中国・武漢発の新型コロナウイルスの感染が世界的に拡大するなか、経済減速懸念の高まりを受け、足元の日経平均は急落をみせる展開となっている。新型コロナウイルス問題はこれまで(2月半ばまで)は、アジア域内特有の問題として意識されていたものの、3月にかけて米国や欧州全域に感染者が相次いで確認されたことで、世界各国で当面の外国人の入域禁止などの対策が敷かれた。これにより、ヒト・モノの移動が滞る形となっており、サプライチェーンの停滞を受けた経済減速への懸念が世界的に強まるなか、夏場に控える東京五輪開催に対する不透明感の意識される日本株に対しては、2月後半から海外投資家による現物株売りが目立つようになった。
また、主要産油国による減産交渉の決裂を受けた原油相場の急落やそれに伴う米シェール企業の信用不安、各国企業のクレジットリスクへの懸念なども加わり、直近でキャッシュ化の流れは一段と強まっているとみられる。これらの状況下で日経平均は3月18日に、2016年11月以来、およそ3年4カ月ぶりとなる終値ベースでの17000円割れとなった。
海外では、米政府が1兆ドル規模の経済対策を検討しているほか、欧州中央銀行(ECB)は7500億ユーロのパンデミック対応購入プログラムの発表が伝わる一方で、国内では、年金や日銀による上場投資信託(ETF)買い入れへの期待感がいったん相場の下支え要因となっているもよう。現状はこれらをサポート要因とし、日経平均は2008年9月に起きたリーマン・ショック時に調整した株価純資産倍率(PBR)=0.8倍レベルは維持している格好となっているが、明確な底入れは依然として見極めづらい状況になっている。
図1 直近1年の日経平均チャート(日足)
- ※当社WEBサイトを通じて、SBI証券が作成
図2 直近1年のNYダウチャート(日足)
- ※当社WEBサイトを通じて、SBI証券が作成
年初から23000円台を中心に推移していた日経平均だが、2月下旬から大きく値を崩す展開となった。世界的に新型コロナウイルスの感染が拡大し、各国が一斉に渡航規制や外出・営業制限を強め、実体経済への影響が深刻化しつつある。加えて産油国の減産協議が決裂し原油相場が急落。産油国やエネルギー関連企業を中心に信用不安も強まってきた。日経平均の1株当たり利益(EPS)は2月20日時点で1630円程度だったのが、3月18日時点では1570円程度まで減少。PERは同期間に14.4倍程度から10.7倍程度に低下した。米中貿易摩擦の激化から日経平均が急落した2018年12月並みの水準となる。
新型コロナの影響を要因とした業績下方修正の動きも散見されるようになってきたが、現時点ではJ.フロントリテイリング<3086>などごく一部。2月末時点で上場企業全体の2019年度経常利益は2ケタ減益の見通しだったが、PER水準の大幅な低下は一段の業績下振れを意識したものだろう。また、2020年度少なくとも第1〜2四半期まで企業業績の回復は期待しにくい。米国ではトランプ大統領が新型コロナによる危機は7〜8月ごろまで続く可能性があることを示唆。欧州ではイタリアを中心に感染者が急増し、工場停止の動きが広がってきた。各国の渡航規制でイベント・商談会が相次ぎ中止されるなど経済活動が停滞し、消費の落ち込みも大きいとみられる。
新型コロナの影響が長期化することも視野に入れると、新型コロナの影響を受けにくい、あるいは需要増が見込まれる企業への関心を高めたいところだ。例えば、市場では衛生品の花王<4452>やライオン<4912>、食品のヤクルト本社<2267>や日清食品ホールディングス<2897>、通信のNTT<9432>やKDDI<9433>などの名前が挙がっている。株式市場全体に持ち高解消の売りが出たため、これらの銘柄も実態を顧みられることなく株価が大きく調整した。値ごろ感の出てきた銘柄も散見されるため、動向を注視しておきたい。
中国湖北省武漢市で昨年12月頃に発生したとみられる新型コロナウイルスへの感染は、中国全域に拡大し、今年2月以降は、中国以外のアジア・欧米諸国でも感染者数が急増した。世界保健機関(WHO)は3月11日、新型コロナウイルスの感染拡大について、世界的な流行を意味するパンデミックを宣言した。
世界経済フォーラム(WEF)がまとめた2019年版の「第14回グローバルリスク報告書(The Global Risks Report 2019、14th Edition)」によると、2003年の重症急性呼吸器症候群(SARS)大流行は、世界経済に対し推定500億ドルの損失を与えたとみられているが、市場関係者の間では「新型コロナウイルスの感染拡大がもたらした経済的な被害は桁違いであり、リーマン・ショックを上回るものになる」との見方が増えている。
世界各国はWHOの勧告などに従って様々な対応を見せている。日本、米国、欧州(英国を含む)の経済的な政策対応については以下の通り。
日本:日銀はETFの買い入れ額倍増
3月10日に新型インフルエンザ等対策特別措置法改正案が閣議決定された。緊急対応策第2弾として財政措置4308億円、1.6兆円規模の金融支援で経済を下支えする。13日に新型インフルエンザ等対策特別措置法改正案が可決、成立したが、安倍首相は14日に行われた会見で、「現時点で緊急事態を宣言する状況ではない」との見解を表明している。
日本銀行は16日、金融政策決定会合を前倒しして開き、新型コロナウイルスの感染拡大による景気の悪化を食い止めるため、3年半ぶりの追加の金融緩和に踏み切った。金融市場に大量の資金を供給し、市場流動性を維持することになった。具体的には、上場投資信託(ETF)の買い入れ額を従来の年間6兆円から12兆円に増やす。不動産投資信託(REIT)については、当面の間、年間900億円から1800億円に買い入れ額を増加。企業の資金繰りを支援するため、企業発行のCPと社債の買い入れについては今年9月末までの期間で2兆円増やし、社債残高は4兆2000億円、CPは3兆2000億円となるまで買い入れを継続する。
米国:トランプ大統領は国家非常事態を宣言、FRBはゼロ金利政策を導入
トランプ米大統領は3月13日、新型コロナウイルスへの対応で国家非常事態を宣言した。同宣言により、約500億ドルの連邦政府の支援金提供が可能となる。各州に対しては新型コロナ対応の緊急センターを設置するよう促している。連邦政府と民間セクターが連携し、新型コロナ検査キットの生産を加速させているが、対応策には学生ローンの利息免除や戦略石油備蓄の積み増しなどの措置も含まれている。
米連邦準備制度理事会(FRB)は15日(日本時間16日早朝)、緊急の連邦公開市場委員会(FOMC)を開催し、フェデラルファンド(FF)金利の誘導目標レンジを1ポイント引き下げ、0%近辺(0.00−0.25%)とした。FRBは、債券保有を7000億ドル増やす方針も表明している。公表されたFOMC声明で「米国経済が新型コロナウイルスの感染拡大による影響を乗り切ったと確信し、雇用の最大化と物価安定の目標を達成するまで、現行の政策金利を維持する」と表明しており、ゼロ金利政策は長期間維持される可能性が高いとみられている。
なお、新型コロナウイルスの感染拡大を受けた世界的な株安を受け、金融機関や投資家の間では手元にドル資金を確保しておくため、ドルへの需要が大幅に高まっている。米国、ユーロ圏、日本、カナダ、英国、スイスの中央銀行は、各中央銀行が、ドル資金を融通する「ドル・スワップ」の枠組みを活用し、各中銀は低金利でのドル資金供給を実行し、資金調達コストの上昇を抑制する行動にも出ている。
欧州・英国:ECBは7500億ユーロ相当の臨時資産購入プログラムを導入
欧州中央銀行(ECB)は3月12日に開いた理事会で、国債などを購入し市中に資金を供給する量的金融緩和政策に関し、今年末までに1200億ユーロ相当の資産を追加購入することを決めた。中央銀行の預金金利は現行の−0.50%に据え置いた。中銀預金金利の据え置きは予想通り。リファイナンス金利も0.00%に据え置かれた。
新型コロナウイルスについて、世界保健機関(WHO)は13日の会見で、イタリアを中心に感染が拡大する欧州が世界の流行の中心地になったと位置づけた。市民生活の制限には慎重だった欧州各国は一転して、移動制限などの措置を講じている。欧州の大部分の地域ではシェンゲン協定に基づき、原則的には隣国に国境検査なしで自由に移動できるが、国境閉鎖による外国人の入国禁止を決めた国が増えている。このような措置によって欧州全域の経済情勢は急速に悪化していることから、欧州各国は財政出動などを中心とする経済対策の策定を進めている。18日には、新型コロナウイルスの感染拡大に対応し、ECBは7500億ユーロ相当の新たな臨時の資産購入プログラムの導入を発表した。民間、公的部門の証券を対象に2020年末まで実施する。ギリシャ債も購入対象に含まれる。
英中央銀行は3月11日、政策金利を0.75%から0.25%に引き下げる緊急利下げを実施した。さらに、財務省と共同で基金を新設し、英経済に大きく貢献している投資適格級の企業から最長1年物のCPを買い入れると発表した。16日に総裁に就任したベイリー氏は、「英国経済が衝撃を受けた場合、すみやかに追加措置を取る」と伝えている。また、英国政府は3月17日、新型コロナウイルス感染拡大の影響で資金難に陥っている企業に対する総額3500億ポンド支援策(3300億ポンドの融資保証と合計200億ポンドの税支払い凍結や助成金)を発表している。
提供:フィスコ社