6/23-6/30の香港市場は続伸しました。中国の経済再開に向けた動きで地合いが改善し、出遅れ銘柄に対する見直し買いが続きました。一方、新興EV大手のニオに対する「空売りレポート」を引き金に、EV関連銘柄は利益確定売りに押されました。
今回は、ニオに対する「空売りレポート」をめぐる動きと、経済再開関連銘柄をご紹介します。
図表1 ハンセン指数の一目均衡表(日足、3ヵ月)
注:6/30(木)までのチャートです。
※当社WEBサイトを通じてSBI証券が作成。
図表2 香港市場の業種別指数の推移(2021年12月31日=100として指数化)
注:業種別指数はハンセン総合指数のサブ指数です。
※BloombergデータをもとにSBI証券が作成。
図表3 香港市場の個別銘柄の騰落率と関連ニュース等(6/30(木)までの騰落率)
ハンセン指数
騰落率上位 (5日) |
銘柄名 | 騰落率 (5日) |
騰落率 (1ヵ月) |
騰落率 (3ヵ月) |
関連ニュース等 |
01928 | 金沙中国 [サンズ・チャイナ] | 28.0% | 26.3% | -3.1% | カジノ大手。6/26に有効期限を迎えたマカオでのカジノライセンスが2022年末まで延長され、好材料となった。 |
06862 | 海底撈(Haidilao) | 21.0% | 24.7% | 18.7% | 火鍋チェーン中国最大手。上海市が飲食店での店内飲食を再開し、買い材料となった。 |
02382 | 舜宇光学 [サニーオプチカル] | 17.5% | 5.9% | 0.1% | 大手光学機器メーカー。6/24に投資家説明会を実施。会社側は車載レンズ部門の伸び率が業界平均を上回り、今年は昨年度と同水準の伸びになる見込みだと説明。説明会後、大手証券会社が目標株価を引き上げた。 |
02020 | 安踏体育用品 [アンタ・スポーツ] | 15.6% | 11.0% | -4.1% | スポーツ用品大手。中国の立法機関が改正体育法を可決した。2023年1月から実施する予定。体育強国を目指すための改正とされ、スポーツ用品関連銘柄が買われた。 |
01810 | 小米集団 [シャオミ] | 15.2% | 13.5% | -3.7% | スマートフォン・IoT家電大手。7/4に「小米12」シリーズの3つの新機種を発表する予定となり、買われた。地合いの改善もあり、出遅れのスマートフォン関連株に見直し買いが入っている。 |
騰落率下位 (5日) |
銘柄名 | 騰落率 (5日) |
騰落率 (1ヵ月) |
騰落率 (3ヵ月) |
関連ニュース等 |
00881 | 中升集団 | -1.4% | 5.6% | -1.3% | 自動車販売会社。大手証券会社が目標株価を引き下げた。 |
00968 | 信義光能 [シンイー・ソーラー] | -3.4% | -8.5% | -14.3% | 太陽光発電ガラスメーカー。2022年上期の決算見通しを嫌気した。会社側は、平均販売価格の低下と原材料価格の上昇により、2022年上期の純利益は前年同期比33-43%減になる見込みだと発表した。 |
00316 | 東方海外 | -3.9% | -17.5% | 0.8% | 海上貨物輸送を手掛ける。世界のばら積み船運賃の動向を示すバルチック海運指数(BDI)や中国の海運信頼感指数が下落し、売り材料となった。 |
00700 | 騰訊 [テンセント・ホールディングス] | -5.5% | 1.3% | -6.9% | ゲーム・フィンテック大手。大株主のProsusが6/27に持ち株比率を減らす予定だと発表。Prosusは2021年4月に持ち株比率を減らした時、今後3年以内に売却しないと表明していたが、予想外に売却を発表した。なお、テンセントは6/28-6/30に自社株買いを実施した。 |
00939 | 中国建設銀行(CCB) | -5.7% | -9.6% | -9.1% | 4大銀行の一角。配当落ち後、大手投資ファンドによる持ち株比率の引き下げがみられた。 |
ハンセンテック指数
騰落率上位 (5日) |
銘柄名 | 騰落率 (5日) |
騰落率 (1ヵ月) |
騰落率 (3ヵ月) |
関連ニュース等 |
00285 | 比亜迪電子 [BYDエレクトロニック] | 25.3% | 51.8% | 50.7% | BYD(01211)傘下のスマートフォン部品・受託製造メーカー。アップルの「iPhone14」シリーズの量産が早ければ8月に始まると報じられ、アップル関連株が買われた。地合いの改善もあり、出遅れのスマートフォン関連株に見直し買いが入っている。 |
09961 | 携程旅行網 [トリップドットコム゚] | 22.2% | 28.1% | 15.8% | オンライン旅行サービス大手。中国が新型コロナの水際対策として入国者に求める隔離期間を14日間から7日間に短縮すると発表し、買い材料となった。(SBI証券取り扱いなし。リンク先は米国上場のTCOMとなっています。) |
02382 | 舜宇光学 [サニーオプチカル] | 17.5% | 5.9% | 0.1% | 大手光学機器メーカー。6/24に投資家説明会を実施。会社側は車載レンズ部門の伸び率が業界平均を上回り、今年は昨年度と同水準の伸びになる見込みだと説明。説明会後、大手証券会社が目標株価を引き上げた。 |
01810 | 小米集団 [シャオミ] | 15.2% | 13.5% | -3.7% | スマートフォン・IoT家電大手。7/4に「小米12」シリーズの3つの新機種を発表する予定となり、買われた。地合いの改善もあり、出遅れのスマートフォン関連株に見直し買いが入っている。 |
01347 | 華虹半導体 [フアホン・セミコンダクター] | 10.9% | -0.5% | -16.2% | 半導体受託生産(ファウンドリー)大手。生産能力の拡大に向けた動きが買い材料となった。同社は12インチウェーハ対応工場の拡張に向け、子会社の華虹無錫に対する増資を実施した。 |
騰落率下位 (5日) |
銘柄名 | 騰落率 (5日) |
騰落率 (1ヵ月) |
騰落率 (3ヵ月) |
関連ニュース等 |
03888 | 金山軟件 [キングソフト] | -1.3% | 18.4% | 21.9% | ゲーム・ソフトウェア大手。5月以降、上昇が続いたこともあり、RSIが買われ過ぎサインとされる70に近づいた後、利益確定売りに押された。 |
09626 | ビリビリ | -4.7% | 15.7% | -8.7% | 動画プラットフォーム大手。特段材料はなく、需給要因のもよう。なお、7/8からハンセン中国企業(H株)指数の構成銘柄になる予定。(SBI証券取り扱いなし。リンク先は米国上場のBILIとなっています。) |
00700 | 騰訊 [テンセント・ホールディングス] | -5.5% | 1.3% | -6.9% | ゲーム・フィンテック大手。大株主のProsusが6/27に持ち株比率を減らす予定だと発表。Prosusは2021年4月に持ち株比率を減らした時、今後3年以内に売却しないと表明していたが、予想外に売却を発表した。なお、テンセントは6/28-6/30に自社株買いを実施した。 |
09866 | 蔚来汽車 [ニオ] | -6.6% | 29.8% | -2.2% | 新興EVメーカー。同社に対する「空売りレポート」(※)が売り材料となった。同社を含むEV関連銘柄は続伸が続いたこともあり、利益確定売りがみられた。(※詳細は本文をご参照願います) |
00020 | SenseTime Group Inc | -42.9% | -36.3% | -49.5% | AIソフトウェア大手。ロックアップ解除に伴い、売りが膨らんだ。経営陣はロックアップ解除後も今年末までに売却する意向はないと表明したが、他の初期投資家による売却が強く警戒されたもよう。 |
注:銘柄名はBloombergの表記により、当社WEBサイト・本文中の表記と異なる場合があります。
※BloombergをもとにSBI証券が作成。
今週の中国株市況
6/23-6/30の香港市場は、ハンセン指数が2.8%上昇、ハンセンテック指数は4.6%上昇しました。米国上場のADRで構成されるナスダック・ゴールデン・ドラゴン中国指数は、1.1%上昇しました。中国の経済再開に向けた動きで地合いが改善し、出遅れ銘柄に対する見直し買いが続きました。
業種別では、一般消費財、生活必需品、ヘルスケアが堅調でした。
一般消費財と生活必需品は、経済再開に向けた動きを好感しました。中国当局が新型コロナの水際対策として入国者に求める隔離期間を14日間から7日間に短縮すると発表し、航空大手3社やオンライン旅行最大手のトリップ・ドットコム(09961)(注1)が上昇しました。(注1:SBI証券取扱なし、米国上場のトリップ・ドットコムADR(TCOM)は取扱銘柄です。)
上海市が飲食店での店内飲食を再開したことを好感し、ビール大手のチンタオビール(00168)や華潤ビール(00291)、および火鍋チェーン最大手の海底撈(06862)も大幅高となりました。
ヘルスケアは、地合いの改善に伴う出遅れ修正が続きました。インターネットヘルス大手のアリババヘルス(00241)や京東健康(06618)、バイオ医薬品大手のザイ・ラボ(09688)(注2)が上昇をけん引しました。(注2:SBI証券取扱なし、米国上場のザイラボ ADR(ZLAB)は取扱銘柄です。)
今回のトピックス
今回は、新興EV(電気自動車)大手のニオに対する「空売りレポート」をめぐる動きと、経済再開に関連する銘柄をご紹介します。
6/23-6/30の米国および香港市場では、これまで上昇が続いた中国の自動車(特にEV)関連銘柄が利益確定売りに押されました。先週のレポートで指摘したように、EV関連銘柄の多くはRSIが買われ過ぎサインを示す70に達し、短期的に利益確定売りの圧力が高まっていました。利益確定売りの引き金となったのは、新興EV大手のニオに対する「空売りレポート」です。
空売りを専門とする米国の調査会社グリズリー・リサーチは6/28の夜(アジア時間)に、ニオの収益水増しを指摘するレポートを発表しました。収益水増しの手法として、ニオが車載用バッテリーのサブスクリプション販売の売上計上について、通常なら7年間にわたって計上すべきものを一括で計上している可能性があると指摘しました。ニオは6/29に、「レポートの内容は根拠がない」、「同レポートに対して現在レビューを実施している」、「今後、規定に基づき追加の情報開示を行う」と表明しました。
ニオの株価動向を確認してみると、「空売りレポート」を受けた米国上場のニオ(NIO)の取引初日(6/28、現地時間、以下同様)は2.6%下落、翌日(6/29)は2.2%下落、6/30は0.6%下落となりました。他方、香港上場のニオ(09866)は「空売りレポート」を受けた取引初日(6/29)に11.4%下落、6/30は3.9%上昇しました。
米国上場のニオ(NIO)の下落率からすると、「空売りレポート」に対する投資家の反応は、今のところ“比較的冷静”と言えそうです。というのは、過去の経験からすると、このような空売りレポートが発表されたとたん、対象銘柄は暴落しました。香港上場のニオ(09866)が初日に急落した後、翌日に買い戻されたのは、米国市場の落ち着いた動きを受けたものと考えられます。
投資家が“比較的冷静”な対応をしている背景として、ブルームバーグはニオ(NIO)を担当するアナリストのコメントを紹介しました。同アナリストは、「ニオが車種の拡充で強い業績モメンタムを維持する可能性があるとし、「空売りレポート」をきっかけとしたニオ(NIO)の株価調整は、中長期投資を目的とする投資家にとって買いチャンスだ」と指摘しました。
中国本土の第1財経は専門家の分析として、グリズリー・リサーチの「空売りレポート」に疑問点があると紹介しました。同専門家は、通常なら7年間にわたって計上すべきものを一括で計上するような“初歩的な不正”をニオの監査法人が見逃すはずがないと指摘しました。なお、ニオの監査を担当しているのは、世界大手監査法人のプライスウォーターハウスクーパース(PwC)です。ただ、同専門家はグリズリー・リサーチが2本目のレポートを出す可能性もゼロではないとし、今後の動向には留意する必要があるとしました。
ニオに収益の水増しがあったかどうか、この点に関しては現時点で当事者以外は誰も断定できないと思います。過去の経験からすると、このような「空売りレポート」は、たとえ後々になってレポートの内容が間違っていると発覚されたとしても、短期的にはターゲットとなった銘柄の上値を抑える要因となる傾向があります。今後、ニオとグリズリー・リサーチとの間で“バトル”が予想されますが、まずは「空売りレポート」の内容をレビューした後の、ニオの次の情報開示が注目点と言えそうです。
他方、EV関連銘柄全体でみた場合、中国が景気支援策の一環として打ち出しているEVの購入支援は引き続き、株価を支えると考えられます。EVの購入支援によりEV各社の販売が今年下期に回復に向かう可能性が高いからです。ニオに対する「空売りレポート」を引き金とした今回の調整は、EV関連銘柄にとって押し目買いのチャンスとなった可能性があります。
政策支援の恩恵が期待できるEV関連銘柄と並んで、今年下期は経済再開銘柄も注目テーマの一つとして挙げたいと思います。足元の動きを確認してみると、上海のロックアップが解除されてから中国当局は経済再開に向けた動きを加速させています。完全再開まではまだ少し時間がかかるかもしれませんが、順次の再開によりレジャー関連や外食関連銘柄の業績は回復が期待できそうです。
図表4 経済再開の恩恵が期待できるレジャー関連や外食関連銘柄
銘柄 | 主要事業 | 株価(6/30) | 52週高値 | 52週安値 | |
レジャー関連 | トリップドットコム グループ ADR(TCOM) | オンライン旅行中国最大手 | 27.90米ドル | 36.23米ドル | 14.29米ドル |
フアジュ グループ ADR(HTHT) | ホテル大手 | 37.37米ドル | 54.59米ドル | 21.84米ドル | |
エア チャイナ(00753) | 中国航空大手3社の一角 | 6.94香港ドル | 7.15香港ドル | 4.67香港ドル | |
中国東方航空(00670 | 中国航空大手4社の一角 | 3.05香港ドル | 3.40香港ドル | 2.50香港ドル | |
中国南方航空(01055) | 中国航空大手5社の一角 | 4.52香港ドル | 5.54香港ドル | 3.83香港ドル | |
外食関連 | 海底撈國際(06862) | 火鍋チェーン中国最大手 | 18.44香港ドル | 49.80香港ドル | 10.00香港ドル |
ヤム チャイナ ホールディングス(YUMC) | 洋食チェーン大手( 中国で「KFC」や「ピザハット」を保有) | 47.61米ドル | 66.91米ドル | 33.55米ドル | |
華潤ビール(00291) | ビール中国最大手 | 55.95香港ドル | 73.85香港ドル | 38.40香港ドル | |
チンタオビール(00168) | ビール大手 | 79.50香港ドル | 86.70香港ドル | 54.75香港ドル | |
百威亜太控股(01876) | 世界ビール大手 | 22.85香港ドル | 25.95香港ドル | 18.18香港ドル |
※BloombergをもとにSBI証券が作成。