東京株式市場では、日経平均株価が18,000円台後半まで上昇しました。これは2000年4月以来の高値水準となりますが、日米欧の主要3極で緩和的な金融政策が長期化する一方、日本経済についても円安・原油安に加え、消費増税による需要押し下げ効果剥落で、今後回復が本格化すると期待されていることが要因です。
ちなみに日経平均株価がかつて18,500円台を付けていた2000年5月、東証一部の予想PERは55倍(月末)、予想配当利回り(同)は0.6%でした。それに対し、2015年2月20日現在、東証一部の予想PERは17.5倍、予想配当利回りは1.5%となっています。現在の株価は、企業利益との比較の面で割安感が強い上に、株主にとってはより好利回りの配当を望めるという意味で、魅力が大きくなったと言えるかもしれません。
また、株主にとって、配当のみならず「株主優待」の魅力が強まっていることも、近年の特徴のひとつです。現在、上場企業の3割超で優待制度を実施しているとみられ、著名人による株主優待を紹介した記事も数多く執筆され、ブームのような状態になっています。無論、ブーム故に割高となった優待銘柄もあり、注意は必要です。それでも3月末は、本決算期末を迎える企業が多く、年間で最多の企業が株主優待を実施しますので、その存在を無視した投資戦略も成立しにくくなっているのが現状です。
そこで、今回の「日本株投資戦略」では、3月末を権利付最終日とする銘柄の株主優待について、3つの視点から考えてみました。最低投資金額については、10万円以下としましたので、仮にNISA口座での運用として100万円を予算に考えるならば、10銘柄以上に分散投資して保有することが可能です。
今回のポイント〜「10万円で買える優待銘柄」を「3つの視点で考える」
【相場ピックアップ!】 「建設株は出遅れ?」
主力銘柄でも多くの企業で実施される「株主優待」 |
まず初めは、時価総額1,000億円を超える主力企業でも、株主優待を実施する企業が少なくないという現状をご紹介します。3月末に権利が確定する銘柄で、株主優待を実施している銘柄は全部で664社ありますが、そのうち、時価総額が1,000億円以上で株主優待を実施しており、最低投資金額が10万円以下の企業(金融を除く)を図表1でご紹介しております。なお、東急不動産HD(3289)もこれに該当しますが、図表3の銘柄として後述させていただきます。
ヤマダ電機(9831)はご存じのとおり、我が国を代表する家電量販店ですが、割引券の金額に消費税8%分が乗せられている点に、細かな配慮が感じられます。三和ホールディングス(5929)は、旧社名の三和シャッターの方がわかりやすいかもしれませんが、同社のようにクオカードを株主優待とする企業は数多くあり、図表2でご説明します。アパート請負建築・賃貸に展開するレオパレス21(8848)は、過去に購入したグアムの不動産を活用し、株主優待に生かしているようです。コロワイド傘下で回転寿司他に展開するアトム(7412)は、他社と比べてやや高めのポイント付与が魅力になっています。
なお、最低投資金額を10万円に区切らなければ、ANAホールディングス(株主優待割引)、オリエンタルランド(ワンデーパスポート)といった優待で良く知られた企業の他にも、ソフトバンク(基本使用料割引)やソニー(割引クーポン)など、多くの企業が株主優待を実施しています。
図表1:10万円以下で買える「3月優待」銘柄(時価総額上位銘柄)
項目 | チャート | コード | 銘柄名 | 株価 | 最低投資単位(100株)での 株主優待内容 |
---|---|---|---|---|---|
9831 | ヤマダ電機 | 496 | ◯:年間割引券540円(消費税考慮) ※2,160円以上の買物(現金)で使用可 |
||
5929 | 三和ホールディングス | 851 | ◯:500円相当のオリジナルクオカード | ||
8848 | レオパレス21 | 696 | ◎:自社海外ホテル無料宿泊券2枚 国内自社ホテル50%割引券2枚 |
||
7412 | アトム | 780 | ◎:2,000円相当のポイントを株主優待 カードに付与。 |
- ※当社株主優待分析ツール及び会社公表データをもとにSBI証券が作成。データは2015年2月25日現在。
- ※いずれも3月権利確定銘柄で、権利付最終日は2015年3月26日。
- ※最低投資単位での株主優待内容で◯は3月末のみ、◎は3月末・9月末の株主が優待の対象。
かつては、最低投資金額を10万円以下に限定すると、主力の単元株数が1,000株であったこともあり、株価は100円以下となり、財務体質や業績が良くない企業が多く含まれてしまいました。しかし、現在は単元株を100株に下げる企業が増えている。このため、10万円あれば、投資家は財務体質・業績が良い企業を含め、数多くの選択肢から銘柄を選ぶことが可能です。
株主優待が投資家にとって、「おまけ」のような、お得感を高めさせることは確かですが、自社製品を提供対象とする場合は、企業にとってもアピールや宣伝の場になります。優待の実施を通じて、株主を増やすとともに、自社製品のファンを増やせるのであれば、企業にとっても有益であると考えられます。
いつ・どこでも使える金券が「優待」で、配当と合わせた魅力が大きい企業 |
最近の株主優待に、いつ・どこでも使える金券を提供する企業が増えています。クオカードやUCカード等がその代表例となっています。これらの金券は、概ねいつ・どこでも使えるため、現金に近い存在であり投資家にとっては、満足度の高い株主優待のひとつとなっています。
図表2は、そんな金券を株主優待として採用しており、配当とともに合わせると、魅力が高まる銘柄をご紹介したものです。もちろん、3月末に権利が確定し、10万円以下で買える銘柄です。3月末だけ権利を確保する場合や、年間ですべての権利を享受する場合で、魅力度が異なってきますので、注意が必要です。
このように個人投資家にとっては魅力度の大きい銘柄ですが、それ以外の投資家にとっては使い勝手が良くないとの指摘もあります。制度としては課題が残っているとも言えそうです。
図表2:10万円以下で買え、いつ・どこでも使える金券が「優待」で、配当と合わせた魅力が大きい企業
取引 | チャート | コード | 銘柄名 | 株価 | 最低投資 金額 (円)(A) |
最低投資単位 (100株)当たり(B) |
(B)÷(A) (年間) |
|
---|---|---|---|---|---|---|---|---|
株主優待 | 配当 (下/年) |
|||||||
1726 | ビーアールホールディングス | 356 | 35,600 | ◯:クオカード 1,000円 |
200 600 |
4.5% | ||
3294 | イーグランド | 756 | 75,600 | ◎:クオカード 1,000円 |
1,000 1,000 |
4.0% | ||
4275 | カーリットホールディングス | 649 | 64,900 | ◯:UCギフトカード 1,500円 |
1,000 1,000 |
3.9% | ||
7883 | サンメッセ | 481 | 48,100 | ◯:クオカード 1,000円 |
300 600 |
3.3% | ||
2179 | 成学社 | 925 | 92,500 | ◎:クオカード 1,000円 |
475 950 |
3.2% |
- ※当社株主優待分析ツール及び会社公表データをもとにSBI証券が作成。データは2015年2月23日現在。
- ※いずれも3月権利確定銘柄で、権利付最終日は2015年3月26日。
- ※「株主優待」で◯は3月末のみ、◎は9月末及び3月末が優待確定日。「配当」は上段が下半期予想配当で、下段が年間予想配当(いずれも最低投資金額当たり)。(B)÷(A)は、あくまでも2015年2月23日現在の予想数字であり、年間の株主優待及び配当の権利をすべて享受した場合の数字であり、今後変動する可能性がある。
使い方次第で、魅力がパワーアップする株主優待〜最後に「株主優待」の注意も確認 |
最後に、使い方次第で魅力がアップする株主優待の例をご紹介したいと思います。図表3はその例を示したものです。前項で示した「いつ・どこでも使える金券」と異なり、投資家の性別や年齢、職業等によって、お得度が異なる傾向が認められる優待が多くなっています。例えば、紳士服の割引券は、女性の投資家にはありがたみが少ないでしょう。また、割引券などは、それを使って購入する商品がいくらかにより、割引金額自体に差が出てきます。
反面、使い方によっては、かなり「お得」を期待することもできます。例えばTAC(4319)などは、何万、何十万円もする講義が10%割引で受講可能となり、株式最低投資金額よりも大きくなるケースがあるかもしれません。各銘柄の優待の詳細については、各社のWEBサイトなどで確認の必要がありますが、こうしたケースは、他にも出てくる可能性があります。旅行好きの人には、下記の銘柄の範囲内ならば、東急不動産HD(3289)が有効かもしれません。
図表3:使い方次第で、魅力がパワーアップする株主優待の一例
取引 | チャート | コード | 銘柄名 | 株価 | 事業内容及び最低投資金額での 優待内容 |
---|---|---|---|---|---|
2656 | ベクター | 764 | ◯:ソフトダウンロードが主力。10,000円相当PC向けオンラインゲーム利用券。 | ||
3205 | ダイドーリミテッド | 558 | ◯:衣料事業等に展開。5,800円相当の衣料・雑貨等が優待内容。 | ||
3289 | 東急不動産ホールディングス | 837 | ◎不動産業。リゾートホテル宿泊優待割引券1枚、宿泊優待割引券2枚他。 | ||
4319 | TAC | 213 | ◎資格取得学校。受講料定価の10%割引券1枚。 | ||
7416 | はるやま商事 | 751 | ◯:紳士服大手。15%割引券2枚。ネクタイ、ワイシャツ他贈呈券1枚。 | ||
7494 | コナカ | 699 | ◎紳士服大手。20%割引券3枚。 |
- ※当社株主優待分析ツール及び会社公表データをもとにSBI証券が作成。データは2015年2月23日現在。
- ※いずれも3月権利確定銘柄で、権利付最終日は2015年3月26日。
- ※「株主優待」で、◯は3月末のみ、◎は9月末及び3月末が優待確定日。東急不動産HDは3月と9月で優待内容に違いがあるので注意。
最後に、株主優待を生かした株式投資での注意点を確認しておきたいと思います。
- (1)3月に権利が確定する株主優待を享受するためには、権利付最終日(ほとんどの銘柄が3月26日だが例外に注意)までに買付けておく必要があること。
- (2)投資株数により、優待内容が異なるケースも多くあること。
- (3)優待内容にいくら魅力があるものでも、自分に必要のないものである場合は、価値が小さいと考えること。
- (4)株主優待を目的とした投資であっても、株式投資である以上、株価変動には十分注意すること。
(特に、株主優待が魅力的な銘柄であるが故に、権利付最終日前に株価が上昇したり、割高に評価されるケースも出てくるので注意が必要です。)
以上のような注意点をご理解いただいた上で、株主優待を「有効活用」すれば、株式投資ライフがもっと充実したものになる可能性も十分あると考えます。
相場ピックアップ!
今週も、直近の株式市場で、注目すべき事柄をピックアップして解説いたします。
今回、注目したのは、「建設株」です。業種別指数の中で出遅れ感が強まっていると考えることができるからです。
2020年に東京五輪開催が予定されている上、「国土強靭化」という国策もあり建設株はこれまで、何度も株式市場で注目されてきました。日経平均株価が2000年4月以来、約15年ぶりの高値水準を回復する中で、建設株はそのけん引役であったという印象を抱く投資家も多いと思います。しかし、昨年末からの業種別指数株価推移で見る限り、必ずしも、そう言い切れないと思われます。図表Aに示した通り、建設株は出遅れ状態にあります。
日経平均株価が18,000円を超え、今後さらに市場参加者の多くが「2015年の高値」として予想した20,000円を目指すのであれば、出遅れ業種としての建設株が再度注目される余地はありそうです。図表Bは、そうした建設株の中で、好業績が見込まれながらも、株価騰落率や予想PERの面から出遅れ感が強い銘柄をピックアップしたものです。ただ、原油価格変動の影響が大きいプラント関連はここでは対象外としました。出遅れ建設株の活躍に期待したいところです。
図表A:業種別株価指数
|
業種名 |
騰落率 |
---|---|
陸運業 |
16.2% |
医薬品 |
15.4% |
パルプ・紙 |
11.0% |
ゴム製品 |
10.1% |
銀行業 |
9.6% |
TOPIX |
7.2% |
石油・石炭製品 |
1.9% |
建設業 |
1.7% |
非鉄金属 |
1.7% |
その他製品 |
1.5% |
鉱業 |
1.1% |
- ※BloombergデータをもとにSBI証券が作成。2014年12月30日から2015年2月14日までの業種別株価指数の騰落率で上位5業種と、下位5業種、及びTOPIXの騰落率を示したもの。
図表B:株価・業績・バリュエーション面で出遅れ感の強い建設株
取引 | チャート | コード | 銘柄名 | 騰落率 (昨年 末来) |
2年 増益率 (予想) |
来期 予想 PER |
---|---|---|---|---|---|---|
1719 | 安藤・間 | -9.5% | 50.7% | 13.7 | ||
1976 | 明星工業 | -9.5% | 50.2% | 10.3 | ||
1417 | ミライト・ホールディングス | -8.2% | 39.7% | 9.3 | ||
1820 | 西松建設 | -7.8% | 146.9% | 13.3 | ||
1879 | 新日本建設 | -7.3% | 26.8% | 7.9 | ||
1824 | 前田建設工業 | -6.1% | 74.1% | 13.2 | ||
1860 | 戸田建設 | -1.7% | 114.4% | 14.8 | ||
1835 | 東鉄工業 | 0.4% | 22.7% | 14.3 |
- ※BloombergデータをもとにSBI証券が作成。建設株(プラント、電気工事を除く)で、
①2014年12月30日〜2015年2月14日の値上がり率が1.2%(業界単純平均)以下、
②前期から来期までの予想営業増益率が20%以上、
③来期予想PERが15.5倍(業界平均)以下、
の全条件を満たす銘柄を上昇率の低い順にランクしたもの。
予想は市場コンセンサス。
- ※本ページでご紹介する個別銘柄及び各情報は、投資の勧誘や個別銘柄の売買を推奨するものではありません。