プット・コールレシオ(以下「PCレシオ」)は、eワラントのコール(原資産の上昇を予想するタイプ)とプット(原資産の下落を予想するタイプ)の売買金額の比率を見る指標で、個人投資家の相場観を客観的に見ることができると考えられています。一方、外国人投資家の売買動向が日本株の取引フローの6-7割を占め、日本株と外国株との相関が高まるにつれ、猫の目相場の様相を呈し、PCレシオも短期間に数値が大きく上下するようになっています。
この結果、PCレシオを逆張り投資シグナルとしてそのまま使うと“ダマシ”が多くなりがちです。そこで一手間かけて、移動平均を使う重要性が増していると考えられます。
eワラントとは?
そもそもワラントってなに?3,000円程の少額から始められる「eワラントの魅力」をご紹介いたします。
PCレシオは逆張りシグナル?
PCレシオとは、日本株関連のeワラント(日経平均、TOPIX、国内個別株、日本株のみを対象したバスケット、但しニアピンとレバレッジトラッカーを除く)の売買金額から下記の計算式で算出したものです。
PCレシオ =(プット売買金額/コール売買金額)の5日移動平均
日本国内でのeワラントの取引はほとんどが個人投資家のフローなので、上場株や上場先物・オプションの取引フローの大部分を占めるHFT(高頻度取引)業者や、国内外の大口機関投資家、裁定取引業者などの影響を受けません。また、ショート(空売り)がないので、相場が上がると思えばコールの買い、下がると思えばプットの買いというシンプルな取引になります。また、コールやプットを売却する場合でも必ず買いから入った手仕舞いとなるので、投資家が見ている相場の方向とズレることはありません。このため、個人投資家の多くがこれから相場が上がると思えばコールの取引が増え(PCレシオは下落)、逆に下がると思えばプットの取引が増える(PCレシオは上昇)することになります。
往々にして、市場参加者が総強気に傾くと相場の天井、逆に総悲観となると相場の底となります。このため、PCレシオが極端に低下(コールの取引に集中し、過度に強気)すると売りシグナル、PCレシオが極端に上昇(プットの取引が多くなり、過度に弱気)すると買いシグナルと考えられています。
拙著「最強の『先読み』投資メソッド」(ビジネス社)では、PCレシオの毎週末の値の5週移動平均を投資シグナルに用いる方法を紹介していますが、PC レシオは特に7年〜10年単位の相場の波に上手く乗る長期投資に有効である可能性が高いと思われます。
図1は2001年6月から2016年1月までの日経平均とPCレシオの推移をみたものです。緑の点線で囲まれた時期はPCレシオが突出して高くなっている(プットの取引が多い=過度に悲観的)ところで、相場の底と重なる場合が多かったことが分かります。一方、赤い点線で囲まれたところは、PCレシオが極めて低くなっている(コールの取引が多い=過度に強気)ところで、目先の天井となっていることが多かったといえます。
図1:プット・コールレシオと日経平均の推移
※ロイターデータ及び独自データよりeワラント証券が作成
PCレシオをそのまま使うとダマシが多い
PCレシオが投資シグナルに使えそうだといっても、日々の変動が大きな指標なので、そのままではやや使い勝手に難があります。図2はPCレシオを投資シグナルに使った3つの戦略と日経平均のパフォーマンスを比較したものです(配当、手数料、税金は考慮せず)。PCレシオが極めて高い数値(100-120%)となった時点(プットの売買に偏り、過度に悲観的)を買いシグナル、極めて低い数値(5-15%)になった時点(コールの売買に偏り、過度に楽観的)を手仕舞い売りのシグナルとして用い、いろいろな組み合わせによる成果を探ってみました。
その結果、この観察期間でもっとも良好なパフォーマンスとなったのが、「PCレシオが120%を超えたら買い、6%を下回ったら手仕舞う戦略」(図中紫線)でした。この戦略の場合、普通に日経平均に投資する(図中青線)よりも良好なパフォーマンスでした。しかしながら、サブプライムバブル崩壊前の2006年半ばの一時的な調整で再びポジションを採ってしまってバブル崩壊に巻き込まれたり(図中赤矢印)、2015年末の総弱気局面でポジションを採り2016年初からの更なる下げで損失を蒙ったり(図中黄色矢印)、と“ダマシ”の影響が大きく出ているようです。
さらに、その他の組み合わせで相対的にパフォーマンスが良かった「PCレシオ110%で買い7%で手仕舞う戦略」(図中茶色線)や「PCレシオ110%で買い10%で手仕舞う戦略」(図中きみどり線)では、日経平均そのもののパフォーマンスより悪い結果となっていました。これはPCレシオ自体がプットとコールの売買金額の比の5日移動平均になっていてもなお、一時的に極めて大きく動くことがあり、結果として誤ったシグナルとなっていたことによると考えられます。
図2:PCレシオをそのまま投資シグナルに使った場合
※ロイターデータ及び独自データよりeワラント証券が作成
一手間加えるとPCレシオの長期投資シグナルとしての有効性が大きく向上
一時的なPCレシオの急変の影響を緩和するために、PCレシオの5日移動平均、10日移動平均、20日移動平均をとり、それぞれについて買いシグナル(PCレシオ100%-120%)、手仕舞い売りシグナル(PCレシオ5-15%)の効果的な組み合わせを探り、結果が良好であった3つの戦略のパフォーマンス推移をみたのが図3です。
最も効果的だったのは、PCレシオの20日移動平均を用い、110%で買い、9%で手仕舞い売りとした戦略(図中緑線)で、15年間で約4倍になるという高パフォーマンスでした。また、リーマンショックの期間中はキャッシュポジションで静観という、ストレスが少なく理想的ともいえるキャッシュマネジメントが容易に実現できていました。この投資戦略の最大の特徴は相場の8合目か9合目のあたりで早めに手仕舞っていることです(図中黄色矢印)。サブプライムバブル崩壊前には2005年12月に早々と手仕舞いですし、アベノミクス相場でも2013年5月のバーナンキショック直後に手仕舞いとなっていました。また、買い出動に極めて慎重という面もあります。2015年12月末のPCレシオ急騰時でも、20日移動平均を用いた戦略では買いシグナルは点灯しなかったので(図中黄色斜線矢印)、“ダマシ”の影響を受けにくいといえそうです。
「10日移動平均で113%買い、8%売りという戦略」(図中茶色線)も良好で、15年間で3.2倍となりました。一方、5日移動平均を使った場合(図中オレンジ線)になると、かなりパフォーマンスが落ちる結果でした。なお、20日移動平均(約4週間)の結果が良好であったことは、前述の「最強の『先読み』…」で有効とした5週移動平均とほぼ同程度の観察期間と考えることもできます。なお、5週移動平均ではなく20日移動平均を用いる利点は、eワラント証券ホームページの下記リンクからPCレシオデータをダウンロードして、それをもとにエクセルなどで容易に計算できることといえます。
図3:PCレシオを加工して移動平均を投資シグナルに使った場合
※ロイターデータ及び独自データよりeワラント証券が作成
投資に活かすには
PCレシオはそのままでは一時的に急騰・急落して有効なシグナルとはならない“ダマシ”が多いので、長期投資の買い・手仕舞いシグナルに用いる際には20日移動平均を用いた方がよいようです。その際、過去の値動きから見ると、買いシグナルとしては109%程度、手仕舞い売りシグナルとしては9%程度を目安にすると効果的な長期逆張り投資ができそうです。これらのシグナルがでたら、保有期間が長くなるので日経平均5倍プラストラッカー、株価指数ETFといった保有コストが安く手間がかからない金融商品を利用すると効果的と思われます。