株式市場全般に、強弱感が対立して方向感の定まらない展開です。新興市場もほぼ同様の展開ですが、足元の下げは、相対的に東証マザーズが厳しくなっているようです。
一方、米国市場は強い動きになっています。特に、長期金利が足元で急低下したこともあり、金利低下に強いナスダック指数の強さが目立ちました。そうした中、けん引役のひとつになったのが「メタバース」に関連した銘柄です。
今回は米国市場の「メタバース」関連銘柄の動向を踏まえながら、日本の新興市場における「メタバース」関連銘柄の動向をチェックしてみたいと思います。
なお、当ページにつきましてはSBI証券 投資情報部長 鈴木による動画での詳しい解説も行っております。ぜひ、ご視聴ください。
新興株ウィークリー※YouTubeに遷移します。
■執筆者のプロフィール
SBI証券 投資情報部長 鈴木 英之
・出身 東京(下町)生まれ埼玉育ち
・趣味 ハロプロ(牧野真莉愛推し)の応援と旅行(のりテツ)
・特技 どこでもいつでも寝れます
・好きな食べ物 サイゼリヤのごはん
・好きな場所 秋葉原(末広町)
ラジオNIKKEI(月曜日)、中部経済新聞(水曜日)、ストックボイス(木曜日)、ダイヤモンドZAIなど、定期的寄稿も多数。
株式市場全般に、強弱感が対立して方向感の定まらない展開です。日経平均株価は衆議院選挙の結果を好感して、11/1(月)に754円高した後、11/4(木)には一時、前月末比3.4%高の3万円手前の水準まで上昇しました。しかし、その後は利益確定売りが優勢に。11/10(水)終値では前月末終値からの上昇率が0.7%まで縮小してしまいました。新興市場もほぼ同様の展開ですが、足元の下げは、相対的に東証マザーズが厳しくなっているようです。
決算発表は総じて順調ですが、資源・エネルギー高や人手不足・半導体不足の影響等もあり、業績予想を下方修正する企業も散見されます。決算発表シーズンが佳境を迎え、発表予定社数が多く、持ち高調整の売りが出やすいとみられます。
そうした中、時価総額上位銘柄(図表2)の中では東映アニメーション(4816)の上昇率が目立ちました。10/25(月)に2022/3期・上半期の決算発表を行い、通期業績見通しの上方修正を行いましたが、修正後の予想利益が市場コンセンサスを下回っていたことからその後は急落していました。騰落率計測期間中は自律反発局面になったようです。一方、JMDC(4483)は相対的に大きな下落となりました。11/5(金)に業績予想の上方修正を発表しましたが、市場コンセンサスを下回りました。
他(図表3)では、中小企業向けに法人営業支援サービスを手掛けるアイドマ・ホールディングス(7373)の上昇が目立ちました。10/15(金)に好決算と強い業績見通しを発表し、上昇基調に転換しました。
温度を感知する半導体(サーミスタ)の世界トップである芝浦電子は、11/9(火)に一時ストップ高となるなど大幅高。11/8(月)に業績予想および予想配当の上方修正を発表し、それが好感されました。半導体不足による車載向け市場の減速が心配されていましたが、EV向け需要の増大等、市場自体の拡大がそれを上回りました。ちなみに、ライバルはSEMITEC(6626・決算発表日は11/11)、大泉製作所(6618・同予定日は11/12)となっています。
図表1 日経ジャスダック平均と東証マザーズ指数の推移
- ※SBI証券チャートツールを用いてSBI証券が作成。
- ※2020/12/30終値を1として指数化。
- 期間:2020/12/30〜2021/11/9
図表2 主な新興市場銘柄の値動き
コード | 銘柄名 | 市場 | 株価(11/9) | 週間 | 年初来 |
4385 | メルカリ | 東証マザーズ | 6,860 | 1.5% | 52.6% |
4816 | 東映アニメーション | ジャスダックS | 18,620 | 4.6% | 130.2% |
2702 | 日本マクドナルドホールディングス | ジャスダックS | 5,090 | -0.2% | 1.8% |
7564 | ワークマン | ジャスダックS | 6,510 | 3.7% | -26.0% |
6324 | ハーモニック・ドライブ・システムズ | ジャスダックS | 5,040 | -4.4% | -45.3% |
4478 | フリー | 東証マザーズ | 8,350 | 1.0% | -6.2% |
4483 | JMDC | 東証マザーズ | 7,910 | -7.1% | 39.0% |
4194 | ビジョナル | 東証マザーズ | 8,910 | -2.5% | - |
1407 | ウエストホールディングス | ジャスダックS | 6,170 | -5.1% | 69.0% |
2782 | セリア | ジャスダックS | 3,595 | 1.0% | -5.1% |
【ご参考】 | 日経平均株価 | - | 29,285.46 | -0.8% | 6.7% |
TOPIX | - | 2,018.77 | -0.6% | 11.9% | |
日経ジャスダック平均 | - | 3,983.21 | -0.5% | 7.1% | |
東証マザーズ指数 | - | 1,112.01 | -2.3% | -7.1% |
- ※Bloombergデータを用いてSBI証券が作成。
- ※新興市場(マザーズおよびジャスダック)の前月末時価総額上位10銘柄について、11/9時点での各種騰落率を掲載。
- ※「週間」は11/2〜11/9の騰落率。
- ※個別銘柄の「年初来」は昨年末時価総額と11/9時点の時価総額の比較。「-」は昨年末時点で上場していない銘柄。
- ※指数の「年初来」は株価による単純計算。
- ※上記は過去の実績であり、将来の運用成果を保証または示唆するものではありません。
図表3 11/2(火)〜11/9(火)で株価上昇が大きかった新興市場銘柄
コード | 銘柄名 | 市場 | 株価(11/9) | 週間 | 年初来 |
7373 | アイドマ・ホールディングス | 東証マザーズ | 9,770 | 15.6% | - |
3498 | 霞ヶ関キャピタル | 東証マザーズ | 4,510 | 14.0% | 159.7% |
7826 | フルヤ金属 | ジャスダックS | 10,470 | 13.8% | 73.1% |
4080 | 田中化学研究所 | ジャスダックS | 1,439 | 13.7% | 21.5% |
4496 | コマースOneホールディング | 東証マザーズ | 1,700 | 12.1% | -44.0% |
6957 | 芝浦電子 | ジャスダックS | 7,110 | 9.6% | 127.9% |
5999 | イハラサイエンス | ジャスダックS | 2,287 | 8.9% | 33.7% |
6182 | メタリアル | 東証マザーズ | 1,323 | 8.8% | -32.1% |
4880 | セルソース | 東証マザーズ | 7,160 | 7.8% | 99.4% |
2497 | ユナイテッド | 東証マザーズ | 1,931 | 7.0% | 34.1% |
- ※Bloombergデータを用いてSBI証券が作成。
- ※新興市場(マザーズおよびジャスダック・前月末時価総額100億円以上)において、週間の株価上昇率が大きい上位10銘柄を掲載。
- ※「週間」は11/2〜11/9の騰落率
- ※「年初来」は昨年末時価総額と11/9時点の時価総額の比較。「-」は昨年末時点で上場していない銘柄。
- ※上記は過去の実績であり、将来の運用成果を保証または示唆するものではありません。
足踏み状態の東京市場に比べ、米国市場は強い動きになっています。特に、長期金利が足元で急低下したこともあり、金利低下に強いナスダック指数は10/25(月)〜11/8(月)に11営業日連続高(上昇率5.9%)を記録しました。
そうした中、けん引役のひとつになったのが「メタバース」に関連した銘柄です。
「メタバース」は、「メタ」(超)と「ユニバース(宇宙)」を組み合わせた造語です。オンライン上に構築された3DCGの空間に、世界中の人々が思い思いの「アバター」で参加し、もうひとつの現実世界を展開することを示しています。仮想の商店街だったり、オフィス、ショールーム、イベント会場、ゲームの場だったりと、可能性は無限に近いものがあります。
こうした仮想現実の世界は、スマホやタブレット、ゴーグルなどの技術進化、「5G」に象徴される通信の高速・大容量化、VR(仮想現実)やAR(拡張現実)に関連した技術の進歩がベースになり、現実世界とは異なる、もうひとつの快適な世界として形成されていきます。さらに、「メタバース」はNFT(非代替性トークン)(ブロックチェーン上に構築されたデジタルデータ)と結びつくことでさらに発展するとの見方が有力です。小売業においては、VR/ARを駆使した市場が2020年の31億から2028年に178億ドルに拡大するとの将来予想もあるようです。
米国では、SNSのフェイスブックが10/28(木)に、社名を「メタ・プラットフォームズ」(Meta?Platforms, Inc.)に変更することを発表し、市場に衝撃を与えました。同時に、米国の主力企業が「メタバース」に大いなる可能性を見出していることが示されました。そうした中、ゲーム向け半導体に強いエヌビディアが10/27(水)(上記社名変更の前日)〜11/9(火)に25%上昇した他、ゲーム開発ソフトのユニティ・ソフトウェアも同期間に19%上昇するなど「メタバース」関連銘柄がにぎわいました。
東京株式市場でも関連銘柄の物色が始まっているようです。図表4は、各種報道や会社資料、SBI証券検索ウインドウをもとに、「メタバース」や「VR/AR」、「NFT」等のキーワードと結びついている新興銘柄(今回は東証2部銘柄も含みます)をご紹介したものです。直近の四半期に営業黒字を計上している銘柄であることを条件とし、ある程度絞り込みをかけてみました。
この市場はまだまだ発展途上といえ、今回ご紹介できなかった銘柄も含め「メタバース」関連銘柄の中から「テンバガー」が出現する可能性は十分ありそうです。ただ短期的には、出来高を集めて人気化している銘柄も散見され、株価乱高下にはご注意ください。
図表4 おもな「メタバース」「NFT」関連銘柄(東証2部市場・ジャスダック市場・東証マザーズ市場)
取引 | チャート | ポート フォリオ |
コード | 銘柄 | 株価 (11/10) |
投資ポイント |
2354 | 2354 | 2354 | 2354 | YE DIGITAL | 575 | IoT等で企業のDXを推進。バーチャルショールームの活用 |
2437 | 2437 | 2437 | 2437 | Shinwa Wise Holdings | 354 | 美術品オークションを展開。NFTの生成・販売事業を開始 |
2438 | 2438 | 2438 | 2438 | アスカネット | 818 | 何もない空間に美しい映像や物体を表示する空中結像技術で特許保有 |
3698 | 3698 | 3698 | 3698 | CRI・ミドルウェア | 1,450 | 当社ミドルウェアがバーチャルアバター制作支援ツール「Animaze」に標準搭載 |
3758 | 3758 | 3758 | 3758 | アエリア | 431 | 子会社が音楽専門のマーケットプレイス開始 |
3815 | 3815 | 3815 | 3815 | メディア工房 | 364 | VR/AR/MR技術を生かしたハードやソフトを開発 |
3845 | 3845 | 3845 | 3845 | アイフリークモバイル | 170 | 3D・VRプロジェクトを展開 |
4334 | 4334 | 4334 | 4334 | ユークス | 503 | 臨場感のあるARライブ。エイベックスと共同事業 |
6072 | 6072 | 6072 | 6072 | 地盤ネットホールディングス | 186 | 仮想住宅内とその外観を自由に歩いてスマホ等で詳細に確認 |
6554 | 6554 | 6554 | 6554 | エスユーエス | 743 | 京都芸術大学とバーチャルオープンキャンパス |
6736 | 6736 | 6736 | 6736 | サン電子 | 2,984 | ドコモと5G&ARスマートグラスを活用した遠隔作業支援ソリューション |
7367 | 7367 | 7367 | 7367 | セルム | 1,087 | 人材開発に展開。凸版印刷と共同でVR技術を活用し、働く人の教養を深める研修サービスを開始 |
7809 | 7809 | 7809 | 7809 | 壽屋 | 3,180 | VR技術と連携し、バーチャル空間での生活を豊かで快適にするアバターを開発 |
- ※報道等をもとにSBI証券が作成。
- ※決算発表予定日が近い銘柄もありますのでご注意ください。
以下、一部の銘柄について、ポイントをご紹介します。
アスカネット(2438)〜写真関連事業に展開。非接触ニーズの高まりで新たな光も?
- ※当社チャートツールを用いてSBI証券が作成。
- ※上記は過去の実績であり、将来の運用成果を保証または示唆するものではありません。
- 期間:2021/5/20〜2021/11/10(日足)
■遺影や個人向け写真集など写真関連事業を展開
遺影や個人向け写真集などの写真関連事業を展開しています。売上構成比(今期以降の名称で表現・構成比は2021/4期)は、フューネラル事業(葬儀社向けに遺影写真のデジタル加工や配信を行う)が43.2%、フォトブック事業(本格的な写真集をネットで受注)が54.7%、空中結像技術を用いた「空中ディスプレイ事業」が2.1%となっています。
2022/4期・第1四半期は売上高14.6億円(前年同期比16.4%増)、営業利益0.42億円(前年同期は0.4憶円の赤字)でした。主力事業は新型コロナウイルスの感染拡大の影響を受けやすく、感染の収束ならば追い風になりそうです。
通期では売上高62.7億円(前期比8.6%増)、営業利益2.85億円(同2.9%増)を予想(会社予想)しています。
■新型コロナ感染拡大で「空中ディスプレイ」拡大のチャンス
当社の空中結像技術は、光源からの光を再帰性透過して結像させることで空中表示を可能とするものです。新型コロナウイルスの感染拡大で、画面に触れることなく表示可能な空中ディスプレイの需要は増えそうです。
もっとも、空中ディスプレイの収益化が遅れていることと、新型コロナウイルス感染拡大に伴う業績悪で株価は低水準に甘んじています。ただし、株価は2回の800円割れでダブルボトムの様相。また、投資環境的には最悪期を脱しつつあるとみられます。
サン電子(6736)〜隠れたグローバル企業〜子会社がDe-SPACの手法で米ナスダック市場に上場
- ※当社チャートツールを用いてSBI証券が作成。
- ※上記は過去の実績であり、将来の運用成果を保証または示唆するものではありません。
- 期間:2021/5/20〜2021/11/10(日足)
■隠れたグローバル企業
「モバイルデータソリューション事業」が売上高の76.6%(前期)を占める主力事業です。この事業では、犯罪捜査機関等向けにモバイルデータの抽出・解析用の機器を開発・製造・販売。当社製品は、世界各国の犯罪捜査機関で携帯電話内部の証拠データ抽出に活用され、世界150ヵ国、6万のライセンスを提供し、トップシェアを有しています。
エンターテインメント関連事業(売上高の16.3%)ではデジタル技術、グラフィック表現力を駆使したパチンコ遊技機の制御基板などの開発・製造・販売を手掛けています。
海外売上高比率が7割を占める隠れたグローバル企業です。
■子会社がDe-SPACの手法で米市場に上場
2022/3期・第1四半期は「モバイルデータソリューション事業」の受注が好調に推移し、売上高が72.3億円(前年同期比31.0%増)、営業利益4.25億円(前年同期は10.3億円の赤字)と急回復しました。
イスラエルの「モバイルデータソリューション事業」関連子会社がDe-SPAC(株式新規公開された“SPAC”が買収対象会社と合併し、一連の買収取引を完了すること)の手法で米ナスダック市場に上場しました。
これに関連し、当社は関連会社から1億ドル(約110億円)の配当を受け取ることが確定しています。2022/3期は、この子会社が持分法適用会社に変わるため、売上が減り、純利益等が一時的に膨らむとみられます。
決算発表は11/12(金)の予定。ただ、会社側は9/21(火)に業績予想の修正を発表し、中間期は売上高155億円(29.3%増)、営業利益10.25億円(黒字転換)と見込んでいます。
- ※本ページでご紹介する個別銘柄及び各情報は、投資の勧誘や個別銘柄の売買を推奨するものではありません。
- ※NISA口座で上場株式等の配当金を非課税で受け取るためには、配当金の受領方法を「株式数比例配分方式」に事前にご登録いただく必要があります。
- ※信用取引において必要となるその他諸費用の詳細は信用取引のサービス概要をご確認ください。