今年の「師走相場」では、株価が予想外の波乱となりました。12/1に2万円大台を回復した日経平均株価ですが、12/15には一時18,562円まで約7%の下げとなってしまいました。しかし、2015年の一大イベントであった「米政策金利の引き上げ」が12/17(日本時間・早朝)に決まり、株価はようやく落ち着きを取り戻しました。12/18には日本銀行が「『量的・質的緩和』を補完するための諸措置の導入」を発表し、一時株価が急騰し、その後は値を消すなど、激しい動きをみせています。
こうした中、物色対象銘柄の選定は意外に難しいと考えられます。なぜならば、米国の利上げ決定以後、円安の動きが明確になったとか、原油価格が下げ止まったとか、あるいは中国経済の底入れが明確になったなど、外部環境のトレンドが明確になっていないためです。日銀の緩和「補完」も市場の反応をみる限りでは、設備投資関連株に下支え効果が期待される他は、新たなトレンドを作るほどのインパクトには乏しそうです。ということは、輸出株を買うべきか、内需株を買うべきかを含め、東京株式市場でも物色の方向感を定めにくいということになります。無論、相場の戻り局面では「リターン・リバーサル」が中心となりやすいので、相場の下落局面で大きく下げた銘柄を買うという戦略はある訳ですが、日経平均株価は12/15の18,562円を底に、すでにある程度戻ってしまっています。これから、リターン・リバーサルを狙うのでは、投資タイミングとして少し遅いように思われます。
そこで今回の「日本株投資戦略」では、残り少ない12月相場で、「掉尾の一振」も期待できるような「12月決算銘柄」(そのほとんどの権利付最終日は12/25)から銘柄をピックアップしてみました。日経平均株価が12/1の戻り高値から下げた位置にある現状で、本来であれば大きく上昇していても不思議でない「12月決算銘柄」の多くも、株価の頭が押さえられた格好になっていると考えられます。その意味で、値ごろ感も大きいと思われます。
業績見通しが好転し、予想配当利回りもある程度確保が期待できる銘柄 |
最初に、表1の4銘柄をご紹介したいと思います。
表1の4銘柄は、12月決算銘柄で、アナリストが業績予想(コンセンサス)を引き上げていることに加え、2%以上の予想配当利回りが予想されている銘柄になっています。アナリストが業績予想を引き上げている銘柄に絞ることで、業績悪化による株価下落に見舞われるリスクを下げることを狙っています。詳細なスクリーニング条件は以下の通りで、全条件を満たす銘柄を予想配当利回りの高い順に並べました。
(1)東証一部上場銘柄(時価総額100億円以上)で、12月決算銘柄であること。
(2)過去4週間で、2015/12期・予想EPSの市場コンセンサスが上昇していること。
(3)今期予想配当利回り(市場コンセンサス)が2%以上期待できること。
ちなみに、スクリーニング結果として抽出された銘柄のすべてが、今期も来期も、本業のもうけを示す営業利益ベースで増益が予想されており、中長期的投資も耐えうる銘柄リストにもなっていると考えられます。場合によっては、会社側が業績予想を上方修正してくるケースも期待でき、来年の年明けにかけ値上がり益を狙いたい銘柄と言えそうです。
表1:業績好転と一定の予想配当利回り確保が期待できる「12月決算」銘柄
取引 | チャート | コード | 銘柄名 | 株価 (12/17) |
予想配当 利回り(%) |
今期予想 増益率 |
来期予想 増益率 |
---|---|---|---|---|---|---|---|
4631 | DIC | 349 | 2.3 | 21.0% | 11.4% | ||
2503 | キリンホールディングス | 1,774 | 2.2 | 14.1% | 5.5% | ||
2124 | ジェイエイシーリクルートメント | 878 | 2.1 | 22.2% | 14.0% | ||
4704 | トレンドマイクロ | 5,340 | 2.1 | 0.2% | 3.4% |
- ※Bloombergデータを用いてSBI証券が作成。予想配当利回りのベースとなる予想一株配当や、増益率の計算に使われている今期・来期の予想営業利益はすべて市場コンセンサスとなっています。予想配当利回りは、中間配当と期末配当をすべて受け取る場合の予想一株配当が基準になっています。
リスクはあるものの予想配当利回りがより高い銘柄の投資ポイントは? |
前項のスクリーニング条件で、アナリストによる業績予想はあるものの、予想EPSが過去4週間で上昇している訳ではない銘柄まで含めて考えるとどうでしょうか。表2にもある通り、かなり予想配当利回りが高い銘柄も含まれてきます。予想EPSの上昇が確認されていない銘柄であるということは、今後の業績見通しに注意すべき点もある場合が多く、前項の銘柄とは異なるスタンスでのぞむべきであると考えられます。
ちなみに、表2で異彩を放っているのがアサツー ディ・ケイ(9747)です。12/8(火)に単体の予想純利益(今期)を大幅に上方修正するとともに、未定としていた期末配当を1株238円にするという「驚異的」な配当政策を発表しています。表2にあるように、予想配当利回りが7.3%と高く、見通しを上方修正したくらいですから、業績面での不透明感はあまりありませんが、すでに株価は大幅高になっています。しかし、権利付最終日までにある程度の押し目を形成するようであれば、買いが入ってくる可能性もありそうです。
我が国を代表する上場企業の一角であるキヤノン(7751)が予想配当利回り4.1%もあるというのは驚きです。ただ、デジタルカメラ市場の成熟化や、ユーロ安等の不透明感があり、アナリストは今期・来期と営業利益が横ばい圏になることを予想しているようです。従って、この会社の株自体が買われる材料が、今の所は少ないとみられる点に注意が必要です。もっとも、ユーロ・円相場は底に近いと予想している投資家であれば、買い場に映るかもしれません。
この他、石油2社も一定の注意が必要です。原油価格の下げ止まりが確認できないためです。昭和シェル(5002)、東燃ゼネラル(5012)とも既に、業績予想の下方修正に追い込まれています。今後の減配リスクには注意が必要です。ただ、東燃ゼネラルは、JXホールディングス(5020)と経営統合の計画を発表しています。リーマンショック後の安値に接近してきた原油価格が底打ちに向かう可能性もあります。一定のリスクを取れる投資家であれば、選択肢のひとつに入ると思います。
このように、予想配当利回りが高いものの、業績予想に不安のある銘柄についても、情報収集と株価チェック、そして自身のリスク許容度のチェックを怠らなければ、投資対象にすることは可能であると思います。
表2:東証一部・12月決算企業の予想配当利回り上位銘柄
取引 | チャート | コード | 銘柄名 | 株価 (12/17) |
予想配当 利回り(%) |
---|---|---|---|---|---|
9747 | アサツー ディ・ケイ | 3,375 | 7.3 | ||
7751 | キヤノン | 3,719 | 4.1 | ||
5002 | 昭和シェル石油 | 1,071 | 3.5 | ||
5012 | 東燃ゼネラル石油 | 1,131 | 3.4 | ||
9622 | スペース | 1,410 | 3.3 | ||
6440 | JUKI | 1,115 | 3.1 | ||
2128 | ノバレーゼ | 960 | 3.1 | ||
5110 | 住友ゴム工業 | 1,663 | 3.1 | ||
5108 | ブリヂストン | 4,417 | 2.9 | ||
8011 | 三陽商会 | 293 | 2.7 |
- ※Bloombergデータを用いてSBI証券が作成。予想配当利回りのベースとなる予想一株配当は市場コンセンサスとなっています。予想配当利回りは、中間配当と期末配当をすべて受け取る場合の年間予想一株配当が基準になっています。
なお、近年では株主優待へ関心を持っている投資家も多く、12月が権利確定月の優待銘柄が「掉尾の一振」を演じる可能性がありそうです。12/17現在、当社の株主優待銘柄検索ツールで、12月末に権利が確定する「12月決算銘柄」で、閲覧回数の多い(すなわち、投資家のWebページでの投資家の関心が高い)を検索すると、楽天(4755)、第一屋製パン(2215)、キリンホールディングス(2503)、すかいらーく(3197)、不二家(2211)などが上位になっています。
近年の株主優待人気を反映し、権利確定月に上昇する「優待銘柄」は少なくありませんが、今年は12月相場に波乱があったために、チャンスとなっている銘柄もありそうです。「株主優待」狙いの投資家も、「値上がり益」狙いの投資家も、もう一度チェックされておくことをお勧めします。
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