3月3日、FRB(米連邦準備制度理事会)は緊急の理事会を開催し、50bpの利下げを決定しました。新型コロナウイルスによる米国経済の後退懸念やそれに伴う米株式市場の混乱を受けて、市場では3月17日‐18日に開催されるFOMC(連邦公開市場委員会)での利下げが想定されていましたが、それに先んじて利下げ、しかも50bpという大幅なFF金利の引き下げが決定されたことは市場では一定のサプライズをもって受け止められました。
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緊急利下げも、株価は下落
FRBの利下げ決定を受けて、3日のNYダウは一時前日比381米ドル高となりましたが、その後は下落に転じ、終値では前日比785米ドル安となる25,917.41米ドルで引けました。本来、利下げは株価の上昇要因となりますが、それにもかかわらず米株価が大きく下落したのは、以下のような要因が考えられます。
- FRBの景気見通し悪化
(緊急の利下げが必要となるほど情勢が悪化しているのか?) - 各国協調対応期待で上昇した前日の反動安
(材料出尽くし) - 新型コロナウイルスのさらなる被害拡大への懸念
(金融政策では根本的解決をもたらすことはできない)
前回のレポートでもマネーがより安全な退避先を求めて債券市場へ流れ込んでいることをご紹介しましたが、利下げを受けてもその流れは止まらず、米10年債の利回りが史上初めて1%を下回るなど、利回りが急速に低下(債券価格は上昇)しています(図1)。市場はさらなる利下げを想定(又は催促)しているようです。
過去の緊急利下げとその後の株価パフォーマンス
今回FRBは予定されていたFOMC以外での臨時利下げを決定しましたが、これは金融危機発生後の2008年10月以来、約約11年半ぶりとなる異例の決定でした。2000年以降、FRBがFF金利の臨時引き下げを決定したのは以下の4回となっています(公定歩合の引き下げを行った2007年8月は除いてあります)。
① 2001年1月3日(50bp)
ITバブル崩壊後の景気減速を考慮
② 2001年9月17日(50bp)
上記に加え、アメリカ同時多発テロ(9・11)の市場への影響を考慮
③ 2008年1月22日(75bp)
④ 2008年10月8日(50bp)
金融危機に対する対応
図2は過去のFF金利と株価の推移を表したものです。図中で丸く囲んでいるのは過去に臨時利下げが行われた地点を表したものです。いずれも米国の景気後退期入り又は景気後退の進展時に緊急の利下げを行っていることがわかります。
現在の米国ではいまだ景気後退期入りが宣言されているわけではおらず、パウエル議長の声明でも現在の米国経済に自信を示してはいましたが、今回の新型コロナウイルスの流行による企業のサプライチェーンの寸断や操業困難が景気後退期入りを招くおそれがあるとの判断が、FRBに早期の利下げを決断させたのかもしれません。
では、実際に緊急利下げは株価を浮揚させる効果をもっていたのでしょうか。図3は緊急利下げを行ってから200営業日後までのNYダウの推移を表したものです。
前述の通り、政策金利の引き下げは株価にとって上昇要因となると言われてはいますが、過去4回のケースでは横ばい又は大幅な下落となっていることが確認できます。株価に政策金利の動向が影響するのは間違いないのでしょうが、それ以上に景気の影響が大きく左右するということなのでしょう。
今後のポイントと投資戦略
今後のポイントとしては、先行して金融緩和を強化したFRBに他の中銀が追随するかが挙げられます。特に、既にマイナス金利下にあり政策の幅に限りがあるECB(12日)や日銀(18日〜19日)、ベイリー新総裁就任後初の会合となる英中銀(26日)の金融政策決定会合には注目が集まりそうです。また、FOMC(17日〜18日)でFRBがさらなる追加利下げを行うのかという点も市場の注目を集めることとなるでしょう。
また、新型コロナウイルスの影響が中国以外の地域にどれほどの影響をもたらしているかを確認するうえで、来月以降に発表される3月の経済指標にも注目が高まるかもしれません。
とはいえ、株式市場が本格的に回復するには、やはり新型コロナウイルスの感染拡大が収まることが必要となりそうです。引き続き日々のヘッドラインに左右される局面が続くことが予想されます。
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