「深堀り!注目セクター」も第13回目を迎えました。SBI証券で投資家の方が多く保有している銘柄を参考に「注目セクター」を選定し、その見通しや関連銘柄をご紹介してきました。
今回は第3回目にご紹介した「卸売」のうち、特に「商社」をもう一度「深堀り」します。年が明けると、いよいよ3月決算銘柄の中から「好配当利回り」銘柄の物色が本格化されはじめ、「商社」はその一角を形成するとみられるためです。ご存じの通り、「商社」は原油価格の下落や商品市況の悪化が逆風となりやすいセクターですが、ここにきて原油価格の下落や商品市況の悪化がさらに厳しくなっていますので、投資には注意を要するセクターでもあります。今回は「商社は買い場なのか、まだなのか」という市場の関心事について吟味していきたいと思います。
なお「深堀り!注目セクター」は、人気業種がほぼ一巡したこともあり、月2回の定期的なご紹介は年内で一度終了させていただきます。今後は市場での話題や流れをみて不定期でのご紹介や、「マーケットフラッシュ」の中で注目テーマやセクターとしてご紹介し、個別銘柄情報をより一層充実させたいと思います。改めてよろしくお願い申し上げます。
なぜ今「商社」にスポットを当てるのか? |
今回は、第3回で触れた「商社セクター」についてもう一度「深堀り」したいと思います。理由は、引き続き予想配当利回りが高いことに加え、PERやPBRなど投資指標の面でみると「割安感」が強く感じられるためです。年が明け、1月以降になると3月決算企業の中から「好配当利回り」銘柄を物色する流れが強まる可能性があり、その場合多くの投資家が関心を寄せてくるかもしれません。
表1は東証一部の主力銘柄から、好配当が予想され、予想PERやPBRが低い銘柄を抽出したものです。三井物産、住友商事、日鉄住金物産、伊藤忠商事など「商社」が上位を独占していることに加え、大手銀行株が上位に入っています。これらの銘柄はそもそも、東証一部に上場し、一定規模以上の時価総額(発行する株式の市場価値の総額)を有していることに表れているように、経営危機などに陥る可能性も相対的に小さく、その意味では不安感の少ない銘柄と考えられます。加えて予想PERやPBRが低いのであれば、まさに投資妙味の大きい銘柄群と考えていいことになるでしょう。
しかし、ここではそもそも「予想配当利回り」とは何かに注意しておく必要があります。予想配当利回りは、会社(またはアナリストなど)が予想した一株当たり年間・配当額が株価の何%に相当するのかを示しています。年間配当を一株当たり50円と予想している会社の株式を一株1,000円で買い付ければ、予想配当利回りは「50÷1,000=5(%)」から「5%」と算出されます。
重要なことは予想配当利回りは、その銘柄を買った瞬間から動くということです。株価が変動すれば、そのたびに動いています。また、時には会社が予想配当金額(配当政策)を変更するかもしれませんので、配当はあくまで、利益から税金を払った後の余剰資金から支払われるのであって、会社に支払う余裕がなければ支払われないこともあるのです。上記の例で言えば会社が予想配当を50円から25円に引き下げれば、予想配当利回りも2.5%に低下してしまいます。
さらに、仮に買った銘柄の株価が値下がりしてしまった場合は、売却時に損失が出る可能性があり、配当収入を加味しても投資採算全体では損失になってしまうケースもあります。
実は現在の商社株については、業績悪化が続き、将来の予想配当が減らされてしまうリスクも、株価下落が続くリスクも残ると考えられます。それゆえに「予想配当利回り」が高くても、投資採算や配当利回りの確保について、必ずしも投資家の思い通りにいくとは限らないのです。商社株を割安感や配当利回りだけで買うことは注意した方が良いと言えます。
同時に株価がすでに大きく下がった後でもあるので、株価が底値圏に接近している可能性もあります。仮に商社株を安値に近い水準で買えれば、値上がり益と好配当の両方を享受できることにもなります。果たして、今の商社株はそれらのうち、どちらに近いのでしょうか。
東証一部主力銘柄から「好利回り」「低PER」「低PBR」銘柄を抽出
取引 | チャート | コード | 会社名 | 株価 | 予想PER | PBR | 予想 配当利回り |
---|---|---|---|---|---|---|---|
8031 | 三井物産 | 1439.5 | 10.8 | 0.63 | 4.45 | ||
8304 | あおぞら銀行 | 419 | 11.5 | 0.87 | 4.39 | ||
8053 | 住友商事 | 1248.5 | 6.8 | 0.63 | 4.00 | ||
9810 | 日鉄住金物産 | 404 | 7.1 | 0.75 | 3.71 | ||
8001 | 伊藤忠商事 | 1430.5 | 7.2 | 0.98 | 3.50 | ||
8316 | 三井住友フィナンシャルグループ | 4586 | 8.5 | 0.72 | 3.27 | ||
8002 | 丸紅 | 651.5 | 6.3 | 0.75 | 3.22 | ||
4634 | 東洋インキSCホールディングス | 477 | 12 | 0.7 | 3.14 | ||
3863 | 日本製紙 | 1928 | 14.9 | 0.46 | 3.11 | ||
8411 | みずほフィナンシャルグループ | 241.6 | 9.5 | 0.76 | 3.10 | ||
2768 | 双日 | 260 | 8.1 | 0.59 | 3.08 | ||
8714 | 池田泉州ホールディングス | 488 | 7.6 | 0.68 | 3.07 | ||
8604 | 野村ホールディングス | 691.8 | 11.5 | 0.98 | 3.04 | ||
8078 | 阪和興業 | 541 | 9.5 | 0.81 | 2.96 | ||
8309 | 三井住友トラスト・ホールディン | 445.2 | 9.9 | 0.73 | 2.92 |
- ※当社スクリーニングツールを用いてSBI証券が作成。データは2015/12/14現在。スクリーニング条件は以下の通りです。
(1)時価総額1千億円以上、(2)予想配当利回りが2%以上、(3)予想PERが15倍未満、(4)PBR1倍未満、これらの全条件を満たす銘柄を予想配当利回りが高い順に並べました。
各社の利益構成の違いがパフォーマンスに差をもたらす |
図1はアベノミクス相場がスタートする直前月である2012/10末を基準に、月終値ベースで日経平均株価と、原油先物(WTI)相場、総合商社7社の単純平均株価を現在までの期間で比較したものです。この間、量的緩和を含む「アベノミクス」の成果を背景に、日経平均株価は約2.2倍になりました。しかし、総合商社7社の平均株価は1.5倍にとどまり、これを大きくアンダーパフォームしています。同じグラフに示されたように原油先物相場が総じて冴えない推移になっていたことが大きな要因です。
ここでの原油先物相場は、あくまで象徴的な意味を持つに過ぎません。銅やニッケル、などの非鉄金属相場や、鉄鉱石、石炭等の市況も商社株に影響します。我が国の商社はこれらの資源・エネルギーにも権益を有しているため、市況の悪化が業績に響きやすいためです。また、どんな資源・エネルギー価格の変動が一番響くかは、会社により異なります。一般的に、以下の資源・エネルギーの変動と大きな関係を有する商社は以下の通りと考えられます。
(1)原油・・・・三井物産、三菱商事、丸紅
(2)鉄鉱石・・・三井物産、伊藤忠、住友商事
(3)石炭・・・伊藤忠、住友商事
(4)銅・・・三菱商事、三井物産、丸紅
商社でパフォーマンストップの双日(2768)は、「エネルギー」と「石炭・金属」の純利益構成比(今年度上半期)が15%と低く、市況変動に左右されにくいというイメージが強いようです。同様に伊藤忠も「金属」「エネルギー・化学品」の粗利益構成比(今年度上半期)が21%と低めになっており、相対的な「好パフォーマンス」につながった可能性があります。
反面、住友商事は「ニッケル」で減損のリスクが高まっており、株価の頭を押さえているとみられます。「金属」と「資源・化学品」を合わせた資産規模は全体(全社項目などの消去前)の28%を占めています。また、エネルギーと金属を一括りにした場合、利益への影響が大きい商社としては三菱商事、三井物産、丸紅の3社があげられますが、3社とも平均よりも低いパフォーマンスになっています。
図1:商社株と日経平均・原油先物相場との比較(2012/10末=1)
図2:商社株とその単純平均株価の推移(2012/10末=1)
- ※2015/12/14現在のBloombergデータを用いて、SBI証券が作成。図1では、2012/10末終値を1として日経平均、原油先物相場(WTI)、総合商社7社平均株価を比較しました。図2では、商社7社個別の株価と7社平均を、やはり2012/10末を1として指数化ました。
商社株への「投資の視点」 |
「商社」の株価に大きな影響を与える原油価格や商品市況については、現状で下げ止まったとは言い切れない状態です。また、図3に示したように、来期にかけて大幅増益が見込まれている企業もなく、目先商社株が市場での人気株になる可能性は小さいように思われます。その意味で、リスク許容度の小さい投資家が、業績の安定性を重視し、ややディフェンシブな志向で銘柄を選ぶなら豊田通商(8015)や伊藤忠(8001)など「非資源」に強い銘柄が中心になると考えられます。なお、豊田通商はそうした相対的な安心感を反映し、「商社」の中では予想PERが高めとなっています。
こうした中、原油先物相場(WTI)は一時1バレル35ドルを割り込むなど、下落が続いています。その価格水準はリーマンショック後の2008/12/19に付けた33.87ドルに接近した水準です。
リーマンショックはその名の通り、世界的規模を持つ金融機関の破たんを巻き込んだ危機であり、世界的な金融危機の到来をも意識させられるほどの不透明感・恐怖感が市場を覆いました。今回、原油価格がリーマンショック時の水準近くまで下げるというのは、もしかすると既に「下げ過ぎ」になっている可能性があります。現在が「金融危機」とは考えにくいためです。ちなみに、原油価格や消費市況悪化のひとつの背景になっているのはドル高で、それは米政策金利の引き上げ観測によりもたらされてきました。12/17(日本時間・早朝)のFOMC(米連邦公開市場委員会)で実際に米金利が引き上げられると、材料出尽くしにより、円高になりやすいという指摘もあります。仮にその指摘が当たれば、円高・ドル安が原油価格や商品市況を押し上げる可能性もありそうです。
リスク許容度の高い投資家であれば、商社株の「大底」を狙って資源・エネルギーのウェイトが高い三菱商事(8058)や三井物産(8031)、住友商事(8053)も長期的には買い場と言えるかもしれません。なお、3社のうち、足元の減損計上リスクが高いと指摘されているのは住友商事なので、同社についてはそれが表面化した後の方が投資タイミングに適しているかもしれません。
「投資の視点」として重要なのは「商社」株は原油価格の下げにおいて、直近では一番厳しかった2014年後半〜2015年・年明けにかけての下げをいったんは織り込んだ形になっているという点です。原油価格の下げを背景とする「商社」株のここからの下げは全体としてみれば、ある程度限定的と言えるかもしれません。
図3:「商社」の純利益(単位・百万円)
- ※BloombergデータをもとにSBI証券が作成。商社7社の前期、今期予想、来期予想の純利益をグラフ化したもの。予想はBloomberg集計の市場コンセンサス。
- ※本ページでご紹介する個別銘柄及び各情報は、投資の勧誘や個別銘柄の売買を推奨するものではありません。