新興株市場に上昇している企業の多くが、将来の東証1部への昇格を目指しています。投資家の立場からも、東証1部への昇格は株式の流動性が高まる上、TOPIXに連動する投資信託やETFがポートフォリオに組み入れる必要が出てくるなど、需給面でのプラスが指摘できます。また、東証1部への昇格には企業の成長、収益の向上が条件となりますので、優良企業の証でもあるわけです。
こうした中、東京証券取引所は現在、東証1部市場のあり方を見直すと伝えられています。東証1部市場の上場企業数が2,128社(2/12時点)と全上場会社の3,649社(2/12時点)の6割近くを占めるまでに「肥大化」したことが背景です。
東証は既に「市場構造のあり方等に関する懇談会」を設けて、外部意見を取り入れながら市場制度の変更について検討を始めています。想定されるのは、現在は時価総額で20億円以上となっている同市場への上場維持基準を大幅に引き上げることや、同市場上場への移行基準の見直しです。
東証1部上場企業数の削減や1部昇格基準の見直しは、上場企業から強い反発が予想されるため、新制度の導入には、十分な移行期間を設けることが想定されます。このため、現在新興市場に上場している企業にとっては、制度が改正される前に1部上場を目指すものが増加するのではないでしょうか。
今週の「新興株ウィークリー」は、こうした状況を背景に、東証マザーズ市場から東証1部への昇格が期待できそうな銘柄をピックアップしてみることにしました。皆様の投資のご参考になれば幸いです。
新興株市場の銘柄が東証1部銘柄へと昇格していくコースは、主に以下の4通りとなっています。
(1)東証2部→東証1部
(2)東証マザーズ→東証1部
(3)東証JASDAQ→東証1部
(4)東証JASDAQ→東証2部→東証1部
このうち、一番多く見られるケースは(2)の「東証マザーズ→東証1部」のパターンです。これはそもそも、東証マザーズ市場の位置付けが「東証1部へのステップアップを視野に入れた成長企業向けの市場」となっているためです。このため東証マザーズ市場から東証1部市場への昇格基準のひとつである時価総額については40億円以上と、東証JASDAQから東証1部への移行に必要な250億円と比べハードルが大変低くなっています。
また、東証マザーズ上場銘柄は上場から5年経過すると東証マザーズへの継続上場か東証2部への市場変更かのいずれかを選択しなければなりません。東証マザーズでの上場継続を希望する場合は、東証に対し「高い成長可能性」に関する説明書の提出が必要となります。マザーズ市場の活性化のために取られている処置といえましょう。
決算期変更を行わない場合、東証マザーズから東証1部への昇格は、上場してから1年以上経過することが条件となっています。つまり、東証マザーズに上場してから最短で1年経過した企業は、必要な条件を満たせば、東証1部へ昇格できることになります。
東証1部への昇格を実現する企業への投資は、まずその企業が順調に成長し企業価値を高めている証明である上、東証1部への移行自体がその銘柄の投資家の関心を今後さらに集めることにつながる(機関投資家がポートフォリオに組み入れるなど)ため、大変有効な手段だと思われます。
直近で東証マザーズから東証1部への昇格の発表があった2銘柄のチャートを見てみましょう。12/28(金)に市場変更されたファイズ(9325)、12/14(金)に昇格したOrchestra Holdings(6533)はいずれも、昇格の発表のあった日から直後に株価は大幅に上昇しています。
図1:直近で東証1部へ昇格した銘柄のチャート
ファイズ(9325)
Orchestra Holdings(6533)
東証マザーズ市場から東証1部市場への指定替え基準は、下記のような形式基準があります。
(A)株主数2,200人以上
(B)流通株式数2万単位以上
(C)時価総額40億円以上
(D)純資産額10億円以上
(E)最近2年間合計の経常利益5億円以上または時価総額が500億円以上
(F)最近5年間の有価証券報告書に虚偽記載がないこと
下の表1は2016年以降2018年3月までに東証マザーズ市場に新規上場した銘柄のうち、上記条件の(A)、(C)、(D)、(E)、(F)を満たす銘柄を上場日順に並べたものです。この銘柄群の中から今年前半までに東証1部への指定替えを申請する企業が出てくる可能性が高いと思われます。
また、計算が複雑になる(B)の流通株式のスクリーニングは行いませんでした。最後に肝心なことは、「指定替え」はあくまでも企業の「申請」によるものです。企業が望まなければ、東証1部への「指定替え」は実現しないことになります。
表1:東証1部昇格期待のマザーズ銘柄はコレ!?
取引 | チャート | ポート フォリオ |
コード | 銘柄名 | 株価(円) 2月12日 |
上場日 | 事業内容、注目点 |
---|---|---|---|---|---|---|---|
追加 | 6192 | ハイアス・アンド・カンパニー | 265 | 2016/4/5 | 住宅関連に特化したコンサル会社 | ||
追加 | 3547 | 串カツ田中 | 2,462 | 2016/9/14 | 「串カツ田中」を運営する外食チェーン | ||
追加 | 3474 | G−FACTORY | 322 | 2016/9/30 | 外食向けの物件、内装設備リースなど | ||
追加 | 3966 | ユーザベース | 2,192 | 2016/10/21 | ビジネスデータ、SNS型ニュース配信 | ||
追加 | 3969 | エイトレッド | 1,239 | 2016/12/22 | 「X-point」などワークフローソフトの開発 | ||
追加 | 3479 | ティーケーピー | 3,180 | 2017/3/27 | 貸会議室の運営、飲食・ホテル経営 | ||
追加 | 6552 | GameWith | 1,106 | 2017/6/30 | ゲーム攻略サイト「GameWith」の運営 | ||
追加 | 3989 | シェアリングテクノロジー | 1,404 | 2017/8/3 | 住まい関連トラブルのマッチングサイト | ||
追加 | 3990 | UUUM | 5,780 | 2017/8/30 | ユーチューバーの製作サポート | ||
追加 | 3993 | PKSHA Technology | 8,860 | 2017/9/22 | 深層学習などAI機能の開発 | ||
追加 | 3482 | ロードスターキャピタル | 992 | 2017/9/28 | 都内のオフィスビルのバリューアップ | ||
追加 | 6556 | ウェルビー | 1,727 | 2017/10/5 | 障害者の就労支援、職業訓練に特化 | ||
追加 | 6555 | MS&Consulting | 1,136 | 2017/10/5 | 外食や小売の顧客満足度の覆面調査 | ||
追加 | 3996 | サインポスト | 3,120 | 2017/11/21 | 金融機関や公共向けシステム開発コンサル | ||
追加 | 9266 | 一家ダイニングプロジェクト | 1,349 | 2017/12/12 | 首都圏での和食居酒屋のチェーン展開 | ||
追加 | 6561 | HANATOUR JAPAN | 1,310 | 2017/12/15 | インバウンドの旅行会社、韓国・中国に強み | ||
追加 | 3446 | ジェイテックコーポレーション | 3,770 | 2018/2/28 | 研究・実験施設向け高精度X線集光ミラー | ||
追加 | 6568 | 神戸天然物化学 | 1,719 | 2018/3/15 | 有機化合物の受託研究・開発・量産 |
- ※日本取引所グループ資料等よりSBI証券が作成
東証マザーズ指数の2/12(火)の終値は861.59と、2/5(火)の終値868.86から0.8%の小幅下落となりました。前週のマザーズ指数の大幅下落の要因となったサンバイオ(4592)の株価が持ち直した他、決算発表でとりあえずの悪材料の出尽くしとなったメルカリ(4385)が続伸となりましたが、ミクシィ(2121)やCYBERDYNE(7779)は下落するなど銘柄によりまちまちな展開となりました。
そのほかのマザーズ市場の個別銘柄では、そーせいグループ(4565)が0.4%の上昇となりましたが、エルテス(3967)、ヘリオス(4593)、RPAホールディングス(6572)、ラクスル(4384)などはいずれも下落となりました。
JASDAQ市場は、この期間0.2%の下落とほぼ横ばいでした。個別銘柄では、ハーモニック・ドライブシステムズ(6324)が3.4%上昇と続伸となりましたが、他の主要銘柄では、日本マクドナルドホールディングス(2702)、ワークマン(7564)、セリア(2782)がいずれも軟調でした。
- ※東証マザーズ指数について:東証マザーズ市場は近い将来東証1部へのステップアップを視野に入れた成長企業向けの市場です。マザーズ指数は、マザーズ市場に上場する全銘柄の時価総額加重平均型の指数です。ただし、一部の時価総額の大きい銘柄の影響度が大きい点に注意を要します。ちなみに1月末のマザーズ市場の時価総額に占める、サンバイオのシェアは10.7%、メルカリが6.1%、ミクシィが5.6%などとなっています。
図2:東証マザーズ指数(日足)
図3:JASDAQ平均(日足)
- ※図2、図3ともに当社チャートツールを用いてSBI証券が作成。
表2:主要株式指標の騰落率(2/5〜2/12)
指数 |
終値(2/12) |
騰落率 |
---|---|---|
日経平均株価 |
20,864.21 |
0.1% |
東証マザーズ指数 |
861.59 |
-0.8% |
JASDAQ平均株価 |
3,395.79 |
-0.2% |
表3:主要新興市場銘柄の騰落率(2/5〜2/12)
コード |
銘柄 |
終値(2/12) |
騰落率 |
---|---|---|---|
マザーズ市場の時価総額上位銘柄 |
|
||
4592 |
サンバイオ |
2,906 |
10.9% |
4385 |
メルカリ |
2,526 |
10.2% |
2121 |
ミクシィ |
2,666 |
-7.2% |
4565 |
そーせいグループ |
1,082 |
0.4% |
7779 |
CYBERDYNE |
701 |
-4.1% |
JASDAQ市場の時価総額上位銘柄 |
|
||
2702 |
日本マクドナルドホールディングス |
4,725 |
-2.4% |
6324 |
ハーモニック・ドライブ・システムズ |
3,995 |
3.4% |
7564 |
ワークマン |
7,270 |
-4.2% |
2782 |
セリア |
3,650 |
-4.1% |
6425 |
ユニバーサルエンターテインメント |
3,325 |
1.2% |
直近上場銘柄・市場で話題の銘柄 |
|
||
3967 |
エルテス |
2,011 |
-3.8% |
4593 |
ヘリオス |
1,675 |
-1.8% |
6572 |
RPAホールディングス |
2,935 |
-6.8% |
4384 |
ラクスル |
3,225 |
-0.9% |
6544 |
ジャパンエレベーターサービスホールディングス |
1,860 |
3.3% |
- ※表2・表3はBloombergデータをもとにSBI証券が作成。騰落率は2/5(火)終値と2/12(火)終値の比較による。時価総額は1月末基準。
- ※本ページでご紹介する個別銘柄及び各情報は、投資の勧誘や個別銘柄の売買を推奨するものではありません。
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