5月の東京株式市場は堅調でした。日経平均株価は18営業日中16営業日も上昇し、月間上昇率は5.3%となりました。特に、15日以降は、1988年2月以来となる連騰記録を作り出しました。決算発表が終息に向かう中で、企業業績の拡大が改めて確認されたこと、円相場が特に対ドルで、これまで推移してきたレンジを放れ12年ぶりの円安水準になったこと等が、強い追い風となりました。6月に入り、日経平均株価の連騰記録は「12」でストップしましたが、引き続き2万円台での推移となっています。
こうした中、主力銘柄からも大きく株価が上昇する銘柄が多く見られるようになりました。日経平均株価が連騰開始となった5月15日から、12連騰を記録した6月1日まで、日経平均採用銘柄では、東京電力(上昇率42.4%)、みずほ(同21.7%)、資生堂(同20.2%)、損保ジャパン(同17.4%)等が大きく上昇しました。
これらの銘柄は引き続き上昇するでしょうか?上昇率が大きいのみならず、テクニカル面では25日移動平均からの乖離が大きくなっており、ある程度過熱感が強まりつつあります。それでは投資家としては、こうした局面で、どのような銘柄を投資対象とすべきでしょうか。
そこで、今回の「日本株投資戦略」では、業績・バリュエーション面で出遅れ感があるとともに、チャート的には、いまだ過熱感が少なく、むしろ「保ち合い放れ」を期待できそうな主力銘柄を探ることにしました。
【投資金額最大20万円】保ち合い放れ直前銘柄を探る! |
今回の「日本株投資戦略」では、東証一部上場主力銘柄の中から、チャート的に近い将来、保ち合い放れが期待できるような銘柄を、業績面・バリュエーション面で出遅れ感がある銘柄の中から抽出してみました。スクリーニング条件は以下の通りです。
- (1)東証一部上場で、時価総額1千億円以上の主力企業(金融及び決算期変更銘柄を除く)
- (2)予想PERが16.6倍(日経平均採用銘柄の平均)未満
- (3)PBRが1.42倍(同)未満
- (4)今期予想経常増益率5%以上
- (5)25日移動平均からの乖離率が0%超〜5%未満の銘柄(ただし、13週移動平均からの乖離率も7.5%未満)
これらの全条件を満たす銘柄を、25日移動平均からの乖離率が低い順に並べたものが図表1になります。
相場が成熟するにつれ、市場では「出遅れ銘柄」を探す動きが強まると予想されます。この場合「出遅れ銘柄」には、業績面・バリュエーション面での出遅れと、チャート面での出遅れがあると考えられます。(1)〜(4)では、銘柄規模を一定条件に保ちつつ、業績・バリュエーション面での出遅れ銘柄抽出を狙っています。
(5)は、テクニカル面での出遅れを狙っています。冒頭にご説明したように、株価が大きく上昇した銘柄は多くの場合、25日移動平均からの乖離も大きくなっています。5月15日〜6月1日における日経平均採用銘柄上昇率上位10社の乖離率は、最低で6.5%、最大で32.7%となっています。スクリーニング条件では、この数字を5%未満とすることで、次に大きく上昇しやすい銘柄を抽出したいと考えました。ただ、株価が25日移動平均未満の場合、上値の重い状態が続く可能性があると考え、ここでは除くこととしました。なお、移動平均との乖離率の分析は25日移動平均だけですと不十分ですので、週足レベルで最もポピュラーな13週移動平均との乖離率もチェックしました。上記の日経平均採用銘柄上昇率上位10社でみると、13週移動からの乖離率は、平均で25日移動平均からの乖離率の1.5倍程度でした。そこで、抽出した銘柄の13週移動平均からの乖離率は、7.5%(5%の1.5倍)を許容範囲としました。
図表1:バリュエーション面で出遅れ感があり、25日移動平均からのプラス乖離が小さい銘柄
取引 | チャート | コード | 銘柄名 | 株価 (6/3) |
移動平均からの 乖離率 |
今期予想 | PBR (前期) |
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25日 | 13週 | PER | 経常 増益率 |
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7752 | リコー | 1,295 | 0.5% | 0.0% | 11.3 | 20.2% | 0.86 | ||
4401 | ADEKA | 1,706 | 1.7% | 4.9% | 14.4 | 5.3% | 1.12 | ||
8086 | ニプロ | 1,200 | 1.8% | 2.0% | 14.8 | 14.4% | 1.21 | ||
8214 | AOKIホールディングス | 1,774 | 1.9% | 4.1% | 14.2 | 5.2% | 1.15 | ||
1951 | 協和エクシオ | 1,454 | 2.1% | 6.2% | 10.8 | 13.0% | 0.98 | ||
7201 | 日産自動車 | 1,319.5 | 3.7% | 4.3% | 11.4 | 10.2% | 1.14 |
- ※弊社スクリーニングツール、Bloombergデータを用いてSBI証券が作成。データは、2015年6月3日時点。
移動平均と株価 |
「移動平均」は、過去何日間かの株価(終値)の平均を意味しています。「6月5日時点での25日移動平均」と言った場合、6月5日までの過去25営業日の終値平均を示しています。日々株価の変動とともに変化するため「移動」という単語が入っています。
テクニカル分析では、過去何日分(あるいは何週間、何ヵ月)について平均株価を取るかで、各種の移動平均があります。その中で、25日移動平均や13週移動平均、200日移動平均などは比較的ポピュラーな存在と考えられます。今回の分析では、比較的中・短期のテクニカル分析に用いられる、最もポピュラーな移動平均のひとつである25日移動平均と13週移動平均を使ってみました。
25日移動平均と株価については、一般的に次のように考えられています。また、その実例を図表2において、リコーの日足チャートを用いて、その典型的な箇所を図示しています。
- (1)25日移動平均より株価(終値)が上回っていると「強気」局面であり、当面の株価は上がりやすい(下回っている場合は「弱気」)。
- (2)25日移動平均から株価が大きく乖離すると、株価がボトムまたはピークを付けやすい。
- (3)25日移動平均以下の水準から株価が上昇し、同移動平均近辺に到達した場合、そこが上値抵抗ラインになりやすい。逆に、25日移動平均以上の水準から株価が下落し、同移動平均近辺に到達した場合、そこが下値支持ラインになりやすい。
今回の分析では、25日移動平均からの乖離率を「0%超」としていますが、これは、(1)の考え方に基づき、株価が「強気」局面に入ったとみられる銘柄を選ぶためです。同時に、乖離率を「5%未満」としていますが、これは(2)の考え方に基づき、株価に過熱感が生じている銘柄を除外するためです。なお、銘柄抽出に際しては、併せて13週移動平均との乖離率もチェックしました。
日経平均株価であれば、25日移動平均からの乖離率は「±5%」が反転のメドと考えられます。ただ、相場の中長期的なトレンドすら変えてしまうような騰落の場合は、さらに大きく乖離する場合があります。個別銘柄の場合は、反転の目安となる乖離率は、さらに大きくなると考えられます。図表2では、リコーを例に取り上げましたが、同社の場合、経験則的には、25日移動平均±7%が反転の目安と考えられます。ただし、株価と25日移動平均との乖離率自体が横ばいとなり、上昇トレンドまたは下落トレンドが続くパターンもありますので、注意が必要です。図表2では、紫の丸で囲んだ場面がそれに相当します。株価は25日移動平均+7%の乖離率を維持しながらも、水準的には切り上がっています。チャート的には「だまし」の格好となっています。
同社の現在の株価は25日移動平均を若干上回った水準で、「強気」水準に入った直後であり、かつ過熱とされる25日移動平均+7%乖離水準まで距離もありますので、上値余地も大きいと考えることができます。
図表2:リコー(7752) 日足株価と25日移動平均、25日移動平均乖離率(±7%)
- ※BloombergデータをもとにSBI証券が作成。
ピックアップされた銘柄の投資ポイント |
銘柄コード | 7752 | 銘柄名 | |
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ポイント |
OA機器の大手。前期は国内売上高比率37.6%に対し、海外売上高比率が62.4%に達しており、事業は世界で展開されています。欧州・中東・アフリカの売上比率も23.9%と、我が国企業としては高めであり、欧州関連株と捉えられることもあります。 2016年3月期は、20%の営業増益を目指します。為替前提は1ドル120円、1ユーロ125円で、現状の為替水準は、それよりも円安方向にあります。 特に、ユーロが対円で上昇し始めていることは追い風とみられます。25日移動平均を上回ってきたチャートは、投資家心理が強気に傾き始めたことを示している可能性がありそうです。 |
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図表3:リコー(日足) |
銘柄コード | 4401 | 銘柄名 | |
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ポイント | 樹脂添加剤などの化学品、業務用食油などの食品が事業の両輪となっています。化学品は自動車・電子材料向けが好調です。また食用油では、インドネシア工場で「ハラル認証」を取得し、今後の需要拡大に応える体制が整いました。
今期は13%の営業増益を見込んでいます。現在41%の海外売上高を50%にまで持ってゆくことで、17年度には営業利益240億円(前期比64%増)を目指しています。 前期実績のROEは7.7%でした。もうひと頑張りで、一般的にROEの合格点とされる8%に到達します。株主還元の強化に期待したいところです。 |
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図表4:ADEKA(日足) |
銘柄コード | 8086 | 銘柄名 | |
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ポイント |
日本電気硝子(5214)が14.9%出資するディスポーザブル医療器具大手。医薬品にも展開しています。地域別売上高は、国内56%、海外44%となっており、グローバルに事業を展開しています。 医療費抑制の観点から、患者に後発薬の利用を促す制度の導入が検討されており、この分野の需要が拡大しそうです。医薬品子会社の新工場が今期稼働を計画されています。 今期66%営業増益の予想で、予想PERも15倍未満と低めで割安感が目立ちます。チャート的には保ち合いとなっていますが、ここから上放れすれば、上昇加速も期待されます。 |
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図表5:ニプロ(日足) |
銘柄コード | 8214 | 銘柄名 | |
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ポイント |
お馴染みの紳士服大手チェーン。カラオケや結婚式場など、サービス分野にも多角展開しています。 株主優待ファンにとっては「人気企業」の一角でもあります。100株(約18万円)の投資で、3月末・9月末に「20%割引買物優待券」が5枚獲得できます。他に施設利用割引券もあります。高価な商品の割引券だけに、利用価値は小さくないとみられます。 4月の既存店売上高は前年同月比10.4%増と、消費税引き上げ後の落ち込みから回復傾向となっています。チャート的にも、保ち合い状態からの上放れに期待したいところです。 |
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図表6:AOKIホールディングス(日足) |
銘柄コード | 1951 | 銘柄名 | |
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ポイント |
NTTなどを取引先とする通信工事の大手企業です。光アクセス工事の減少などもあり、前期は減益決算でした。しかし、通信量(トラフィック)増加に対するサービス向上に向けたネットワーク構築の需要は高まる見通しで、今期は一転増益が予想されています。 中長期的には、復興、防災・減災、東京五輪開催に向けた各種インフラ構築需要の拡大も追い風になりそうです。 増益予想でROEも8.7%と「及第点」になっています。しかし、予想PER10.8倍、PBRは0.98倍とバリュエーション面での割安感が目立ちます。 |
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図表7:協和エクシオ(日足) |
銘柄コード | 7201 | 銘柄名 | |
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ポイント |
我が国を代表する自動車メーカーの一角です。販売台数は国内12%に対し、海外が88%になっており、世界経済の動向が強く影響する会社です。地域別(販売台数)では、米国が34.4%、中国が23.0%、欧州が14.2%という構成です。
今期は一株配当42円を計画しており、前期の33円から大幅増配の見通しです。予想配当利回りは3%台に乗せ、2%台のトヨタや、ホンダを上回る計算になっています。 株価は長く上値抵抗ラインになっていた1,300円前後を抜けてきた直後で、まさに保ち合い放れが明確になろうとしているタイミングといえます。 |
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図表8:日産自動車(日足) |
- ※図表3〜8は、弊社チャートツールを用いてSBI証券が作成。データは2015年6月3日時点。
- ※実線は移動平均。通常は週足チャート上に示される13週移動平均を日足チャート上に示すため、便宜的に65日移動(1週間5日×13週=65日)を使っている。
- ※本ページでご紹介する個別銘柄及び各情報は、投資の勧誘や個別銘柄の売買を推奨するものではありません。