2015年の年初から、株式相場が不安定な動きとなっています。昨年秋以降に加速した原油価格の下落が、ロシアやベネズエラなど産油国のみならず、米国の株式市場にも一定の悪影響を与えている他、市場参加者が警戒心を緩めていたギリシャで、大統領選をめぐる混乱が再び同国のユーロ離脱問題を蒸し返してしまったこと等が大きな要因です。日経平均株価は2014年12月8日に18,030円まで上昇した後は、それらを警戒する形で調整局面となっています。
しかし、この株価下落は、買い場を探していたにもかかわらず、昨年秋以降の株価上昇で買いためらっていた投資家にとっては、タイミングを提供している可能性があります。事実、多くのアナリストが先行き好業績を予想しているものの、株価が下落した結果、バリュエーションや配当面で割安感が強まっている銘柄も増えてきています。
そこで、今回の「日本株投資戦略」では、相場に波乱の色が残る現状で、割安感が強まっている好業績銘柄にスポットを当ててみました。中長期投資にも向いているとみられる銘柄が多く、2015年のNISA(少額投資非課税制度)枠を利用したいと思われている投資家にとっても、銘柄検討の参考にする価値があると思います。
また、レポートの最後には、「そもそも今の株式相場は本当に買い場なのか否か」についても検討し、特に我が国の上場企業の業績面にスポットを当ててみたいと思います。
波乱相場で狙いたい「お値打ち」好業績銘柄 |
図表1は株価が下落した結果、バリュエーションや配当面で割安感が強まっている銘柄をピックアップしたものです。スクリーニング条件は以下の通りで、(1)〜(6)の全条件を満たす銘柄を今期予想配当利回りが高い順に10銘柄並べてみました。
(1)JPX400採用銘柄であること。
(2)今期営業利益(市場コンセンサス)が増益予想で、会社計画を上回っていること。
(3)今期予想純利益(同)が過去4週間で上方修正されていること。
(4)来期も5%以上の営業増益(同)が見込まれていること。
(5)予想PERがJPX400採用銘柄の平均である16.0倍未満であること。
(6)ROEがJPX400採用銘柄の平均である9.4%超であること。
JPX400採用銘柄は、営業利益やROEなどによってふるいにかけられた銘柄で構成されており、採用銘柄である時点で「一定のお墨付きを得た銘柄」とみなされます。こうしたJPX400採用銘柄を、(2)・(3)のスクリーニングを経ることで、下方修正リスクの小さい銘柄に絞り込まれます。さらに、(4)で来期のアナリスト予想をベースに、好業績が期待できる銘柄をさらに絞り込んでみました。その上で、(5)の割安感や(6)の資本効率の高さも織り込んでみました。こうした複数の条件を満たしたうえで、予想配当利回りの高い順にランキングしていますので、投資を検討する価値は十分あると考えられます。
図表1:波乱相場で狙いたい「お値打ち」好業績株
取引 | チャート | コード | 銘柄名 | 株価 | 今期増益率 来期増益率 |
今期PER ROE |
予想配当 配当利回り |
---|---|---|---|---|---|---|---|
7203 | トヨタ自動車 | 7,519 | 19.8% 16.5% |
12.0 13.7% |
197.70 2.6% |
||
6301 | 小松製作所 | 2,515 | 8.8% 9.8% |
15.0 12.42% |
60.68 2.4% |
||
7205 | 日野自動車 | 1,642 | 1.5% 16.7% |
12.8 29% |
37.85 2.3% |
||
1925 | 大和ハウス工業 | 2,213.5 | 6.7% 5.2% |
13.2 11.87% |
49.67 2.2% |
||
9433 | KDDI | 7,513 | 14.2% 10.1% |
15.5 13.0% |
166.99 2.2% |
||
6586 | マキタ | 5,210 | 21.6% 5.1% |
15.9 9.50% |
104.04 2.0% |
||
8870 | 住友不動産販売 | 2,747 | 8.8% 9.7% |
14.6 12.10% |
50.00 1.8% |
||
6326 | クボタ | 1,665 | 3.5% 13.9% |
15.3 15.24% |
29.60 1.8% |
||
5714 | DOWAホールディングス | 902 | 20.6% 10.7% |
10.5 16.0% |
15.90 1.8% |
||
6703 | 沖電気工業 | 235 | 15.4% 5.0% |
9.2 37.79% |
4.00 1.7% |
- ※BloombergデータをもとにSBI証券が作成。データは2015/1/13現在。
- ※今期増益率および来期増益率は、予想営業利益の市場コンセンサスが前期比何%増と見込まれているのかを示している。
- ※今期PERは市場コンセンサス(予想)ベース。
- ※予想配当はBloomberg集計の市場コンセンサスで、配当利回りは、予想配当を株価(1/13)で割ったもの。
- ※DOWAホールディングス(5714)は1/16付で業績に関する報道が出ていますが、今回はそれを織り込んだものにはなっておりません。
「お値打ち」好業績銘柄の投資ポイントは? |
■自動車株2社及び輸出株3社の投資ポイント
上記図表1の上位には、トヨタ自動車と日野自動車の自動車株2社が入っています。上半期(2014年4〜9月期)の決算をチェックすると、トヨタは前年同期比7%の営業増益(前年同期は同81%増)、日野自動車は18%の営業減益(前年同期は同103%増益)でした。実績が前年同期と比べると大きく減速したことや、世界経済を取り巻く様々な不透明感が、自動車株を「割安」状態に放置している要因とみられます。
ただ、半期ベースの期中平均為替レート(ドル・円)を見ると、2012年4〜9月期79.36円、2013年同期98.83円、2014年同期103.06円で、前年同期比の円に対するドル上昇率は2013年が24.5%、2014年が4.3%でした。円安・ドル高ピッチが大きく減速したことが、自動車株の利益に大きく影響しているとみられます(図表2)。仮に2015年1〜3月期の平均為替レートが118円で推移すれば、今年度下期における前年同期比のドル上昇率は14%程度に加速してくる計算です。自動車株の収益改善はここから顕著となってくる可能性がありそうで、その意味でも自動車株の投資妙味は増しそうです。
なお、マキタ、コマツ、クボタの3社も海外売上高の影響が大きく、円安のメリットは大きいと考えられます。ただ、マキタの場合、欧州売上高が44%(上半期)あるため、ドルよりユーロ変動の影響が気にかかります。ユーロの円に対する上昇率は足元減速していますので、業績面への影響を注視したいところです。
図表2:ドルの対円上昇率(前年同期比・%)
- ※BloombergデータをもとにSBI証券が作成。四半期ごとの平均為替レートで、ドルが円に対し、前年同期比で何%上昇したかを示している。
■内需関連株の投資ポイント
上記図表1の上位には、大和ハウス、住友不動産販売などの住宅関連株もランクインしています。図表3にもある通り、住宅市場は消費増税の影響を受けて、2014年2月頃から急減速しており、投資家が住宅関連株を見る目が厳しくなっていることが、住宅株を「割安」にしている要因のひとつとみられます。
ただ、図表3からご理解頂けるように、住宅市場は底打ちの様相を呈しています。消費税の再増税が延期されたことで、最近はむしろ追い風が吹きつつあります。
国も、住宅ローン減税の延長や住宅資金贈与非課税枠の拡大、住宅エコポイントの復活等を通じ、住宅市場の活性化を図ろうとしています。長期金利が過去最低水準にあり、住宅ローン金利が低水準にあることも支援材料です。今後、住宅関連株が見直される余地は大きそうです。
なお、KDDIは今期・来期ともに10%超の営業増益が予想されており、安定した利益成長が魅力となっているようです。予想配当利回りも2%を超えていますので、3月期末にかけ、キャピタルゲイン狙いの買い需要も増えそうです。
図表3:住宅着工数(年率・百万戸)
- ※Bloomberg、国土交通省データをもとにSBI証券が作成。
企業業績面では強い追い風が期待できる2015年の株式相場 |
最後に、「そもそも今の株式相場は本当に買い場なのか否か」について検討してみたいと思います。そこで、特に我が国の上場企業の業績面にスポットを当てて、ご説明したいと思います。
図表4は、日経平均株価と、日経平均の予想EPSの推移を示したものです。日経平均には我が国の代表的な企業が組み入れられていますので、そのEPSの推移は、日本の上場企業の業績の方向感を概ね示したものと考えることができます。このグラフでは、日経平均株価が時折、下落局面を経ながらも、トレンド的には上昇している姿が示されていますが、その背景に企業業績の拡大があったことがうかがえます。
今後、日経平均の予想EPSは上がるでしょうか?下がるでしょうか?「日本株投資戦略」では、以下の4つの理由から日経平均の予想EPSは上昇を続けると予想します。
(1)米国で政策金利引き上げの時機が接近する一方で、我が国では緩和的金融政策が長期化することが予想されます。このため、外為市場では円安・ドル高トレンドが続く可能性があります。
(2)原油価格(年度の平均価格)は2014年度、前年度比1割程度の下落となりそうです。仮に2015年度の平均価格が1バレル50ドルから60ドルの場合でも、年度平均価格は3〜4割下がる計算で、企業や家計のエネルギーコストは大幅低減が期待されます。
(3)2014年末に決定した税制改正大綱で、2015年度の法人税率が34.62%から32.11%へ、2.51%引き下げられる予定です。上場企業の純利益は、それだけで税引前利益の65.38%(=100-34.62)から67.89%(=100-32.11)へ3.8%(=67.89÷65.38-1)増える計算となります。法人税率は最終的に、数年で20%台に低下する見込みです。
(4)来年度は、消費税増税(2014年4月)による需要減の影響が剥落すると考えられます。
冒頭でご説明したように、原油価格下落の負の側面や、ギリシャなど欧州情勢がリスク要因であることは確かです。しかし、日経平均の予想EPSのトレンドを下方に屈折させるまでには至らないと「日本株投資戦略」では考えています。
図表4:日経平均株価と予想EPSの推移(日足)
- ※各種データをもとにSBI証券が作成。
- ※本ページでご紹介する個別銘柄及び各情報は、投資の勧誘や個別銘柄の売買を推奨するものではありません。