とりあえず米国株に投資してみる
さて、米国株に投資するにあたって、何から着手すれば良いのでしょうか?
何事も、最初は不安が多いと思います。
私の場合、学生の頃から株に興味があったとか、そういう事は、一切、ありませんでした。むしろ「株は怖いもの」という印象すら持っていました。したがって最初の株式投資は、とても不安で、億劫(おっくう)にすら感じました。
しかし「案ずるより産むが易し」で、実際にやってみたら、それほどむずかしいことではありませんでした。
そこでひとつ提案があります。
ただでさえ敷居が高い米国株投資ですから、最初に買うのは皆さんが日頃から慣れ親しんでいるブランドの株を買ってみてはいかがでしょうか?
親しみのあるブランドから挑戦してみる
たとえば皆さんがiPhoneを愛用しているのならば、それを作っている会社はアップル(ティッカーシンボル:AAPL)です。
スタバのラテが好きなら、スターバックス(ティッカーシンボル:SBUX)が良いでしょう。
スポーツが好きな人ならナイキ(ティッカーシンボル:NKE)はいかがでしょうか。
海外旅行するのが好きという人は、旅客機のメーカー、ボーイング(ティッカーシンボル:BA)という選択肢もあります。
ディズニーのアニメやディズニーランドが好きな人なら、ウォルト・ディズニー(ティッカーシンボル:DIS)も上場されています。
これらの企業は、皆さんに馴染みが深いというだけでなく、財務内容の面でもピカピカの優等生です。大体、消費者に愛されている企業は、業績も良いことが多いです。その意味でも、自分が慣れ親しんでいるブランドから始めるということが、理に適ったやり方なのです。
いま私は「財務面でもピカピカ」という言葉を使いました。読者の中には(安易にそんなあいまいな表現を使うべきでない)と考える人が居るかもしれません。そこでもう少していねいに、どこが素晴らしいのかを付け加えておきます。
下はひと月ほど前に米国証券取引委員会(=略してSECといいます)に提出された、アップルの10-kという書類から作成したグラフです。10-kはアニュアルレポート(年次会計報告書)の元になる開示資料です。
アップルの業績(10-k)
なおアップルは会計年度が9月〆の会社なので、上のグラフで「2015年」と言った場合、2015年9月30日で〆られた1年間の業績ということになります。
表中、英語がいろいろ並んでいます。それを説明すると、DPSとは一株当たり配当を指します。これは年間配当額です。
配当利回りの計算の仕方
ちょっと脱線して、配当利回りの計算の仕方を説明しておきます。
2015年11月24日の時点でアップルの株価は$117.75です。すると2015年の一株当たり配当が$1.98なわけですから:
1.98 ÷ 117.75 = 0.0168
になります。これをパーセントにするには×100すればよいので、配当利回りは1.68%になります。
厳密に言えば、上の計算は去年、実際に払い出された配当の実績額をベースに配当を計算したことになります。
実際には配当は時折、引上げが発表されます。そこで最新の四半期配当を×4して、1年間アップル株を持ち続けた場合の配当利回りがどうなるか? というのを計算することが行われます。現在のアップルの四半期配当は$0.52です。すると:
0.52 × 4 = $2.08
となります。すると先ほどみた過去1年の実績である$1.98より10¢多いわけです。すると:
2.08 ÷ 117.75 = 0.0176
つまり向こう1年での配当利回りは現在の配当ペースが維持されたとして1.76%になるわけです。
一株当たり利益について
もう一度上のグラフに戻り、表の上から二番目、つまりオレンジ色のEPSに注目してください。EPSとは一株当たり利益を指します。一株当たり利益は、その年の純利益を発行済み株式数で割算することで求められます。
一株当たり利益は、投資家が一番注目する数字だと言って過言ではないでしょう。なぜなら株価を一株当たり利益で割算すると、株価収益率(PER)が求められるからです。実際にアップルの例でやってみましょう:
117.75 ÷ 9.22 = 12.77
つまりアップルは過去1年のEPSの実績に基づいて12.77倍のPERで取引されているわけです。
一般にPERは数字が小さい方が良いと信じられています。しかしいま仮にPERが小さい株とPERが大きい株が存在したとして、かならずPERの数字が小さい株の方が将来のパフォーマンスが良くなるか? といえば、残念ながらそれはそうとは限りません。
この議論は、それだけで一冊の本が書けるくらい奥の深い話題なので、また別の機会に説明したいと思います。
話をEPSに戻して、2013年、2014年、2015年という風に毎年EPSが伸びているかどうかをまず比べてみてください。アップルの場合、5.68、6.45、9.22と数字が良い感じで伸びていることが確認できます。
ペイアウト・レシオとは?
次にペイアウト・レシオ(配当性向)という概念を説明します。これは「利益のどれだけを配当として株主に還元しているか?」をあらわす指標です。具体的計算方法を2015年のアップルの例で示すと、DPSが$1.98、EPSが$9.22ですから:
1.98 ÷ 9.22 = 0.215
これをパーセントに直すため×100して21.5%ということになります。言い換えれば「アップルは利益の21.5%を配当に回している」というわけです。
いまペイアウト・レシオは高いほうが良いです。しかし余りペイアウト・レシオが高すぎると、不景気などで業績が悪化した場合、利益と配当の間にクッションになる余裕が少なすぎるので、減配を余儀なくされてしまいます。
米国の投資家は減配を嫌います。従ってペイアウト・レシオが余りに高いのは、考えものです。私の場合、ペイアウト・レシオが60%を超えている企業には用心深く接することを心掛けています。
営業キャッシュフロー
営業キャッシュフロー(CFPS)とは、ある企業が商品やサービスを売って得た売上高から原材料費などの費用を差し引くことで得られる現金収支を指します。
一般に純利益は会社が恣意的に操作しやすいです。でも営業キャッシュフローはごまかしが効きません。このためプロの投資家は一株当たり営業キャッシュフローに注目します。
CFPSは、毎年数字が大きくなっていることが理想です。アップルの場合、8.23、9.75、14.03とだんだん大きくなっているので合格です。
次に縦の比較、つまり同じ年のEPSとCFPSを比較し、CFPSがEPSより大きいことが重要です。この面でもアップルは合格です。
もしEPSがCFPSより大きい企業の場合、資産売却などによる一時的な利益の嵩上げや、粉飾決算の場合があります。投資判断するにあたっては「赤信号」だと思ってください。
最後の、重要なポイントとしてCFPSをSPS(一株当たり売上高)で割算してみてください。アップルの2015年の例で示すと:
14.03 ÷ 40.34 = 0.348
これをパーセントになおすため×100すると34.8%が得られます。この数字のことを営業キャッシュフロー・マージンといいます。
営業キャッシュフロー・マージン = CFPS ÷ SPS × 100
この営業キャッシュフロー・マージンが15〜35%ある企業は優等生です。この数字は大きければ大きいほど良いです。
大部分の企業はこれが一桁か、10%台の下の方です。
ただ営業キャッシュフロー・マージンが50%近くある企業は、余りに儲かり過ぎているので、逆に疑ってかかった方がいいかも知れません。
アップルの場合は34.8%ですから、申し分ないと言えます。
注文を入れてみる
最後に米国株の発注について述べます。日本株と米国株の最大の違いは、米国株は1株から買い注文を出せるという点です。(日本は単元株制度があり、最低取引単位が予め100株などと決められています)
するとアップルの場合、先ほどの例では$117.75ですので:
117.75 × 1 = 117.75
つまり117.75ドルで買えるわけです。これに為替122円をかけると、わずか14,466円から投資できることになるのです。
なお手数料に関して、気を付ける必要があります。米国株投資では1)売買手数料と、2)為替手数料がかかります。
このうち売買手数料は1000株まで25ドル、以降、1株ごとに2セント追加になります(※)。為替手数料は1ドルあたり25銭です。
すると、ごく少額で投資をはじめる場合は、総買い付けコストに占める手数料の割合が大きくなってしまうことに注意を払ってください。
- ※SBI証券の米国株式売買手数料(税抜き)