市場参加者の主要関心事である新型コロナウイルスについては、感染拡大が加速する傾向がさらに強まっています。「ウィズ・コロナ」ではやっていけないと懸念される業種の銘柄は下落基調が続き、それが日経平均株価の頭を抑える役割を果たしています。
しかし、株式市場は予想外に堅調です。世の中全般も、春先に新型コロナウイルスの感染拡大が加速した時期に比べれば、冷静さを維持しているように思われます。その大きな理由は、新型コロナウイルスで亡くなる方の数が大きく減少しているからではないでしょうか。
新型コロナウイルスは「変異」の結果、弱毒化しつつあり、ワクチンの登場を待つまでもなく、消滅に向かうとの見方も、一部で出始めています。理由がわからない現状で、警戒を緩めてしまうことはできないですが、株式市場はこうした変化を次第に、明確に織り込んでいくかもしれません。
東京株式市場では、日経平均株価が7月第1週(6/29〜7/3)に前週末比205円60銭(0.9%)安、第2週(7/6〜7/10)に15円67銭(0.1%)安と続落した後、第3週(7/13〜7/17)は405円61銭(1.8%)高と、大きめの反発になりました。7/20(月)・7/21(火)は米国株式市場の堅調を背景に続伸となっています。
市場参加者の主要関心事である新型コロナウイルスについては、感染拡大が加速する傾向がさらに強まっています。6月の世界の新型コロナウイルス新規感染者数は1日当たり平均14.3万人でしたが、7月に入り、同21万人に加速しています。国別でもっとも感染が深刻な米国では、6月に一時、1日当たり新規感染者数が2万人を切る水準まで減速していましたが、7月は同6万人弱のペースに速まっています。ブラジルやインド、ロシア、南アフリカなど、新興国の感染も深刻化しています。
我が国でも、5/25(月)には25人まで減っていた新型コロナウイルスの新規感染者数が、7/18(土)には655人まで加速し、感染第2波の到来が意識される状態が続いています。「ウィズ・コロナ」ではやっていけないと懸念される業種、たとえば陸運、空運や百貨店、外食などの銘柄は下落基調が続き、それが日経平均株価の頭を抑える役割を果たしました。
ただ、世界的な過剰流動性を背景に、株式市場の需給関係は強く、海外の株式市場は総じて堅調に推移しています。米国市場全体の値動きを示すS&P500は7/20(月)、6/8(月)の高値水準を超え、ナスダック指数は過去最高値を更新しました。米国市場は前週から2020年4〜6月期の決算発表シーズンに突入していますが、主力ハイテク株については「ウィズ・コロナ」の観点から期待感が先行する状況で、米国株の上昇をけん引する役割を果たしています。
我が国でも、「ウィズ・コロナ」でもやっていけると期待される業種の銘柄は総じて堅調が続き、それらが日経平均株価を押し上げる、または下支える役割を果たしています。現状では、日経平均株価は6/9(火)に付けた23,185円85銭が当面の高値になっていますが、海外株の堅調や、テクニカル的に強気な材料が目立つ現状から、同高値水準を回復してきても不思議ではない状態になっています。
表1 日経平均株価の値動きとその背景(2020/7/13〜2020/7/21)
日経平均株価 | 日米株式市場等の動き | ||
終値 | 前日比 | ||
7/13(月) | 22,784.74 | +493.93 | 治療薬やワクチンへの期待でNY株が上昇。ETF分配金捻出の売り一巡も追い風。 |
7/14(火) | 22,587.01 | -197.73 | カリフォルニア州で飲食店・映画館が再び営業停止。米IT株の利益確定売りが増加。 |
7/15(水) | 22,945.50 | +358.49 | モデルナ社のワクチン治験で抗体形成。NYダウ(7/14)が556ドル高。 |
7/16(木) | 22,770.36 | -175.14 | オックスフォード大学のワクチン治験で前進。グロース売り、バリュー買いの動き。 |
7/17(金) | 22,696.42 | -73.94 | 新型コロナウイルスの新規感染者数が東京で過去最多293人。 |
7/20(月) | 22,717.48 | +21.06 | 米ナスダック、SOX指数上昇が追い風。様子見気分強く売買代金は減少。 |
7/21(火) | 22,884.22 | +166.74 | アマゾン、テスラ等が買われ、ナスダック指数(7/20)が4/29(水)以来の上昇幅 |
- ※日経平均株価データ、各種資料をもとにSBI証券が作成。
図1 日経平均株価(日足)と主要移動平均線・おもな出来事
- ※当社チャートツールをもとにSBI証券が作成。データは2020/7/21取引時間中
図2 NYダウ(日足)と主要移動平均線・おもな出来事
- ※当社チャートツールを用いてSBI証券が作成。データは米国時間2020/7/20現在。
図3 ドル・円相場(日足)と主要移動平均線・おもな出来事
- ※当社チャートツールを用いてSBI証券が作成。データは2020/7/21取引時間中。
表2 当面の重要スケジュール
月日(曜日) | 国・地域 | 予定内容 | ポイント |
7/21(火) | 日本 | ★決算発表(8件) | ディスコ、日本電産 |
米国 | ☆決算発表 | テキサス・インスツルメント | |
7/22(水) | 日本 | ★決算発表(33件) | ネットワンシステムズ、航空電子 |
米国 | 6月中古住宅販売件数(前月比) | 前回9.7%減から今回(市場コンセンサス)は21.5%増の予想 | |
米国 | ☆決算発表 | マイクロソフト、テスラ | |
7/23(木) | 日本 | 東京市場は休場(海の日) | |
米国 | ☆決算発表 | インテル、ツイッター | |
7/24(金) | 日本 | 東京市場は休場(スポーツの日) | |
米国 | 6月新築住宅販売件数 | 前回16.6%増から今回(市場コンセンサス)は3.6%増の予想 | |
米国 | ☆決算発表 | アメックス、ベライゾン | |
7/27(月) | 日本 | 日銀金融政策決定会合(7/15発表分)おもな意見 | |
日本 | ★決算発表(36件) | 中外薬、日東電工 | |
ドイツ | 7月Ifo景況感指数 | 約7千社のドイツ企業に景況感をアンケート | |
米国 | 6月耐久財受注 | 米民間設備投資の先行指標 | |
7/28(火) | 日本 | ★決算発表(50件) | 信越化、ファナック、日産自、東京エレク、キヤノン、オムロン |
米国 | 5月S&PコアロジックCS住宅価格指数 | 前回(20都市)は前年同月比3.98%上昇 | |
米国 | ☆決算発表 | コーニング、マクドナルド、ビザ | |
7/29(水) | 日本 | ★決算発表(87件) | エムスリー、花王、三井住友、野村、JPX |
米国 | 6月中古住宅販売仮契約 | ||
米国 | ☆決算発表 | ボーイング、フェイスブック、GE、GM、クアルコム | |
米国 | FOMC結果発表(日本時間7/30早朝) | ||
7/30(木) | 日本 | ★決算発表(209件) | OLC、コマツ、日立、三菱電、パナソニック、アドバンテスト、京セラ |
韓国 | ※決算発表 | サムスン電子 | |
米国 | 4〜6月期GDP(速) | 市場コンセンサス(前期比・年率)は32.8%減 | |
米国 | ☆決算発表 | アップル、アルファベット、アマゾン、フォード | |
7/31(金) | 日本 | 6月失業率/有効求人倍率 | 有効求人倍率は18/8の1.63倍(ピーク)から前回は1.20倍 |
日本 | 6月鉱工業生産 | ||
日本 | ★決算発表(448件)〜前半のヤマ場 | 武田、NEC、村田製、三井物、JR東海、ヤマトHD | |
中国 | 製造業PMI | 前回は50.9 | |
米国 | ☆決算発表 | キャタピラー |
表3 日米欧中央銀行会議の結果発表予定日(月日は現地時間)
2020年 | |
日銀金融政策決定会合 | 9/17(木)、10/29(木)、12/18(金) |
FOMC(米連邦公開市場委員会) | 7/29(水)、9/16(水)、11/5(木)、12/16(水) |
ECB(欧州中銀)理事会・金融政策会合 | 9/10(木)、10/29(木)、12/10(木) |
- ※各種報道、日米欧中銀WEBサイト等をもとにSBI証券が作成。「予想」は市場コンセンサス。データは当レポート作成日現在。予定は予告なく変更される場合があります。なお、ECB理事会は金融政策の議論・決定を行う会合の日程のみ掲載しました。日付は日本時間(ただし、表3 の中央銀行会議の結果発表日程は現地時間)を基準に記載しています。
前項でご説明したように、市場参加者の主要関心事である新型コロナウイルスについては、感染拡大が加速する傾向がさらに強まっています。我が国でも、新規感染者数が、7/18(土)には655人まで加速し、感染第2波の到来が意識される状態が続いています。「ウィズ・コロナ」ではやっていけないと懸念される業種の銘柄は下落基調が続き、それが日経平均株価の頭を抑える役割を果たしています。
しかし、株式市場は予想外に堅調です。過剰流動性を背景に、「ウィズ・コロナ」でもやっていけると期待される業種の銘柄を中心に上昇しやすい状況になっています。
株式市場のみならず、世の中全般も、春先に新型コロナウイルスの感染拡大が加速した時期に比べれば、冷静さを維持しているように思われます。「Go To トラベルキャンペーン」を巡る混乱で政府への批判は強まっていますが、春先の「集中砲火」とも呼べる状況に比べれば静かに感じられます。
その大きな理由は、新型コロナウイルスで亡くなる方の数が大きく減少しているからではないでしょうか。日本は新型コロナウイルスの感染が拡大する中、死亡者数を低く抑えられたことで、海外から高い評価を得ましたが、それでも4月から5月にかけ、計14,798人の新規感染者数に対し、842人の方が亡くなりました。これに対し、7/20(月)までの1ヵ月、新規感染者数が7,969人に達したものの、死亡者数は33人(特に7月はゼロの日も多い)にとどまっています。
「夜の街」を中心に、PCR検査を積極的に実施した結果、若い人々の感染者数が多く検出されたため、重症者数および死亡者数が低くなったとの指摘があります。
ただ、新型コロナウイルスに関する死亡者の比率の減少は日本だけではないのです。世界最大の感染地域である米国でも、新規死亡者数が新規感染者数に占める比率として計算される致死率(7日移動平均)は、4/18(土)の7.5%から7/19(日)には1.1%まで大きく低下しています。欧州では、7/20(月)の死亡者数がイタリアで3人、英国で27人、ドイツで2人と一時に比べ急減となっています。世界の致死率も、4/18(土)の8.7%から、7/19(日)には2.3%まで低下しています。
このような状況から、新型コロナウイルスは「変異」の結果、弱毒化しつつあり、ワクチンの登場を待つまでもなく、消滅に向かうとの見方も、一部で出始めています。もしかすると、これが気温上昇の効果なのかもしれません。我が国では、感染の勢いを示す実効再生産数が全国の数字、東京都の数字ともピークアウトの傾向を示しています。理由がわからない現状で、警戒を緩めてしまうことはできないですが、株式市場はこうした変化を次第に、明確に織り込んでいくかもしれません。
図4 世界の新型コロナウイルス「致死率」の推移(7日移動)
- ※Bloombergデータを用いてSBI証券が作成。新型コロナウイルスの新規死亡者数(日次)を新規感染者数(日次)で割った数字(7日移動平均)。数字は修正される可能性があります。
図5 新型コロナウイルス新規感染者数と新規死亡者数(日本)
- ※Bloombergデータを用いてSBI証券が作成。数値計上や計算、修正の基準が発表元により異なるため、厚生労働省等の数字と異なる可能性があります。数字は修正される可能性があります。