2016年の株式市場はまさに激動の展開です。年明け後の東京株式市場では、1/21(木)に日経平均株価が16,017円の安値を付けましたが、これにより、2015/8/11(火)の取引時間中に付けた高値20,946円からの下落率は23.5%に達しています。中国経済への不透明感や原油価格の下落、不安定な為替相場等が逆風になっています。日経平均株価の上記の高値からの下落率は1/28(木)現在で18%を超えています。
減速したとはいえ、中国経済の成長が止まった訳ではありません。当面は6%台半ばの成長が予想されており、それでも先進国に比べれば高成長です。新興国を中心に長期的な「人口爆発」の見通しにも変化がないのであれば、長期的には原油価格の再上昇も予想されます。すでに、多くの産油国で採掘コスト割れと伝えられ、そもそも現状の原油相場は「長期的には持続が不可能な水準」に達していると言えるかもしれません。「中国経済の不透明感」や「原油価格の下落」を背景としている現在の株価下落は長期的には「調整」であり、ある程度長めの投資スタンスを取れる投資家にとっては買いチャンスになっている可能性があると考えられます。
こうした中、1/29(金)まで開催された日銀金融政策決定会合では、金融機関が保有する日本銀行当座預金に-0.1%のマイナス金利が適用されることが決定されました。これまで保有していた残高に対しての金利は残りますが、残高を増やそうとすると逆に金利を支払うことになりますので、金融機関は積極的に他の運用・貸出の増加を迫られることになります。この決定を受け、10年国債利回りは急低下し、外為市場では円安が進みました。株式市場では銀行の収益悪化等の副作用を心配する動きも出ましたが、市場参加者は総じて前向きに理解しているようです。
今後、金利は「マイナス突入」も含め、一段の金利低下が予想されます。今後は、株主優待や好配当利回りで注目される銘柄の相対的な魅力が向上すると「日本株投資戦略」では考えています。今回の「日本株投資戦略」では、株主優待の実施や好配当利回りで投資チャンスとみられる銘柄をご紹介してみました。
「株主優待」で人気があり、業績面でも不安が少ない「特選5銘柄」 |
はじめに、「株主優待」を実施している企業として人気があり、業績面でも不安が少ない「特選5銘柄」をご紹介したいと思います。スクリーニング条件は以下の通りとしました。
(1)2月末または3月末に権利が確定する全上場銘柄。
(2)最低売買単位での投資金額が20万円未満の銘柄。
(3)優待で得られるサービスや商品がなるべく多くの人が使える内容のものであること。
(4)業績面で下方修正リスクが低いと分析される銘柄であること。
これらの銘柄を、当社「株主優待検索ツール」で閲覧回数の多い順(1/28現在)に5銘柄を抽出し、ご紹介したのが表1の銘柄です。抽出対象は2月および3月に権利が確定する銘柄としましたが、1月末近辺での抽出となったため、2月末権利確定銘柄の人気が高く、結果的には、2月末に権利が確定する銘柄だけになっています。
抽出されたのは、小売(家電量販、ホームセンター、スーパー等)5銘柄となっています。もともと、株主優待は、消費者に直接商品を販売できる小売企業にとって、来店を促したり、商品を紹介したりすることもできるため、実施する意義が大きいので、妥当な結果と言えるかもしれません。
さらに、この結果には、良い意味での「副産物」があります。掲載銘柄のすべてが直近に四半期決算発表を終了しており、業績修正のリスクが少ないことです。四半期決算での増益率が通期予想増益率を上回る企業を「下方修正リスクが低い」企業として抽出したため、もともと業績面での不安が強い銘柄はあまりありません。なお、3月決算の銘柄は、このレポートの掲載日である1/29を第1のヤマとし、これから佳境を迎えることになります。業績変動による株価変動リスクは概して小さくないと言えそうです。
ご参考までに、20万円未満で買え、3月末に権利が確定する優待実施銘柄で、人気の高い銘柄(ただし、業績面は考慮していない)としてはミサワホーム(1722)、山喜(3598)、TOKAIホールディングス(3167)、オリックス(8591)などが上位を形成しています。
表1:「株主優待」実施企業として人気があり、業績面でも不安が少ない「特選5銘柄」
取引 | チャート | コード | 銘柄名 | 株価 (1/28) |
最低投資単位(100株)保有で 獲得できる株主優位 |
業績ポイント |
---|---|---|---|---|---|---|
3048 | ビックカメラ | 1,037 | 買物優待券(1,000円)×2枚 | 第1四半期は経常利益が前年比70%増と好スタート | ||
8175 | ベスト電器 | 129 | 株主優待券(500円券)×10枚(※注) | 第3四半期まで累計営業利益は前年比505%増 | ||
3050 | DCMホールディングス | 853 | 自社製品の詰め合わせ。 | 今年度は前年比8.3%の営業増益を見込む。 | ||
8267 | イオン | 1,545 | 買い物金額100万円(半期)まで3%割引の優待カード。 | 第3四半期まで累計営業利益は前年比63.8%増 | ||
8251 | パルコ | 1,015 | 株主優待クレジットカード(5%割引)他、複数優待券。 | 今年度は前年比3.1%の営業増益を見込む。 |
当社「株主優待検索ツール」を用いてSBI証券が作成。データは2016/1/28現在。なお、獲得できる株主優待の内容について、表に掲載したのは一部であり、詳細については各社Webサイトをご覧ください。
- ※ベスト電器は2016/1/20発表の「株主優待制度の変更」を反映しています。
「好配当」が期待され、業績面でも不安が少ない「特選5銘柄」 |
次に、好配当が見込め、業績面で不安が少ない「特選5銘柄」をご紹介したいと思います。スクリーニング条件は以下の通りです。なお、予想配当利回りについては、当社スクリーニングツール(1/28現在)のデータを使っています。
(1)最低売買単位での投資金額が20万円未満の銘柄(REIT・証券業は除く)
(2)時価総額が1千億円以上
(3)業績面で下方修正リスクが低いと分析される銘柄であること
なお、(3)については、ここでは定性的な分析も行っています。投資環境が激変していますので、収益面で追い風が吹いている企業を重視しました。
仮に、定性的な分析を行わず、投資金額にも制限を加えなければ、好配当利回りランキングは、コスモエネHD(5021)、住友商(8053)、昭和シェル(5002)、丸紅(8002)、OKI(6703)、日産(7201)、日立建(6305)、伊藤忠(8001)、セガサミー(6460)という順になります。原油価格の下落で株価が下がったエネルギー系企業や商社が多いですが、これを単純に「好配当利回りランキング上位」とするには、問題がありそうです。定性分析が必要な理由はここにあります。
例えば、日産(7201)はガソリン価格の低下で追い風を受ける米国の販売比率が高い上、ルノーとの統合強化も注目されます。みずほ(8411)はPER、配当利回り等での比較では三井住友(8316)と大きな差はありません。メガバンクの一角であり、金利が最低水準に近い今が長期的な買い場になっている可能性があります。
双日(2768)は総合商社の一角であり、原油・商品価格の下落が逆風になっていますが、この会社自体は相対的にその影響は小さそうです。日本製紙(3863)は第2四半期までは減益ですが、今後は円安一巡、原油価格の下落加速が追い風になってくる可能性があります。アマダ(6113)は、第2四半期(累計)で営業利益が前年比約2倍になっており、通期で37.2%増益達成に向けての余裕度は大きそうです。
表2:「好配当」が期待され、業績面でも不安が少ない「特選5銘柄」
取引 | チャート | コード | 銘柄名 | 株価 (1/28) |
予想配当 利回り(%) |
業績・バリュエーション等のポイント |
---|---|---|---|---|---|---|
7201 | 日産自動車 | 1,101.5 | 3.81 | トヨタ・ホンダとの比較で割安感。米国売上構成比(台数)4割超。 | ||
8411 | みずほフィナンシャルグループ | 209.3 | 3.58 | 3メガバンク(連)は全社が予想PER1ケタ。その中で最低売買単位は当社が最低。 | ||
2768 | 双日 | 244 | 3.28 | 原油価格をはじめ、商品市況下落の影響は商社の中でも低い方とみられる。 | ||
3863 | 日本製紙 | 1,890.0 | 3.17 | 円安・ドル高一巡、原油価格の想定外を超えた下落など、環境面で追い風。 | ||
6113 | アマダホールディングス | 1,084 | 3.14 | 今期は37%の営業増益予想。第3四半期までで前年比102%の営業増益。 |
- ※当社「スクリーニングツール」を用いてSBI証券が作成。データは2016/1/28現在。なお、1/29(金)に決定された「マイナス金利の導入」により、銀行の収益に悪影響が出るリスクがあります。
「配当の魅力」を再評価すれば「株式の出遅れ感」が顕著に |
図1は、日経平均株価と「日経平均採用銘柄予想配当利回り−10年国債利回り」を比べたものです。後者を言い換えれば「債券利回りと比較した配当利回りの相対的魅力」と直せるかもしれません。
冒頭にご説明したように、中国経済の不透明感や原油価格の下落などを背景に年明け後の日経平均株価は売り先行の展開となりました。しかし、配当利回りの魅力はその分、向上していると考えられます。株式投資は値上がり益を追求できることだけが魅力なのではなく、こうした配当を享受できることも大きな魅力です。よって、株式投資の魅力は「配当」という面からみれば、向上していると言えるでしょう。もっとも、こうした魅力に市場参加者が気づくまで時間がかかるとは限らないと思います。
ちなみに、今回の日銀による「マイナス金利導入」決定を受け、長期金利が一層低下しますと、「日経平均採用銘柄予想配当利回り−10年国債利回り」を示した赤い線が上昇しやすくなります。株式投資の魅力は一層向上すると期待され、それが中長期的に株価の回復にもつながると考えられます。
図1:配当利回りの相対的魅力は向上〜「マイナス金利」でさらに向上も!?
- 日経平均公表データ及びBloombergデータを用いてSBI証券が作成。データは2016/1/28現在。
- ※本ページでご紹介する個別銘柄及び各情報は、投資の勧誘や個別銘柄の売買を推奨するものではありません。
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