当レポートは、一般投資家の皆さんにも、アナリストの分析手法の基本知識や考え方、さらにはノウハウを身につけていただく一助になればとの思いで執筆しています。毎回一つのテーマに関して、分析手法やその裏側に隠れている大事な意味などについて解説していきたいと思います。タイミング良く当社の国内株のスクリーニング(銘柄条件検索)機能が大幅にリニューアルされ、バージョンアップしました。このスクリーニング機能を使って、実際にテーマにちなんだ銘柄のスクリーニングも併せて行ってみたいと思います。
第5回のテーマは、「市場コンセンサス」です。「そんなもの知ってるよ」との声が聞こえてきそうですが、案外盲点も多いテーマではないかと思います。今週末から10〜12月期決算発表が本格化するタイミングなので、まさに「市場コンセンサス」が使われる局面です。
株式の世界で「市場コンセンサス」というときは、ほとんどがアナリストの企業収益予想の数字または、エコノミストの予想する経済統計の数字(GDP、雇用統計等)などが該当します。今回は企業業績予想のコンセンサスに絞ってお伝えしたいと思います。
「市場コンセンサス」のポイントをA社という上場企業の例で説明してみます。A社がある日、第3四半期の決算を発表しました。第3四半期までの業績は好調で、A社は会社予想の年間経常利益予想を従来の100億円から120億円に上方修正しました。ところが株価は反応しないどころか、逆に下がってしまいました。これはいったいどうしてなのでしょうか?
なぜならば、A社の業績に関しては発表前からアナリストの間では、強気の予想が多く、アナリストの年間利益予想の平均値は130億円でした。つまり株式市場におけるA社の経常利益に対する「市場コンセンサス」が130億円だったため、会社側の上方修正値120億円はコンセンサス以下で、逆に失望した投資家や、これで当面の材料出尽くしと考えた投資家が売り手に回ったため株価は下落したのです。
このように「市場コンセンサス」は投資家にとって大変重要な数字です。それでは「市場コンセンサス」について、解説していきたいと思います。皆さまの投資のご参考になれば幸いです。
投資家の皆さんは、ある企業の株価が割高か割安かを判断するときにPER(Price Earnings Ratio)を日常的に使用していると思います。PERが10倍だから割安、30倍だから割高といった類いの判断です。これを数式で表すと下記のようになります。
PER(株価収益率)= 株価 ÷ EPS(1株当たり利益)
これはプロの投資家(機関投資家など)でも全く変わりはありません。
ただし、多くの機関投資家は、将来の株価を予想する時には、上記の式を下記のように変形して使用します。
株価 = EPS(1株当たり利益)× PER(株価収益率)
つまり株価が変動するのは、(1)EPSが増加する(減少する)、(2)PERが上昇する(低下する)、の2つの変数の変動によってもたらされると考えます。
したがって、(1)のEPSを予想する=業績予想、は当然のことですが、株価予想の際に極めて重要なファクターとなってきます。また、株価は既に近未来を織り込むものと考えれば、半年から2年近い企業の業績予想(EPS)を織り込んでいると考えられます。その際のEPSが「市場コンセンサス」ということができます。業績予想は、実際やってみるとなかなか当たらないので、「市場コンセンサス」は複数のアナリストの業績予想の平均値を前提にしていることが多いように思います。
次に、(2)PERが上昇する(低下する)のは、重要なポイントなので、別の機会を設けて詳しく説明したいと思います。今回はPERの変動は、概ね2つの要因に分けられることをまず理解してほしいと思います。その要因とは、(a)マーケット要因と、(b)企業の個別要因です。
(a)マーケット要因とは企業の収益状況とは関係のないもので、外部環境の変化などです。その中では金利が一番大きなファクターとなります。金利が上昇すれば確定利付きの債券で資金を運用した方が、リスクのある株式よりも相対的に優位になってくることがあります。したがってこの場合、PERは低下(株価は下落)する傾向にあります。金利が低下すれば今度は逆にリスク覚悟でも資金は株式に向かいやすくなり、PERは上昇(株価は上昇)します。
次に(b)企業の個別要因ですが、これは企業の利益成長率が変化する場合です。そもそも急成長が見込まれる企業に与えられるPERは高く、そうでない企業のPERは低くなります。ところが収益環境や企業戦略の巧拙などによって、従来想定されていた成長率が修正されることがあります。例をあげれば、当初年率30%ペースでの利益成長が期待されていた企業の株式がPER30倍で取引されていたと仮定します。ところがライバルの出現などで、成長率が10%に下方修正された場合、PERは例えば10倍に低下する可能性があります。
したがって極論すれば、アナリストは、(1)のEPS予想に関しての全てと、(2)のPERに関しての(b)企業の個別要因(≒利益成長率)の部分について、責任を有するということになります。そして、ファンドマネージャーは、(2)のPERに関しての(a)マーケット要因に関しての全てと、前述のアナリストが出したEPSや利益成長率の妥当性を吟味するのが仕事になります。
では、市場コンセンサスの数字は、どうやったら把握することができるのでしょうか?
当社のWEBサイトの国内株式から個別銘柄のコード番号を入力すると、株価のページに飛び、メニュー選択ができます。メニューバーから「業績」を選択すると、当該銘柄の会社予想経常利益とコンセンサス予想の対比を見ることができます。また当該銘柄のアナリストのレーティング分布、予想アナリストの人数、さらには業績予想や目標株価の時系列推移のグラフなども見ることができます。ぜひご活用してみてください。
企業が決算数字を発表した時は、利益の増減率や、会社予想に対する進捗率などだけではなく、コンセンサス予想に対する比較も確かめることをおすすめします。
ただし、市場コンセンサスには、注意を要するポイントや、よりうまく活用するためのポイントが何点かあります。以下、箇条書きにしてみました。
- ・コンセンサス予想形成のアナリストの人数が少ないものは、数字の信憑性が低いので使用しない(5人は欲しい)
- ・会社予想と市場コンセンサスのギャップが大きいものが重要
- ・コンセンサス予想の時系列推移のトレンド(上昇トレンドか下降トレンドか)も重要
- ・市況産業の場合は、その企業の主力製品の市況との比較も参考になる
- ・新興市場や時価総額の小さい銘柄は、アナリストがフォローしていないケースが多く、コンセンサスが存在しないケースが多い。この場合、投資家が参考にする業績予想は会社予想がベースとなるケースが多い。このため、個人投資家でも個別企業を丹念に調べれば、アルファ(リターン)が取れる可能性があるとみられる。
それでは、実際に当社のWEBサイトのスクリーニング(銘柄条件検索)機能を使って、「市場コンセンサス」にまつわる銘柄をピックアップしてみましょう。今回は非常に簡単です。WEBサイトでログイン後、「国内株式 スクリーニング(銘柄条件検索)」に飛びます。ここで「スクリーニングはこちら」を選択すると、検索画面が現れます。
今回は、市場コンセンサスが最近上方に変化している銘柄をピックアップしてみます。左下の詳細条件から「コンセンサス」のタブを選び、「経常利益変化率(予)」を選び、期間を3ヵ月前に設定し、変化率を最低10%に指定します。次に、前述の注意ポイントで触れたように、コンセンサスを形成しているアナリスト数を最低5人以上にセットするため、同じく「コンセンサス」のタブから「予想ブローカー数」を選び、最低数を5以上にセットします。ついでに赤字銘柄を除外するために、「財務」のタブから、「ROE」を選択し、最低を0にセットします。
これらの条件を満たす銘柄群が表1の9銘柄です。コード番号順に並べています。
これらの銘柄は、会社側が業績予想を引き上げたことに伴いアナリストが業績予想を修正したケースものもありますが、最近3ヵ月でアナリストの業績予想すなわち収益に関する市場コンセンサスが上昇しつつある銘柄です。したがって今後決算発表で良好な数字が出る可能性が高い銘柄群ということができます。またコンセンサスの上昇にもかかわらず、株価が上昇していなければ、今後の株価上昇のポテンシャルがある銘柄群といってもよいかもしれません。
表1 市場コンセンサスが上昇している銘柄をピックアップ!!
取引 | チャート | ポート フォリオ |
コード | 銘柄名 | 株価(円) 1月22日 |
経常利益 予想変化率(%) |
予想 ブローカー数 |
追加 | 1662 | 石油資源開発 | 2,958 | 19.5 | 6 | ||
追加 | 4519 | 中外製薬 | 10,625 | 29.8 | 12 | ||
追加 | 5713 | 住友金属鉱山 | 3,415 | 16.6 | 10 | ||
追加 | 6080 | M&Aキャピタルパートナーズ | 4,595 | 16.6 | 5 | ||
追加 | 6407 | CKD | 1,958 | 149.3 | 9 | ||
追加 | 6460 | セガサミーHLDG | 1,591 | 13.5 | 9 | ||
追加 | 6632 | JVCケンウッド | 273 | 10.6 | 6 | ||
追加 | 6702 | 富士通 | 11,090 | 16.7 | 16 | ||
追加 | 6857 | アドバンテスト | 6,300 | 10.5 | 18 |
- ※当社WEBサイトの「スクリーニング(銘柄条件検索)」等よりSBI証券が作成。経常利益予想変化率は、3ヵ月前のコンセンサス予想に比べて現在の予想がどれだけ変化しているかを示す。したがって石油資源開発の場合なら、コンセンサス予想が19.5%上昇していることを示す。
この欄では筆者がアナリストとして活動してきたうえで、業界の昔話や裏話、面白かった経験などを綴ってみることにしました。
セルサイドのアナリストにとって、機関投資家が払うコミッションが大事なことは言うまでもありません。それでは、そのコミッションはどうやって決まるのでしょうか?バブル時代ぐらいまでのコミッションは、かなりディスクレショナリー(裁量)という形で支払われていました。ファンドマネージャーが直に証券会社の営業マンに電話で注文を出していました。つまりどこの証券会社に注文を出すかは、かなりファンドマネージャーの決定に委ねられていました。手数料率が一定だったのでどこの会社に注文を出しても同じという背景もあります。
もちろん、注文の中には難しいもの(ファンドのリバランス=多数の銘柄の少量買い、少量売り、ブロックトレーディング=1銘柄で大量に売買する立会外取引、証券会社への値段確定での引き取りなど)があり、それを処理できるかどうかが証券会社の大事なポイントではあります。しかし、もしそれらの執行能力が同じ複数の証券会社の中から発注先を選ぶなら、ファンドマネージャーはどうするでしょうか。
何が起きるかといえば、証券会社の営業マンの接待攻勢でした。ファンドの運用会社の主要人物に対するディナー、その後の飲み会はもちろん、休日のゴルフ(泊りがけもあり)、など何でもありでした。その翌日には、サンクス・オーダーといって、投資家はその接待費+αのコミッションが伴う取引を、その証券会社に発注するような慣例があったように聞いています。
ただし、このような流れはバブル崩壊後徐々に変わっていきます。それは、(1)運用資金委託者の監視強化、(2)手数料の自由化・手数料率の下落、(3)過剰接待に対する社内外の批判、(4)外資系運用会社の手数料アロケーション(分配)方法の普及、などが背景です。
また、機関投資家の側でも、大手の場合は社内にトレーディング機能(発注および管理機能を行うチーム)を設置するところが増えてきました。したがって注文がファンドマネージャーから営業マンへという直接ルートがなくなるケースも出てきました。
現在の大手の機関投資家が行っている、証券会社へのコミッション分配は、ほとんどの場合、機関投資家サイドで運用に携わっている人間の定量的な評価で行われていると思います。株式のファンドマネージャーなら、証券会社のアナリスト、セールスパーソン、エコノミスト、ストラテジストなど個人名でそれぞれ何点とかの投票を半年間隔ぐらいで実施し、その合計点数で証券会社をランク付けし、手数料の分配を行なうことになります。
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