「アリババ上場」で再度脚光浴びる国内EC関連・中小型成長株
報道等を総合すると、世界一のEC(電子商取引)企業であるアリババドットコム(中国)が、9月に、米ニューヨーク証券取引所に上場すると伝えられています。IPO(新規公開)の規模は、新株発行と売出で最大2兆円規模になると見込まれ、内外の株式市場で大きな話題になることは間違いないでしょう。
日本の株式市場では、それに併せ、関連銘柄への関心が高まるとみられます。特に、アリババと同じEC関連株が注目されることでしょう。関連銘柄としては、アリババへ出資しているソフトバンク(9984)、ヤフー(4689)や、国内大手ECである楽天(4755)などが最右翼の銘柄としてあげられる可能性が大きいとみられます。
しかし、これらの銘柄は既に多くの投資家が知る所となっています。そこで、今回ご紹介したいのは、上記の銘柄以外の、中小型成長株としてのEC関連銘柄です。特に、EC市場の拡大から恩恵を受けそうな企業にスポットを当ててみました。
表1は、そうした銘柄の代表例です。それでは、なぜ、これらの企業が注目されるのか、順を追ってご説明したいと思います。
表1:EC市場拡大のメリットを享受できそうな企業(コード順)
取引 | チャート | 銘柄コード | 銘柄名 | 株価 (8/25) |
予想経常益 増益率 |
予想EPS 予想PER |
---|---|---|---|---|---|---|
2428 | ウェルネット | 1,825 | 1,540 3.4% |
95.08 19.2 |
||
2491 | バリューコマース | 815 | 1,810 19.0% |
34.93 23.3 |
||
2492 | インフォマート | 1,975 | 2,026 83.0% |
38.76 51.0 |
||
3371 | ソフトクリエイトホールディングス | 908 | 1,510 0.6% |
59.55 15.2 |
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3665 | エニグモ | 1,290 | 1,000 17.0% |
43.40 29.7 |
||
3769 | GMOペイメントゲートウェイ | 4,870 | 2,460 20.2% |
82.34 59.1 |
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4819 | デジタルガレージ | 1,877 | 6,700 50.8% |
85.14 22.0 |
||
6082 | ライドオン・エクスプレス | 2,875 | 1,030 13.2% |
129.18 22.3 |
- ※会社予想数値をもとにSBI証券が作成。EC市場拡大のメリットを享受できそうな企業のうち、下記2点を条件として銘柄コード順に表示。
- (1)今期経常増益が見込まれる
- (2)予想PER100倍を超えない
予想経常益(単位:百万円)、予想EPS(単位・円)、はいずれも、今期会社予想ベースで、予想PERは、そのEPSを基準に計算されている。予想経常益の下段は、前期比増益率。
EC市場は2018年までに2倍となる可能性
EC(電子商取引)市場は、順調に拡大しており、今後もさらなる成長が見込めそうです。アリババドットコムの上場は、そうした成長する国内EC市場へ、改めて市場の注目が注がれるきっかけになるとみられます。
総務省の調べによりますと、ECの市場規模は、BtoC(企業対個人取引)市場だけで9.5兆円(2012年)となっています。民間の大手研究所の別の調査では、2012年度に約10兆円で、これが2018年度には20兆円以上に拡大するという予想もあります。小売・サービス総額に占める比率(EC比率)も上昇傾向です。なお、BtoCに加え、CtoC(個人対個人取引)やサービス系EC、リアル店舗複合型ECまで含めると、EC市場は2013年16兆円弱の規模となっており、これが2015年には20兆円超に増えるという別の分析もあります。
EC市場の発展が見込まれるのには、おもに3つの理由があります。
(1)EC普及率の上昇余地が大きいこと(いまだ3.1%に過ぎない)。
(2)BtoCにとどまらず、CtoCやサービス系EC、リアル店舗複合型など、新しいタイプのECが拡大傾向にあること。
(3)スマホなど、新しいインターネット端末の普及が進んでいること。
このうち、(1)については、単純に数値がまだまだ低いことに加え、既に深刻化しつつある「買い物難民」(地域の小売店が消滅し、買う店がなくなる状態)の問題もECの拡大を促しそうです。少子高齢化を受け、買い物に行けなくなった年老いた親に代わり子供がECサイトから商品を送るというケースも増えるかもしれません。
(2)については、楽天やヤフー、アマゾンなどのネット企業が展開する従来型(BtoC型)のECにとどまらず、個人と個人の取引を仲介したり、旅行・宿泊予約や人の手配、レストラン予約などを行うサービス系EC、家電量販やスーパーがECに展開することを指しています。
そして、(3)にあるように、多くの人がいつでも簡単にネット接続でき、操作も容易なスマートフォンの普及もEC市場の拡大を促しそうです。ちなみに、2012年度にECにおけるスマホ利用率は3分の1程度とみられますが、これが2018年度には8割程度に拡大するとの見方があります。
こうした中、さらにEC市場の拡大を促しそうなのが、ソフトバンク・ヤフーの取り組みです。ソフトバンク傘下のヤフーでは、ECの普及を促すために、2013年10月、出店手数料や売上ロイヤルティなどを無料化することを骨子とした「EC革命」を打ち出しました。その結果、「Yahoo!ショッピング」の店舗数は2万店から13万店超(2014年6月末)に急増しました。同社の目的はEC市場の拡大をテコにした広告市場の拡大です。同社は日本のEC市場が60兆円規模まで拡大すると予想しているようで、その折には数千億円の広告収入を得ることが可能(ヤフーの前期売上高は3,863億円)とみているようです。仮に同社の目論見通りであれば、日本のEC市場はさらなる飛躍を遂げることになりそうです。
図1:拡大が予想される国内EC(BtoC)市場
- ※総務省データ及び各種資料よりSBI証券が作成。
EC市場の拡大を追い風にできそうな企業を探る
アリババドットコムの上場計画が順調に進んだ場合、市場では、ソフトバンク、ヤフー、楽天など主力企業の他では、EC関連が一律に注目される可能性もあります。短期的には、それらの銘柄の値上がりも期待できるでしょう。ただ、単純にECを展開しているという企業は数多くあり、競争の激しい分野もあり、中長期的には成長鈍化に見舞われる企業も出てきそうです。
「日本株投資戦略」では、EC関連企業の中から、ECそのものを展開しているのであれば差別化できる特徴を有している企業を取り上げました。特定業界に特化したインフォマートや、CtoCで世界を結び付けているエニグモ、リアルな宅配事業のノウハウをネットを活用して生かそうとしているライドオンEXなどはそのタイプです。
さらにEC市場拡大のためのインフラを担う企業にも着目しています。決済業務に展開するウェルネットやGMOPG、ECサイト構築を支援するソフトクリエHDなどは、EC市場拡大の追い風を受けやすいと考えました。また、ソフトバンク・ヤフーの「EC革命」が、広告市場の拡大を狙いとしている以上、ヤフー傘下のVコマースにメリットが発生する可能性は大きいと考えます。
表2は、掲載銘柄の注目ポイントをまとめたものですので、ぜひ、ご参考にして頂ければ幸いです。なお、掲載銘柄は(1)今期の経常利益が増益見通し、(2)予想PER100倍以上の割高な水準まで買われていない、ことを最低条件としています。
表2:EC市場拡大のメリットを享受できそうな企業の注目ポイント
- ※各種報道、会社資料をもとにSBI証券が作成。