「人手不足」関連企業に熱視線
今回の「日本株投資戦略」では、「人手不足」問題について考えるとともに、「人手不足」関連企業をご紹介したいと思います。日本経済における人手不足の背景や、問題としての重要性について改めて考え、最後に、人手不足という環境下で成長が見込めそうな企業(表1)について、ご説明したいと思います。
表1:「人手不足」克服に貢献、または「人手不足」を追い風にできる企業例
取引 | チャート | コード | 銘柄正称 | 株価 (8/18) |
予想経常益 増益率 |
予想EPS 予想PER |
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2181 | テンプホールディングス | 3,685 | 21,000 12.9% |
164.17 22.4 |
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2410 | キャリアデザインセンター | 1,181 | 663 32.0% |
86.04 13.7 |
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2415 | ヒューマンホールディングス | 824 | 1,623 20.2% |
86.36 9.5 |
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3654 | ヒト・コミュニケーションズ | 1,970 | 1,862 11.1% |
111.42 17.7 |
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4763 | クリーク・アンド・リバー社 | 570 | 1,350 23.6% |
30.19 18.9 |
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4849 | エン・ジャパン | 2,240 | 3,970 6.0% |
99.96 22.4 |
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6134 | 富士機械製造 | 978 | 6,800 79.6% |
48.08 20.3 |
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6324 | ハーモニック・ドライブ・システムズ | 3,750 | 6,600 36.9% |
137.56 27.3 |
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6383 | ダイフク | 1,252 | 14,300 8.4% |
79.51 15.7 |
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9438 | エムティーアイ | 914 | 2,370 111.8% |
47.77 19.1 |
- ※会社予想数値をもとにSBI証券が作成。下記2条件をもとに銘柄コード順で表示。
- (1)今期経常利益が増加予想
- (2)予想PERが30倍(東証一部全体の予想PER15.6倍の2倍まで評価されていないことを目安とする)
予想経常益(単位:百万円)、予想EPS(単位・円)、はいずれも、今期会社予想ベースで表示。予想PERは、そのEPSを基準に計算。予想経常益の下段は、前期比増益率。なお、キャリアデザインの前期経常益は単独決算、予想経常益は連結決算。
なぜ「人手不足」が深刻化しているのか?
人手不足が深刻な問題になっています。アルバイトを確保できないために、店舗の増設をあきらめざるを得なくなった外食企業が増え、建設業では人手不足から倒産に追い込まれる企業も出てきています。人手不足は、ようやく回復し始めた日本経済の成長の芽を摘むばかりか、人件費の増大で企業業績に打撃を与えかねません。
図1は、「有効求人倍率」の長期推移を示しています。2014年6月の有効求人倍率は1.1倍となっていますが、これは企業の求人者数が、求職者数の1.1倍あること(企業が仮に11人求人しても10人しか集まらないこと)、即ち人手不足の状態にあることを示しています。この数字は、平成バブル直後の1992年以来の高水準であり、22年ぶりの人手不足と表現することが可能です。
一般的に、有効求人倍率が上昇するときは、景気が良い時と考えられています。景気が良くなると、企業は積極的に採用を増やしますので、求人数が増え、求人倍率が上昇することになります。事実、2014年6月の求人数は、前年同月比9.3%も増えました。震災後の復興需要に加え、アベノミクスで景気が回復に転じたことで、求人倍率が上昇しました。
しかし、実は、2014年6月は「求職者」が前年同月比10.8%も減少し、それが有効求人倍率を押し上げた面もありました。問題は、求職者の減少は一過性の事とは考えにくい点です。図2は、日本の将来人口推計を年齢層別に見たものです。2013年末現在1億2千百万人いる日本の人口は今後も減り続け、2048年には1億人を割り込むと予想されています。同時に、生産年齢人口(15〜64歳/2013年に7,780万人)は、2048年には3分の2まで減少する見込みです。足元は、世代別人口の多い団塊世代(1949年前後の生まれ)の人々が老齢人口入りしてくるので、生産年齢人口の減少は急ピッチで進んでいます。
景気の回復は循環的な面がありますが、人口、特に生産年齢人口の減少は構造的なものです。従って日本の有効求人倍率は下がりやすい構造にあるのです。人を雇えなければ、企業の成長は見込みにくくなり、日本の経済成長にブレーキがかかることになります。人手不足は非常に由々しき現象なのです。
図1:有効求人倍率の推移
- ※厚生労働省資料よりSBI証券が作成。
図2:日本の年齢層別・将来推定人口(千人)
- ※国立社会保障・人口問題研究所データよりSBI証券が作成。前提条件として、出生・死亡とも「中位」とした。
なぜ「サイバーダイン」だったのか?人手不足は特定職種に偏在の傾向
この人手不足は、万遍なく、あらゆる業種・職種で発生しているわけではありません。図3は、職種別の有効求人倍率を直近データについて調べたものです。
この図によると、事務的職業や管理的職業では今も、人員余剰が続いています。これに対し、
(1)保安の職業
(2)建設・採掘の職業(特に建設躯体工事、建設、土木など)
(3)サービスの職業(特に接客・給仕、家庭生活支援、介護、生活衛生など)
(4)輸送・機械運転の職業(特に自動車運転)
(5)専門的・技術的職業(特に医師・薬剤師等、建築・土木・測量技術者、医療技術者など)
などでは、人手の確保がままならない状態が深刻化しつつあります。時代を読み違えた結果「ブラック企業」のレッテルを貼られようものなら、人手は全く集まらなくなり、企業の存続すら危ぶまれることになります。
株式市場では、サイバーダイン(東証マザーズ・7779)という介護・医療用の装着型ロボットを世界展開する企業の株価が、5月から8月にかけ実質4倍以上に値上がりしました。これは、単純に人手不足解消に貢献するロボット関連企業であったからというにとどまらず、その対象とする職種が、特に人手不足感の強い職種(介護、医療)であったことも影響していると考えられます。
人手不足を克服するには、放っておけば減少してしまう労働力人口を減らさないようにしなければなりません。一つの手としては、移民の受け入れがあり、人口の減少にも歯止めがかけられ、本質的には悪くない対策と思われます。しかし、この面で日本の世論が容認するとは思えないので、実現は容易ではないでしょう。
現実の「人手不足」解決策としては、高齢者や女性の雇用を増やすべきという案が有力です。このうち、高齢者は年金受給年齢の引き上げの影響があり、できればなるべく長く働きたいと思う人も多いでしょう。また、女性については、そもそも雇用機会均等の考え方から、さらなる社会進出が期待されています。社会のニーズと、高齢者・女性のニーズは一致しやすいと思うので、こちらは政策を積極的に推進してゆくべきとみられます。
図3:職種別の有効求人倍率(2014年6月)
- ※厚生労働省資料よりSBI証券が作成。
「人手不足」関連銘柄〜注目の背景は?
人手不足が厳しくなる環境下では、人材派遣会社に追い風が吹きます。一般的にも「人手不足」関連企業というと、人材派遣会社を連想する投資家は多いとみられます。ただ、ここで注意すべきは、人材派遣会社ごとに得意とする職種が異なる点です。「日本株投資戦略」では、上記の図3で調べた職種別の有効求人倍率を参考に、特に人手不足感の強い職種に強い人材派遣会社をピックアップしました。ポイントは表2の通りです。
ただ、人材派遣会社といえども、人手不足に注意は必要です。夢真HD(2362)などは、大手ゼネコンを顧客に持ち、積極的な事業拡大が期待されますが、採用増で一時的に利益率が下がる可能性も指摘されています。なお、こうした環境下では、求人広告のニーズが高まり、広告単価の上昇も期待できるので、エン・ジャパン(4849)には追い風とみられます。
人手不足に対応するためのロボット関連も注目されます。人手不足は国内問題ですが、巨大市場を有する中国などでも今後、急速な少子高齢化が見込まれていますし、高騰する人件費は既に進出企業の頭痛の種になっています。表2で取り上げた銘柄は、いずれも増益が見込まれていますので、業績面でも安心感が手伝います。
ユニークな企業としてはエムティーアイ(9438)を取り上げました。女性向け健康サイト「ルナルナ」は既に600万人の会員数を誇っていますが、出産や育児を支援するサイトにも進出を決めました。人手不足克服のために、女性のさらなる社会進出が必要ですが、それを実現するには、女性の妊娠、出産、育児に対する悩みを軽減することが必要であり、それに着目したコンテンツ展開は、注目されても良さそうです。
表2:「人手不足」関連銘柄の注目点
- ※各種報道、会社資料をもとにSBI証券が作成。