日欧では量的緩和が続き、オーストラリアは資源価格下落と中国景気後退で利下げ、逆に南アフリカなどの一部の新興国では通貨防衛(通貨安対策)とインフレ防止のために利上げ、米国ではインフレ懸念がほとんどない中での利上げが目前です。
そうなってくると、いったい現在の各国の為替レートが一時的なものなのか、トレンドが継続するのか迷ってくる方が多いと思われます。こういった局面で迷える方への目安としてしばしば登場してくるのが、二国間のインフレ率の差から算出される購買力平価(PPP)ベースの“適正レート”です。また、個人投資家が実際に外貨運用で得ることができる短期金利レートとインフレ率が概ね同水準とするなら、PPPレートと実勢為替レートを比べることで、過去のある時点からの外貨運用のパフォーマンスの目安として使うこともできます。
そこで日本円から見た場合のすべての為替レートの基準となる米ドル/円、個人投資家に人気が高い豪ドル/円、高金利新興国通貨の代表ともいえる南アフリカランド/円の“適正レート”の推移を調べてみました。
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すべての基本の米ドル・円:円の価値は歴史的低水準
PPPを用いて為替相場の適正レートを推計する場合、まず、“正しい為替レートであった”と仮定する過去の一時点を決める必要があります。そして、それ以降は二カ国間のインフレ率の差によって、「通貨の購買力を価値を維持するためには、高インフレの通貨が安く、低インフレの通貨が高くなる」という修正を加えた為替レートが“適正レート”となります。というのは、このレートであれば基点と観測点において、インフレ調整後の通貨の交換比率が等しくなるからです(平たく言えば、外国に行って買い物をするときに国内の物価と比べて高い・安いという変化を感じない為替レートです)。
図1は1980年から2015年11月までの米ドル/円レートと、5つの時点(1980年末、1984年末、1994年末、2006年末、2011年末)を基点として算出したPPPベースの“適正レート”の推移です。1980年末の203円10銭/ドルを基点とした場合(図中赤線)、2015年11月末時点の適正レートは94円98銭/ドルとなっていました。一方、その後の円高ドル安への転換点となったプラザ合意直前の円安ドル高のピーク(1984年末)の251円60銭/ドルを基点とした場合は、同じ2015年11月末の適正レートは132円18銭/ドルと実勢よりもはるかに円安でした。円高が進んだ1994年末の99円70銭/ドルを基点(みず色線)にすると、なんと2015年11月末の適正レートは63円94銭/ドルとなってしまいます。同じPPPベースの適正レートなのに、基点しだいで63円94銭の超円高でも132円18銭の超円安でも自由自在に“正当化”できることになります。これが多くのエコノミストが結論に合わせて基点を決めて、その時々の経済分析に都合よくPPPベースの適正レートを使う最大の理由ともいえます。逆を言えば、PPPベースの適正レートが出てきたら、「眉唾もの」と疑ってかかる注意深さが必要です。
それで、2015年11月末時点の123円08銭が“適正レート”かどうかというと、結論は「分からない」となるでしょう。というのは、ご存知のように、為替レートは任意の二時点間における二通貨間の購買力が等しくなるように自動的に決まるわけではないからです。逆にPPPによる適正レートから分かるのは、その時点と比べて日本円が実質的に安くなったのか高くなったのかということです。その観点で言えば、日本円はプラザ合意前の水準に近づくほど下落していて、私たちが米国に行って買い物をするときには相当高く感じる状況にあるといえます。
なお、PPPを米ドルで運用した場合のパフォーマンスの目安と見た場合、現時点では1984年の円安ドル高のピークに米ドル運用を始めた方を除いて、ほとんどの方がプラスになっているといえます(利子への税金、取引にかかる手数料等は考慮せず)。
図1:米ドル/円“適正レート”(購買力平価)
※IMF、ロイターデータよりeワラント証券が作成
国内投資家に人気の豪ドル:2014年開始の運用以外はプラス
高金利で外債から外貨建てMMF、FXまで日本の個人投資家に人気が高いのが豪ドルです。豪ドル/日本円レートと5時点を基点としたPPPベースの“適正レート”の推移をみたのが図2です。1980年時点では1豪ドル240円もあって米ドルよりも高い水準でした。しかし、当時のオーストラリアのインフレ率は10%前後もあって実際の為替レートもPPPも長期下落トレンドにありました。
とはいえ、1980年基点とした2015年11月の“適正レート”(図中赤線)は78円76銭だったので、2015年11月末時点の豪ドル/円レート(88円94銭)と比べると、日本円は豪ドルに対してこの35年間の二国間のインフレ率の差以上に下落したことになります。
また、豪ドルは値動きが激しい通貨で、1987年、2008年には大きく下落(豪ドル安円高)しています。これらを基点とした2015年11月末の“適正レート”は、1987年基点(図中紫線)なら43円76銭、2008年基点(図中青線)でも55円34銭でした。言うまでもなく、1987年や2008年に豪ドル投資をしていれば金利収入も合わせて大きく利が乗っていることになります(税金、手数料は考慮せず)。なお、これは日本人にとってオーストラリアの物価が上がり、オーストラリア人にとって日本の物価が4割安〜半値になったことを意味するので、オーストラリアから日本への観光客が増えるわけです。
また、サブプライムバブル崩壊前の2007年の豪ドル高円安時を基点とした適正レート(図中みず色線)でも2015年11月末に81円81銭だったので、豪ドル投資を2007年に始めてもプラスのリターンと言うことが分かります。
しかし、いつ豪ドルに投資しても良かった訳ではなく、昨年(2014年)を基準(図中オレンジ線)にすると適正レートは96円96銭/豪ドルとなり、現時点では金利を考慮しても大幅な円高豪ドル安(豪ドルへの投資収益はマイナス)となっています。
図2:豪ドル/円“適正為替レート”(購買力平価)
※IMF、ロイターデータよりeワラント証券が作成
高金利で人気の南アフリカランド:円安時の投資は高金利でもカバーできない結果に
図3は南アフリカランド/円為替レートとPPPベースの“適正レート”の推移です。これをみると興味深いことに2015年11月の為替レートは26年前の1989年基準の為替レート(図中赤線)や多くの投資家が南アフリカランドを購入したと思われる2005年直近高値を基点とした場合(図中みず色線)や2010年基点(図中茶色線)から見ると2015年11月末はかなりの円高で、高金利を考慮しても南アフリカランド投資のパフォーマンスはマイナスであると思われます。
もちろん、円高が進んだ2001年(図中紫線)や2008年(図中青線)時点に南アフリカランド投資をしていればPPPベースの“適正レート”は、2015年11月末の8.513円を大きく下回っているので、南アフリカランド投資のパフォーマンスはかなりのプラスといえます。
このように高金利の新興国通貨は、長期的にはインフレ率分を上回って円高になることもあるので、円安が進んだ時点では好利回り目当てに安易な投資をしない方がよさそうです。
図3:南アフリカランド/円“適正為替レート”(購買力平価)
※IMF、ロイターデータよりeワラント証券が作成
投資に活かすには
PPPベースの“適正為替レート”が、本源的な正しいレートを示しているとはいえません。しかし、長期的なトレンドを示す上では、米ドルや豪ドルといった先進国通貨に対してはかなり有効であるとともに、円安時の高金利新興国通貨への投資に警鐘を鳴らしているともいえます。
なお、豪ドルと南アフリカランドのPPPベースの適正レートが押しなべて右下がりであるのに対し、米ドルは近年右上がりに変わりつつあるようです。これは米国のインフレ率が低下する一方、日本がインフレ率引き上げに成功しつつあることが関係しています。これが継続すると考えるのであれば、どの時点を基準としたPPPベースの米ドル/円“適正為替レート”も今後現状を追認する形で米ドル高円安方向に動くことになります。この仮定に基づいて投資するなら、当面の間は、eワラントなら米ドルコールの買い、米ドルニアピンならピン価格がドル高方向の銘柄の買い、FXなら米ドルロング円ショートが勝ちやすい投資戦略となりそうです。
(念のため付言しますと、上記は筆者の個人的な見解であり、eワラント証券の見解ではありません。)
eワラント証券 チーフ・オペレーティング・オフィサー 土居雅紹(どい まさつぐ)
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