当レポートは、一般投資家の皆さまにも、アナリストの分析手法の基本知識や考え方、さらにはノウハウを身につけていただく一助になればとの思いで執筆しています。毎回一つのテーマに関して、分析手法やその裏側に隠れている大事な意味などについて解説していきたいと思います。タイミング良く当社の国内株の銘柄スクリーニング(銘柄条件検索)機能が大幅にリニューアルされ、バージョンアップしました。このスクリーニング機能を使って、実際にテーマにちなんだ銘柄のスクリーニングも併せて行ってみたいと思います。
第9回のテーマは、「PBR」です。PBR(Price Book-value Ratio)は株価純資産倍率と訳されています。投資家の皆さまにはおなじみの指標だと思います。PBRはPER(株価収益率)とともに、2大投資指標といってもよいのではないでしょうか。
現在、日経平均株価はPBRで1倍を割り、3/18(水)現在は0.83倍で取引されています。最近ではリーマンショック後の株式相場下落時に0.81倍というのが最低でしたが、今回の新型コロナウイルスの影響を、株式市場はそれと同等の危機として捉えているようです。
PBR1倍割れは、株価が「企業の解散価値」を下回っているから、割安だとよく解説されます。でも、それは本当なのでしょうか?今回は、PBRを少し掘り下げて説明したいと思います。また、スクリーニングによってPBR1倍割れの銘柄の中から、市場で注目されそうな銘柄をピックアップしてみます。皆さまの投資のご参考になれば幸いです。
PBR(株価純資産倍率)はPER(株価収益率)と並んで、株価評価に使われる伝統的な指標です。PBRの計算式は以下の通りです。
PBR(株価純資産倍率)=株価÷BPS(1株当たり純資産)---(a)
ここで、BPS(1株当たり純資産)=純資産÷発行済み株式数、なので
上式を使って(a)式を加工すると
PBR=(株価×発行済み株式数)÷純資産=時価総額÷純資産---(b)
PBR1倍が企業の解散価値とよく言われるのは、(b)式にあるように、時価総額と純資産が等しくなる場合を示しているからということが、お分かりいただけると思います。
ここで、バランスシートの模式図を使って、さらに説明します。 このケースは、PBR0.5倍で取引されているA社の株式を時価総額15億円で100%買収し、会社を清算した場合です。仮に資産売却がうまくいき、負債70億円を返済した場合です。手元には純資産と同額の30億円が残ります。したがって投資金額は2倍のリターンとなります。
しかし、現実には大きな問題が2つあります。
1つ目の問題は、清算の実務に関してです。仮にPBR1倍以下の企業を解散することにして、実際に清算するとします。そのためにはまず資産の売却を行わなければなりません。現金や有価証券は問題ないとしても、企業の機械装置や土地、建物が帳簿価格通りに売れるという保証はありません。売却に必要な経費や場合によっては税金が発生するケースも考えられます。
また企業が無形固定資産として計上している資産(のれん代、特許権、ソフトウェア、場合によっては研究開発費や広告宣伝費も計上されている)については、現金化はほとんど難しいケースが想定されます。したがって、その企業の資産内容によっては、PBR1倍割れであっても、実質的な解散価値は相当割り引いて評価しなければならないケースが存在します。この他にも、企業が雇用している従業員に対する特別退職金の支払いなども現実には考慮する必要がありそうです。
ただし、それとは逆に、資産の中に昔から持っている簿価の低い土地などがある企業の場合は、資産の売却によって、清算価値がさらに上昇する可能性もあります。いわゆる含み資産株のことです。
2つ目の問題は、株価そのものです。仮に企業を清算しようとしても、それを実行するためには最低でも株主の50%超の賛成がなければ実現できません。場合によっては3分の2以上の賛成が必要となります。これだけの賛成を集めることは難しいうえ、仮に一人(法人)で株式を買うにしても、株価を上げないで買い集めることは至難の技となります。TOBを行う場合、多くの場合、その行使価格は現在の株価に3割程度のプレミアムを付けることが多くなっています。
したがって、PBRでの銘柄選択の際には、まず企業の資産内容をチェックすることが肝要です。具体的には、キャッシュリッチな企業が望ましいことになります。また、のれん代などの無形固定資産が小さいことも肝要です。土地や株式の含み益の有無も重要なポイントとなります。
次に企業の所有形態や株式の分布状態も重要です。50%以上の株式を保有する親会社があるような場合は、いくらPBRが低いといってもその企業の過半数の株式を所有することは困難になります。このようなケースでは、その企業の株価が、バリュエーション的に同業他社に比べディスカウントされるケースが多くありますが、それはこうした解散価値のディスカウント分が影響しています。また取引先や金融機関などのいわゆる安定株主が多い場合も同様です。
最後になりますが、PBRはあくまでも過去のバランスシートの純資産に基づいて計算されています。その企業が赤字となれば純資産は減少し、PBRは上昇することになりますので注意が必要です。逆に利益が増加している企業では純資産が増加するため、PBRは低下する要素になります。その点に留意が必要です。また株価は企業の利益変動が大きく影響することは言うまでもないことで、PBRは株価判断の一側面であることも付け加えておきます。
このコーナーでは、当社のWEBサイトのスクリーニング(銘柄条件検索)機能を使って実際に、テーマに即した銘柄をピックアップしていきます。今回のテーマはPBR1倍割れの銘柄ですが、前述のように、資産内容がキャッシュリッチであることを付け加えてみます。
そこで今回は以下の3つの条件でスクリーニングを行ってみました。企業がキャッシュ(現預金)をどれだけ所有しているかは、決算短信や有価証券報告書のバランスシートを見れば、すぐわかりますが、あいにくキャッシュ単独の検索項目がないため、代わりに自己資本比率(総資産に占める自己資本≒純資産)で代用してみました。また、足元の現預金ばかりではなく、フローベースのキャッシュ捻出力と株価のレシオである、PCFR(株価キャッシュフロー比率)を加えてみました。
具体的なスクリーニング条件は、以下の3点です。
(1)JPX400日経採用銘柄で、PBRが0.6倍以下であること
(2)自己資本比率が45%以上であること
(3)PCFRが4.5倍以下であること
これらの条件をすべて満たすのが以下の表1(掲載はコード番号順)の銘柄群です。この中から、フローベースの収益変動を加味した銘柄選択も、現在のような波乱含みの市場環境の中にあっては有効ではないでしょうか。
表1 【ご参考】PBR1倍割れのキャシュリッチ銘柄を抽出
取引 | チャート | ポート フォリオ |
コード | 銘柄名 | 株価(円) 3月18日 |
PBR (倍) |
自己資本比率 (%) |
PCFR (倍) |
追加 | 2121 | ミクシィ | 1,418.0 | 0.60 | 92.5 | 4.35 | ||
追加 | 4004 | 昭和電工 | 1,933.0 | 0.56 | 46.4 | 2.29 | ||
追加 | 4182 | 三菱瓦斯化学 | 1,099.0 | 0.47 | 62.6 | 2.81 | ||
追加 | 4202 | ダイセル | 686.0 | 0.57 | 60.1 | 3.06 | ||
追加 | 4246 | ダイキョーニシカワ | 436.0 | 0.42 | 50.8 | 1.69 | ||
追加 | 4902 | コニカミノルタ | 404.0 | 0.36 | 45.6 | 2.04 | ||
追加 | 5101 | 横浜ゴム | 1,188.0 | 0.46 | 46.2 | 2.53 | ||
追加 | 5201 | AGC | 2,509.0 | 0.48 | 49.6 | 2.85 | ||
追加 | 5802 | 住友電気工業 | 987.4 | 0.50 | 50.8 | 2.78 | ||
追加 | 5975 | 東プレ | 1,134.0 | 0.40 | 62.4 | 2.07 | ||
追加 | 6201 | 豊田自動織機 | 4,465.0 | 0.56 | 47.1 | 4.32 | ||
追加 | 6302 | 住友重機械工業 | 1,756.0 | 0.47 | 47.5 | 3.04 | ||
追加 | 6463 | TPR | 1,105.0 | 0.37 | 45.9 | 1.56 | ||
追加 | 6471 | 日本精工 | 602.0 | 0.57 | 49.4 | 3.04 | ||
追加 | 6770 | アルプスアルパイン | 941.0 | 0.54 | 54.1 | 3.02 | ||
追加 | 7313 | テイ・エス テック | 2,250.0 | 0.60 | 71.4 | 3.54 | ||
追加 | 7731 | ニコン | 922.0 | 0.59 | 54.3 | 3.77 | ||
追加 | 9201 | 日本航空 | 1,978.5 | 0.59 | 57.4 | 2.40 |
- ※当社WEBサイトの「スクリーニング(銘柄条件検索)」等よりSBI証券が作成。JPX日経400の企業を対象。なお個別銘柄の売買を推奨するものではありません。
1980年代ぐらいまでの事業会社は、ほとんど決算説明会を開催していませんでした。したがって、アナリストが取材をしたい場合は、個別にアポイントを取って、いわゆるワンオンワンのミーティングが主流でした。もっとも専任のアナリストがいたのは、当時の4大証券(野村、日興、大和、山一)に準大手といわれていた数社、さらにはフィデリティなど外資系バイサイド数社程度だったと思います。
したがって外資系証券に東証が門戸を開く前の1990年以前には、大きな事業会社でも、決算説明会を開催する企業は少なかったように記憶しています。また、決算説明会を開催する場合にも、業界によっては、当時の4大証券(野村、日興、大和、山一)のアナリストのみが招待されるスモールミーティングのような形式のものが数多く存在しました。
今では考えられないような、情報の独占がまかり通っていた時代でした。また、証券会社の法人部門と調査部門のウォールもあまり機能していたとは言えない時代背景も指摘できます。事業法人側もこのウォールや情報伝達の公平性などはあまり気にしていなかった事情もあります。
状況が大きく変わったのは、1985年以降、外資系証券会社へ東証会員権が開放されたことにより、状況が大きく変わりました。彼らはアナリストによるリサーチレポートを重要視した営業方針を取っていました。このため、事業会社に対して情報の公平性、透明性を事業会社に対して求めをました。また外資系といっても、人的には日系大手を中心に大量のアナリストが外資系証券会社に流出したので、事業会社からのバリアーも低くなりました。
また重要なことは、事業会社にとって、バブル崩壊後は外人投資家の存在感が大きくなり、外資系証券のアナリストを重要視するようになったことも指摘できます。
今では情報伝達に関して、事業会社側のコンプライアンスが厳しく適応されるため情報伝達の差による、不公平はほぼなくなりました。
- ※本ページでご紹介する個別銘柄及び各情報は、投資の勧誘や個別銘柄の売買を推奨するものではありません。
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