財務省が発表した「対外及び対内証券売買契約等の状況」によると、2015年9月に海外投資家(非居住者)は3兆878億円も日本株を売り越していました(投資ファンドの持分の売買を含む)。これはサブプライムバブル崩壊後の2007年〜2009年のどの月よりも大きな売り越し額でした。海外投資家の売買動向は日本株全体の水準に大きな影響を与えるため、これが長期的な売り越しを意味するのか、単に前月の日本株リターンと米国株の変動率(相場の荒れ具合)によるものなのか、はたまたアノマリーで説明できるのかを見極める必要がありそうです。
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海外投資家は急に止まらない?
図1は海外投資家による日本株・投資ファンド持分投資のネット売買金額を、サブプライムバブル崩壊直前の2007年1月から2015年9月までに亘ってみたものです。まず言えそうなことは、海外投資家の売り越し・買い越しは長く続くようだということです。売り越しについては、2007年8月の「パリバショック」でサブプライムバブル崩壊が明らかになって以降、2009年3月までの20ヶ月のうち、売り越しとなっていたのは16ヶ月で、ほぼ一貫して海外投資家は日本株を売却していました。
逆に、買い越しも長期間となっています。アベノミクスが始まる直前の2012年10月から2013年12月までの14ヶ月のうち13ヶ月で買い越しでした。
海外投資家の売買フローの大部分はHFT(高頻度取引)などの短期売買と考えられますが、1ヶ月単位のネットの売買金額となると、巨額の資金を長期間運用する性格の投資主体の影響が大きくなると推測されます。一般にこうした投資主体が、日本株を含めた世界各国への株式への投資割合を変更したりすると、それに向けてその後何ヶ月にも亘ってポジションの調整が行われると考えられます。
その観点で2015年をみると、中国株の変調が始まった6月から9月までの4ヶ月間すべて日本株は売り越しとなっています。中でも9月の3兆円の売り越しは、2007年から2009年初めの期間の月間最大売り越し金額となった2009年3月の約1.6倍もの大きな売り越し額でした。このことから、「長期資金の日本株売却が始まったのであれば、さらに長期間続く可能性がある」ことに加え、「従来よりも短期間に大量の売買を実行するようになった可能性がある」ということがいえそうです。
図1:海外投資家による株式・投資ファンド持分投資(2007.1-2015.9)
※財務省データよりeワラント証券が作成
海外投資家の月別売買動向のアノマリーなら10月は買い越しに?
欧米の機関投資家の行動には季節性があるという見方もあり、これが11月から翌年4月の先進国の株価が堅調となる一方、5月から9月(または10月)までは軟調となりやすい“半年効果”の一因と考えられています。
図2は2005年1月から2015年9月までの海外投資家の売買動向とTOPIXのリターンの月別平均値です。興味深いことに、8月と9月は海外投資家は日本株を大きく売り越していますが、10月は逆に買い越しています。TOPIXのリターンの平均をみると、10月は大きくへこんでいますが、これは20.2%下落した2008年の影響によるものです。2008年10月に海外投資家は日本株を1.3兆円売りこしているので、その他の年の10月はおしなべて大きく買い越しになっていたともいえます。
図2:月別海外投資家売買動向とTOPIXリターン(2005.1-2015.9)
※財務省、ロイターデータよりeワラント証券が作成
前月の米国株相場の荒れ具合と前月の日本株のパフォーマンスの影響大か?
次に、同期間において海外投資家の日本株売買動向が、前月の相場動向に影響を受けているかどうかを調べてみました。調べた項目は、「前月の日本株(TOPIX)の変化率」、「前月の米国株(S&P500)の変化率」、「前月の米ドル/日本円レートの変化率」、および「米国株の荒れ具合(S&P 500 VIX指数の月中高値)」です。これらのうち、海外投資家の日本株売買動向に対して統計的に有意な関係が認められたのは「前月の日本株(TOPIX)の変化率」と「米国株の荒れ具合(S&P 500 VIX指数の月中高値)」でした(ともに信頼度99%)。具体的には、海外投資家の日本株売買は、前月に1%TOPIXが上昇すると約880億円増加し、前月のVIX高値が1ポイント上がると300億円減るというものでした。つまり、海外投資家の売買動向全体としては、日本株が前月に上がれば翌月に買い、下がれば翌月に売る「順張り戦略」と、前月の米国株が荒れると日本株を手仕舞い、落ち着くと日本株を買うという「リスクオン・オフ戦略」を併用しているような形になっていたことになります。
この2変数を使った海外投資家の日本株売買金額の推計値と実際の売買金額を比較したのが図3です。この推計値自体の自由度調整済決定係数は0.32と説得力はあまり高くは無いのですが、推計自体は有意で、各月の実測値と推計値の方向性は概ね一致していることでも意味はありそうです。
なお、このモデルによる2015年10月の推計値は9,365億円の買い越しとなります。過去の数値からみて数値そのものよりも方向性が参考になると考えるなら、このモデルによる推計では、少なくとも2015年10月は買い越しになる可能性が高いと言えそうです。
図3:前月VIXと前月TOPIXの変化率で海外投資家売買動向を推計したら
※財務省、ロイターデータよりeワラント証券が作成
投資に活かすなら:目先回復、長期売り越しか?
今後の相場の方向性を考える上では、まず、「海外投資家が月間ベースで数ヶ月売り越し始めると長期間継続する傾向がある」ことが既に始まっているのか、2015年9月の3兆円の売り越しが過去にも時折見られた一過性のものなのかを考える必要がありそうです。
仮に、中国や資源国経済の変調や米国の経済成長率の鈍化を受けて、世界経済はさらに失速すると海外の機関投資家がリスクオフモードに入っていると考えるなら、今後1-2年と言う期間に亘って海外投資家の巨額の日本株売りは継続すると考えられます。この場合、日本株市場における海外投資家のプレゼンスの大きさを考慮すると、日本株のパフォーマンスも悪くなりそうです。このシナリオを想定するなら、日本株買いポジションを手仕舞うとともに、日経平均マイナス3倍トラッカーやベアETF、ベア投信の買いで相場の下落からのリターンを狙うことも一案と考えられます。
一方、未だに2007年夏以降のような海外投資家の株式ポジション縮小の段階には至っていないと考えるなら、少なくとも10月を含めた数ヶ月程度は半年効果や月別アノマリー、9月のTOPIXリターンとVIXによる10月推計値からも、海外投資家は日本株買い越しに戻り、相場全体も復調すると考えられます。このシナリオを想定するなら、株価指数ミニ先物のロング、2015年12月満期の日経平均ニアピン1185回(ピン価格19000円)や日経平均ニアピン1187回(ピン価格19500円)の買いや、日経平均コール887回(権利行使価格18500円、2015年12月9日満期)の買いといった短期のレバレッジポジションに投資妙味があると考えられます。
(念のため付言しますと、上記は筆者の個人的な見解であり、eワラント証券の見解ではありません。)
eワラント証券 チーフ・オペレーティング・オフィサー 土居雅紹(どい まさつぐ)
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