6月の株式相場は波乱の展開となりました。上・中旬は日経平均12連騰(5/15〜6/1)の反動や、ギリシャ懸念、強い米雇用統計を受け、利上げ前倒し懸念が台頭した米国株が下落したこともあり軟調な場面が目立ちました。海外投資家の上半期末に伴うポジション調整も重なり、日経平均は18日に一時20,000円の大台を割り込みました。それでも、その後は景気・企業業績への拡大期待や、一時的にギリシャ懸念が後退したことで、日経平均株価は24日に、一時20,952円とほぼ18年半ぶりの高値水準まで上昇しました。しかし、29日には前日比596円安と、今年最大の下げ幅を記録し、再び下落に転じました。ユーロ圏やIMF(国際通貨基金)が、ギリシャ支援の期限延長を拒否したため、ギリシャのデフォルト(債務不履行)やユーロ圏離脱の懸念が強まったためです。今後も、7/5のギリシャでの国民投票に続き、ECB(欧州中銀)保有のギリシャ国債償還(7/20、8/20)等の重要日程があり、混乱は少し長引くかも知れません。
しかし、こうしたギリシャ問題の混乱により、仮に株価の低迷がもう少し長期化した場合でも、押し目を狙っていた投資家にとっては、むしろ投資チャンスになると「日本株投資戦略」では考えています。もっとも大きな理由は、日本企業の業績拡大が鮮明になりつつあり、株価下落で割安感が強まると予想しているからです。
ギリシャの経済規模はユーロ圏の50分の1未満と小さい上、すでに整備された安定メカニズムの存在が、ギリシャ問題の南欧諸国への伝搬を防ぐと期待されます。また、欧州に関連する輸出企業の想定為替レートは今年度、1ユーロ125円が過半であり、仮にユーロ安が進んでも、現状水準との差はかなりあります。この問題が日本の企業業績へ与える影響も限定的でしょう。
日本では7月下旬以降、2015年4〜6月期の四半期決算発表が本格化します。それを控え、7月は株式市場でも、企業業績への関心が高まりやすい時期です。決算で好業績を期待される銘柄は、アナリストの評価引き上げや新聞の観測記事等で、株価が上がりやすい時期となります。「ギリシャ問題」の影響で、こうした好業績期待銘柄の株価も低迷している可能性もあり、そこに投資チャンスが生まれるのではないかと考えられます。今回の「日本株投資戦略」では、そうした趣旨から、四半期で好決算が予想される銘柄にスポットを当ててみました。
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四半期決算で予想以上の利益拡大が見込まれ、株価上昇期待の大きい銘柄
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まず、表1をご覧ください。3月決算の上場企業の中から、第1四半期(2015年4〜6月期)の決算発表で、予想以上の大幅増益(営業利益ベース)が見込まれ、先行きで業績予想の上方修正が期待できる銘柄をピックアップしました。具体的な銘柄抽出条件は以下の通りです。
(1)全上場企業のうち、時価総額1千億円以上の3月決算企業を母集団としました。
(2)2社以上のアナリストが業績予想を公表している企業に限定しました。
(3)アナリストの予想EPS(コンセンサス)が過去4週間で2%超上昇している銘柄に限定しました。
⇒過去4週間で、アナリストの業績予想が、総じてみると上方修正されていることを示します。
(4)第1四半期(2015年4〜6月期)の予想営業利益(コンセンサス)が、前年同期比20%超の増益率で、かつ通期(2016年3月期)の会社予想営業増益率を10ポイント超上回っている銘柄としました。
(5)通期市場予想営業増益率(コンセンサス)が、会社予想営業増益率を5ポイント以上上回っている銘柄としました。
上記の全条件を満たす銘柄を、第1四半期予想営業増益率の大きい順に並べたものが表1となります。
表1:第1四半期に好業績が予想される主力企業
取引 |
チャート |
コード |
会社名 |
株価 (7/2) |
Q1・市場予想営業利益 |
今期会社予想営業利益 |
百万円 |
前年比 |
百万円 |
前年比 |
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6135 |
牧野フライス製作所 |
1,271 |
1,100 |
1292.4% |
13,000 |
8.1% |
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9502 |
中部電力 |
1,803.5 |
107,500 |
343.9% |
160,000 |
49.3% |
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6103 |
オークマ |
1,438 |
3,167 |
155.4% |
19,000 |
30.8% |
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3401 |
帝人 |
483 |
11,489 |
138.7% |
47,500 |
21.5% |
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6383 |
ダイフク |
1,926 |
2,385 |
136.1% |
18,000 |
20.9% |
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7701 |
島津製作所 |
1,806 |
3,200 |
105.5% |
32,000 |
17.7% |
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4528 |
小野薬品工業 |
13,790 |
5,400 |
94.5% |
14,000 |
-5.4% |
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6981 |
村田製作所 |
21,520 |
59,043 |
60.0% |
250,000 |
16.5% |
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7733 |
オリンパス |
4,295 |
19,700 |
30.9% |
100,000 |
9.9% |
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2269 |
明治ホールディングス |
16,090 |
13,500 |
25.7% |
52,000 |
0.9% |
- ※Bloombergデータ及び会社公表データをもとにSBI証券が作成。
- ※「Q1・市場予想営業利益」は、2015年4〜6月期・予想営業利益(金額・前年同期比)の市場コンセンサス。
- ※「今期会社予想営業利益」は、2016年3月期(通期)の会社予想営業利益(金額・前年同期比)。
- ※データは2015/7/2現在のものであり、その後変動していることもあります。 本レポート掲載前に、業績予想が修正されたり、メディアでその可能性等が報道された場合、その内容を反映していない場合があります。
今回の決算は、3月決算企業にとって最初の四半期の決算です。1年(12ヵ月)のうち、最初の3ヵ月の業績数字です。したがって、この四半期決算だけでは、通期の業績予想を修正する十分なデータになり得ないとの判断から、決算発表後の業績修正は、さほど多くないと予想されます。
ただし、会社が想定するペース(通期の予想増益率)以上で、第1四半期を通過できた企業は、将来の業績予想上方修正が期待され株価が上昇する可能性が高まりそうです。企業を実際に訪問し、分析したアナリストの業績予想を平均化した市場コンセンサスは、そうした好業績銘柄を事前に示唆している可能性が大きいと考えられます。
さらに、そうした好業績を期待される銘柄は、日本経済新聞等により事前の観測報道で紹介され、株価が上昇するケースも増えてくるとみられます。7月はその意味で、企業業績への注意が怠れない時期と言えます。
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足元で企業業績拡大が加速しているとみる3つの理由
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足元において、企業業績の拡大が加速している可能性が大きいと「日本株投資戦略」では考えています。理由として、以下の3点があげられます。
(1)企業の業績予想を主体としている日経平均の予想EPS(一株利益)がさらに上昇傾向となっているため。
(2)日銀短観(2015年6月調査)も、この3ヵ月で業況がさらによくなっていることを示唆しているため。
(3)現状の為替水準が、企業の前提為替レートよりも円安で推移しているため。
図1は、日経平均株価と、企業業績の方向感を示唆する日経平均予想EPS(一株利益)の推移をみたものです。予想EPSは、3月決算企業の業績予想の対象が2015/3期から2016/3期に代わった、4月下旬から5月中旬にかけ、急上昇しました。通常は、そこで変化が一巡しますが、5月中旬以降も予想EPSの上昇は続いています。企業の業績見通しは着実に上方修正が続いていると考えられます。
それを公的データの面で裏付けてくれているのが「日銀短観」です。もっとも代表的な指標である大企業・製造業の業況判断指数(表2−1参照)は前回調査(2015/3)の12%から今回(2015/6)は15%と上昇しています。ここでさらに注目したいのが、大企業・製造業の先行き指数(3ヵ月後の業況を企業が予想して回答)と現状の比較です。2015/3時点で、大企業・製造業は先行き(6月)の業況を10%と予想していましたが、実際(2015/6時点の「最近」)は15%でした。同様に、大企業・非製造業も17%という予想に対し、23%という結果でした。このことは、現在の景況感が3ヵ月前に予想していた以上に、良好であることを示しています。
さらに、表2−2では、大企業・製造業の前提為替レート(ドル・円)が2015年度は上期・下期ともに115円台半ばに置かれていることを示しています。これに対し、ドル・円レートの実際の期中平均レートは、2015年4〜6月期には121円でした。全体の業績に大きな影響を与える輸出企業にとっては想定よりもドル・円相場が円安・ドル高になっていますので、その分、収益は上振れていると考えられます。なお、ユーロ・円の前提為替レートは、125円としている企業が過半とみられますが、4〜6月期の平均レートは1ユーロ136円台でしたので、こちらも関連する輸出企業の収益上振れ要因になっています。
表2: 日銀短観(6月)は企業マインドの上振れを示唆
1大企業の業況判断指数
- ※日銀短観(2015/6調査)をもとにSBI証券が作成。
- ※数字は、「良い」との回答比率(%)から「悪い」との回答比率(%)を差し引いた数値(%ポイント)。
2大企業・製造業の想定為替レート(ドル・円相場)
- ※日銀短観(2015/6調査)をもとにSBI証券が作成。
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四半期決算で大幅増益が予想される銘柄を解説
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最後に、第1四半期に好業績が期待されるとして表1にご紹介した銘柄について、同四半期の予想増益率が特に大きい5銘柄について、投資ポイントを解説しました。ご参考にしていただければと思います。
銘柄コード |
6135 |
銘柄名 |
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ポイント |
工作機械大手。金型・部品や航空機向けのマシニング・センターに強みを持っています。前期売上高の22%を占めたアジア向けが好調で、前期末の受注残は前年度比43%も増えています。全社的にも受注残が21%増えていますので、業績の上積みが期待できそうです。予想PER(7/2)は12.8倍で、割安感が強くなっています。 |
日足チャート
- ※当社のチャートツールを用いて作成(2015/7/2現在)
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銘柄コード |
9502 |
銘柄名 |
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ポイント |
電力株は、(1)原油価格の下落で燃料費が大幅に低下することが見込まれること、(2)原子力発電所の再開が徐々にでも実現すれば、その分コストの低下が期待されること、という2つの追い風が魅力となっています。当社の場合、燃料費調整制度で販売価格も下がりますが、差益の発生が見込まれそうです。 |
日足チャート
- ※当社のチャートツールを用いて作成(2015/7/2現在)
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銘柄コード |
6103 |
銘柄名 |
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ポイント |
東海地方地盤の工作機械大手です。地域別売上高は日本が37%、米国29%、アジア・太平洋20%、欧州15%となっています。前期末の受注残は前年比19%増と好調です。最大の売上構成比となる国内で、設備更新需要が高まっていることが、6月調査の日銀短観からも明らかになり、事業環境には追い風が吹いています。円安メリットも大きそうです。 |
日足チャート
- ※当社のチャートツールを用いて作成(2015/7/2現在)
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銘柄コード |
3401 |
銘柄名 |
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ポイント |
高尿酸血症・痛風治療剤が国内6割弱のシェアを有しています。同剤を擁するヘルスケア分野は、当社の利益面でのけん引役で、今期も拡大が見込まれています。炭素繊維市場の拡大も当社には追い風です。自動車・インフラ関連向けの高機能繊維は、今期も拡大が予想されます。 |
日足チャート
- ※当社のチャートツールを用いて作成(2015/7/2現在)
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銘柄コード |
6383 |
銘柄名 |
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ポイント |
ITや自動車向けの搬送システムが事業の中心です。地域別売上高は日本34%、米国24%、中国11%、その他30%となっており、分散しているのが特徴です。為替の円安傾向は、強い追い風になるとみられます。北米やアジアで主力の搬送システムの需要が拡大しているようです。 |
日足チャート
- ※当社のチャートツールを用いて作成(2015/7/3現在)
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- ※株主優待の内容は変更される場合がありますので、必ず当該企業のホームページ等をご確認ください。
- ※本ページでご紹介する個別銘柄及び各情報は、投資の勧誘や個別銘柄の売買を推奨するものではありません。