日銀の金融政策決定会合(以下「日銀会合」)の度に市場関係者は右往左往し、テロップに流れる単語毎に自動売買プログラムが過敏に反応して、日本株も米ドル/円相場も大きく動きます。
一方、“中央銀行には逆らうな”という相場格言があるとはいえ、2015年頃からその神通力が落ちてきたようにも感じられます。
そこで、アベノミクスが始まる前の2012年から2016年7月までの日銀会合で公表された金融緩和策の影響を、日経平均と米ドル/円相場に絞って調べてみました。
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日本経済が穴が開いた風船ならマネタリーベースが増えても株は上がらない?
図1はマネタリーベース(市中に出回る紙幣・貨幣と金融機関が日銀に預けているお金の合計)と日経平均の関係を見たものです。日銀が金融市場調節の操作目標を、無担保コールレートからマネタリーベースに変更したのは2013年4月の「量的・質的金融緩和」(いわゆる異次元緩和)からです。ところが、政策変更が予見され始めた2012年末から日経平均は既に急騰していました。その後2015年9月頃までは、概ねマネタリーベースが増えると日経平均が上昇するという関係が見てとれます(図中緑矢印の期間)。つまり、「市中に出回るお金を日銀がジャブジャブにしたら株価が上がった」ということになります。
これが2015年9月以降(図中黄色矢印の期間)になると、いくらマネタリーベース(つまりお金)が増えても日経平均は上がらなくなったようです。この理由を考えた場合、日本経済が“穴が開いた風船”のような状態とみなせば辻褄があいます。風船がぺちゃんこだった時にはある程度までは膨らみますが、パンパンに近くなるとそれ以上空気を入れても穴から出て行ってしまい、風船は膨らみません。また、風船の穴が広がっているなら、いくら空気を入れてもどんどん風船は縮んでしまいます。仮に、日銀が注ぎ込んだお金(マネタリーベース)が、米国株やインド株に間接的に流れているとすれば、日本株は低迷しているのに米国株やインド株が好調である一因という見方ができそうです。
図1:日経平均とマネタリーベース
※日銀、ロイターデータよりeワラント証券が作成
米ドル/円相場もマネタリーベース増が効かなくなった?
図2は同様に米ドル/相場とマネタリーベースの関係をみたものです。ここでも、2012年末のアベノミクス開始が予見された頃から大幅な米ドル高円安となっています。その後、米ドル/円相場もマネタリーベースが増加すると米ドル高円安が進みましたが、その効果に曇りが出はじめたのは日経平均よりも早い2015年2月頃(図中紫矢印)でした。その後、米ドル・円相場がマネタリーベースにあまり反応しない時期が続いた後、2015年9月頃(図中茶色矢印)からはマネタリーベースの増加と逆行して米ドル安円高となりました。
ここでも、せっかく日銀がつぎ込んだお金(マネタリーベース)が、風船に開いた穴から空気が漏れるように出てしまったと考えることができそうです。
図2:米ドル/レートとマネタリーベース
※日銀、ロイターデータよりeワラント証券が作成
日銀の金融緩和の株価へのプラスの影響は1ヶ月?
図3は2012年から2016年7月までの金融緩和策が拡大された日銀会合(図中縦線)を、日経平均の推移と重ねてみたものです。なお、2013年4月の異次元緩和開始前も、金額がかなり異なるとはいえ、日銀は「資産買入等の基金」を通じて国債、社債、ETFの買い入れやその増額を行っていました。また、2012年末に安倍政権が誕生すると、異次元緩和開始よりも前に「物価安定の目標」や「期間を定めない資産買い入れ方式」を導入しています。
こうした状況を考慮し、内容に関わらず日銀会合で金融緩和策が拡大された場合、それを同じイベントとみなして、当月から5ヶ月後までの月次の日経平均騰落率に影響を与えていたのか調べてみました。
結果は、日銀が何らかの金融緩和策をとった場合、日経平均の当月終値が2.91%前月終値よりも高くなっている傾向がある(信頼度90%)ことが確認できました。翌月以降の効果については統計的には有意と確認できませんでした。ただし、これは日銀による金融緩和といっても、「物価目標の設定・変更」、「国債買い入れ額の増額」、「ETFやREITの買い入れ額の増額」、「マイナス金利の導入」など様々なので、それを同様に扱っていることに起因していそうです。なお、さらに調べてみたところ、「物価目標の設定・変更」が株高円安要因、「国債買い入れ増額」が円安要因、「マイナス金利導入・強化」が持続的な株安円高要因となっている可能性が確認できました。この点についてはさらに深堀りしてみる予定です。
図3:日経平均と日銀金融緩和
※日銀、ロイターデータよりeワラント証券が作成
投資に活かすなら
マネタリーベースの増加が当初の成功とは異なり、2015年9月以降は日経平均上昇や米ドル高円安につながっていないとすれば、今後の日銀による金融緩和策発表に際しても条件反射的に「金融緩和=円安株高」とはならない可能性があります。
そうであれば、今後の日銀会合は方向性無く短期的な相場の変動性を高めるイベントとして、今まで以上に日経平均や米ドルのコール・プットを直前に両建てする戦略が有効となる可能性があります。
また、日銀によるマネタリーベースの増加が別の資産(例えば米国株やインド株など)の上昇に一役かっていると考えるのであれば、それらに投資先を変えるのも一案と思われます。
(念のため付言しますと、上記は筆者の個人的な見解であり、eワラント証券の見解ではありません。)
eワラント証券 チーフ・オペレーティング・オフィサー 土居雅紹(どい まさつぐ)
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