長期資金が注目する投資指標「ROE」(株主資本利益率)
(1)東京市場への国内長期資金流入が重要〜「年金」の運用多様化に期待
2014年の東京株式市場では、日経平均株価が、2013年末終値16,291円31銭から見ると、低水準に甘んじています。理由は様々あげられています。米国の量的緩和縮小で新興国経済・通貨に不安が強まったことや、中国経済の変調、ウクライナ情勢への不安などは、その代表例と言えましょう。ただ、それだけでしょうか。
日本経済の回復・発展を期待し、長期的な資金がしっかりと流入しているのでしょうか。そう問われると、正直、疑問を感じざるを得ないのも現実です。特に、国内投資家からの資金流入があまり見られないことは、東京株式市場にとり、大きな課題と考えられます。2013年の東京株式市場は、海外投資家が15.1兆円の買い越しとなる一方で、国内法人は4.8兆円、国内個人は8.8兆円の売り越しになりました。そして、国内法人の売り越し額のうち、実に「信託銀行」が4.0兆円も占めていました。ちなみに、主体者別売買動向における「信託銀行」は、ほぼ年金運用の資金とみられます。長期資金を運用する最も代表的な投資家である「年金」が、日本株式市場に資金を入れていないというふうに見えるのです。
図1は、投資主体者別売買動向の「信託銀行」の、週次での売買動向をグラフ化したものです。「信託銀行」すなわち「年金」資金は、アベノミクス相場で最も上昇ピッチが速かった2013年の前半を、一貫した売り越し姿勢で臨んでいることがわかります。一般的に「年金」資金は、安値で買い、高値では売って、運用資金に占める株式比率を金額ベースで一定の範囲内に抑えようとします。そのため、典型的な逆張り手法で運用することになるのです。
我が国の年金資金を運用するGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)は、運用資産129兆円(2013年末)を抱える世界最大の年金基金です。その資金は2013年末現在、55%が国内債券、17%が国内株式での運用になっており、国内債券の比率が圧倒的になっています。国内債券は元本の変動が小さくリスクは小さいものの、インフレ高進時には、実質的に価値が目減りするリスクがあります。即ち、GPIFの運用はデフレ対応型と言えるかもしれません。安倍政権が「脱デフレ」を掲げた以上、GPIFの運用手法も見直さざるを得ないでしょう。
事実、安倍政権は2013年6月末にまとめられた成長戦略で、GPIFの運用資産分散化を盛り込んでいます。今後、株式のウェイトが見直される可能性も十分ありそうです。
図1:投資主体者別売買動向「信託銀行」売買動向と日経平均株価(週足)
東証、BloombergデータをもとにSBI証券が作成。2013年1月11日〜2014年3月7日公表データの推移を表示。
(2)多くの長期投資家が重視する「ROE」(株主資本利益率)とは?
「年金」基金のような長期的な投資家が重視しているひとつの投資指標があります。それがROE(株主資本利益率)です。純利益を株主資本(純資産)で割って求められ、一般的には、数字が高いほど投資に値すると考えられます。東京証券取引所の集計によると、2012年度の一部上場企業のROE(平均・前期)は5.28%となっていますので、それよりも高ければ「平均以上」と言えるでしょう。表2は、東証一部上場銘柄について、直近決算期ベースのROEが高い順に「単純」に羅列したものです。
なお、ROEの計算に用いる「株主資本」は、通常、「期中平均値」すなわち「(前期株主資本+前々期株主資本)÷2」を用いることが多い点に注意が必要です。そして、「株主資本」は株主が出資という形で払い込んだお金に留保された利益を積み立てたものと考えられます。わかりやすく表現すれば「株主が払い込んだ資本等をいかに効率的に運用したか」を示すものと言えます。表3はその計算例です。
限られた資本を有効的に使い、利益をあげた企業を評価する投資指標と言えましょう。一般的な言葉で言えば「資本効率が良い」企業といえ、その企業の実力の一端を示していると考えられます。
2014年3月16日付日本経済新聞の紙面トップは「攻めの借金、事業拡大」という見出しで、上場企業の有利子負債総額(2013年末)が前年比19兆円増・175兆円(2000年以降で最高)に増えたことを報じています。有利子負債(借金)の増加という一見ネガティブな現象を、前向きな「攻めの」という形容詞を付けて表現している背景には「上場企業は、自己資本比率を高め、安全性を高めてきたので、そろそろ資本の効率性を重視する(ROEを高める)べきであり、現在なら有利子負債拡大を前向きに捉えてよい」というメッセージが込められているように思われます。
表2:高ROEランキング(東証一部・前期実績)
コード |
銘柄名 |
ROE |
||
---|---|---|---|---|
4344 |
ソースネクスト |
69.7% |
||
8918 |
ランド |
58.4% |
||
2372 |
アイロムホールディングス |
55.6% |
||
2353 |
日本駐車場開発 |
49.9% |
||
6911 |
新日本無線 |
49.7% |
||
2183 |
リニカル |
46.3% |
||
6054 |
リブセンス |
45.6% |
||
6932 |
遠藤照明 |
44.6% |
||
2432 |
ディー・エヌ・エー |
41.1% |
||
2764 |
ひらまつ |
40.2% |
BloombergデータをもとにSBI証券が作成。「株主資本」には、「期中平均値」を使用。
表3:「ROE」の計算例(ソースネクスト)
主要財務指標 |
前期 |
前々期 |
||
---|---|---|---|---|
売上高 (百万円) |
5,156 |
5,287 |
||
純利益(百万円) |
805 |
421 |
||
純資産(百万円) |
1,558 |
751 |
BloombergをもとにSBI証券が作成。前期は2013年3月期で、前々期は2012年3月期。
ただし、「ROE」は使い方に注意が必要
すべての投資指標がそうであるように、ROEも万能の指標ではありません。どのような利点と、注意点があるのかをチェックしておく必要があります。「表4」は、表2でご紹介した「高ROE銘柄」のパフォーマンスを検証したものです。高ROE銘柄(10銘柄)の平均騰落率は、過去1ヵ月、過去3ヵ月では日経平均株価に劣り、1年、3年では同平均株価に勝る結果になっています。長期投資家に注目されやすい指標だけに、成果も長期保有で表れやすいと考えることができます。
ただ、「高ROE銘柄」の時価総額に注目する必要がありそうです。10銘柄の平均は522億円となっています。仮に時価総額がその金額と同じ企業があったならば、東証一部1,778銘柄を2014年3月14日現在の時価総額順に並べると、その第800位に位置すると考えられますので、銘柄は中・小型株が中心になりやすいということです。このことは、設備投資に多額の資金を要する重厚長大型の企業(多くは時価総額が大きい)よりも、資産をあまり持たず身軽な経営を行う新興の中小型株の方が上位になりやすいことを意味しています。反面、表4の第2位に入っているランド(8918)のように、株価が極端に低位の銘柄も含まれています。「印象」ではありますが、投資に値する銘柄か否か、吟味する必要がありそうな銘柄も入ってきやすいとみられます。
前述しましたように、ROEは、純利益を株主資本(純資産)で割って求められます。従って、純利益が十分大きくなくとも、株主資本が小さければ「高ROE」になってしまうこともあります。株主資本が少ないことは、財務体質の面で問題になることが多くなります。ROEを駆使して銘柄を選択するのは、そのあたりの事情にも考慮する必要がありそうです。
表4:東証1部、高ROE銘柄一覧(降順)
コード |
銘柄名 |
ROE |
株価 |
時価総額 |
騰落率 |
|||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|
1ヵ月 |
3ヵ月 |
1年 |
3年 |
|||||
4344 |
ソースネクスト |
69.7% |
720 |
228 |
+12.1% |
-12.2% |
+257.3% |
+737.0% |
8918 |
ランド |
58.4% |
15 |
46 |
0.0% |
-6.2% |
+66.7% |
+67.1% |
2372 |
アイロムホールディングス |
55.6% |
794 |
81 |
+0.5% |
-15.6% |
+41.8% |
+359.9% |
2353 |
日本駐車場開発 |
49.9% |
107 |
369 |
+3.9% |
+43.2% |
+36.1% |
+214.9% |
6911 |
新日本無線 |
49.7% |
309 |
121 |
-10.2% |
-23.7% |
+43.7% |
+38.6% |
2183 |
リニカル |
46.3% |
860 |
106 |
-3.0% |
-24.6% |
-43.0% |
+154.4% |
6054 |
リブセンス |
45.6% |
1,353 |
375 |
-29.2% |
-39.6% |
+40.8% |
- |
6932 |
遠藤照明 |
44.6% |
1,891 |
279 |
-6.4% |
-10.1% |
-29.4% |
+370.7% |
2432 |
ディー・エヌ・エー |
41.1% |
1,988 |
2,998 |
-8.9% |
-5.3% |
-19.5% |
-29.4% |
2764 |
ひらまつ |
40.2% |
667 |
324 |
-8.1% |
+7.4% |
-3.8% |
+350.7% |
参考 |
10銘柄平均 |
50.1% |
870 |
522 |
-4.9% |
-8.7% |
+39.1% |
+251.5% |
日経平均株価 |
- |
14,328 |
2,709,258 |
-1.7% |
-6.6% |
+12.2% |
+39.2% |
BloombergデータをもとにSBI証券が作成。株価、時価総額は2014/3/14終値基準。騰落率は、1ヵ月前(2014/2/14 終値)、3ヵ月前(休日を考慮し2013/12/13 終値)、1年前(2013/3/14 終値)、3年前(2011/3/14 終値)と株価(2014/3/14 終値)比較して表示。10銘柄平均は単純平均。騰落率は過去のデータであり、掲載銘柄の将来株価を示唆するものではない。
「ROE」ランキングを工夫してあぶり出される銘柄は?
(1)自己資本比率を加味した「高ROEランキング」
ROEが高い銘柄のランキングには、過小資本の銘柄が入りやすいことは、前項でご説明した通りです。そこで、高ROEランキングに「自己資本比率50%超」という条件を付加したものが「表5」になります。「自己資本比率50%超」ということは「借入金」の総資産に対する比率が半分未満となりますので、有効な目安になると思います。ちなみに、東証一部上場銘柄(全産業)・1銘柄あたりの平均自己資本比率は48.8%(前期実績)ですので、その意味でも「平均以上の財務安定性」を持つことになります。
過去のパフォーマンスについても、表4と同様に付け加えてあります。相対的に財務体質の良い銘柄に絞ったものの、過去のパフォーマンスは下がっていません。であれば、投資対象として検討する価値はありそうです。
表5:「高ROE銘柄」(自己資本比率50%超)の株価、及びその騰落率
コード |
銘柄名 |
ROE |
自己資本 |
時価総額 |
騰落率 |
|||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|
1ヵ月 |
3ヵ月 |
1年 |
3年 |
|||||
2372 |
55.6% |
68.9% |
80 |
-1.0% |
-16.9% |
+39.7% |
+352.9% |
|
2183 |
46.3% |
60.0% |
104 |
-5.1% |
-26.1% |
-44.2% |
+149.1% |
|
6054 |
45.6% |
78.5% |
350 |
-34.0% |
-43.7% |
+31.1% |
- |
|
2432 |
41.1% |
63.5% |
3,016 |
-8.4% |
-4.8% |
-19.1% |
-28.9% |
|
3092 |
40.2% |
53.5% |
2,914 |
+26.0% |
+4.3% |
+142.4% |
+137.4% |
|
4716 |
38.4% |
56.6% |
5,034 |
-7.5% |
+0.6% |
-3.4% |
+10.9% |
|
2371 |
37.6% |
76.1% |
3,928 |
+1.9% |
-8.5% |
+64.3% |
+230.3% |
|
3064 |
35.4% |
50.7% |
1,414 |
+17.6% |
+16.2% |
-6.3% |
+1069.8% |
|
3046 |
32.4% |
56.1% |
613 |
+1.8% |
-40.5% |
-50.2% |
+702.7% |
|
3667 |
32.3% |
74.4% |
132 |
-9.6% |
-13.8% |
+124.8% |
- |
|
参考 |
10銘柄平均 |
40.5% |
63.8% |
1758 |
-1.8% |
-13.3% |
+27.9% |
+328.0% |
日経平均株価 |
- |
14,328 |
2,709,258 |
-1.7% |
-6.6% |
+12.2% |
+39.2% |
BloombergデータをもとにSBI証券が作成。東証一部上場銘柄のうち、自己資本比率が50%超の企業について、高ROE(前期実績)順にランキングを表示。株価、時価総額は2014/3/14終値基準。騰落率は、1ヵ月前(2014/2/14 終値)、3ヵ月前(休日を考慮し2013/12/13 終値)、1年前(2013/3/14 終値)、3年前(2011/3/14 終値)と株価(2014/3/14 終値)比較して表示。10銘柄平均は単純平均。騰落率は過去のデータであり、掲載銘柄の将来株価を示唆するものではない。
(2)時価総額を加味した「高ROEランキング」
ROEが高い銘柄のランキングから、財務リスクの大きい銘柄を除外する方法は、自己資本比率による絞込みだけにとどまらないと思います。例えば、市場がその銘柄に一定の「信認」(上場廃止リスクは小さいとみなすこと)を置いているという意味で時価総額を使うことも可能だと思います。「表6」は、高ROEランキングに「時価総額5千億円以上」という条件を付加したものです。過去のパフォーマンスについても、表4・表5と同様に付け加えてあります。
東証一部上場1,778銘柄のうち、時価総額が5千億円を超える企業は1割弱に相当する172銘柄しかありません。既に相当のふるいをかけた状態で、ROEの高い銘柄を抽出している形です。それでも、表6にもありように、3ヵ月以上の期間では、好パフォーマンスになっていることが、ご理解いただけると思います。
このように、単純な高ROEランキングで抽出される銘柄を、自己資本比率や時価総額でさらに絞り込むことにより、財務リスクや上場廃止リスクを抑えることもできると考えられます。ぜひ、ご参考いただければと思います。なお、ROEはよく知られた投資指標であり、結構「奥深い」指標です。また、過去のデータを中心とする分析になるので、高ROEが将来も続くか否か、アナリストの業績予想も参考にすると、より有効かと思われます。この、投資指標については、また、機会を改めて、ご説明できればと思っています。
表6:「高ROE銘柄」(時価総額5千億円以上)の株価、及びその騰落率
コード |
銘柄名 |
ROE |
自己資本 |
時価総額 |
騰落率 |
|||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|
1ヵ月 |
3ヵ月 |
1年 |
3年 |
|||||
4716 |
38.4% |
56.6% |
5,034 |
-7.5% |
+0.6% |
-3.4% |
+10.9% |
|
9201 |
34.4% |
47.9% |
8,932 |
-0.4% |
-3.4% |
+10.5% |
- |
|
1878 |
30.5% |
30.2% |
7,867 |
+3.7% |
+2.8% |
+19.6% |
+7.1% |
|
2413 |
27.3% |
76.1% |
5,026 |
+2.2% |
+25.7% |
+80.6% |
+326.3% |
|
7270 |
22.8% |
37.8% |
20,801 |
-3.8% |
-6.6% |
+68.4% |
+360.5% |
|
4689 |
22.6% |
74.2% |
32,902 |
-6.7% |
+1.1% |
+34.4% |
+89.3% |
|
2914 |
19.1% |
49.1% |
60,220 |
-8.2% |
-14.6% |
-3.8% |
+88.5% |
|
9983 |
18.5% |
65.4% |
38,011 |
+3.6% |
-5.9% |
+18.3% |
+213.5% |
|
7205 |
17.9% |
33.1% |
8,337 |
-0.7% |
-3.0% |
+33.0% |
+273.0% |
|
7202 |
17.5% |
46.3% |
10,198 |
-2.8% |
-1.6% |
+1.5% |
+90.8% |
|
参考 |
10銘柄平均 |
24.9% |
51.7% |
19733 |
-2.1% |
-0.5% |
+25.9% |
+162.2% |
日経平均株価 |
- |
14,328 |
2,709,258 |
-1.7% |
-6.6% |
+12.2% |
+39.2% |
BloombergデータをもとにSBI証券が作成。東証一部上場銘柄のうち、時価総額が5千億円以上の銘柄について、高ROE(前期実績)順にランキングを表示。株価、時価総額は2014/3/14終値基準。騰落率は、1ヵ月前(2014/2/14 終値)、3ヵ月前(休日を考慮し2013/12/13 終値)、1年前(2013/3/14 終値)、3年前(2011/3/14 終値)と株価(2014/3/14 終値)比較して表示。10銘柄平均は単純平均。騰落率は過去のデータであり、掲載銘柄の将来株価を示唆するものではない。
- ※本ページでご紹介する個別銘柄及び各情報は、投資の勧誘や個別銘柄の売買を推奨するものではありません。