株価は三角保ち合いを上放れ「円安」とともに上昇
株価が堅調に上昇しています。図1にも示されています通り、日経平均株価は、2013年5月22日に本年の高値15,627円を付けた後、急落・急反発を経て、テクニカル上「三角保ち合い」と呼ばれる長い揉みあい相場に入りました。しかし、11月中旬に株価はようやくこれを上放れることに成功しました。「保ち合い放れは、放れた方に付け」と言われますので、まさにその通りになっていると言えます。
図1:日経平均株価と為替相場(ドル・円、ユーロ・円)
こうした大きな変化の契機になったのが、11月8日(金)に発表された米国雇用統計であったことは、既に別の機会で説明させて頂いている通りです。米国経済の地力が改めて明らかになったことで、米国株の上昇が加速し、市場のリスク許容度が高まることにより、外為市場で円が対ドル、対ユーロで下落しやすい展開となりました。改めて図1をご覧になれば、お分かり頂けます通り、足元の株高が明らかに円安・ドル高、円安・ユーロ高を伴っていることがわかります。
それでは、この円安・ドル高、円安・ユーロ高は続くのでしょうか。米国では2014年2月以降に就任が予定されているイエレン次期FRB(連邦制度準備理事会)議長は、緩和的金融政策に前向きとみられています。
米国の金融緩和はドル安・円高要因ですので、同議長就任後は、円高になる可能性もある訳です。また、欧州経済は景気回復が遅れており、ECB(欧州中央銀行)は、11月13日から政策金利を、それまでの0.5%から0.25%に引き下げました。欧州の金融緩和が長期化することは、ユーロ安・円高要因になります。FRBやECBの姿勢を見る限り、円高に再び回帰するリスクもあると考えられます。
しかし、それでも今後は、円安トレンドが強まる可能性が大きくなってきたと考えられます。世界的に緩和的金融政策が長期化する公算が大きくなってきたことで、市場のリスク許容度が高まり、「リスク回避の円買い」が生じにくいためです。さらに、仮にFRBやECBが現状のような緩和的金融政策を続けても、外為市場に円安をもたらす大きな理由があります。
円安進行の可能性は大きい〜円安メリット関連はここから
図2:日米金融緩和とドル/円
図2をご覧ください。
これは、以前にもご紹介した円・ドル相場と、日米中央銀行の総資産の比較をひとつのグラフにまとめたものです。現在、FRBは月850億ドルのペースで市場から債券を購入しています。
FRBの総資産はそれに合わせて日々膨らんでゆくことになります。FRBの総資産が膨らむことは、それだけ、FRBが市場にお金を供給していることを意味しますので、金融緩和の度合いが強い(米金融緩和はドル安要因)ことを意味します。
しかしここで重要なことは、現在は日銀も同様に市場から債券を購入し続けているということです。その結果、日銀の総資産も日々膨らんでいるのです。
日銀の総資産拡大は円安要因です。
前段落で示した米国の金融緩和というドル安要因と、日本の金融緩和という円安要因について、どちらが強いか計算しなければ、為替相場の方向性を理解できないことになります。
図2は、日銀の金融緩和の方が、FRBの金融緩和よりも強いことを示しています。事実、2013年3月末から2013年10月までの間、FRBの総資産は20%増えましたが、日銀は31%も増えたのです。さらに今後についても考えた場合、FRBの債券買い入れ額縮小開始時期は2014年3月という見方が多いようですが、日銀は脱デフレが明確化しない限り、2015年3月までは同じようなペースで債券を買い入れると予想されます。即ち、図2における「日銀の相対的な金融緩和の強さ」を示す線は、当面、右肩上がりになる可能性が大きく、為替は円安・ドル高に向かいやすいと考えられます。
図3:日欧金融緩和とユーロ/円
その意味で、より「強い傾向」を示しているのがユーロ・円相場です。図3をご覧ください。上記の2013年3月末から同10月までの間、ECBの総資産は12%も逆に減っているのです。
なぜでしょうか。
欧州金融危機の非常事態が終わり、むしろ欧州の銀行の関心事は、財務体質の健全化に向いているためと考えられます。ECBは確かに利下げを実施しましたが、ECBの総資産が縮小する中で、効果は限定的とみられます。
そもそも、「ECBが利下げをしたのに、なぜ、ユーロ高・円安になったか」を考えるべきでしょう。ユーロ高・円安への圧力は意外に大きいのではないでしょうか?
円安が進展した時に株価上昇の可能性が大きい業種・銘柄は?
下図では「相関係数」をもとに、為替(対ドル・対ユーロ)と業種別株価指数の相関関係を表したグラフを表示しています。相関係数とは、2 つの値の間の相関(類似性の度合い)を示す統計学的指標です。値とその解釈は下表をご覧ください。
相関係数の評価
これまで述べてきた通り、今後、外為市場で円が対ドル、対ユーロで下げると予想される時にその恩恵を享受できそうな銘柄を選択することは、好パフォーマンスへ近づく近道と言えるでしょう。図4は、外為市場でドル高・円安が進んだとき、もっとも株価上昇しやすい業種から順にランキングしたものです。同様に図5は、外為市場でユーロ高・円安が進んだとき、もっとも株価が上昇しやすい業種から順にランキングしています。前者では、輸送用機器がトップとなっていますが、後者では機械になっています。従って、一口に円安といっても、対ドル中心の円安か、対ユーロ中心の円安かにより、主役は異なってくることがお分かりいただけるかと思います。
図4:「ドル高・円安」と業種別指数の相関係数
BloombergデータをもとにSBI証券が作成。業種別株価指数とドル・円相場の過去300週のリターン・データ(前週末比上昇率)を比較し、相関係数の高い順にランクした。一般的に、相関係数は-1から1までの値を取り、1に近いほど同一方向の動きをとる傾向にあることを示している。
図5:「ユーロ高・円安」と業種別指数の相関係数
BloombergデータをもとにSBI証券が作成。業種別株価指数とユーロ・円相場の過去300週のリターン・データ(前週末比上昇率)を比較し、相関係数の高い順にランクした。一般的に、相関係数は-1から1までの値を取り、1に近いほど同一方向の動きをとる傾向にあることを示している。
図4にもある通り、外為市場で円安・ドル高が進んだ時、上昇しやすい業種を相関係数の値が高い順にあげると、輸送用機器、電気機器、精密、ガラス・土石、化学の順になっています。このうち、上位2業種について、さらにその中で、相関係数が高い順に表示したものが、表1(輸送用機器)、表2(電気機器)となっています。
輸送用機器については、我が国の製造業の代表格でもあるトヨタ自動車が感応度も最も高いのが特徴です。輸送用機器という業種自体が、円安・ドル高で最も感応度が高くなっているため、外為市場で円安・ドル高が進むと考えたときは、トヨタに投資することが最も素直であり、有効でもある可能性が高いことを示しています。ただ、ホンダや日産に比べると、富士重工やデンソーの方が相関係数が高いというのは興味深い傾向です。
電気機器については、かなり興味深い傾向です。いわゆる総合電機8社(日立、東芝、三菱電、NEC、富士通、パナソニック、ソニー、シャープ)の中で、ベスト10以内にランクインしているのが、日立(6501)しかないためです。確かに、1円/ドルの円安・ドル高で、営業利益に与えるプラスの影響は、パナソニックは10億円と限定的で、ソニーに至っては▲30億円とマイナスになっています。総合電機の多くは、現地生産が進展しており、円安・ドル高のメリットはなくなりつつあるのが現状です。
表1:ドル高・円安で上昇しやすい「輸送用機器」銘柄
東証一部「輸送用機器」の時価総額500億円以上の銘柄について、その過去300週の上昇率が、ドル・円相場の過去300週の上昇率との比較で「相関係数」が高い順に表示。上位ほど、円安・ドル高の時に上昇しやすい傾向がある。
表2:ドル高・円安で上昇しやすい「電気機器」銘柄
東証一部「電気機器」の時価総額500億円以上の銘柄について、その過去300週の上昇率が、ドル・円相場の過去300週の上昇率との比較で「相関係数」が高い順にランキング。上位ほど、円安・ドル高の時に上昇しやすい傾向がある。
最後に、外為市場でユーロ高・円安が進んだとき、もっとも株価が上昇しやすい機械について、そのうちでユーロ・円相場との相関係数が最も高い順にランキングを表示しています。このうち、日立建機(6305)、コマツ(6301)といった建機関連が上位に入っているのは意外かもしれません。
これらは、中国関連としてのイメージがあるためです。ただ、ユーロ高が欧州経済の回復を反映するものであれば、欧州経済の回復は、中国経済拡大の必要条件です。その他では、機械に多く使われるベアリング・メーカーが多く入っているのも特徴と言えましょう。
表3:ユーロ高・円安で上昇しやすい「機械」銘柄
銘柄コード |
銘柄名 |
相関係数 |
---|---|---|
6305 |
0.531 |
|
6471 |
0.525 |
|
6301 |
0.518 |
|
6586 |
0.507 |
|
6367 |
0.498 |
|
6472 |
0.495 |
|
6473 |
0.493 |
|
6268 |
0.486 |
|
6273 |
0.478 |
|
6103 |
0.474 |
東証一部「機械」の時価総額500億円以上の銘柄について、その過去300週の上昇率が、ユーロ・円相場の過去300週の上昇率との比較で「相関係数」が高い順にランキング。上位ほど、円安・ユーロ高の時に上昇しやすい傾向がある。
- ※本ページでご紹介する個別銘柄及び各情報は、投資の勧誘や個別銘柄の売買を推奨するものではありません。
- ※上記相関係数はあくまで過去のデータであり、将来の株価パフォーマンスを示唆するものではありません。