次期米国大統領のトランプ氏の政策に注目が集まっていますが、選挙期間中に中国からの輸入品に対して45%の関税をかけると発言したことは特に注目度が高いものの一つです。一方で中国の状況はどうかというと、貿易黒字は減少傾向にあるなかで、輸出における対米依存度は高まっています。仮に米国が中国からの輸入額を減らす政策を採ると中国経済への懸念が高まる可能性があるかもしれません。本稿では中国の国際収支に注目し、今後の中国経済の方向性について検証したいと思います。
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資本流入国が資本流出国に
図1は中国の国際収支の推移と内訳を見たものですが、2013年第1四半期から2014年第1四半期まで(以下「A期間」)と2014年第2四半期から2016年第2四半期(以下「B期間」)の国際収支の傾向に違いがあることが分かります。国が稼いだ額と言える経常収支はA期間もB期間もプラスですが、A期間では資本収支がプラスとなっているのに対して、B期間では資本収支がマイナスとなっています。
経常収支がプラスであるのは貿易収支がプラスであるためです。貿易収支とは輸出額から輸入額を差し引いた額のことであり、輸出額が輸入額を上回っているといわゆる貿易黒字となり、輸入額が輸出額を上回っているといわゆる貿易赤字となります。また、資本収支とは事業のための投資や資産運用のための投資などを合わせたもので、資本収支がプラスであれば中国に資金が流入していること、マイナスであれば中国から資金が流出していることを示しています。ちょっとややこしいのは外貨準備増減で、外貨準備増減がプラスというのは外貨から自国通貨に変換して外貨準備高が減ったことになりますが資金流入であり、外貨準備増減がマイナスというのは自国通貨から外貨に変換して外貨準備高が増えたことになりますが資金流出を指しています。
A期間では資本収支がプラスですので、海外から中国への投資が活発に行われていた時期といえます。貿易収支もプラスですが、貿易で得た外貨を人民元に変換したり中国から外国資産に投資した額以上に、海外からの中国への投資が大きかった時期と言えるでしょう。
一方でB期間では資本収支がマイナスに転じています。中国からの資本流出が発生していることを示していますが、この背景には中国企業による外国企業の買収が考えられるほか、保有資産を海外に持ち出そうとする動きもあったのかもしれません。資本流出によって人民元に下落圧力がかかったため、当局は貿易で得た外貨を売って人民元を買い支えることで人民元の下落圧力に耐えようとしたのかもしれませんが、下落圧力に耐え切れず2015年8月に人民元の大幅な切り下げに踏み切ったと考えられます。
図1:中国の国際収支の推移と内訳
出所:中国国家外貨管理局よりeワラント証券投資情報室作成
貿易黒字に頼る中国
図2は資本収支を直接投資とそれ以外のものに分けたものです。直接投資とは永続的権益の取得を目的として株式等であれば出資比率が10%以上の出資を言います。合弁会社や工場などを建設して進出する大掛かりな投資をイメージすれば良いでしょう。B期間では当初から資本流出が懸念されていましたが、ついに2016年第2四半期には直接投資のマイナスが拡大していることがわかります。資本流出が本格化した印象ですが、トランプ氏の当選以降はさらに資本流出が加速している可能性があります。
図2:中国の資本収支の推移と内訳
出所:中国国家外貨管理局よりeワラント証券投資情報室作成
中国にとって頼みの綱は貿易黒字です。輸出が輸入を上回っている限り外貨を獲得することができます。しかし、貿易黒字はこの数年減少傾向にあります。中国が貿易黒字であるということは、どこかの国は貿易赤字であるので、貿易赤字を続けていても耐えられる経済の強い国がないと中国は貿易黒字を維持できないでしょう。世界の中で経済が好調を維持しているのは米国であり、中国の全輸出先における対米依存度は上昇傾向にあります(図3)。
図3:中国の対米貿易収支(2014年1月〜2016年10月)
出所:ロイターよりeワラント証券投資情報室作成
トランプ氏のインパクト
米国依存を高める中国にとって困ったことは、トランプ氏が次期米国大統領になることです。トランプ氏は米国の労働者階級に対して、中国に対する関税を引き上げて中国に奪われた仕事を取り返すというメッセージを送り続けました。トランプ氏の支持基盤を考慮すると、トランプ氏が中国に対して何の対策も出してこないことは想定しにくいと思われます。中国にとって頼みの綱であった貿易黒字の拡大は難しいかもしれません。
来年以降に対米貿易黒字の縮小が始まるとすると、為替相場においては米ドルから人民元への換金額が減少することが想定されるので、人民元の一段安があるかもしれません。中国当局としては、中国の外貨準備高は減少しているとはいえ、まだ3兆ドルほどありますし、中国は世界最大の米国債の保有者であることから、米国債を大量に売却して米ドルを売り、人民元を買い支えることになるでしょう。仮に米国が中国に対する関税引き上げに動けば、中国当局によるさらなる米国債の売りを誘発させるかもしれません。この場合は米ドル売りだけでなく、金利上昇による株価への悪影響から、株安、米国債安、米ドル安のトリプル安になるかもしれません。
資本流出が本格化している中国においては人民元安のリスクは常にあり、そこに資本の引き上げに伴う中国株安も発生するかもしれません。11月下旬の報道によると中国政府は中国企業による対外直接投資を規制するとのことです。貿易黒字縮小と資本流出への対策と考えられます。中国の貿易黒字が縮小すると中国のGDPの縮小として影響が出てくるでしょう。また、中国企業による企業買収が減少することによって、M&A市場の主要な買い手が減ることで世界経済にも悪影響を及ぼしかねません。
(念のため付言しますと、上記は筆者の個人的な見解であり、eワラント証券の見解ではありません。)
eワラント証券 投資情報室長 小野田 慎(おのだ まこと)
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