キャッシュリッチ企業に照準を
今回の日本株投資戦略では、キャッシュリッチ(現金を潤沢に保有する)企業でありながら、株価が割安に放置されていると考えられる銘柄にスポットを当ててみたいと思います。これは、将来、市場により修正されると考えて投資する「バリュー株」投資のスタイルになります。
表1は、PBRが1倍未満でもともと割安感が強いと同時に、ネットキャッシュ(現金−長短借入金)が時価総額との比較で潤沢な企業の一覧になります。スクリーニング条件は以下の通りです。
(1)東証一部の時価総額500億円以上の企業(金融、電気・ガスを除く)
(2)PBR(ここでは、時価総額/前期純資産)が1倍(いわゆる「解散価値」)未満
(3)前期の純利益が黒字
(4)ネットキャッシュ(現金等−長短借入金等)の時価総額に対する比率が大きい順にランキング
(5)ROEが5%未満
一定の時価総額を有する規模の企業でありながら、PBRが1倍を割れていることを条件にしていますので、もともと割安感の強い銘柄が母集団になっています。その上で、キャッシュリッチであることを追加の条件としていますので、さらに割安感が強まると考えられます。ちなみに、キャッシュリッチであることは、増配や自社株買いなど、株主還元の余力が、その分大きいことも示しています。また、長短借入金を差し引いた理由は、長短借入金を多めに調達し、それを現預金として保有している場合もあるためです。あくまでも余剰資金としての「キャッシュ」に着目したかったためです。
ROEを「5%未満」と、資本効率が良くないことを条件にしていることは、今回のスクリーニングの中でも重要なポイントです。株式市場からみると、余剰資金を持ちながら、十分な利益を上げていない会社であると評価される可能性があり、増配や自社株買いを実施するよう、圧力がかかる可能性があるためです。逆に、小森コーポ(6349)はネットキャッシュ比率37.6%、黒田電気(7517)は同35.8%でしたが、前者のROEは11.4%、後者は10.3%であり、前期の東証一部平均(8.6%)を上回っています。従って、その面では市場も文句を付けにくく、株主還元を強化するインセンティブが生じにくいと考えられるので、今回のスクリーニングでは除外する形になりました。
表1:純現金比率が高く、PBR1倍割れの銘柄
取引 | チャート | コード | 社名 | 純現金比率 | PBR(倍) | ROE |
---|---|---|---|---|---|---|
7937 | ツツミ | 82.8% | 0.64 | 3.0% | ||
6986 | 双葉電子工業 | 76.8% | 0.57 | 1.4% | ||
6767 | ミツミ電機 | 63.3% | 0.61 | 3.2% | ||
9869 | 加藤産業 | 57.7% | 0.98 | 1.9% | ||
6134 | 富士機械製造 | 54.5% | 0.69 | 2.2% | ||
8140 | リョーサン | 52.4% | 0.54 | 2.7% | ||
6816 | アルパイン | 46.1% | 0.77 | 2.9% | ||
7239 | タチエス | 39.9% | 0.78 | 2.2% | ||
9755 | 応用地質 | 38.5% | 0.86 | 1.4% | ||
5444 | 大和工業 | 33.0% | 0.79 | 4.3% |
- ※BloombergデータをもとにSBI証券が作成。6/27時点のデータを使用。
「キャッシュ」と企業経営〜アマダの株主還元の背景は?
(1)増加傾向に転じた企業の「キャッシュ」〜財務体質強化の側面も
現金預金は、企業のバランスシートの流動資産(換金が相対的に容易な資産)の最初に記載される勘定項目です。現金預金を多く持っていることが、財務の面でみた安全性という面では最も強いということは、個人でも企業でも変わりはないと思います。
この現金預金を獲得する方法には、おもに3つあります。(1)商売して稼ぐ、(2)借り入れる、(3)増資して調達するの3点です。しかし、この3つとも不景気の時にはなかなか、難しいものです。このため、企業は、万が一の場合に備え、一定以上の現金・預金はあらかじめ維持しておきたいと思うものです。
(2)アマダの「100%還元」は何を意味しているのか?
そうした中で同社は5月15日に「2016年3月期まで上げた利益の全額を配当か自社株買いで還元する」と発表しました。これを好感して株価は急騰し、6月18日には株価が1,140円まで上昇。時価総額は4,500億円に達し、PBR1倍台回復に成功しました。
PBRが「解散価値」である1倍を割り込んだ状態に放置していることは、株価低迷という形で株主に報いていないのみならず、理論上は会社が買収の危機にある状態を放置しているとも考えられます。アマダは、積極的な株主還元を行うことで、株主からの期待に応えた形になりました。
冒頭にご紹介した銘柄は、外見上はアマダに類似している面が多くある会社ということができましょう。その意味で、ここからの株主還元策強化に期待したい銘柄と考えることもできます。
時価総額上位企業に期待される資本効率の改善
表2は、冒頭のスクリーニングについて、時価総額の項目を5,000億円以上に引き上げるとともに、ROEの制限を外したものです。我が国を代表する主力企業のうち、キャッシュが比較的潤沢な企業の抽出を試みました。
投資家の多くが、概要くらいは知っているとみられる我が国を代表する企業でさえ、財務体質が健全であるとみられるにもかかわらず、PBRが「解散価値」割れになっています。そして例外なく、ROEが「平均以下」にとどまっており、その面では、市場から資本効率の改善が求められることになりそうです。
ちなみに、6月27日現在、東証一部で時価総額1千億円以上の企業(金融、電力・ガスを除く)のうちPBR(時価総額/前期純資産)が1倍割れの銘柄は35銘柄も残っています。このことは、割安感の強い銘柄が、市場にはまだまだ、多いことを示しているとともに、企業の資本効率の改善の余地もたくさんあることを示していると言えそうです。
表2:PBR1倍未満でネットキャッシュ比率が高い「主要」企業
取引 | チャート | コード | 社名 | 純現金比率 | PBR(倍) | ROE |
---|---|---|---|---|---|---|
6963 | ローム | 41.9% | 0.98 | 5.0% | ||
4901 | 富士フイルムホールディングス | 17.2% | 0.65 | 4.1% | ||
6971 | 京セラ | 16.6% | 0.91 | 5.0% | ||
7912 | 大日本印刷 | 2.8% | 0.75 | 2.8% | ||
1605 | 国際石油開発帝石 | 2.6% | 0.76 | 7.0% |
- ※BloombergデータをもとにSBI証券が作成。6/27時点のデータを使用。