日経平均の上場オプション価格から算出される日経平均ボラティリティ・インデックス(「日経VI」)は、相場急落時に急上昇する傾向があります。この指数は険しい山のように急騰急落(スパイク)するので、そのものを取引対象としたり、株式のヘッジに使ったりするのは容易ではありません。
また、投資シグナルとした場合には、日経VI急騰を相場の反転買いシグナルなのか、逆に順張りのショートポジションを採る売りシグナルと考えるべきなのかははっきりしません。そこで、データが公表され始めた2010年11月から2016年2月5日までのデータを用いて検証してみました。
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日経VIは相場急落時に急騰:ただし本家VIXより値動き大
図1は2010年11月以降の日経平均、S&P500、日経VIとS&P VIXの推移を見たものです。このうち日経VIは日経平均を対象とする上場オプション価格から算出されたものであるのに対し、「本家恐怖指数」ともいえるS&P VIXはS&P500を対象とする上場オプション価格から算出されたものです。
これらを見ると、東日本大震災、ギリシャ危機、スペイン経済危機、バーナンキショック、“脆弱な5カ国懸念”、2014年の景気後退懸念、2015年の人民元切り下げ、2016年年初からの世界同時株安とすべての株価暴落局面で日経VIが急上昇していたことが確認できます。また、本家VIXは日経VIほどは大きく動かず、両指数が同程度の値動きとなったのは最近では2011年のギリシャ危機ぐらいしかありません。また、日経VIはVIXと比べて短期的なスパイク(急騰後に急落)の度合いが激しくなっています。
日経VIが“ぴょんぴょん”跳ねる要因としては、中国株との相関が高いとして中国株の代わりに海外投資家にショートされやすいこと、HFT(高頻度取引)業者のフローが多いこと、日経平均を対象としたレバレッジETFやレバレッジ投信の残高が急増して値動きを増幅していることなどが考えられます。そうであれば日経VIの荒い動きは継続する可能性が高いと考えられます。
図1:日経VIは相場急落時に急騰
※ロイターデータよりeワラント証券が作成
日経VI急騰は落ちるナイフ:逆張り買い戦略は難易度が高い
株価急落局面で日経VIが急騰するのであれば、「日経VIが一定の水準を超えたら逆張りの買いチャンス」と考えることもできます。実際に、過去の短期急落局面では直後にある程度反騰することも多かったといえます。ここで問題となるのは、「買いシグナル」を日経VIがどの程度まで上昇した場合とするか、また、なにをもって手仕舞うかという点です。
そこで、日経VIの値を35〜65まで、手仕舞いはトレーリングストップ戦略を使って直近の高値から3%から15%までとして、組み合わせを探ってみました。このうち最もパフォーマンスが良かったのは、「日経VI45超で買い、トレーリングストップで15%ロスカット」で、5年強の期間で1.17倍(売買手数料、税金等は考慮せず)となりました。とはいえ、全体的には下げに巻き込まれて損失が出る組み合わせが多くなっていました。これらのうち、典型的であった「日経VI35+トレーリングストップでのロスカット10%」と「日経VI40+トレーリングストップでのロスカット10%」を加え、日経平均そのもののパフォーマンスと比較したのが図2です。
これらに共通しているのは2011年のギリシャ危機と2013年のバーナンキショックで「買いシグナル点灯」となり、その後損失を蒙っていることでした。さらに、2015年の人民元切り下げと2016年初の下げでも早く買いに入りすぎてしまっていました。2013年5月のバーナンキショックの際にも、日経VI上昇を買いシグナルとすると買いタイミングが早過ぎる傾向がありました。その時でも、日経VIが45にまで上昇するまで待てば良い買いシグナルとなっていました。また、2014年の1月の調整局面での下げが大きかったので、ロスカットの許容度がかなり15%と大きい戦略だけがその後の上昇益を得ることができました。
全体的に、日経VIを急落局面での買いシグナルに使うと、”落ちるナイフで怪我をしやすい“というだけでなく、どこで手仕舞うか、どこまで耐えるかという点が各局面で一様ではなく、極めて難易度が高い投資戦略となっていました。
図2:日経VI急騰時は落ちるナイフ?:逆張りは効果薄
※ロイターデータ及び独自データよりeワラント証券が作成
日経VI急騰で順張りのショート:出番は少ないが効果アリ?
日経VIを使った逆張りの買い戦略が上手くいかずに損失が出ることも多いとするなら、単純にもっと下がると考えてショート(具体的には、株価指数先物の売り、日経平均プットの買い、日経平均マイナス3倍レバレッジトラッカーの買いなど)した方がよさそうです。
そこで、日経VIの水準とトレーリングストップのロスカット水準(ショートなので日経平均の直近安値からの上昇率が大きくなったら手仕舞い)を変えて過去のパフォーマンスを試算してみました。計測期間(2010年11月19日〜2016年2月5日)で最もパフォーマンスが良かったのが、「日経VIが40を超えたらショートし、トレーリングストップで日経平均が直近安値から5%上昇したら手仕舞い」という戦略で、5年弱で1.22倍でした。全体的にロスカットを5%程度と小さめにして短期間に手仕舞う戦略のパフォーマンスが良好でした。同様の「日経VI40超でショート、トレーリングストップのロスカット10%」、「日経VI35超でショート、トレーリングストップのロスカット5%」も大きなマイナスとならない無難な投資戦略となりました。
これらと日経平均のリターンを比べたのが図3です。これらの動きを見ると、日経VIが上昇したときにショートポジションを採る戦略は、投資機会が少ないものの堅実なリターンを得られていたといえそうです。日経平均を持ちっぱなしの場合の方が累積リターンは大きいのですが、パフォーマンスの安定性と投資戦略の分散の観点から、日経VIを利用したショート戦略の利用を検討する余地は大きいでしょう。
図3:日経VI急騰でショート:出番は少ないが効果アリ
※ロイターデータ及び独自データよりeワラント証券が作成
投資に活かすには
日経VIは本家のS&P VIXに比べてスパイクがきつく(短期間の急騰・急落)、買いシグナルとしては使い勝手が悪いようです。逆に、日経VIが急騰した場合にショートする戦略の効果が大きいことから、日経VI急騰時はしばらく相場下落が続くと考えた方がよさそうです。また、日経VIは2010年11月〜公表された指数なので、1997年から1998年のアジア通貨危機〜日本の金融危機、2000年のITバブル崩壊や2008年のリーマンショック時の値動きが分かりません。このため、巨大バブル崩壊時の挙動については未知数な面があります。
それらを踏まえたうえで投資に活かすなら、日経VI急騰時には買いポジションを手仕舞ってキャッシュポジションを増すことが現実的です。さらに積極的に投資機会として活用するのであれば、「日経VIが40を超えたら日経平均マイナス3倍トラッカー(あるいはベアETFやベア投信)を買って、日経平均が終値の直近安値水準から5%上昇したら手仕舞うトレーリングストップ戦略を使う」ことが効果的となると予想されます。