今回から「あなたもアナリストになれる!?」と題したレポートをシリーズでご紹介していきたいと思います。筆者は日系および外資系証券会社、日系の大手投資顧問会社で合計30年以上アナリストとして勤務してきましたが、アナリストの仕事はこの間大きく変化してきました。入社した当時は業界の統計数字を取るのも大変で、1日仕事の場合もありました。また現在なら一般投資家でも簡単に決算発表後すぐに見ることができる決算短信すら、当時は入手するのに大変な労力と時間がかかりました。企業側のディスクロージャー姿勢も大きく変化しており、今では決算説明会は一般的ですが、昔は開催する企業は少なく、個別訪問のみが情報入手の手段でした。ただし、いつになっても変わらないのは、企業分析の基本です。
SBI証券のWEBサイトでは、国内株式の銘柄スクリーニング(銘柄条件検索)機能が9/28(土)から大幅にリニューアルされ、バージョンアップしました。大量の個別企業の決算データや財務分析がクリック一つですぐ入手できるようになりました。このツールを使えば、一般投資家の皆さんもアナリストと殆ど同じ土俵で勝負することができます。あとは企業分析のノウハウさえあれば、皆さんもアナリストと同じように分析することができるわけです。
当レポートは、一般投資家の皆さんに、アナリストの分析手法の基本知識や考え方、さらにはノウハウを身につけていただく一助になればとの思いで執筆いたします。毎回一つのテーマ(当面はPL=損益計算書中心で)に関して、分析手法やその裏側に隠れている大事な意味などについて解説していきます。あわせて当社のスクリーニング機能を使って、そのテーマにちなんだ銘柄を実際にスクリーニングしてみたいと思います。
第1回目のテーマは、「売上高」です。売上高は企業分析のまさに基本中の基本です。最近良く使われるKPI(Key Performance Indicator=重要経営指標)の中でも、最も重要な項目といってもよいでしょう。最近、証券業界では売上高のことをトップラインとも呼びますが、それはPL=損益計算書の1行目に記載されるからです。まさに企業業績の出発点です。逆に利益のことをボトムラインとも呼ぶますが、これは利益がPLの一番最後の行にくるからです。
売上高は企業にとってもっとも大事な経営指標です。文字どおり製品やサービスの対価として受け取る代金のことです。売上高から製品を製造するコストやサービスを提供するのに必要なコスト(例えば人件費やオフィスの家賃など)をすべて差し引いたものが利益です。
アナリストが会社を調査する時に、売上高の伸び率を調べたり、数量要因や価格要因を使って売上増減分析をするのは当然ですが、その前にまず最初に確認しなければならないことがあります。それは売上高の質です。この質のチェックがアナリストが会社を分析するときに行う、最初の仕事です。
売上高の質には、(1)売上高の計上基準や、(2)現金としての入金時点、などが重要な要素としてあげられます。(1)はPL項目、中でも利益に大きな影響を与えるので特に注意が必要です。
たとえば(1)売上高の計上基準を鉄道会社の定期代の処理で説明してみます。鉄道会社にとって定期代は前金でキャッシュが入ってくる大変ありがたい商品ですが、通常は定期の期間に応じた売上分配を行います。3月期決算の会社で3月31日に6ヶ月定期の収入が6万円あったとしても、3月決算の売上高には1日分の運賃333円しか計上されず、残りの5万9,667円は次期の売上高(B/Sでは貸し方の現金、借り方の前受け金の増加で表れます)に計上となります(実現主義)。おそらくディズニーランドの年間パスポートなども同様の処理を行っていると思われます。
ただし、IT企業の例をとると、半年や1年契約のようなサービス提供契約を結んだ際に、前金で仕事を受けるケースがあります。この場合3月31日までに入金があったものは、3月期決算で全額をその期の売上高に計上するケースが可能です(現金主義)。この場合入金のあった当期の利益はこの売上高の分だけ水増しされます。そして実際に費用が発生する次期の売上高は逆に0となるので、利益が急減する懸念があり注意が必要です。
これらは、売上高や収益認識の詳細な会計基準がないために起きる事象です。企業がどのような売上高および費用の計上基準を採用しているかについては、まれに有価証券報告書財務諸表の注釈に記載している会社もありますが、殆どは直接取材でヒアリングするしか判別する方法はありません。
次に、(2)現金としての入金時点、(売上代金の受け取り条件=相手方の支払い条件)は、企業のキャッシュフローや資金繰りに大きな意味を持ちます。鉄道会社のように乗車券収入が毎日現金で入金される(いわゆる日銭商売、Suicaなどのカード類なら前金)ものは、いわば最強の売上高です。ディズニーランドなどの入場料収入も基本は現金ですし、前売り券や年間パスポートなどは前払いで現金が入金します。企業の資金繰りは楽ですし、銀行もいざという時には毎日資金回収ができるので、比較的安心して融資ができます。
ところが通常の製造業やサービス提供会社では、支払い条件は製品やサービスの提供後、月末〆の翌月20日払いとか、後払いが基本です。どうしても契約が取りたい場合など、相手方の要求によっては代金支払いが何ヶ月も先になるケースが存在します。この場合、製品やサービスの提供時点で売上高、利益がPLに計上されますが、BSでは肝心要の現金が増えずに売掛債権が増加します。こうした売上代金の回収条件ですが、これも企業へのヒアリング*で聞くしかありません。
*売掛債権の残高と売上高を比較することにより、およその回収条件の見当をつけることはできます。
一方で、企業が売上を達成するための原材料の仕入れなどの費用は、前倒しで発生します。したがって相手方からの現金支払いが行われるまで、その企業の現金収支(キャッシュフロー)は、運転資金の増加分だけ悪化することになります。売上が急激に伸びている会社では、PL上の利益は増加しますが、運転資金がショートし、キャッシュフローは逆に悪化するケースが出てきます。この場合運転資金を銀行から借り入れするなどして、現金を調達し、帳尻を合わせる必要が出てきます。また、代金回収前に相手方が倒産した場合などは、債権が回収できないリスクが発生します。したがって、売上の回収条件は重要な意味を持っています。
それでは、売上高から銘柄をピックアップしてみましょう。まずは当然のことながら売上高の成長率が高い銘柄を、当社のWEBサイトの銘柄スクリーニング(銘柄条件検索)機能を使って抽出してみましょう。なお、今回の操作は10月25日の引け後に行っています。
「銘柄スクリーニング(銘柄条件検索)」をクリックすると「国内株式 銘柄スクリーニング」のページに飛びます。ここで「スクリーニングはこちら」をクリックすると、いよいよ検索画面が現れます。初期画面は全上場銘柄が該当銘柄に現れます(4095銘柄*10月25日時点)。最上段の「SBIおすすめスクリーナー」で6つのメニュー(01;高配当銘柄、02;財務健全・割安銘柄、03;高成長銘柄、04;20万円以下で買える大型銘柄、05;大型優良銘柄、06;高ベータ銘柄)から1発で銘柄群のスクリーニングができます。ただし今回は、まず最初に売上高の成長を調べたいので、左側の「検索条件」の欄の最下段にある、「詳細条件」の「+検索条件を追加」をクリックしスクリーニングして見ましょう。
クリックすると別画面で財務、コンセンサス、株価パフォーマンス、テクニカル、その他の合計5つの条件設定タブが現れます。その中の左側、「財務」にある「売上高変化率」を使います。四角のチェック欄をクリックし、下側の「適用」ボタンを押します。すると前画面に戻ります。先ほどと同じ、詳細条件の中に前年度比の全銘柄の増収率の分布が現れます。1年間の成長率では目的に合致しないので、売上高変化率の前年度比のところをクリックすると、選択タブが4つ(前年度比、3年前年度比、5年前年度比、前年同四半期比)現れますが、その中の5年前年度比をクリックします。同様に分布数字(-98.35〜3246.41)が出てきます。これは5年前と比較して売上高が98.35%減少した企業から3246.41%増加した企業があるという意味です。
ここで減収の企業はいりませんし、高成長企業のスクリーニングなので、-98.35の代わりに300(売上高が4倍以上に増加した企業)を入力してやります。そうすると企業数が69社に絞り込まれます。銘柄はコード番号順に並んでいるので、増収率の高い順番に並び替えてみましょう。検索結果の項目列の「売上高変化率(%)」のコラムをクリックすると1回目が昇順、2回目が降順に並び替えられます。
降順で並び替えると、答えが出てきました。アドベンチャー(6030)の3,246.40%を筆頭に増収率の高い順に69銘柄が並びました。でも売上高が成長していても利益が伴わなければいけません。そこで条件に利益成長率の条件を加えてみましょう。画面の左側最下段の「詳細条件」の「+検索条件を追加」をクリックします。また前回同様に沢山のメニューが出てきますが、先ほどと同じ「財務」の「経常利益変化率(%)」にチェックを加えて選択しましょう。
すると売上成長率の高い会社69社の画面に、経常利益変化率が付け加わりました。そこで売上高と同様に、経常利益にも5年前年度比を選択し、変化率の最低欄を300(経常利益が4倍以上に増加した企業)にしてみます。今度は銘柄が34社に絞り込まれました。当社の「銘柄スクリーニング(銘柄条件検索)」はこのようにして詳細条件を10個まで加えることができます。しかも「Myスクリーナー」に保存すれば、条件の入力が以後省略できますので、面倒なプロセスが不要となります。また、抽出結果は該当銘柄群の右上にある「CSVダウンロード」機能でエクセルに保存することができます。以上のように大変便利な機能ですので、是非ご活用されることをお勧めいたします。
下の表1は、このようにして売上高の成長率が過去5年間で4倍以上に成長した企業をフィルターにかけ、さらに経常利益が4倍以上に増加、なおかつROE(自己資本利益率)10%以上、PER70倍以下の条件を追加して抽出された企業です。掲載順番は売上高成長率の高い順番にしました。
(注)銘柄スクリーニング(銘柄条件検索)機能の使い方、機能については、こちらをご参照ください。
表1 過去5年間で売上高成長率が高く、利益成長率が伴う銘柄はコレ!?
取引 | チャート | ポート フォリオ |
コード | 銘柄 | 株価 (10/25) |
売上高 成長率 |
経常利益 変化率 |
ROE | PER |
6030 | 6030 | 6030 | 6030 | アドベンチャー | 2,814 | 3246.4 | 308.6 | 21.7 | 57.4 |
6552 | 6552 | 6552 | 6552 | GameWith | 790 | 709.4 | 547.8 | 23.5 | 20.2 |
3932 | 3932 | 3932 | 3932 | アカツキ | 6,460 | 547.4 | 2173.6 | 38.9 | 11.4 |
3925 | 3925 | 3925 | 3925 | ダブルスタンダード | 5,370 | 439.5 | 423.0 | 39.1 | 61.7 |
9418 | 9418 | 9418 | 9418 | USEN―NEXT HLDG | 948 | 417.5 | 586.0 | 33.6 | 9.4 |
2929 | 2929 | 2929 | 2929 | ファーマフーズ | 504 | 386.4 | 319.3 | 12.2 | 29.3 |
6047 | 6047 | 6047 | 6047 | Gunosy | 1,747 | 374.4 | 1396.1 | 20.6 | 20.4 |
7717 | 7717 | 7717 | 7717 | ブイ・テクノロジー | 6,300 | 338.3 | 1492.3 | 47.4 | 5.7 |
6532 | 6532 | 6532 | 6532 | ベイカレント・コンサルティング | 5,650 | 336.6 | 599.4 | 19.7 | 27.9 |
3300 | 3300 | 3300 | 3300 | AMBITION | 1,034 | 326.2 | 718.9 | 32.8 | 9.6 |
- ※当社WEBサイトの「スクリーニング(銘柄条件検索)」よりSBI証券が作成。
この欄ではアナリストとして活動してきたうえでの、業界の裏話や面白かった経験などを綴ってみることにしました。
今でこそ証券アナリストは確立した仕事として認知されています。日本証券アナリスト協会による試験制度も整っており、多くの金融関連企業では証券アナリスト試験を受験することが推奨されているようです。また証券アナリストとして、内外の運用機関のファンドマネージャーを筆頭とする顧客に認知されれば、好条件で他の証券会社にスカウトされるケースもよく見られます。
証券アナリストが社会的に認知されるようになったのは、東証の会員権開放により外資系証券会社の日本進出が相次いだ1980年代半ばからでした。外資系証券会社ではアナリストセールス(営業員がアナリスト情報に基づいて株式を売買する)により、機関投資家の売買でコミッションを得るのが一般的です。20社以上の外資系証券会社が一斉に日本に拠点を設置し、アナリストを日系証券会社から引き抜いたため、需要が急速に高まり、報酬は急激に上昇し、同時に職業としての流動性が一挙に高まりました。また、日本の機関投資家も徐々に洗練され、欧米型の運用にシフトしてきたことも指摘されます。
外資系証券会社での待遇は千差万別ですが、クビになることはもちろん、会社自体が日本から撤退する、さらには退職金がない、などのリスクを覚悟しての転職なので、年収で日系大手と比べ概ね2〜3倍というのが普通だったように思います。住宅手当などはありませんが、賃貸の場合は会社契約にしてもらい、家賃分を本来の報酬から控除して給与として支給する節税策が一般的でした。また、英系企業の場合は、本国の伝統が日本でも適用され、本人のランクに応じた一定額の範囲内で、自分の好きな車を社有車扱いにしてもらい、ガソリン代を除く、保険料・整備費用など諸経費を全額会社負担にする付帯条件がありました。
良い事ずくめのように思われるかもしれませんが、外資系証券会社の場合、日系のお客様だけでなく、主要顧客がロンドンやNYにいる関係で、夕方から夜にかけてはロンドンのセールスや顧客との電話(TV)会議があります。早朝はNYのセールスや顧客とのコンタクト、日系顧客相手のセールスとの朝会議(通常は7時半スタート)に出席と、時間的には大変な重労働でした。また欧州や米国へのマーケティングと呼ばれる顧客訪問が年に2〜3回あるのですが、2週間で約50プレゼン、しかもいくつもの都市を回るので大変でした。しかも全て英語で行うため、慣れるまでは海外出張が苦痛でなりませんでした。筆者の珍記録として、顧客とのプレゼン(ホテルでのブレックファーストミーティング)と寝る時間を含め、パリ、ウィーンの滞在が1泊2日でそれぞれ8時間でした。
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