米大統領選挙(米国時間11/8)が終わりました。事前には「クリントン氏勝利の可能性が大きい」と予想する向きが圧倒的多数でしたが、開票の結果「トランプ氏が勝利」という意外な結果に終わりました。
東京市場では、米大統領選挙の開票作業時間と取引時間が重なり、「トランプ氏優位」の形勢が強まるにつれて円高・株安となりましたが、選挙後最初の米国市場の取引では円安・ドル高、株高、金利上昇となりました。こうした流れを引き継いだ11/10(木)の東京市場では一転、日経平均株価が1,092円高となり、1万7千円台を回復しています。
この日の東京株式市場では、社会インフラ関連株、金融株等が買われましたが、市場は早速「トランプ大統領」誕生で追い風が吹きそうな銘柄に注目してきた格好です。今回の「日本株投資戦略」では、トランプ氏勝利後のマーケットを展望しつつ、今後も「買える銘柄」を検討するとともに、リスクが大きく「買えない銘柄」が何かも検討してみました。
「トランプ氏勝利」直後に市場が示した意外な反応 |
今回の大統領選挙では、市場参加者にとって意外な出来事がいくつも重なりました。もっとも意外だったのは、トランプ氏が大統領選挙に勝利したことだと思われます。また、市場では「トランプ氏が当選した場合は株価が大きく下げる」と予想されていましたが、その見方が当たったのは11/9(水)の東京市場を含むアジア市場だけで、同じ日の米国市場では逆に株価が大幅高という意外な結果になっています。その他、米10年国債利回りが急上昇したことや外為市場で円安・ドル高が進んだことも、市場にとっては予想外であったと考えられます。
すなわち、米大統領選挙の開票作業時間と取引時間が重なった11/9(水)の東京市場では、日経平均株価の下げが一時1千円超に達し、終値も919円安の16,251円となり、外為市場では一時1ドル101円18銭まで円高・ドル安が進みました。しかし、11/10(木)の東京市場では日経平均株価が1,092円高と急反発し、終値も17,344円と11/1(火)の高値水準近くまで回復しました。一方11/10(木)の外為市場では一時1ドル105円95銭まで円安・ドル高が進み、10/28(金)に付けたドル高水準を超えてきました。
さらに11/10(木)の米国市場ではNYダウが続伸し、8/15(月)の過去最高値を上回る18,807ドルで引けるとともに、外為市場では1ドル106円台後半まで円安・ドル高が進みました。これを受けて11/11(金)の東京市場では午前中に日経平均が17,500円を超え、取引時間中レベルとしては11/1(火)の高値を超える動きになっています。ただ、取引が進むにつれて利益確定売りも増えている模様で、今後は株価の乱高下に備える必要もでてきそうです。
図1:1千円超の「大陰線」を「陽線」で回復した日経平均
図2:ドル・円相場は10/28を超えた円安・ドル高に
- ※弊社チャートツールを用いてSBI証券が作成。2016/11/11取引時間中。
「トランプ氏勝利」で買われている銘柄の特徴は? |
米大統領選挙における「トランプ氏勝利」を受け、東京株式市場ではどのような銘柄が買われているのか、その現状を図3を参考にしながらまとめてみました。
(1)金融機関を厳しく規制してきた「ドッド・フランク法」は見直しの方向⇒銀行、証券、保険等の買いが先行
(2)オバマケア(医療保険改革)は廃止も〜医薬品価格への下落圧力が弱まるとみられ、薬品株の一角に買い
(3)インフラ投資が増えると予想され、建機や建設資材等の関連銘柄が人気化
以上を背景に、東京市場では銀行株、証券株、保険株、薬品株、機械(特に建設機械関連)株、素材株の一角が人気化しました。例えば、メガバンクの三菱UFJ(8306)、保険の第一生命(8750)、薬品の塩野義(4507)などが連日で買い先行となりました。また(3)については、建機で米国売上高比率が相対的に高い竹内製作所(6432)やコマツ(6301)、セメントの消費拡大への期待から太平洋セメント(5233)、建機向けオイルフィルタで高シェアを有するヤマシンフィルタ(6240)が人気となっているようです。
トランプ氏は年4%の高成長を目指し、インフラ投資を積極的に実施する方針です。また、大規模な減税を行う予定でもあることから、国債発行の増額は避けられないとの見方が多く、米10年国債利回りは11/7(月)の1.777%から11/10(木)には2.156%まで急上昇しました。また減税等により国外に資金を溜め込んでいる企業の資金が国内に還流すれば、3兆円規模の資金還流(レパトリ)が起こるとの見方もあります。これらを背景に外為市場では円安・ドル高が一気に進み、自動車株を含む多くの輸出株も買われる展開になっています。図2にもある通り、ドル・円相場は1ドル107円台半ばが大きな節目となっており、円安・ドル高の勢いがそこで鈍る可能性もありますが、そこを突破すると5/30(月)の1ドル111円台も視野に入りそうです。
図3:「トランプ氏」と「クリントン氏」の政策〜「トランプ大統領」でどうなるのか?
「トランプ大統領」誕生に向け、今後「買える銘柄」「買えない銘柄」は? |
表1:おもなトランプ関連銘柄(社会インフラ関連)
取引 | チャート | コード | 銘柄名 | 株価 (11/10) |
11/8からの騰落率 | 銘柄ポイント |
---|---|---|---|---|---|---|
4063 | 信越化学工業 | 8,311 | 5.1% | 米国の塩ビ子会社に追い風 | ||
5233 | 太平洋セメント | 317 | 7.5% | カリフォルニア等に3工場 | ||
6240 | ヤマシンフィルタ | 709 | 7.9% | 大手建機を主要顧客に高シェア | ||
6301 | 小松製作所 | 2,413.0 | 6.4% | 「北米」売上比率は24% | ||
6305 | 日立建機 | 2,263 | 4.2% | 「北米」売上比率は12% | ||
6326 | クボタ | 1,622 | -2.4% | 建機、農機、環境、社会インフラ等 | ||
6432 | 竹内製作所 | 2,066 | 7.5% | 米国の売上比率が47% |
※各種資料をもとに、トランプ次期大統領の下で、社会インフラ投資が増えた場合にメリットが期待される企業の一例を示しました。10/28付「日本株投資戦略」の中では、クリントン氏とトランプ氏のどちらが当選した場合でも注目され得る銘柄としてご紹介しています。
トランプ氏は年4%の成長を実現すべく、積極的に社会インフラ整備に投資する計画です。10年で1兆ドルを計画している模様で「就任100日で立法措置」をとることを目指すことが重要施策のひとつとなっています。クリントン氏も社会インフラ投資の拡大を主要公約にしていたこともあり、11/9(水)の日本時間に「トランプ氏優位」が明確になる過程では上記の全銘柄の株価が下落しました。11/10(木)に急騰した銘柄が多く、過熱感が懸念される印象もありますが、11/9の下げと累計で考えるべきとみられます。
これらのうち、クボタ(6326)は「今期3回目の下方修正」も手伝い、唯一2営業日累計の騰落率がマイナスになっています。農機の不調と円高が要因のようですので、円安・ドル高への回帰は業績改善に寄与しそうです。
表2:おもなトランプ関連銘柄(銀行・保険)
取引 | チャート | コード | 銘柄名 | 株価 (11/10) |
11/8からの騰落率 | チャート・コメント (11/11の市況も加味しています) |
---|---|---|---|---|---|---|
8306 | 三菱UFJフィナンシャル・グループ | 558 | 4.6% | 9/5高値592円を上回ってきました | ||
7182 | ゆうちょ銀行 | 1,244 | 2.5% | 8/8高値1,310円が射程に入ってきました | ||
8316 | 三井住友フィナンシャルグループ | 3,643 | 2.0% | 9/5高値3,805円が意識される水準です | ||
8411 | みずほフィナンシャルグループ | 176.6 | 0.5% | 9/5高値186.4円が重要な節目とみられます | ||
8766 | 東京海上ホールディングス | 4,175 | 3.1% | 9/5高値4,299円を上回ってきました | ||
8725 | MS&ADインシュアランスグループホールディング | 3,146 | 3.5% | 11/1高値3,212円を上回ってきました | ||
8750 | 第一生命ホールディングス | 1,584 | 5.3% | 9/21高値1,585円を上回ってきました | ||
8309 | 三井住友トラスト・ホールディングス | 3,679 | 4.7% | 9/5高値3,884円が意識される水準です | ||
8630 | SOMPOホールディングス | 3,403 | 4.5% | 9/5と11/1の高値を抜けてきました | ||
7181 | かんぽ生命保険 | 2,212 | 2.7% | 9/21高値2,390円まで距離があります |
※Bloombergデータをもとに東証に上場し、「銀行」「保険」に分類される銘柄について、11/10時点での時価総額が大きい順に10銘柄を並べたものです。なお、これらのセクターは11/14(月)に決算発表の銘柄も多く、その点は注意も必要であると考えられます。
「銀行」や「保険」などの広義の金融が「トランプ大統領」で注目される理由は以下の2点です。
(1)金融業界を厳しく規制している「ドッド・フランク法」が見直される可能性が大きいため
(2)米10年国債利回りが2%台を回復してきたことで、運用環境の改善が期待されるため
もっとも、米国の国債増発に対する懸念や、高成長によりもたらされる物価上昇観測等、10年国債利回りの上昇をもたらしている要因には、その実現性等で不透明感も残ります。その意味では、まだまだ株価が乱高下する可能性も残りますので、投資タイミングには要注意であると思われます。
表3:おもなトランプ関連銘柄(北米売上高の大きい薬品株)
取引 | チャート | コード | 銘柄名 | 株価 (11/10) |
11/8からの騰落率 | 投資ポイント |
---|---|---|---|---|---|---|
4506 | 大日本住友製薬 | 1,795 | 5.8% | 上北米売上比率は46%。業績上方修正済み | ||
4503 | アステラス製薬 | 1,554 | 4.1% | がん抗体医薬品の独社買収を決定 | ||
4502 | 武田薬品工業 | 4,584 | 2.7% | 買収額100億ドルにのぼる買収の報道 | ||
4578 | 大塚ホールディングス | 4,706.0 | 4.6% | 2016/12期の業績見通しを上方修正 | ||
4568 | 第一三共 | 2,368 | 3.7% | 上半期は円高が重荷になり純利益が減少 |
※Bloombergデータをもとに、東証に上場する薬品株で北米売上高比率の高い銘柄を上位から5銘柄抽出し、同比率の高い順に5銘柄並べました。
「オバマケア」が撤回された場合、薬品株に追い風が強まるとみられています。ここでは、米国の制度変更が収益に影響しやすい北米売上高比率の大きい銘柄をご紹介しています。
表4:おもなトランプ関連銘柄(セキュリティ関連株)
取引 | チャート | コード | 銘柄名 | 株価 (11/10) |
11/8からの騰落率 | 投資ポイント |
---|---|---|---|---|---|---|
4704 | トレンドマイクロ | 3,580 | 0.8% | 為替が円安に転じることは追い風のようです | ||
6203 | 豊和工業 | 579 | 9.9% | 小銃を生産しています | ||
6208 | 石川製作所 | 675 | 11.2% | 機雷を生産しています | ||
7721 | 東京計器 | 198.0 | 12.5% | 防衛省向けに航海・航空計器 |
※10/28付「日本株投資戦略」で、「トランプ大統領」実現なら注目され得る防衛関連、サイバー・セキュリティ関連のうちから、東証一部上場銘柄をとり上げました。
トランプ氏は、日米同盟に関し、日本は安全保障にただ乗りしており、例えば日本に駐留する米国軍のコストなどは全額負担すべきだと主張しています。このため、我が国が独自で防衛力を強化せざるをえない可能性が広がり、防衛関連が注目される可能性があります。なお、表の中にはサイバー・セキュリティ関連も入れてあります。
ただ、日本は米軍駐留費のすでに75%を負担しており、これを100%増に増額しても負担増は2,000億円未満とみられ、十分対応可能とみられます。我が国は歴史的に共和党政権とは比較的親密になることも多く、日米安全保障に関する銘柄は「期待外れ」に終わるリスク(ただし、上記の表でトレンドマイクロはそれとは別)があります。
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