4月10日(金)の取引時間中に、日経平均株価は2000年4月17日以来、約15年ぶりに20,000円の大台を付けました。これを受け、多くの市場参加者の関心が、日経平均株価20,000円は「ゴール」なのか「通過点」なのかに集まっています。
仮に、日経平均株価が20,000円を「通過点」として上昇基調を続けるならば、そのエンジン役として欠かせないとみられるのが、「上場企業のさらなる業績拡大」ではないでしょうか。図表1は、2013年半ば以降、日経平均株価が予想PER何倍で買われてきたのかを示しています。この図から、日経平均株価は概ね予想PER14倍から17倍に相当する水準で買われてきたことを示しています。しかし、今年の3月中旬以降、日経平均株価の予想PERは17倍を超える水準へと上昇してきました。
この水準は、現在の日経平均株価の予想EPS(一株利益)を基準にみると「割高」に見える水準です。これが正当化されるには、予想EPSが今後さらに上昇しなければならないことになります。こうしたなか市場では、新年度の上場企業の業績は、純利益ベースで10数%増えると予想されています。もし、その通りになるのであれば、現在の日経平均株価の水準も、企業業績の面では「正当化」される可能性が膨らんでくると考えられます。
そこで、今回の「日本株投資戦略」では、業績拡大が見込まれ、上方修正も期待される銘柄にスポットを当ててみました。折しも東京株式市場では、4月下旬から、3月決算企業の「本決算」および新年度の業績見通しについての発表が本格化してきます。これらの好業績銘柄は、こうした決算発表シーズンのけん引役になると期待される銘柄です。また、それら業績予想の上方修正が期待される銘柄のポイントや、決算発表シーズンに求められる注意点についてもご説明したいと思います。
図表1:日経平均株価と予想PER14倍、15倍、16倍、17倍相当水準
- ※BloombergデータをもとにSBI証券が作成。
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上方修正・株価上昇の期待される銘柄は? |
まず初めに、決算発表シーズン到来を控え、今期業績予想の上方修正(または予想超過)が期待される上に、来期も大幅増益が予想される銘柄の抽出を試みました。抽出条件は以下の通りです。
(1)東証一部上場で時価総額1千億円以上(4月10日現在、銀行・証券・保険を除く)の3月決算企業
(2)今期市場予想営業利益が会社計画を上回っていること(上方修正期待銘柄を抽出するためです)
(3)今期市場予想EPS(カバレッジが2社以上)が、4週前と比較して2%超上昇(上記の条件を補完します)
(4)来期の市場予想営業増益率が10%超
(5)来期の市場予想純利益をベースとする予想PERが20倍以下(割高な銘柄を極力除くためです)
この全条件を満たす全銘柄を、2016年3月期の市場予想営業増益率が高い順に並べたものが図表2になります。ここでは、「今期」を15年3月期、「来期」は16年3月期とします。
図表2:上方修正・株価上昇の期待できる銘柄は?
取引 | チャート | コード | 銘柄名 | 株価 (4/14) |
市場予想営業増益率 | 市場予想PER | ||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|
15/3 | 16/3 | 15/3 | 16/3 | |||||
5482 | 愛知製鋼 | 602 | 5.2% | 31.1% | 20.4 | 15.8 | ||
3401 | 帝人 | 429 | 85.0% | 22.7% | 赤字 | 18.5 | ||
5486 | 日立金属 | 1,841 | 30.2% | 21.6% | 14.3 | 11.7 | ||
5991 | 日本発條 | 1,314 | -16.6% | 20.8% | 13.4 | 12.5 | ||
7762 | シチズンホールディングス | 921 | 19.0% | 13.8% | 14.8 | 14.5 | ||
9062 | 日本通運 | 711 | 15.3% | 13.6% | 23.5 | 20.0 | ||
7915 | 日本写真印刷 | 2,377 | 335.7% | 13.2% | 12.4 | 14.1 | ||
7248 | カルソニックカンセイ | 849 | 4.3% | 12.6% | 10.6 | 9.9 |
- ※Bloombergデータ及び会社公表データをもとにSBI証券が作成。データは2015年4月14日現在。
- ※「市場予想」は、Bloombergベースの市場コンセンサス。
上方修正が期待されている銘柄の特徴は? |
これらの銘柄は、なぜ上方修正が期待される上、来期も大幅増益が見込まれるのでしょうか。そこには、いくつか特徴があるようですので、以下にまとめてみました。
(1)市場・販路の拡大が収益拡大に結び付いている企業
生産・販売する製品が、用途・販売先の面で拡大しつつある企業は、売上を伸ばし、稼働率を上げ、利益を増やすことが可能になります。日写印(7915)は、かつて「任天堂関連」のイメージが強かった企業ですが、主力製品のタッチパネルが、タブレットおよびスマホ向けに販売を拡大(図表3)させています。シチズンHD(7762)は、高級腕時計が「訪日外国人」という新たな市場を獲得しつつあります。この他、カルソニックカンセイ(7248)は、北米での売上増が期待されています。
生産・販売体制を再構築することは、コスト競争力を高め、企業を「筋肉質」な体質に変えることが目標です。帝人(3401)は、国内ポリエステルフィルムの生産を集約し、コストの削減を図っています。2015年3月期の最終赤字予想は、こうしたリストラを目的とした前向きなものと捉えられ、16年3月期の収益力向上に寄与しそうです。また、ニッパツ(5991)は、一部製品で受注が急増したことに対応できず、コスト高を招きましたが、その対応が一巡してきそうです。
多くの製造業の生産コストを左右する原油価格は、2014年秋から冬にかけて急速に値下がりしました。このため、2014年10〜12月頃から、一部の企業では製造原価低下の効果が見られつつあるようです。構造用鋼の大手である愛知鋼(5482)の2015年3月期は、円安に伴う原料高、電気代上昇が逆風になってきましたが、今後は原料価格低下、電気代減少の効果が出てきそうです。2014年4〜12月は累計で、前年同期比5%弱の営業減益に終わりましたが、10〜12月期だけみると、27.5%の増益に転じています。日本通運(9062)も、燃料価格低下の効果は今後本格的に表れてくるとみられますが、輸送費値上げの効果もプラスになりそうです。
図表4は、愛知鋼の四半期営業利益の推移です。2015年3月期は、四半期ごとに増益率(前期比)が改善しています。この利益改善傾向が続くならば、第4四半期の会社見通し(減益見通し)は慎重過ぎるかもしれません。
図表3:日写印では、スマホ・タブレット向けが拡大
- ※会社資料よりSBI証券が作成。横軸は決算期で、例えば2010ならば、2010年3月期を示す。15年3月期は会社予想。
図表4:愛知鋼の四半期営業利益は改善
- ※会社公表データよりSBI証券が作成。2014年3月期及び2015年3月期の四半期(3ヵ月)営業利益(億円)。2015年3月期・第4四半期は会社通期予想から逆算。
決算発表シーズンで投資家が注意すべきポイント |
決算発表企業数のピークは5月8日か
2015年3月期の決算発表は、4月20日頃から開始されます。図表6にもある通り、発表企業数ベースでは、5月8日(金)がピークで、5月11日(月)〜15日(金)も1日当たり数百社ペースで発表が続くこの時期は、企業業績から目が離せません。なお、4月28日(火)や4月30日(木)は、企業数こそ少な目ではあるものの、時価総額の大きな企業の発表が多く、やはり、気を抜けない時期と考えられます。
決算発表前の「観測報道」に注意
改めて気を付けなければならないのは、2015年3月期業績及び2016年3月期見通しの「織り込み」は、決算発表日前から進む可能性があることです。一部の銘柄について、新聞報道等で業績に関する観測報道が出るためです。特に日経新聞等で、アナリスト予想や会社見通しを上回る業績(観測)が報道されると株価が上昇し、その逆の場合は、株価が下落するケースが増えてきます。その意味では、既に「決算発表シーズン」は始まっていると言っても過言ではないかもしれません。
観測報道、実際の業績や見通しが「アナリスト予想」を上回っているか?
決算の実績数字や見通し、または観測報道の数字が増益になっているからといって、株価が上昇する訳ではありません。アナリストの調査対象となっている企業であれば、彼らの予想する平均(市場コンセサス)を上回っているか否かが重要です。アナリストの調査対象外銘柄であれば、会社予想に対して上回っているか否かが重要です。
図表5:日銀短観で示された大企業業績見通し
|
2014年度 |
2015年度 |
---|---|---|
製造業 |
||
売上高 |
+1.2% |
+0.6% |
経常利益 |
+5.1% |
+1.3% |
非製造業 |
||
売上高 |
+3.7% |
+0.8% |
経常利益 |
+3.5% |
+0.0% |
全産業 |
||
売上高 |
+2.7% |
+0.7% |
経常利益 |
+4.3% |
+0.6% |
想定為替レート |
||
円/ドル |
107.06 |
111.81 |
- ※「日銀短観」(2015年3月)をもとに、SBI証券が作成。売上高、経常利益は前年度比増減率。