好業績で、近い将来「高い資本効率」を評価される可能性のある銘柄を抽出
今回の「日本株投資戦略」では、近い将来に「高い資本効率」を評価され、好パフォーマンスが期待される可能性のある銘柄を抽出し、ご紹介したいと思います。すなわち、今期に堅調な業績が見込まれることで、ROE(株主資本利益率)の向上が予測され、それほど割高感もないことから、株式市場での評価が高まると期待できる銘柄を探ることになります。スクリーニング条件は以下の通りです。
(1)全市場に上場する銘柄で、時価総額1千億円以上。
(2)今期予想PER20倍未満。
(3)前期実績PBR1.5倍未満。
(4)四半期累計の営業増益率(実績)が、通期予想営業増益率よりも大きい企業。
⇒通期予想営業利益の達成確度が高いため、業績下方修正による株価下落リスクが相対的に小さいと考えられます。
(5)ROE(前期実績)が6%以上7%未満。
⇒近い将来に、業績拡大や自社株買い等により「高ROE」(8%以上)銘柄として評価が変わり得る水準です。
(6)上記の全条件を満たす企業をROEの高い順に10銘柄抽出。
このスクリーニングの「肝」は(5)です。後述する通り、ROEが高いかどうかの重要な目安として「8%」という水準があります。ここでは、すでに「高ROE銘柄」として評価されている銘柄ではなく、業績の上積みや自社株買い等により、今期ないし来期には「高ROE銘柄」になりそうな銘柄を抽出する「仕掛け」になっています。「高ROE」の基準を8%とした理由は後でご説明したいと思います。
表1:近い将来に「ROE8%」達成の可能性があり、市場の評価が高まる可能性のある銘柄
取引 | チャート | コード | 会社名 | ROE | 予想PER | PBR |
---|---|---|---|---|---|---|
1950 | 日本電設工業 | 6.98% | 15.5倍 | 1.08倍 | ||
6141 | DMG森精機 | 6.94% | 16.8倍 | 1.17倍 | ||
7966 | リンテック | 6.93% | 16.6倍 | 1.15倍 | ||
2784 | アルフレッサ ホールディングス | 6.88% | 17.3倍 | 1.19倍 | ||
7459 | メディパルホールディングス | 6.71% | 14.0倍 | 0.94倍 | ||
7287 | 日本精機 | 6.67% | 16.9倍 | 1.13倍 | ||
9412 | スカパーJSATホールディング | 6.51% | 18.1倍 | 1.18倍 | ||
1662 | 石油資源開発 | 6.48% | 8.5倍 | 0.55倍 | ||
5411 | ジェイ エフ イー ホールディングス | 6.46% | 11.9倍 | 0.77倍 | ||
3626 | ITホールディングス | 6.39% | 16.4倍 | 1.05倍 |
- ※当社スクリーニングツールを用いて、SBI証券が作成。(4)のみ、会社公表データによりスクリーニング。(4)で、増益率が計算できない企業は、四半期増益額が通期予想増益額の4分の1以上の企業を選択。なお、ジェイ エフ イー ホールディングスは会社予想の通期予想営業利益が公表されていないため、第1四半期と第2四半期累計(会社予想)の営業利益を比較しています。データは2014年9月5日現在。
株価上昇には資本効率(ROE)の向上が必要
ROE(株主資本利益率)は、株式市場で広く使われている投資指標のひとつで、「その企業が株主から投資された資本を元手に、いかに効率的に利益をあげているか」を示しています。一般的には以下の式で計算されます。
ROE(株主資本利益率)=前期純利益/前期純資産(株主資本)×100
「日本株投資戦略」でも、2014年3月20日掲載号で一度ご紹介していますので、そちらもご参考頂ければと思います。
今、前期に10億円の純利益をあげた2社(A社B社)があるとして、A社の純資産は50億円、B社の純資産は100億円であると仮定します。A社とB社のROEは以下の通り計算されます。
(A社) 10億円/50億円×100=20(%)
(B社) 10億円/100億円×100=10(%)
計算の結果、A社の方がROEが高い、すなわち「資本効率が良い企業」(稼ぐ力がある企業)と考えます。B社は利益額こそ同じであるものの、もっと資本効率を高めることが課題であるということになります。ROEの低い企業がROEを高めるには
(1)いっそう多くの利益をあげる。
(2)だぶついている資本をスリム化する。
という2つの方法があります。(1)は頑張って稼ぐことであり、日常の企業活動として普通の事です。一方、(2)においては、自社株買いにより最終的に資本を小さくすることが代表的な対策です。自社株買いにより、株式の需給が引き締まるのみならず、ROEが向上するケースが多くなります。自社株買いを発表した企業の株価が上昇するのはそのためです。
図1は、日経平均とそのROEの推移をグラフ化したものです。矢印で示したように、近年はROEの向上(低下)が、株価の上昇(下落)につながる傾向にあります。現在、日経平均株価のROE(加重平均)は8.4%、東証一部全体のROEは8%となっています。今後、企業業績の向上もさることながら、企業が自社株買い等により、ROEを一層高めることができれば、市場全体の株価も上昇すると考えられます。
図1:ROE(株主資本利益率)の向上を反映し始めた日経平均株価(ともに月終値)
- ※日経平均公表データを元にSBI証券が作成。純利益が赤字で、ROEが計算できなような場合は、ROE=0%としてグラフ化。日経平均のROEについては、以下の算式で計算した数字を使用。
(日経平均のROE)=(日経平均のPBR)/(日経平均のPER)
今、なぜ「ROE」なのか?
今、なぜ「ROE」が重要なのでしょうか?そして表1のような銘柄に市場の評価が集まる可能性があるのはなぜでしょうか。ポイントは3つあります。
(1)ROE上昇のチャンスが到来している上、市場での注目が高まる可能性が大きい
アベノミクスによる景気拡大が続くと予想されるからだけにとどまりません。安倍政権は、消費増税を実施する反面で、企業の国際競争力を維持・向上させるため、法人税減税の方針を打ち出しています。仮に来年度から実施されれば、その分、企業の純利益が上積みされ、ROEの向上に寄与する計算となります。なお、GPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)の運用改革で株式組入比率の拡大が見込まれていますが、こうした年金資金はROEの高い銘柄の組み入れを増やしたJPX日経インデックス400(以下、JPX400)もベンチマークにするとされていますので、投資指標としてのROEが一層注目されることになります。
(2)ROEの高い銘柄のパフォーマンスは高い傾向
ROEの高い銘柄は、低い銘柄と比較してパフォーマンスが高くなる傾向にあります。例えば、ROEの高い銘柄を多く採用している指数であるJPX400は、市場のROE(加重平均)も9.2%と、東証一部全体の8.0%を上回っています。JPX400とTOPIXのパフォーマンスを比較したものが図2で、ROEの高いJPX400の方がパフォーマンスで上回っています。
図2:ROEの高いJPX400の相対パフォーマンスは高い
- ※各指数公表データをもとにSBI証券が作成。JPX400のデータを最大限さかのぼれる2006年8月月足終値を1として再指数化したもので比較している。
なお、下表2にもあるように、東証一部の時価総額1兆円以上の銘柄(金融は除く)について1.低PER(予想ベース)上位10社、2.低PEB10上位10社、3.高ROE10上位10社のパフォーマンスを比較した所、表の全期間において、高ROE銘柄のパフォーマンスが最高でした。
なお、2012年11月14日は「アベノミクス相場のスタート時点(野田・前首相の解散表明)、2013年12月30日は日経平均株価が戻り高値更新した日、2014年5月20日は3月期決算全企業の前期業績数値が確定した日、という意味があります。
スクリーニング条件には時価総額を入れ、我が国の主力企業同士の比較にしており、企業規模による差が入らないようにしています。ちなみに、高ROE銘柄の上位は、セイコーエプソン、富士重工、大東建託、マツダなどとなっています。
表2:投資指標別上位銘柄の株価上昇率比較(時価総額1兆円以上)
- ※BloombergデータをもとにSBI証券が作成。「現在」は、このデータ作成日である2014年9月8日終値現在です。
(3)近い将来「ROE8%」を達成しそうな銘柄に「妙味」
ROEが高い銘柄と低い銘柄の分岐点はどこでしょうか。無論、一般的な「決まり」や「基準」がある訳ではありません。ただ、上記したように、東証一部のROEが8.0%であるので、そこが重要な目安となります。また、投資家が株式に求める期待リターンは8%という回答が多いという分析、予想ROEが8%以上ではPBRが上昇するという分析(2014年8月26日付・日本経済新聞)もあります。8%に基準に置くことは、合理性が高いと言えそうです。
ただ、すでにROEの高い銘柄は、前項の銘柄でもおわかり頂ける通り、業績拡大もあり、相当株価が上昇している銘柄も含まれます。また「予想ROEが8%以上ではPBRが上昇するという分析」も生かすならば、現状ではROE8%に少し足りないものの、業績が堅調な銘柄に妙味があるとみられます。冒頭のスクリーニング条件(4)として「ROE(前期実績)が6%以上7%未満」としたのは、業績拡大や自社株買い等の資本政策により、近い将来「ROE8%」を実現できる可能性の大きい企業を抽出することが目的だからです。ぜひ、ご参考頂ければと思います。
なお、「ROE」を投資指標として使うには、以下のような注意も必要ですので、最後に併せてご参考下さい。
(A)純資産の額が小さいと、ROEが高くなりやすい
純資産が必要以上に小さく財務体質に不安のある「高ROE」銘柄を、高く評価することにはリスクを伴います。冒頭の表では、時価総額が一定以上大きく、市場から信認を受けている銘柄を抽出するようにしました。
(B)高ROEの基準は、正確には業種ごとに異なる
財務体質の良し悪しの重要な指標である「自己資本比率」は、業種ごとに平均値が異なります。そのため、「高ROE」の基準を何%にするかの基準も、正確には業種ごとに異なると考えられます。ただ、分析を容易にするために、今回の「日本株投資戦略」では、業種ごとの差異を勘案していませんので、ご注意ください。
- ※本ページでご紹介する個別銘柄及び各情報は、投資の勧誘や個別銘柄の売買を推奨するものではありません。