株価下落で多くの銘柄に割安感が台頭
日経平均株価は、9月25日に16,374円14銭の年初来高値を付けた後、一時1万4千円台半ばまで11%下落する波乱の展開となりました。その後、やや落ち着きを取り戻していますが、高値からみると、依然大きな下落率となっています。株価下落の要因とされた世界経済への不透明感等は、容易に払拭できそうにもなく、高値回復までは少し時間を必要とするかもしれません。
しかし、このように株価が低水準にある時は、投資のチャンスと考えることができます。なぜならば、多くの企業の株価について、利益水準や資産規模と比較して割安感が強まるためです。
「日本株投資戦略」では、6月6日付で、「本来持っている価値」に対し、株価が低く評価されているとみられる「バリュー株」について考えました。その中で、それらを中長期的には「本来持っている価値」を回復すると予想して投資する「バリュー株投資」が、投資パフォーマンスを上げるために、有効であることについても解説いたしました。
予想PER(株価収益率)やPBR(株価純資産倍率)で割安感の強い銘柄に投資することは、「バリュー株投資」の一環であり、現在は「バリュー株投資」にとっても、大きな投資チャンスと考えることができます。そこで、今回の「日本株投資戦略」では、投資チャンスを迎えているとみられる低PER・低PBR銘柄をご紹介したいと思います。
日経平均株価が安値を付けた10月17日、日経平均の予想PERは平均で約14倍、PBRは1.2倍でした。東証の主力銘柄のうち、予想PERやPBRがこうした平均より低く、業績や財務体質に不安感の少ない銘柄を選んでみました。
銘柄選択(表1)のスクリーニング条件
- (A)東証一部上場銘柄。
- (B)時価総額(10月20日終値現在)1,000億円以上の全業種。
- (C)予想PER(10月20日現在)14倍未満。
- (D)PBR(同)1.2倍未満。
- (E)業績予想が下方修正されるリスクが小さいとみられる銘柄。
・今期の市場予想営業利益(コンセンサス)が増益予想で、かつ会社予想を上回っていること。
・過去4週間で、市場予想EPS(同)が上昇している黒字予想企業であること。
これらの全条件を満たす銘柄を、予想PERの低い順に並べたのが、表1です。ただし、同一業種の銘柄がある場合は、そのうち最も低PERの銘柄を選ぶこととしました。
表1:堅調な業績が期待でき、予想PER・PBRからみた割安感の強い銘柄
取引 | チャート | コード | 銘柄名 | 株価 (10月20日) |
騰落率 (対9月25日) |
予想PER (倍) |
PBR (倍) |
---|---|---|---|---|---|---|---|
5110 | 住友ゴム工業 | 1,456 | -7.9% | 7.8 | 1.07 | ||
5706 | 三井金属鉱業 | 277 | -8.9% | 9.3 | 0.93 | ||
3050 | DCM ホールディングス | 727 | -3.3% | 9.9 | 0.67 | ||
6995 | 東海理化電機製作所 | 2,074 | -11.4% | 10.0 | 0.95 | ||
4182 | 三菱瓦斯化学 | 633 | -10.6% | 10.2 | 0.94 | ||
5019 | 出光興産 | 2,065 | -12.1% | 11.0 | 0.44 | ||
6472 | NTN | 437 | -10.5% | 11.6 | 1.09 |
- ※BloombergデータをもとにSBI証券が作成。データは2014年10月20日現在。
単に割安なだけでなく、業績や財務安定性にも留意したい
中長期的には、投資パフォーマンス向上への寄与が期待できる低PER・低PBR株ですが、投資タイミングを誤っては意味がありません。
また、一般的にPER・PBRが低ければ、必ず割安感を解消すべく、株価が上昇するとも限りません。銘柄によっては「万年割安株」と揶揄され、長い間、株価が低位に甘んじている銘柄も存在します。その多くは、業績や成長性、財務体質等に不安があることが多いようです。また、予想PERやPBRの平均は、業種によっても差(表2参照)があり、倍率が高い業種もあれば、低い業種もあります。表1において業種の重複を避けた理由は、そのルールを設けないと、同じような業種の銘柄ばかりが掲載銘柄になってしまう可能性が大きいためです。
表1のスクリーニング条件に(E)の「業績予想が下方修正される可能性が小さい銘柄」を入れたのは、業績への不安が強い銘柄をなるべく除外することで、株価低迷が続きやすい銘柄のリストにならないようにするためです。また時価総額を1,000億円以上としていますので、市場から一定の信認を得ているとみられ、財務体質への不安もあまりないと考えて良いかと思われます。
表2:東証業種別・平均PER・PBR
業種 | 予想PER (倍) |
PBR (倍) |
---|---|---|
ゴム製品 | 10.0 | 1.07 |
海運業 | 10.6 | 0.68 |
パルプ・紙 | 12.1 | 0.64 |
輸送用機器 | 12.3 | 1.20 |
銀行業 | 12.6 | 0.60 |
その他金融業 | 13.2 | 1.28 |
非鉄金属 | 14.2 | 1.02 |
鉄鋼 | 14.6 | 0.77 |
卸売業 | 15.0 | 1.18 |
金属製品 | 15.1 | 1.07 |
空運業 | 15.7 | 1.22 |
化学 | 16.0 | 1.30 |
電気・ガス業(ガス) | 16.5 | 1.02 |
保険業 | 16.6 | 0.89 |
機械 | 16.6 | 1.32 |
精密機器 | 18.1 | 1.92 |
電気機器 | 18.1 | 1.69 |
ガラス・土石製品 | 18.2 | 1.15 |
水産・農林業 | 18.6 | 1.39 |
倉庫・運輸関連業 | 18.8 | 0.96 |
建設業 | 19.3 | 1.34 |
情報・通信業 | 19.6 | 3.03 |
陸運業 | 20.6 | 1.54 |
その他製品 | 21.1 | 1.52 |
サービス業 | 21.3 | 3.20 |
食料品 | 21.6 | 1.36 |
小売業 | 22.6 | 2.18 |
不動産業 | 22.6 | 1.65 |
鉱業 | 23.7 | 0.76 |
医薬品 | 24.0 | 1.74 |
繊維製品 | 26.5 | 0.91 |
電気・ガス業(電力) | - | 0.82 |
証券・商品先物取引業 | - | 1.33 |
- ※会社データを集計し、SBI証券が作成。データは2014年10月20日現在。低PER順に掲載。
- ※予想PERは会社予想純利益をベースとし、PBRは前期実績純資産をベースとした。平均予想PERは黒字企業・各社の予想PERを単純平均したもの。
- ※電気・ガスは電力とガスに区分。「−」は会社予想がないことを意味する。
図1:業種別株価騰落率(2014年9月25日〜10月20日)
- ※BloombergデータをもとにSBI証券が作成。
表3は、冒頭の「表1」で掲載した銘柄の定性的なポイントになります。住友ゴムが最上位に来ていますが、業種別の平均予想PER(黒字企業の単純平均)で、ゴム製品は10.0倍(10月20日)と全業種中最低になっています。時価総額トップのブリヂストン(5108)でさえ予想PER9.6倍です。住友ゴムはそれをさらに下回ることになります。
ちなみに、輸送用機器(自動車が中心)の予想PERは平均12.3倍で、全業種中4番目の低さです。住友ゴム、東海理化、NTNは自動車メーカーが納入先なので、その影響を受けている可能性があります。ただ逆に、世界経済が回復し、円安が進めば、株価が出遅れ修正に向かう可能性が高まるとみられます。
この他、三井金、三菱ガス化、出光興は市況変動の影響を受けるため、「世界経済の減速懸念」が嫌気された可能性があります。その意味では、株価全般が上昇し、そうした懸念が解消に向かえば、好パフォーマンスに転じる可能性も大きいと言えます。また、DCMホールディングスは、個人消費の回復がポイントになりそうです。
ご参考までに、日経平均が高値を付けた9月25日から10月20日までの業種別騰落率は図1の通りです。赤色は、表1の銘柄が属する業種です。非鉄金属(三井金)、石油・石炭製品(出光興)、機械(NTN)、輸送用機器(東海理化)は、TOPIXよりも下げており、株価下落率が大きくなった結果、PERやPBRが低下したという側面もありそうです。下げが大きかった分、反発相場での好パフォーマンスが期待できる可能性がありそうです。
表3:「表1」で紹介した銘柄の定性的ポイント
コード | 銘柄名 | ポイント |
---|---|---|
5110 | 住友ゴム工業 | 競争厳しいが原材料安や円安は追い風。グッドイヤーと提携解消の可能性も。 |
5706 | 三井金属鉱業 | スマホ向けの銅箔や自動車排ガス浄化装置が好調。8月8日に上方修正。 |
3050 | DCM ホールディングス | ホームセンター最大手。駆け込み反動・天候不順からの回復に期待。 |
6995 | 東海理化電機製作所 | 電子キーやシートベルトに強み。トヨタ系。7月末に業績予想を上方修正。 |
4182 | 三菱ガス化学 | 主力のメタノールが需要好調。半導体に不可欠なBT材料では世界シェアトップ。 |
5019 | 出光興産 | 原油低迷、開発石油の販売額目減りさせる円高が逆風。これらの反転に期待。 |
6472 | NTN | 米中向け自動車用ベアリング好調。補修用も日米で順調。風力発電向けも。 |
「割安銘柄」の増加局面は最終局面か?
今回の「日本株投資戦略」では、予想PERやPBRの面からみて割安感の強い銘柄を分析しました。ちなみに、市場全般の予想PERやPBRをみたものが図2及び図3です。おおよそ、2013年半ば以降、日経平均株価については、
・予想PER・・・・14倍弱を底とし、16倍強を天井とする推移が続いてきた。
・PBR・・・・・・・・1.2倍弱を底とし、1.5倍を天井とする推移が続いてきた。
といえます。ちなみに、直近では図中の矢印のように、予想PER、PBRともに低下しました。これは、9月25日を高値とする相場下落の過程で、多くの銘柄のPERやPBRが低下したことを意味しています。しかし、10月17日に、日経平均株価が1万5千円を大きく下回る中で、PERやPBRもこれまでのレンジでみれば、概ねボトム圏に到達したとみられます。
仮に、PERやPBRの推移するレンジが変わらなければ、これらは上昇に転じても不思議ではないタイミングであるとみられます。即ち、冒頭の表1のような割安感の強い銘柄が、一定数存在する期間は、さほど長くないと言えるかもしれません。その意味で、現在は低PER、PBR銘柄の投資チャンスと考えられるのではないでしょうか。
図2:日経平均の予想PER(倍)
- ※いずれも公表データをもとにSBI証券が作成。
- ※2014年10月20日現在。
図3:日経平均のPBR(前期実績ベース・倍)
- ※本ページでご紹介する個別銘柄及び各情報は、投資の勧誘や個別銘柄の売買を推奨するものではありません。