「先月は外国人が大きく買い越し株式相場は堅調だった」、「年初から個人は売ってばかりで上昇相場を指を加えて見ているだけ」といった株式相場解説を聞かない日はないぐらい、“誰が買って誰が売っているか”という需給について市場関係者は常に注目しています。その元データとなるのが東証が公表している「投資部門別株式売買状況」です。そこで、このデータで過去の傾向を確認するとともに、今後の株価動向の「先読み」にどう使えるのか調べました。
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外国人買いと個人売り:キープレーヤーは誰?
東証が毎週木曜日に前週分を公表している「投資部門別 株式売買状況」は、株式売買を証券会社の自己取引(トレーディングなど)と委託取引(通常の顧客の注文を取引所に取り次ぐ取引)と大きく2つに分け、さらに委託取引については発注した顧客によって法人、個人、海外投資家、(東証会員でない)証券会社の4つに分けています。法人についてはさらに4つに細かく分けて、投資信託、事業法人(普通の会社)、その他法人等、金融機関としています。その金融機関についてだけは、もっと細かく、生保・損保、都銀・地銀等、信託銀行(年金資金や日銀など)、その他金融機関の4つに細分化した内訳を出しています。こういった入れ子構造の数値なので、公表データをみただけでは分かり難くなっています。
そこで、買い越し・売り越しの動向が注目されることが多く、株価への影響力が大きいと考えられる、「個人」、「海外投資家」(海外の各種ファンド、海外年金などの売買)、「投資信託」、「生保・損保」、「都銀・地銀」、「信託銀行」の数値を抜粋し、アベノミクス開始前の2012年1月から2015年4月までを図示したのが図1です。
図1:投資部門別株式売買状況(東証1部、抜粋)
※東証データよりeワラント証券が作成
図を見ると、アベノミクス開始直後の2012年11月からバーナンキショックを挟んで2013年末までと、2014年末、2015年2月以降に海外投資家(茶線)が大きく買い越していることが分かります。また、個人投資家(青線)は2014年1月に大きく買い越した以外は一貫して売り続けています。“外国人が買って、個人が売っている”という構図は最近よく報道されますが、図からもそれが伺えます。
また、このところ騒がれていた“クジラ資金”ともいわれる国内年金や日銀の買いが表れる信託銀行(オレンジ線)は、アベノミクス初期はもっぱら売りに回っていたものの、2014年5月から2015年2月頃まで大幅な買い越しとなっていて、これも多く報道されている通りです。ただ、2015年3月と4月は信託銀行は売り越しているので、“クジラの買いで上がった”という報道どおりにはなっていない可能性があることには注意が必要です。
もう一つ言えるのが、個人、海外投資家、信託銀行に比べて、投資信託、生保・損保、都銀・地銀はそれほど目だっていない(影響が少ない)ということです。生保・損保、都銀・地銀はほとんどの期間、コツコツ売り続けています。投信は売ったり買ったりで、敢えていえば個人投資家の行動には近いものの、銀行や証券会社での店頭販売が多いためか一気に売買が傾くことはあまり無いようです。
そこで、「個人」、「海外投資家」、「信託銀行」の売買動向だけを抜粋し、これとTOPIXの値動きを比べたのが図2です。
これを見ると、「海外投資家が買うと上がり、売ると株式相場は停滞する」、「個人投資家は下がった時に買う(あるいは個人投資家が買うと下がる)」、「信託銀行が売って上がった時期も、買って上がった時期もある」とはいえそうです。ただ、実際の投資に使うには、サブプライムバブル前後での各主体の過去の投資行動も見ておく必要がありそうです。
図2:個人、海外投資家、信託銀行の売買動向(東証1部)とTOPIX
2012年1月〜2015年4月
※東証データよりeワラント証券が作成
「外国人買越し、個人売越し」は長期トレンド
図3は2005年1月から2011年12月までの主な投資主体別の売買動向を見たものです。これをみると最近メディアで言われる「外国人が日本企業変革を見込んで買っている」、「個人は上昇相場に乗れていない」というのが、ちょっと怪しく見えてきます。というのは、確かにサブプライムバブル崩壊が懸念され始めた2007年8月から2009年3月にかけての時期やユーロ財政危機が懸念された2011年秋には、海外投資家は日本株を大きく売り越しています。リスクオフなら日本株売りと言う訳です。しかし、それ以外の時期はほとんど一貫して海外投資家は日本株を買い越しています。東日本大震災直後の2011年3月や4月でさえ、大きな買い越しです。
一方の個人は2007年3月の株価の天井圏や2008年6月のリーマンショック直前の高値を買ってしまった時と、2008年秋から2009年初め、2010年5月や2011年8月から9月の株価急落・低迷局面でしか買い越していません。つまり、「外国人の買い、個人の売り」となっている状態は何も珍しいものではなく、ほとんど期間においてそうなっているということです。
図3:投資部門別株式売買状況(東証1部、抜粋)
2005年1月〜2011年12月
※東証データよりeワラント証券が作成
ちなみに2005年1月〜2015年4月までの累計で見ると、「個人」は30兆円もの売り越し、「海外投資家」は43兆円もの買い越し、「生保・損保」は約5兆円の売り越し、都銀・地銀は1.7兆円の売り越しでした。つまり、過去10年間、日本国内の個人や生損保、銀行がせっせと売って来た日本株を海外投資家が買ってくれている構図となります。
ただ、ここで注意すべきなのは、なぜ個人が30兆円も売り続けることができてなお、今も多くの株式資産を保有することができるのかということです。「個人は暴落時に買っているから大儲け」というのはやや短絡的なように思えます。
「IPOなどで勤務先が上場して株長者が売ると個人の売りだけになる」、「従業員持ち株会が買う時は法人として統計に出て、退職者が株式を受取ってから売れば個人となる」、「創業者の株式を相続する時に大量の個人の売りになる」といった構造的に「個人」が統計では売り超になる要因が作用している可能性もあります。
「先読み」投資に使えそうな大発見!?
上記のチャートを見ているだけでは分からないので、様々な角度から2005年から2015年4月までのデータで統計分析をしてみたところ、有意な結果が得られたのは以下の項目でした。
1. 当月のフローと株価
◎個人投資家が買い超となっている月はTOPIXが4.5%下げる傾向がある
◎海外投資家が買い超となっている月はTOPIXが3.5%上げる傾向がある
◎生保・損保が買い超となっている月はTOPIXが2.1%下げる傾向がある
(説明)当月のフローなので、個人投資家や生保・保険は逆張り、海外投資家は順張りということはいえます。ただ、これだけでは、どちらが成功しているとは判断できません。
2. 当月の買い増し、売り増しと株価
◎個人が前月に買い越しで、当月買い増している時は、TOPIXは0.1%下げている
◎海外投資家が買い増している時はTOPIXは1.9%上がり、売り増していると2.6%下げている
◎都銀・地銀が買い増している時は、TOPIXは4.6%下げている
◎信託銀行が買い増している時は、TOPIXは2.5%下げている
◎生保・損保が前月に売り越しで当月売り増しているときは、TOPIXは3.0%上がっている
(説明)前月の行動をどういう局面で加速しているかをみたものです。個人、都銀・地銀、信託銀行は下げるとさらに買うという「ナンピン」行動のようです。海外投資家は逆で相場が上がればもっと買うようです。興味深いのは生保・損保で、売れば売るほど相場が上がるのか、相場が上がると売却を加速させるのかのどちらかのようです。
3. 前月の行動と株価
◎都銀・地銀が前月に買い越しになっていると当月TOPIXが2.3%下がる傾向がある
(説明)都銀・地銀は押しなべて売る側になっているのですが、稀に買い越しとなることがあります。自己資本規制やROE向上のために持ち合い株を減らすトレンドの中で、どういった局面で買い越しとなるかは分かりませんが、なぜか翌月は株価が下がる傾向があります。
4. 前月の各主体の行動が同時に起こった場合と株価
◎前月に個人が買い越し、投資信託も買い越しとなった場合、翌月のTOPIXは2.4%上げている
◎前月に個人が売り越し、投資信託も売り越しとなった場合、翌月のTOPIXは2.0%上げている
◎前月に生保・損保が買い越し、都銀・地銀も買い越しとなった場合、翌月のTOPIXは3.6%下げている
(説明)「個人」はセミプロトレーダーからビギナー、相続、IPOや退職などで株式を取得した方まで含む一方、「投資信託」は相対的に受動的な投資家が多いと推測されます。これが共に買い越しになると翌月の株価が上昇するというのは極めて興味深い発見です。また、共に(弱気になって?)売り越しても株価が上がる!ということも見ただけでは容易に見つけられない現象です。なお、生保・損保と都銀・地銀は通常は売り越しているのですが、共に買いに回った翌月には、都銀・地銀だけのときよりもさらに大きく翌月の株価が下がる傾向があるというのは関係者に文句を言われそうな発見です…。
上記の結果は過去10年間にその傾向が観察されたというもので、どうしてそうなっているかは正確には分かりません。また、今後もそうなるとは言えませんが、投資主体の行動様式に変化がないと仮定するなら「先読み」のヒントにできそうです。
具体的には、前月の動向から翌月の株価を予想する3と4の発見を利用して、「都銀・地銀の前月買い越しなら株価指数ショート」、「個人・投信が前月にともに買い越しなら株価指数ロング」、「個人、投信がともに売り越しでも株価指数ロング」、「生保・損保、都銀・地銀がともに買い越しなら株価指数ショート」という1ヶ月投資戦略が効果的と思われます。
(eワラントなら)
前月の投資部門別株式売買状況を見て、当月に株価指数をロング(買う)するなら、1ヶ月弱保有することになるので時間経過の影響を受けずにレバレッジ投資ができる日経平均プラス5倍トラッカー16回(満期2015年9月9日)、ショート(売る)するなら日経平均マイナス3倍トラッカー16回(満期2015年9月9日)が使いやすいと考えられます。
(念のため付言しますと、上記は筆者の個人的な見解であり、eワラント証券の見解ではありません。)
eワラント証券 チーフ・オペレーティング・オフィサー 土居雅紹(どい まさつぐ)
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