成長率と株価評価の関係
前回のコラムでは株価収益率(PER)について説明しました。そしてPERは、その会社の成長率と関係があることに言及しました。この成長率と株価評価の関係は、とても重要ですので、今回はそれを掘り下げることにします。
成長率の計算のしかた
一般にある企業の成長率を問題にする場合、一株当たり利益(EPS)の成長率のことを論じます。
下は代表的な米国企業のEPS予想数字です。
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2014年 |
2015年(予) |
2016年(予) |
---|---|---|---|
フェイスブック(FB) |
$1.77 |
$2.17 |
$2.86 |
アルファベット(GOOGL) |
$25.14 |
$28.99 |
$34.14 |
ジョンソン&ジョンソン(JNJ) |
$6.39 |
$6.18 |
$6.41 |
フォード(F) |
$1.16 |
$1.62 |
$1.92 |
キャタピラー(CAT) |
$6.38 |
$4.59 |
$3.59 |
(出典:英語版ヤフー・ファイナンス、データ取得日2015年12月27日)
さっそくEPS成長率を計算してみましょう。いまフェイスブックの2014年と2015年(予)のEPSは、それぞれ$1.77と$2.17です。すると2014年から2015年にかけての成長率は:
(2.17 - 1.77) ÷ 1.77 × 100
で求められます。成長率は22.6%になります。これが「2015年の成長率」です。
次にフェイスブックの2015年(予)と2016年(予)のEPSを使用し、「2016年の成長率」を同様に計算すると31.8%になります。
どの成長率の数字を使用すべきか?
ここで疑問が生じます。一体、「2015年の成長率」と「2016年の成長率」のどちらを使用すれば良いのでしょう?
その答えは「普通、1年先の数字を使用した方が良い」ということです。
これはどうしてか?と言えば、株価には先見性があり、先々の事を織り込んでゆく性質があるからです。その意味では実績より未来の方が重要なのです。
この点は、投資家が忘れがちになるポイントですので、よく心に刻んでおいてください。
私が投資判断をする際は、1年先の成長率を使用します。もちろん2年以上先の成長率を使用しても良いわけですが、業績予想というものは、遠い将来になればなるほど、正確に予想するのが困難になります。
したがって2年以上先のEPS予想にあまり信頼を置くべきではありません。
PEG(ペグ)レシオについて
さて、PEG(ペグ)レシオという考え方があります。これはPrice/Earnings To Growth Ratioの略です。これはその銘柄のPERを成長率で割算して求められるレシオを指します。
具体的な計算例で説明しましょう。2015年12月24日のフェイスブックの引け値は$105.02でした。するとそれを同社の2016年の予想EPSで割算し求められるPERは36.7倍になります。
いまフェイスブックの「来年の成長率」は先ほどの計算で31.8%でしたから、PEGレシオの計算は:
36.7 ÷ 31.8 = 1.15
になります。
この例だとフェイスブックのPERは、同社の「来年の成長率」よりほんの少し(=15%)割高になっているわけです。
一般にPEGレシオが「1」であれば、その企業の株価収益率と成長率が一致しているので、株価評価は適正であると評価されます。
PEGレシオが「1」以下であれば、その株は成長率に照らして割安に取引されていると評価されます。
逆にPEGレシオが「1」以上であれば、その株は成長率に照らして割高に取引されているという評価になるのです。
なお細かい議論をすれば、「1」が妥当である!ということは、投資理論的には根拠が薄弱です。
でもPEGレシオは大掴みにある株の割高、割安をチェックする際、簡便な方法なので米国の投資家の多くが気にしています。だから一定の利用価値はあると考えて良いです。
今度はアルファベット(グーグルの親会社です)の例で計算してみましょう。2015年12月24日のアルファベットの引け値は$765.84でした。すると同社の2016年の予想EPS34.14で割って得られるPERは22.43倍になります。
いまアルファベットの「来年の成長率」は17.8%なのでPEGレシオの計算は
22.43 ÷ 17.8 = 1.26
になります。これだとアルファベットのPEGレシオは「来年の成長率」に照らして26%割高になっている計算です。
ここで先ほど計算したフェイスブックと、アルファベットの結果をまとめると、下の表のようになります。
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PER(2016年) |
PEGレシオ(2016年) |
---|---|---|
フェイスブック |
36.7倍 |
1.15 |
アルファベット |
22.43倍 |
1.26 |
すると単純にPERを見るとフェイスブックの方が割高にみえますが、PEGレシオで見れば逆にアルファベットの方が割高という見方もできるというわけです。
なお、PEGレシオは、その数値が小さい(=それは割安を意味するわけですが)株の方が数値の大きい銘柄より必ずアウトパフォームするという性質のものではありません。あくまでもひとつの目安にすぎないのです。
成長株以外の場合
これまで見てきたフェイスブックとアルファベットは、両方とも比較的若い会社で、成長株です。
しかしもっと歴史の長い企業の場合、成熟している会社もあります。
ジョンソン&ジョンソン、フォード、キャタピラーは、その例です。
これらの成熟企業の場合、PEGレシオを使用する意味合いはかなり失われると思ってください。むしろその場合は為替変動や景気変動がEPSに与える影響の方が大きくなってきます。
ジョンソン&ジョンソンの場合、ドル高の影響で2015年のEPSは前年比マイナスでした。
フォードの場合、米国の景気拡大とピックアップ・トラックのニュー・モデル導入でEPSは順調に拡大する見込みです。
これに対してキャタピラーは2015年、2016年と二年連続して前年比でEPSがマイナス成長する見込みです。これは中国経済の成長の鈍化で、中国ならびに新興国からの建機の注文が落ち込んでいることが原因です。
キャタピラーのようにEPS成長率がマイナスになっている企業の場合、PEGレシオは使用できません。
このようなケースではPERだけでなく、配当利回りや株価純資産倍率(PBR)など、他の様々な尺度を併用することで投資判断することが望ましいと思います。
赤字会社の場合
新規株式公開(IPO)されて間もない株の場合、まだ利益が出ていない会社もあります。利益が出てないわけですから、当然、利益成長率を計算することが出来ません。
その場合、売上高成長率に注目するというやり方があります。
小さい企業ほど当初の売上高成長率は高いので、投資家はその成長率に魅せられて過大な期待を抱きやすいです。
しかし売上規模が大きくなるに従って、前年比での売上高成長率はだんだん下がってくるのが自然です。
そのように成長が鈍化しはじめた小型株の妥当な株価評価を見定めることはたいへん困難です。
特に小型株や急成長株の場合、ちょっとした拍子に成長の見通しが大幅に下方修正されるというケースにしばしば遭遇します。その場合、株価は急落します。
したがって皆さんが大きなリスクを取りたく無いのであれば、そのような株は避けた方が良いでしょう。