ギリシャ問題、円安一巡、原油安の悪影響表面化など、マイナス材料も多いなか、株式市場は、一進一退の展開となっております。それでも、日経平均株価が昨年末水準である17,450円を上回った水準にあるのは、景気回復や企業業績拡大への期待が根強いことが下支え材料になっているためと考えられます。その意味で1月20日頃から始まった、今年度第3四半期の決算発表は、市場参加者にとって大きな注目材料となりました。
そんな第3四半期決算発表シーズンですが、2月13日で実質終了となります。日本経済新聞の報道にもある通り、2015年3月期の上場企業の経常利益は7年ぶりの最高益が見込めそうな状態です。ただ、原油安や新興国経済の減速が悪影響を与えた企業もあり、内容的には明暗が分かれた決算発表でもありました。
今回の「日本株投資戦略」では、決算発表終了後の2月後半をにらみ、好パフォーマンスが期待できる投資チャンス銘柄は何かを考えてみました。そして、それを3つの視点からご紹介しております。決算発表を終えたこの時期は、「業績が市場予想を上回った」 「業績予想が上方修正された」等、「第一印象」での投資判断が一巡し、アナリストによる決算後の企業取材が進捗し、それによる評価の変化や、中長期的な見通しが株価を左右し得る時期となってきます。果たしてどんな銘柄が有望と考えられるでしょうか?
【相場ピックアップ!】 「間近に迫る春節の休み」
好決算・好見通しにもかかわらず、株価が出遅れていると考えられる銘柄 |
早速、有望銘柄を探っていきたいと思います。分析対象は、東証一部に上場する3月決算の「主力企業」(時価総額1千億円以上・金融除く)です。この部分は、後述の(2)、(3)でも共通の条件になります。
まずは素直に、「好業績」でありながら、株価が出遅れているとみられる銘柄をスクリーニングしてみました。スクリーニング条件は以下の通りです。結果は図表1の通りです。
- (A)営業利益が、当四半期(2014年10〜12月期実績)、今期(2015年3月期)予想(市場コンセンサス)、来期(2016年3月期)予想(同)について、全て前年比10%を超える増益であること。
- (B)営業利益について、当四半期実績が市場コンセンサスを上回り、今期予想(市場コンセンサス)が会社予想を上回っていること。
- (C)今期の会社予想営業利益が、今回の決算発表で上方修正されていること。
- (D)今期予想EPS(一株利益・市場コンセンサス)が過去4週間で上昇していること。
- (E)過去1ヵ月(1月9日〜2月9日)の株価上昇率が0%超5%未満であること。
(A)から(D)の全条件を満たしている時点で、業績面では文句のつけにくい「高得点」の企業と言えます。通常であれば、株価が大きく上がっていても不思議ではありません。ここでは、そうした銘柄の中から、現在は大きく株価が上昇していない銘柄を「出遅れ銘柄」とし、選出してみました。ただ、これだけの好条件にもかかわらず、株価が下落しているのも逆に説明がつきにくいと考え、それらは除外しています。
ご参考までに、(A)から(D)の全条件を満たしながら、株価が下落している銘柄としては、ディスコ(6146)、三菱電機(6503)、日本航空電子(6807)、村田製作所(6981)、富士重工(7270)があります。今期好業績銘柄として市場で活躍してきた銘柄が多いというのが印象ですが、市場はこれらの銘柄の好材料は相当織り込まれたと考えているのかもしれません。
図表1:好業績にもかかわらず、株価上昇率が小さい銘柄
取引 | チャート | コード | 銘柄名 | 株価 (騰落率) |
営業利益増減率(前年比) | ||
---|---|---|---|---|---|---|---|
Q3実績 | 今期予想 | 来期予想 | |||||
8036 | 日立ハイテクノロジーズ | 3,595 2.4% |
36.6% | 38.6% | 16.6% | ||
7203 | トヨタ自動車 | 7,700 1.2% |
27.0% | 20.7% | 16.4% | ||
6506 | 安川電機 | 1,508 1.6% |
59.6% | 24.3% | 13.7% | ||
4185 | JSR | 2,084 1.6% |
63.7% | 11.6% | 13.7% |
- ※Bloombergデータ、会社発表数値等をもとにSBI証券が作成。
- ※「Q3」は「第3四半期」の意味。
- ※データは2015年2月9日現在のもので、その後変動している場合もあります。
我が国を代表する製造業であるトヨタが選出されました。富士重工、マツダ、スズキ、三菱自動車などとともに、自動車メーカー各社は、4〜12月期としては過去最高益を更新しましたが、一部新興国での需要低迷があり、世界販売台数が計画を下回った企業が多く見られましたが、円安や原油価格の値下がりが追い風となりそうです。
日立ハイテクは、血液分析装置などの医療用機器や、米国企業向け半導体製造装置などが好調です。
JSRは、最先端の半導体に使う塗布剤が牽引役となりそうです。
安川電機はサーボモーターやロボットを中心に受注拡大が期待され、決算発表後に証券会社のレーティング引き上げがありました。
会社予想が慎重で株価が下落しているものの、アナリストは好業績を見込んでいる銘柄 |
まずは、スクリーニング条件を提示させていただきます。結果は図表2の通りです。
- (A)過去1ヵ月(1月9日〜2月9日)の株価が下落していること。
- (B)営業利益が、当四半期実績、今期予想(市場コンセンサス)、来期予想(同)について、全て前年比10%を超える増益。
- (C)営業利益について、当四半期実績が市場コンセンサスを上回り、今期予想(市場コンセンサス)が会社予想を上回っていること。
- (D)今期会社予想営業利益が、今回の決算発表で「据え置き」と、されていること。
- (E)今期予想EPS(一株利益・市場コンセンサス)が過去4週間で上昇していること。
一見すると、最初の銘柄グループと似ているようですが、(A)と(D)が異なります。即ち、好業績と評価可能な銘柄であるにもかかわらず、株価が下落しており、その大きな理由が「会社が業績予想を上方修正しなかったこと」に求められる点です。
市場は、四半期決算で市場コンセンサスを上回るような利益をあげた企業に対しては、会社予想利益の上方修正を期待しています。しかし、そうした期待が肩透かしに合うと、株価が下落してしまうケースも多いようです。
もっとも、業績予想を修正する、しないは、会社の判断にも左右されます。将来の事業環境の急変というリスクを考慮し、修正に慎重な企業も存在します。しかし、これらの企業の心配が取り越し苦労に終わり、最終的に利益が会社予想を上回る確度がさらに高まってくれば、株価は上昇する可能性が大きいと言えそうです。
図表2:会社予想据え置きで株価下落も、好業績が期待される銘柄
取引 | チャート | コード | 銘柄名 | 株価 (騰落率) |
営業利益増減率(前年比) | ||
---|---|---|---|---|---|---|---|
Q3実績 | 今期予想 | 来期予想 | |||||
6963 | ローム | 7,140 -4.5% |
31.5% | 63.5% | 27.9% | ||
4183 | 三井化学 | 339 -0.9% |
240.3% | 69.8% | 25.2% | ||
1417 | ミライト・ホールディングス | 1,283 -3.6% |
21.7% | 31.0% | 6.7% |
- ※Bloombergデータ、会社発表数値等をもとにSBI証券が作成。詳細は図表1と同じ。
ロームは、電装化が進む自動車向け半導体で販売を拡大させています。半導体需要や為替見通しの変動を勘案して上方修正を見送りましたが、ここから円高が急速に進まない限り、上方修正含みのようです。同社に限らず、半導体・電子メーカーで業績好調だった銘柄の多くは、車載向け市場や、台頭する中国のスマホメーカー向けに受注を拡大している会社が多いようです。
三井化学は、原油安が製品単価下落につながる石油化学のような部門もありますが、機能性樹脂やウレタンなどの分野が円安・原料安の恩恵を受けました。化学メーカーは、原油安がプラス面とマイナス面の両方に効きますが、同社の場合は円安もあり、増益で乗り切った形です。
ミライト・ホールディングスは、大明などが統合して誕生した通信工事大手で、最近は電気自動車の充電設備等も手掛けています。当四半期は完成工事粗利率が向上し、採算の改善が顕著でした。
減益決算で株価下落も、織り込み済みとみられ、来期は増益が予想される銘柄 |
当四半期(2014年10〜12月期)に営業減益になった銘柄にも、投資チャンスはあると思います。営業利益そのものは、アナリストも予想範囲内であり、逆に来期は増益が予想される企業もあるためです。こうした企業はむしろ、「減益」で株価が下押し圧力を受ければ、投資チャンス到来となる可能性があります。
こうした銘柄を抽出するためのスクリーニング条件は以下の通りです。結果は図表3の通りです。
- (A)過去1ヵ月(1月9日〜2月9日)の株価が下落していること。
- (B)当四半期の営業利益実績が、前年同期比で減益となっていること。
- (C)営業利益について、当四半期実績が市場コンセンサスを上回り、今期予想(市場コンセンサス)が会社予想を上回っていること。
- (D)来期の予想営業利益(市場コンセンサス)が増益となっていること。
- (E)今期予想EPS(一株利益・市場コンセンサス)が過去4週間で上昇していること。
もし、営業利益の見通しが市場コンセンサス通りになれば、利益の減少は第3四半期、もしくは通期までで収束し、来期は増益になる見込みの銘柄です。実績で減益となった分、市場の期待度は低下している可能性が高く、業績回復が鮮明になってくれば、株価が上昇に転じる可能性も大きい銘柄と考えられます。
図表3:四半期減益で株価下落も、来期に回復の期待が大きい銘柄
取引 | チャート | コード | 銘柄名 | 株価 (騰落率) |
営業利益増減率(前年比) | ||
---|---|---|---|---|---|---|---|
Q3実績 | 今期予想 | 来期予想 | |||||
3635 | コーエーテクモホールディングス | 1,619 -4.9% |
-18.9% | 37.0% | 11.7% | ||
8806 | ダイビル | 1,009 -8.6% |
-0.2% | -5.6% | 5.7% | ||
4661 | オリエンタルランド | 27,430 -2.0% |
-12.2% | -6.4% | 11.2% | ||
6752 | パナソニック | 1,319 -4.8% |
-2.8% | 19.0% | 9.5% |
- ※Bloombergデータ、会社発表数値等をもとにSBI証券が作成。詳細は図表1と同じ。
オリエンタルランドの今期は、開業30周年だった前期の反動が見込まれ、入場者数は期初に2,800万人と、前期実績の3,129万人から11%減る見込みでしたが、現時点で3,040万人程度になる見込みです。1月から「アナと雪の女王」をテーマにしたイベントもスタートしており、集客増が期待できそうです。なお、同社の1月29日高値から下落率は一時16%に達しました。
パナソニックは住宅や車載向けを収益の核とする構造改革を進捗中ですが、この四半期は足踏みとなった形です。懸案のテレビ事業のリストラも一巡するなど構造改革ではライバルのソニーに先行したとみられますが、黒字転換予想でソニーの株価が大きく動いたために、少しかすんだ存在になってしまいました。しかし、アナリスト予想通りであれば、来期は増益に転じる見込みです。
ダイビルは、新ビル建設や税負担に関するコスト増で減益となりましたが、大阪中心部の主力賃貸ビルがほぼ満室となっており、保有物件の稼働率は向上しているようです。
コーエーテクモは、採算の厚いオンライン配信の比率が高まりつつあるようです。4〜12月としては過去最高益でした。
相場ピックアップ!
前回から始めた新コーナーです。今週も、直近の株式市場で注目すべき事柄をピックアップして解説いたします。
今回注目したのは、「間近に迫る春節の休み」です。
いよいよ中国・台湾の大型連休である「春節」が迫ってきました。今年は2月18日〜24日までの予定です。日本を訪れた外国人は、2014年に1,341万人(前年比29%増)と過去最高を記録し、2兆305億円(前年比43%増)の消費を記録しました。大手旅行代理店では、今年は1,500万人の訪日外国人を見込んでいるようです。ビザの大幅規制緩和や、消費税免税制度の拡充、円安などがこうしたブームの背景にあります。春節を迎える中国からの訪日客は昨年241万人(前年比83%増)、台湾283万人(同28%増)でしたので、春節は今年の訪日外国人動向を探る上でも試金石となりそうです。このレポートが掲載された翌週から春節が始まりますので、関連したニュースが増加し、関連銘柄は追い風となるかもしれません。
その意味では、減益決算で一時下げたオリエンタルランド(4661)には出直りのチャンスかもしれません。同社株にツレ安した京成(9009)ですが、訪日外国人増加や東京五輪、「新東京駅開業」をにらみ、沿線の一部で再開発が進みつつあります。チャート的には底入れの兆しも呈しつつあります。無論、羽田空港につながり、品川再開発も関連する京浜急行(9006)も関連銘柄と考えられます。
訪日外国人増加に加え、原油価格下落も追い風となるANA(9202)は25日移動平均を下値にみながらの動きになっています。もちろん、同業の日本航空(9201)も追い風を受けていますが、これらは「株主優待」も気になる所です。中小型株では、2月第2週に入り、コメ兵(2780)が月次売上高の増加を背景に動意を見せています。「間近に迫る春節の休み」では、訪日外国人関連銘柄に注目です。
京成(9009)
- ※データはいずれも2015/2/9時点
ANAホールディングス(9202)
- ※本ページでご紹介する個別銘柄及び各情報は、投資の勧誘や個別銘柄の売買を推奨するものではありません。