アナリストが高成長を見込む銘柄は?
このレポートでは、「グロース(成長)株投資とは何か」について考えてみたいと思います。
まずは、表1をご覧ください。弊社スクリーニングツールを使い、グロース株の抽出を試みたものです。 スクリーニング条件は以下の通りです。
表1:高い成長率を続けている「グロース銘柄」
取引 |
チャート |
コード |
銘柄名 |
PER |
PBR |
ROE |
経利増益率 |
3年売上成長 |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|
3668 |
33.1倍 |
24.2倍 |
60.4% |
211.0% |
110.1% |
|||
3679 |
101.8倍 |
31.3倍 |
40.3% |
32.3% |
76.1% |
|||
2461 |
34.2倍 |
13.8倍 |
34.9% |
34.5% |
41.0% |
|||
2413 |
59.9倍 |
14.8倍 |
28.3% |
16.6% |
38.0% |
|||
2362 |
36.0倍 |
10.5倍 |
39.1% |
80.7% |
37.1% |
当社スクリーニングツールを用いてSBI証券投資調査部が作成。網掛け銘柄は表2と重複している銘柄。PERは会社予想ベース。ROEは前期実績。スクリーニング条件を満たす銘柄を過去3年間の売上高成長率の高い順に5社表示。
ここで、もうひとつスクリーニングをご紹介したいと思います。以下の条件をもとに、アナリストが将来高い成長を見込んでくる銘柄を抽出してみました。なお、アナリスト予想は、Bloomberg調べですので、弊社スクリーニングツールでは抽出できません。全条件を満たす銘柄から、今後3年間の予想増益率が高い順に5社並べたものを表2としてご紹介しています。(6月11日現在)
表2:アナリストが今後3年間高成長を見込む「グロース株」
取引 |
チャート |
銘柄コード |
会社名 |
今期増益率 |
3年平均増益率 |
PER |
PBR |
---|---|---|---|---|---|---|---|
2461 |
64.6% |
54.6% |
34.2倍 |
13.8倍 |
|||
3187 |
70.9% |
47.5% |
62.1倍 |
13.1倍 |
|||
2492 |
84.8% |
42.8% |
47.2倍 |
17.6倍 |
|||
2440 |
35.3% |
29.1% |
28.5倍 |
5.3倍 |
|||
2413 |
33.0% |
26.9% |
59.9倍 |
14.8倍 |
BloombergデータをもとにSBI証券が作成。増益率は営業利益が対象。PERは今期予想。予想はすべて6月5日現在の市場コンセンサス。
PERは会社予想ベース。ROEは前期実績。
表1で抽出された銘柄は、過去3年高い売上成長を遂げており、かつ今期も大幅増益が見込まれている銘柄です。しかもROEが高いため、資本を効率的に利益にする力(稼ぐ力)を有しているとみられますので、中期的にも高い利益成長率が期待できます。このため、市場はPER(株価収益率=株価÷一株利益)やPBR(株価純資産倍率=株価÷一株純資産)で高い評価を与えています。
ここで興味深いのは、表1で抽出された銘柄のうち2銘柄が表2でも重複しているという点です。「グロース株」として重複されるのは、確かに、将来の利益成長ですが、ベースとしてのこれまでの実績や、現状での収益力の裏付けがあればこそ、アナリストも中期的な利益成長を予想できるという側面がありそうです。このように、弊社スクリーニングツールを用いることで、「グロース株」の抽出を行うことが可能になっています。
ちなみに、表1・表2とも、銘柄の過半は「サービス業」に属しています。ご存知の通り、日本経済は成熟化しつつあるため、成長を予想されている企業の多くが「サービス業」になっていることは、単なる偶然ではないと考えられます。また、一般消費者と医師・製薬会社をネット上で結びつける独自のビジネスモデルを展開するエムスリー(2413)など、新たなビジネスモデルを展開する企業が多くなっています。
投資家は、アナリストの予想や、世の中のトレンドなどを自分で分析・判断したうえで、これらのグロース株への投資判断をすることになります。そして、予想通りまたはそれ以上に、その会社が成長すれば、市場の評価もそれに応じて高くなると期待されます。また、当面の業績が予想以上に伸長すれば、これらの銘柄の中期的な成長予想が高まり、株価が上昇することも期待されます。
「グロース株投資」では、企業の将来性や成長性が最も重要
(1)グロース株とは〜高い成長が見込めるなら高PER・高PBRには目をつぶることも
一般的に「グロース株」とは、その企業の将来性や成長性に注目し、株価の上昇が期待できる銘柄を言います。PER(株価収益率)やPBR(株価純資産倍率)などの投資指標では、高めに評価されるのが、一般的になっています。
上記でもご紹介したエムスリー(2413)を例に、ご紹介したいと思います。同社は、2004年9月に東証マザーズに上場。上記したような独自のビジネスモデルを評価され、株式市場では初めから高めの評価を得ていました。図1にある通り、2006年3月末当時、同社の時価総額は1,626億円ありましたが、2006年3月期の純利益は9.9億円ですので、PER(実績)164倍という高い評価(※注)を得ていたことになります。しかし、同社の業績はその後も拡大基調となり、時価総額もそれに応じて増加基調となりました。2006年3月の時点では高PERでしたが、その後業績が拡大し、時価総額も増加したため、2006年3月時点での長期投資は成功した形となっています。
このように、「グロース株投資」は、仮に今後高い成長が続くと予想されるならば、高めのPERやPBRには、ある程度目をつぶっても、投資を実行することで、長期的な投資成果を狙う投資戦略と表現することができます。これに対し「バリュー株投資」は、成長性よりもPERやPBRでみた割安感が重要であり、対照的な投資戦略と考えることができます。
- (注)PER=株価/一株当たり純利益
- =一株当たりの時価総額/一株当たり純利益
- =時価総額/純利益・・・・時価総額が純利益の何倍(何年分)かを示します。
図1:「グロース株」の実例(2413 エムスリー)
Bloomberg、会社公表数値をもとにSBI証券が作成。横軸は西暦で、その年の3月に終わる1会計年度を示している。
(2)SNS関連と「グロース株投資」
業績が様変わりになると予想されるSNS関連については、グロース株投資の観点からどう考えるべきでしょうか。そもそも、冒頭の表1にはなぜ、掲載されていないのでしょうか。
図2は、ミクシィ(2121)の時価総額と業績推移をみたものです。同社の株価は2014年5月の1ヵ月で2.3倍になり、同月の東証マザース市場のけん引役となりました。5月14日に決算発表を行い、2015年3月期の売上高が前年比2.3倍、純利益が60億円(前期は2億円の赤字)と、様変わりになる見通しを発表したことが理由です。スマホ向けのゲーム「モンスターストライク」が急拡大し始め、収益への貢献が見込まれるためです。
ちなみに、スマートフォンの世界販売台数は2011年に5億台に達し、2013年には10億台と急拡大しており、スマホ向けのゲームは、文字通り「1度のヒット」で巨額の利益をあげることが可能な市場に変化しています。その象徴がガンホーで、「パズドラ」のヒットにより、業績は急拡大し、株価(時価総額)も大きく増えました(図3)。ミクシィの投資家にとり、ガンホーの業績推移や株価形成は参考になると予想されます。
なお、ガンホーの純利益は2013年に前期比6.7倍になった後は、2014年15%増、2015年3%減というのが、市場コンセンサスになっています。スマホ向けのゲームが大ヒットした場合、収益が急激に膨らむ一方、その利益水準を長く続けるのは難しいというのが、アナリスト予想の平均的な見方になっているようです。
冒頭の表2では、高い成長が「継続的に」続く銘柄に焦点を当てたことで、SNS関連が外れることになりました。スクリーニング条件が変わり、今後2年間程度の利益成長率を軸にスクリーニング項目を定めていれば、入ったものと思われます。それでも、これらのSNS関連株がグロース株の範疇に入ることは間違いないと思います。投資判断に際しては、当面の利益がどの程度の期間拡大を続け、どの程度の金額まで拡大するか見極めることが重要になりそうです。そのためにも、会社側から公表される各種開示データに注意を払う必要があります。
図2:ミクシィ(2121)の時価総額と業績
図3:ガンホー(3765)の時価総額と業績
Bloomberg及び会社公表データをもとにSBI証券が作成。四半期末ごとの純利益と四半期末の時価総額をグラフ化。
これらのグラフは掲載銘柄に関する過去データを示すものであり、将来の業績や株価を示唆するものではない。
「グロース株投資」の注意点
これまでご説明してきたように、エムスリーのような長期的に業績が拡大してきた企業、ミクシィやガンホーのように、業績が短期間で様変わりになる可能性のある企業等、「グロース株」投資の中心テーマは、企業の将来性であり、成長性です。そして、予想が的中すれば、大きな投資成果をあげることが可能です。株式投資で高い投資収益を狙いたい投資家にとっては、まさにグロース株投資が「王道」に見えることでしょう。
ただ、ここで前回の「バリュー株」の説明を想起して頂ければ幸いです。前回、長期的にはバリュー株投資が相対的に優位であるという説明をさせていただきました。
「グロース株投資」は、PERやPBRなどが、ある程度高くても、投資対象になるのが特徴です。ここで、企業の成長が市場の予想を上回る高いものになれば問題ありませんが、時には、その期待が裏切られることもあります。この時、その銘柄の株価は大きく下がる可能性が大きいと考えられます。実は、業績や成長が期待外れに終わった場合、もともと割安なバリュー株と、割高気味に買われてきたグロース株では、下げ方が異なってしまうと見られます。その差がパフォーマンスの差になっているように思われます。
その意味で、グロース株投資をする時には、投資対象企業の業績を左右しうる、あらゆる情報に注意することが、必要になると言えましょう。
- ※本ページでご紹介する個別銘柄及び各情報は、投資の勧誘や個別銘柄の売買を推奨するものではありません。