「日銀短観」は景況感改善を示すも、課題は山積み
2013年4月1日に、日本銀行から「全国企業短期経済観測調査」(2013年3月調査)が発表されました。通称「日銀短観」と呼ばれているこの指標は、我が国の代表的な経済指標のひとつです。今回は日銀が10,698社の企業にアンケートを送付し、業況判断や収益計画、設備投資計画等、多くの項目の質問に回答をもらい作成しています。
アンケートのうち、全国の大企業に属する製造業(1,163社)を対象に、業況を尋ねた数値が、通常、「大企業・製造業の業況判断指数」と呼ばれ、最も代表的な指標になります。回答時点(回答期間は今回調査の場合2013年2月25日〜3月29日)での景況感を「最近」、3ヵ月先の見通しを「先行き」としており、今回の調査では、「最近」の業況判断指数が▲8%となりました。これは、アンケートに対し、「最近」の業況が「良い」と答えた企業の割合が、「悪い」と答えた企業の割合を8%ポイント下回っていることを示しています。「良い」と「悪い」の回答が同数であれば±0%で、そこが景況感の良し悪しの分岐点になります。従って「▲8%」というのは、まだまだ「景気は悪い」と思っている企業が、大企業・製造業では多いということを示しているのです。
ただ、前回の2012年12月調査の日銀短観では、この指数が▲12%でした。今回の数値は前回よりマイナスが縮小しているのですから、景況感は改善していると捉えられ、「アベノミクス」が効果を及ぼし始めていると考えることができます。「先行き」の業況判断指数は▲1%となっており、企業は、景気の回復がさらに続くことを予想していると考えることができます。うまくいけば、次回2013年6月の調査ではプラスに転じ「好不況の境目」を上抜ける可能性もありそうです。
もっとも、この3ヵ月(2013年1月〜2013年3月末)に、日経平均株価が19%、ドルが対円で9%上昇したことを考えると、企業マインドの回復は株価や為替相場の方が先行していると言えるかもしれません。日銀短観の中で、生産・営業用設備や雇用人員に関して尋ねた質問では、ともに「余剰」となっており、その水準もあまり改善が認められません。安倍政権や黒田新体制下の日銀にとっては、まだまだやらなければいけないことが多いと言えそうです。
図1:日銀短観/大企業・製造業業況判断指数の推移(%)
- ※日本銀行「日銀短観」(2013年3月調査)の公表データをもとにSBI証券が作成。グラフは大企業・製造業の業況判断指数(「最近」の景況感について、「良い」と答えた企業の割合から「悪い」と答えた企業の割合を差し引いた数字)の推移(3ヵ月ごと)を示している
日銀短観の業種別統計は、決算発表を控えて有効な判断材料に
日銀短観は、日本企業全体の景況感を示すだけにとどまりません。「製造業」や「非製造業」の別、あるいは個別業種ごとでも集計されており、業種ごとの景況感を把握することができます。日銀短観発表後には、こうした業種ごとの「明暗」が、株価騰落に結びつきやすくなります。
下の表1は、「最近の景況感が3ヶ月前に予想したよりも良く、かつ、3ヵ月後も良くなりそうな業種」を掲載しています。わかりやすく言うと、
(1)前回調査(2012年12月)時点の2013年3月の景況感(見通し)
(2)今回調査(2013年3月)時点の2013年3月の景況感(現況)
(3)今回調査(2013年3月)時点の2013年6月の景況感(見通し)
2013年3月時点で、(1)よりも(2)が上回っている業種(3ヶ月前に予想していたよりも足元の業況感が改善している業種)、かつ、(2)よりも(3)が上回っている業種(3ヶ月後には足元の業況感よりさらに改善される見込みの業種)を列挙しました。
さらに踏み込んで考えれば、これらの業種は、今後発表される決算(特に3月決算企業)で、実績が計画を下回る可能性が低く、かつ、来期は「好ダッシュ」が期待でき、業績見通しが明るい業種と言えるかもしれません。
表1:「最近」が3ヵ月前の見通しを上回り、3ヵ月先の見通しも良好な業種
|
3月「最近」から12月「先行き」を |
3月「先行き」から3月「最近」を |
---|---|---|
非鉄金属 |
11 |
5 |
宿泊・飲食サービス |
6 |
5 |
情報サービス |
3 |
4 |
建設 |
5 |
3 |
小売 |
3 |
3 |
不動産 |
3 |
2 |
- ※日銀短観(2013年3月調査)をもとにSBI証券が作成
- ※2013年3月調査の「最近」の業況判断指数が、2012年12月調査時点での「先行き」指数を上回り、かつ2013年3月調査の「先行き」指数の方が高い業種について、その変動率(%※ポイント)を記載
短観「好調業種」の代表的銘柄は?
下の表2は、上記の業種に該当する銘柄を東証一部から抽出し、時価総額順に並べたものです。今回の日銀短観から、好業績が期待できる銘柄群と言えるでしょう。ただし、中には好業績を既に織り込んでおり、株価が大きく上昇している銘柄もありますので、売買のタイミングには注意が必要です。また、実際の業績は、同じ業種でも、企業によって異なる点も注意が必要です。
表2:短観「好調業種」を代表する銘柄(東証一部上場銘柄・時価総額順の上位30銘柄)
コード |
銘柄 |
業種 |
株価 |
時価総額 |
2月末比 |
12月末比 |
---|---|---|---|---|---|---|
不動産業 |
2,846 |
3,957,070 |
23.2 |
38.9 |
||
小売業 |
35,650 |
3,781,526 |
40.2 |
63.2 |
||
不動産業 |
2,930 |
2,582,575 |
24.3 |
40.2 |
||
情報・通信業 |
42,900 |
2,467,182 |
9.3 |
54.0 |
||
不動産業 |
4,165 |
1,982,898 |
32.9 |
46.3 |
||
サービス業 |
15,340 |
1,394,752 |
12.1 |
46.5 |
||
サービス業 |
4,870 |
1,136,116 |
2.3 |
12.3 |
||
建設業 |
1,864 |
1,118,254 |
9.5 |
26.0 |
||
非鉄金属 |
1,253 |
728,780 |
-14.2 |
3.7 |
||
小売業 |
7,250 |
727,175 |
5.2 |
23.5 |
||
建設業 |
2,635 |
682,604 |
3.0 |
-1.5 |
||
情報・通信業 |
2,535 |
570,375 |
20.7 |
41.5 |
||
小売業 |
1,384 |
546,372 |
34.9 |
64.4 |
||
不動産業 |
2,967 |
537,493 |
29.1 |
40.2 |
||
不動産業 |
936 |
499,211 |
33.7 |
49.5 |
||
不動産業 |
786 |
467,113 |
13.1 |
34.8 |
||
サービス業 |
4,070 |
416,985 |
5.9 |
13.4 |
||
不動産業 |
2,132 |
406,276 |
28.0 |
30.2 |
||
不動産業 |
116,000 |
381,779 |
22.9 |
39.4 |
||
情報・通信業 |
161,400 |
381,598 |
-0.7 |
24.1 |
||
情報・通信業 |
1,395 |
368,032 |
0.1 |
21.2 |
||
情報・通信業 |
1,929 |
364,563 |
8.2 |
27.0 |
||
小売業 |
4,630 |
357,850 |
26.8 |
46.1 |
||
非鉄金属 |
261 |
343,188 |
-7.4 |
-10.6 |
||
サービス業 |
2,269 |
342,188 |
-12.7 |
-20.2 |
||
建設業 |
474 |
341,996 |
-0.6 |
-2.1 |
||
情報・通信業 |
10,130 |
320,787 |
7.7 |
55.4 |
||
小売業 |
1,006 |
320,572 |
27.2 |
46.4 |
||
建設業 |
263 |
299,891 |
-4.0 |
-8.0 |
||
不動産業 |
1,955 |
294,454 |
15.4 |
43.2 |
- ※BloombergデータをもとにSBI証券が作成。
- ※業種は東証33業種のため、日銀短観の業種と異なる。このため、「宿泊・飲食サービス」及び「情報サービス」については、東証業種の「情報・通信業」(ただし、通信事業者は除いた)と「サービス業」を対応させた。
- ※株価と時価総額は2013年4月4日現在。2月末騰落比は2013年2月末から2013年4月4日、12月末騰落比は2012年12月末から2013年4月4日までの騰落率を算出。騰落率等のデータは過去の実績であり、将来の運用成果等を保証するものではありません。
- ※ベネッセホールディングスの株価は当社優先市場の大証1部の株価です。
- ※本ページでご紹介する個別銘柄及び各情報は、投資の勧誘や個別銘柄の売買を推奨するものではありません。