えるとみられますが、相場が大きくぶれると±7〜8%までかい離が拡大することもあります。さらに±10%を超えるような局面は何年かに1回程度しかないものです。下げ相場で、25日移動平均からのかい離率が最大-10%超となるような局面(過去20年)は下の表4でご紹介する通りです。投資家により、下げの理由が記憶されているケースが多くなっています。
特にリーマンショック(25日移動平均からのかい離率はもっとも開いてるところで-27.42%)、東日本大震災(同-18.07%)は深刻な下落相場になりました。前者では金融市場の崩壊が懸念され、後者は東日本の存在そのものが心配されました。現在の日経平均株価に関するさまざまな数字を見る限り、今回の下落局面は歴史的な下落局面になってきていることを示していると考えられます。
(2)〜(5)のような投資タイミングを計るテクニカル指標がいずれも「下げ過ぎ」を示していることに加え、(5)や(6)等からは、日経平均株価の割安感が強まっていることを示しています。日経平均株価はそろそろ、買いタイミングを探す局面に来ているように思われます。ただ、以下の諸点について日本の株式市場は十分織り込んでいないかもしれません。
(1)米国を中心に欧米の新型コロナウイルス感染者の増加加速・・・新規感染者数の減少がピークアウトの前提条件
(2)世界的な企業業績の下方修正・・・日本でも今後業績予想の下方修正が予想以上に増える可能性も
(3)世界経済の予想以上の悪化
(4)東京五輪の中止や延期
(5)株式市場や原油先物相場の下落で引き起こされる「2次災害」的な悪材料
なお、我が国については、今後検査件数の増加で感染者が増える可能性はありますが、死者数が低水準を維持できれば、次第に高評価につながっていく可能性もあります。心配なのは、米国が大統領選挙と重なり、大規模集会が増えやすいことで、対応を誤ると大規模な感染増加につながる可能性があります。
現在の相場は2017年後半以降のボックス相場の下限に近い水準と考えた場合、2018/12/26(水)安値18,948円が重要な下値支持ラインとなります。3/10(火)の日経平均株価は午前に18,891円まで下げ、その後に切り返す展開になってきました。長い下ヒゲを形成し、1番底を形成した可能性もありそうです。日経平均株価はおおむね値幅調整を終え、あとは日柄調整を残している状態と言えるかもしれません。
表4 日経平均株価の主要下落局面〜25日移動平均線からマイナス10%以上かい離のケース
日時 | 日経平均 終値 |
25日線 かい離率 |
RSI (14日) |
PBR (倍) |
相場下落のおもな理由・背景 |
2000/5/11 | 16,882.46 | -11.54% | 21.9% | 未発表 | ITバブル崩壊。日経平均入れ替え |
2001/9/12 | 9,610.10 | -12.94% | 23.3% | 1.59 | 世界経済減速。同時多発テロ |
2002/6/26 | 10,074.56 | -10.59% | 20.8% | 1.54 | ワールドコムの不正会計が発覚 |
2007/8/17 | 15,273.68 | -11.46% | 15.4% | 1.71 | いわゆるパリバ・ショック |
2008/1/22 | 12,573.05 | -14.75% | 11.4% | 1.43 | FRBが緊急利下げも、NYダウが急落 |
2008/3/17 | 11,787.51 | -10.70% | 21.7% | 1.34 | 名門ベア・スターンズ証券が破綻 |
2008/10/10 | 8,276.43 | -27.42% | 7.1% | 0.98 | リーマンショック後の中期下落局面 |
2010/5/25 | 9,459.89 | -10.65% | 16.7% | 1.12 | ギリシャ危機他マイナス要因重なる |
2011/3/15 | 8,605.15 | -18.07% | 18.7% | 1.02 | 東日本大震災。福島原発が事故 |
2014/2/4 | 14,008.47 | -10.03% | 19.7% | 1.30 | 中国経済の悪化、新興国経済への懸念 |
2015/8/25 | 17,806.70 | -12.24% | 13.1% | 1.21 | チャイナ・ショック |
2016/1/21 | 16,017.26 | -11.67% | 15.1% | 1.08 | 新興国経済への不安。円高急進 |
2016/2/12 | 16,966.19 | -11.87% | 30.9% | 0.99 | 欧米市場が急落 |
- ※日経平均株価データをもとにSBI証券が作成。RSIは日経平均株価の14日間の騰落データから作成されています。25日線かい離率は、日足終値がその日の25日移動平均線から上下に何%かい離しているかを示します。 2000年以降、安値近辺で25日移動平均から線からのかい離率がマイナス10%以上になった相場下落局面について、RSIやPBR、相場下落理由を紹介しました。