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日本株投資戦略 〜「成長戦略」の突破口として期待される「国家戦略特区」〜

2013/8/2
投資調査部 鈴木英之

「成長戦略」の一環としての「国家戦略特区」

第二次安倍政権が発足(2012年12月26日)してから7ヶ月が経過しました。この間に、日経平均株価は概ね上昇基調となり、2012年11月14日(野田前首相が解散表明)からの株価上昇率は、58%(2013年7月29日現在)に達しています。「金融政策」、「財政出動」、「成長戦略」という「3本の矢」からなる「アベノミクス」が、株式市場で評価されたためと考えることができます。

このうち、最も、日本経済および株式市場にインパクトを与えていると考えられるのは、第1の矢である金融政策です。2013年3月に新たに就任した黒田日銀総裁の下、市場からの国債買い入れを2倍に増やし、2年間でマネタリーベースを2倍に拡大させ、消費者物価上昇率を2%に引き下げるという「異次元の金融緩和」を実施。その「アナウンスメント」効果もあり、ドル・円相場は2012年11月14日の1ドル80円から、2013年5月下旬には一時103円台まで円安・ドル高が進みました。

円安で輸出企業が息を吹き返し始めたこと、それを受けて株価が上昇し、市場が活況を呈したこと、それらを背景に、資産効果が高まり、消費が回復に転じるなど、景気への波及効果が拡大しつつあります。

アベノミクス「3本の矢」

これに対して、アベノミクス第3の矢である「成長戦略」の評価は定まらないのが現状です。「成長戦略」は、2013年4月19日、5月17日、6月5日と3度に分けて発表されましたが、第1弾が発表された2013年4月19日の日経平均株価が13,316円であったことを考えると、そこからの上昇率は2.6%(2013年7月29日現在)と、現時点の株式市場の評価は今一つとなっています。

表1は、これまでに発表された成長戦略をまとめたものですが、非常に多岐に及んでいることもあり、市場は、その実現性や効果に疑問を抱いているのかもしれません。本稿の中心的テーマである「国家戦略特区」も、アベノミクス「成長戦略」のひとつという位置づけであり、市場からはまだ、高い評価を得ているとは言い難い政策です。

表1:アベノミクス成長戦略の主な分野と目標、施策

分野

目標

施策

関連産業

日本産業再興

企業支援

開業率10%
3年で設備投資を70兆円(+10%)に
黒字の中小企業を3年で倍増

産業競争力強化法案
個人保証制度見直し
※法人税率引下げ課題

ベンチャーキャピタル
機械株

雇用・人材力

2020年に就業率80%に
※女性(25〜44歳)は同年73%に
6ヶ月以上の失業率を5年で20%減
高度人材認定外国人増加

ハローワーク情報開放
転職受け入れ企業助成金
※移民の受け入れ課題
※解雇規制緩和課題

育児施設関連

技術・IT

5年内に「技術力世界一」
8年で政府情報システム費30%減

科学技術予算戦略的策定
4G携帯実用化制度整備

通信機器

立地・競争力

2020年に世界ビジネス環境3位以内

国家戦略特区(都心容積率)

大手不動産他

公共施設運営民間開放

戦略市場創造

医療・保険

2020年に健康診断受診率80%に
2020年にメタボ人口08年度比25%減
2020年に医療、医療機器、再生医療
市場規模を12兆円に

医療情報電子化・番号制
※混合診療課題

電子カルテ

農業

2020年に農林・水産・食品の輸出1兆円
10年後に農業・農村の所得倍増

農地の集約
※企業の農地所有課題

 

観光

2030年に訪日外国人3千万人
(2012年に836万人)

ビザ発給要件緩和

観光関連

国際展開戦略

貿易

2018年にFTA比率19→70%
2020年に対外直接投資2倍の35兆円
2020年にインフラ輸出の受注10→30兆円

TPPなど自由貿易拡大
外国人が暮らしやすい街づくり
海外雇用支援窓口一本化

倉庫・商社

  • ※各種資料、報道等をもとにSBI証券投資調査部作成。

「国家戦略特区」が「成長戦略」の突破口になる可能性

「国家戦略特区」は、地域を区切って規制の緩和や優遇を行い、国内外の企業を集めて経済を活性化させる仕組みです。前項でも述べた通り、アベノミクス「成長戦略」の一角を占めています。

具体的には、日本の都市の競争力を高め、ニューヨークやロンドンなどに匹敵する国際的なビジネス都市へと発展させ、世界中から技術、資金、人材を集めようというものです。政府は2013年8月末にも、東京、大阪、愛知の三大都市圏を特区に指定する方針と報道(2013年7月26日・日本経済新聞)されています。

安倍首相が2013年6月5日に「内外情勢調査会」で説明したように、国際的なまちづくりには、(1) 外国人でも安心して病院に通える環境、(2) その子供たちが通えるインターナショナルスクールの充実、(3) 職住近接を実現する都市中心部での容積率の緩和、等の規制緩和が必要となります。また、(4) 空港や鉄道等、都市インフラの充実、(5)外資系企業の進出を促す柔軟な雇用システムの整備等も重要であると考えられます。

株式市場が心配しているのは、成長戦略で打ち出している多くの規制緩和が「既得権益」の壁で跳ね返され、実現できないことと考えられます。しかし、実現地域を「特区」に区切り、実験的に実施することにより、規制緩和が前に進む突破口になる可能性は大きいと考えられます。従って、株式市場でも、この「国家戦略特区」に期待する空気が次第に広がってくる可能性が大きいとみられます。

「国家戦略特区」で成長が期待される企業は?

上記したように、政府は、東京、大阪、愛知といくつかの都市を「国家戦略特区」に定め、そこで以下のような規制緩和を実施する方針です。

表2:施策と関連産業

 

施策

関連産業

(1)

外国人医師による診察行為の解禁

医療

(2)

インターナショナルスクールの設置要件の緩和

教育

(3)

公立学校運営の民間開放

教育

(4)

特区内での容積率・用途規制の緩和

不動産

(5)

首都圏空港の発着枠の融通

不動産
陸運・空運

(6)

柔軟な雇用システムの整備

人材派遣

 
図1:都心オフィス空室率(右軸)と不動産株価指数(左軸)

仮にこれらが実施に移されれば、特に、「表2」(3)〜(5)の3分野の民間企業に大きなメリットをもたらすことができると考えられます。

(3)公立学校運営の民間開放
(4)特区内での容積率・用途規制の緩和
(5)首都圏空港の発着枠の融通

特に(4)の分野では、都市再開発案件の高層化が期待できるうえ、オフィス需要の底上げや高止まりしているオフィス空室率(図1参照)の低下が期待できることから、大手不動産にメリットが大きいと考えられます。
また、(5)の分野では、来日旅客数の増大も期待でき、航空各社へ追い風になる他、空港等施設を有する企業にもメリットが想定されます。無論、空港へのアクセスが改善する必要が生じることや、(4)での再開発活性化の恩恵も想定され、鉄道各社にも追い風になるとみられます。
(3)公立学校運営の民間開放では、教育事業のノウハウを有する学習塾業界に追い風となるとみられます。

以上から、「国家戦略特区」でメリットを受ける企業を、以下にいくつか紹介したいと思います。

表3:「国家戦略特区」で恩恵が期待される企業の例

銘柄コード

企業名

株価

業種

投資のポイント

8801

2,963

不動産

不動産最大手。ビル賃貸が中核。賃貸用不動産の含み益が一株あたり1,044円。

8802

2,491

不動産

丸の内高層化等、都心部ビル賃貸に強い。賃貸用不動産の含み益が一株あたり1,405円。

8830

4,105

不動産

東京都心部オフィスビルに集中。賃貸用不動産の含み益が一株あたり2,104円。

9006

818

鉄道

羽田空港乗り入れで同空港拡張メリット。品川再開発関連。

9706

1,836

不動産

羽田空港ターミナルビル家主。羽田発着枠拡大はメリット。

2181

2,509

人材派遣

人材派遣第2位(上場では最大手)。雇用規制緩和は追い風。

2168

65,700

人材派遣

人材派遣草分け。会長の竹中平蔵氏が産業競争力会議メンバー。

9783

3,380

教育

「進研ゼミ」で知られる通信教育最大手。語学・グローバル人材教育も。

  • ※Bloombergデータや報道、各種資料をもとにSBI証券が作成。株価は2013年7月31日の終値を表示。
    不動産各社の賃貸用不動産データは、各社の2013年3月期末公表データをもとにSBI証券が作成。
  • ※本ページでご紹介する個別銘柄及び各情報は、投資の勧誘や個別銘柄の売買を推奨するものではありません。

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